タイプ
論考
プロジェクト
日付
2012/9/24

アメリカ大統領選挙UPDATE 7:「民主党・共和党綱領の比較」(池原 麻里子)

党綱領の意味
アメリカの政党の綱領は、州レベルの活動家の意見をボトムアップで反映したもので、全国大会では全米向けの綱領に調整される。綱領には大統領や議員に対する拘束力はなく、大統領候補と政党の綱領は異なる。また同じ政党の綱領でも、当然ながら全国レベルと州レベル、州間でもかなり違う。例えば共和党の綱領でも、比較的リベラルなマサチューセッツ州やカリフォルニア州と、保守的なテキサス州では大差がある。一方、特定の問題を重視するグループは、自分たちのアジェンダを綱領に反映させようと努力する。例えば保守福音派は長年、共和党の綱領を利用して、中絶など社会政策の保守化を推進しようと試みてきた。したがって、党全国委員会で党綱領をまとめる過程では、党の幹部と大統領候補陣営は党内が分裂しないように注意し、国民に対して表向きには一枚岩となるよう努めねばならない。綱領は国民に対して公約する基本政策の大網として、党の原則、全体的な方向性を判断するのに役立つ文書なのである。

党に対する支持を維持し、増強するための綱領は、大統領候補にとっても全く無視するわけにはいかない文書である。したがって、大統領候補は、党綱領が自身の選挙活動にダメージを与えたり、足手まといならないよう細心の注意を払う必要がある。実際、今年の共和党全国大会における綱領審議には、ミット・ロム二―陣営から政治ディレクターのリッチ・ビーソンや、政治顧問のランヒー・チェン、ジョナサン・バークス等が顔を出し、スタッフは常時、成り行きをモニターしていたとのことである。

本年は綱領に対する関心度が例年よりも高いように見受けられた。というのも特に共和党では、最終的にロム二―の共和党大統領候補選出がほぼ確実視されることになった時点で、宗教・社会保守のリック・サントラム元上院議員候補、そしてニュート・ギングリッチ元下院議長がロム二―に対する支持表明を行ったにもかかわらず、唯一、リバタリアンのロン・ポール下院議員だけは支持表明は出さず、彼らの支持者たちがリバタリアン的政策をプッシュすることが予想されていたからである。このような事情もあり、共和党全国委員会とロムニー陣営は党大会に向けて2ヶ月間、予備選で対抗馬だったサントラム元上院議員、ギングリッチ元下院議長、そしてポール下院議員に手を差し伸べ、党大会の場で厄介な修正条項が提案されないように努力した。それでもポール支持者たちはリバタリアン的立場から同性婚を容認する修正案を提出。これは否決されたが、彼らは連邦準備制度の監査、および金ドル本位制検討委員会設置の文言を導入することに成功した*1

なお、興味深いことにピュー・リサーチ・センターの世論調査*2 によると、今年、特に共和党支持者による同党綱領に対する関心(83%)は、何とロムニー候補のスピーチに対する関心(76%)よりも高かった。これは民主党支持者の民主党大会におけるオバマ大統領のスピーチに対する関心(84%)の方が、綱領への関心(80%)より高かったのとは逆である。

党綱領と大統領、副大統領候補演説への関心度
ピュー・リサーチ・センター世論調査(2012年8月23-26日)


新しい大統領候補のスピーチより、綱領に対する関心が高いという異例な事態の原因は定かでないが、恐らく共和党にしては珍しく予備選挙が長期間にわたり混迷したこと、ティーパーティーの台頭、ポール下院議員に対する根強い支持などから、政党としての方向性を見極めようとする態度の反映ではないかと思われる。

両党綱領の主な相違点
2012年の綱領だが、全体的には民主党はリベラル化が進んだのに対して、共和党は保守化が進み、両党の違いが更に明確化されたといえよう。例えば、民主党綱領ではヒスパニック系など英語を母国としない者が教育や雇用のチャンスを奪われないようにすること、都市部の交通機関の充実化の必要性、中絶が必要な女性に対してその手段を保護することを明記した。これに対して、共和党は英語がアメリカの公用語であり、公共交通機関の推進はシビルからソーシャル・エンジニアリングへの移行であると批判し、胎児が生まれる権利を保護することをうたった。

民主党の綱領は、今後4年の目標というより、オバマ大統領再選に有利になる文書になっている。例えば、雇用創出などの面で大統領の実績を讃えている。また、2008年の綱領に掲げた目標が達成できなかった問題に関しては、2012年版はトーンダウンしている。例えば2008年綱領で近年、稀にみる憲法違反の場所であるとグアンタナモ湾収容キャンプの閉鎖を掲げていたが、実際には閉鎖できず、それがほぼ不可能な実情を反映して、2012年版では拘束されている人数を大幅に削減していると修正されている。

この2012年の民主党と共和党の綱領において、今年の選挙の最大関心事である経済政策の相違点、そして、最も対照的な両党のセールス・ポイントともいえる同性婚、中絶、医療保険、移民、労組の扱いなど、その違いを比較してみたい。また外交政策では、日本、アジアに触れてみる。

1.経済政策
民主党:減税も含め、ミドルクラスを基盤とする経済を目標にしている。そして、勤労者を支援して、ミドルクラスを増やす政策を打ち出している。財政赤字削減の一環として、特に富裕層に対する更なる減税には反対し、それなりの納税をすべきだと主張。また、海外に雇用を流出させている企業に対しては、税控除を廃止し、国内投資を奨励することを提言。共和党のトリックルダウン経済政策については、過去に失敗した政策として厳しく批判している*3

共和党:アメリカン・ドリームを復活させるためには、政府を縮小し、税率、訴訟、規制をミニマムにすべきだと提唱。特に税制については2001年と2003年のブッシュ減税を維持し、税制改革で相続税などを廃止し、20%という一律税率を提言*4

基本的に両党の経済政策は従来の路線通りで、大きな変化はない。

2.同性婚
民主党:2012年の綱領で最も画期的だったのは、同性婚に対する正式な支持を明記した点である*5 。これは長年、公民権を保護・推進してきた民主党の当然のステップと言えるし、これまで同性婚に対する立場を曖昧にしてきたオバマ大統領が今年、それに対する支持表明をしたことの反映でもある。

共和党:一部の州で合法化された同性婚に対する反対と、結婚を男女間に限定する憲法修正条項に対する支持を表明している*6

なお、ピュー・リサーチー・センターの国民価値観調査によると、29歳以下では65%、30-49歳の層でもほぼ半数の48%、50-64歳は40%、65歳以上でも31%が同性婚を支持しており、年々、同性婚支持者は増える傾向にある*7 。しかし、キリスト教右派のよりどころでもある共和党が、今後、同性婚を認める内容に綱領を修正するようになるとは考えにくい。

3.中絶
民主党:生むか生まないかを女性が選択する権利を合憲とした最高裁判決Roe v. Wadeに対する支持と、安全で合憲な中絶をその医療代を支払えない女性にも提供することを支持、そして政治家や政府の介入に対する反対を明記 *8

共和党:胎児には生きる根本的個人の権利があると主張し、中絶を違憲とする憲法修正を求めている。また中絶に公的資金を使うことに反対している*9

なお、ピューの価値観調査では、女性の55%、男性の51%が中絶は合法であるべきと回答している。これに対し、違法とすべきと考えている女性は40%、男性は43%という結果が出ている*10 。そして、本件については民主党の政策がより好ましいと回答している女性52%、男性45%で、共和党は女性32%、男性35%である。しかしながら、中絶反対派にとっては、中絶という問題が選挙に占める重要度が高く、彼らは共和党の支持基盤でもある。

秋の選挙における中絶問題の重要度
ピュー・リサーチ・センター世論調査 (2012年4月4-15日) 


4.医療保険
民主党:医療保険改革(Affordable Care Act)を第一歩として、国民全員向けに医療保険を改善し、医療格差の解消に努める。低所得者向け医療費補助制度メディケイドをより充実させる。高齢者向け医療保険制度メディケアも充実化させ、共和党が主張している民営化やバウチャー化には反対*11

共和党:医療保険改革(いわゆるオバマケア)撤回を第一目標としている。そして選択肢増加、およびコスト削減をうたっている。またメディケイドを州に対する包括的補助金とし、メディケアや民間医療保険に対する支出を抑制することを提案している*12 。メディケア改革はロムニー・ライアン陣営が提案していた内容が、党綱領に反映された。

5.移民
民主党:オバマ政権が推進しているDREAM ACT(不法移民の若者が合法の住民、そして市民になることを可能にする)以上に、更に包括的な移民改革を提唱*13 。DERAM ACT法案が共和党に阻止されて成立しなかったことから、オバマ大統領は今年8月、大統領令によってDeferred Action for Childhood Arrivals というプログラムを施行した。これは親と一緒に入国し、アメリカで育った若者が不法入国者でも一定の条件を満たしている場合には、一時的な在留資格を与えるもので、主にヒスパニック系に対する選挙対策である。
実はオバマ政権は不法移民の国外退去を強化し、2012年7月時点で140万人を追放。これは二期で200万人追放したブッシュ政権と比較すると、オバマ政権のひと月あたりの不法移民国外退去数はブッシュ政権の1.5倍である。

共和党:オバマ政権が不法移民を放置したと批判し、犯罪歴がある不法移民から優先的に国外追放することを提案し、具体的には移民法287g条項の徹底を呼びかけている*14 。これは地域コミュニティーが連邦専門家から訓練を受けた法施行職員に不法移民の疑いがある者を逮捕、抑留させることを認める条項で、単なる交通違反でも逮捕、国外追放につながる。オバマ政権は同条項が人種差別、公民権侵害に相当すると、フェーズアウトしてきた。

6.労組
民主党:組織作りと集団交渉の権利は基本的なアメリカの価値観であると、労組を強く支持。労組が中産階級を作ることに役立ったと指摘し、最低賃金の増加を提唱*15 。支持基盤である労組を支持する従来からのポジションの延長である。

共和党:民間と政府職員の労組の活動を弱体化することを提案。特にウィスコンシン州で共和党が施行したような、州政府職員労組活動改革を全米的に推進すべきであるとしている*16

7.アジア政策
民主党:オバマ政権がオーストラリア、日本、ニュージーランド、フィリピン、韓国、タイとの同盟と協調を強化したと指摘。日本と韓国における米軍駐在を強力に維持し、北朝鮮等の挑発を抑止。中国に対しては通貨、知的財産保護、労働者権利保護について国際基準、規則を遵守すること、また北朝鮮、イランの核問題、気候変動を含めた国際的問題にパートナーとして取り組むことを要請する*17

共和党:アメリカは太平洋国家であり、オーストラリア、フィリピンから日本や韓国まで、太平洋の同盟・協調関係にある諸国と共に、北朝鮮の人権保護、核兵器開発中止、核不拡散活動に対する説明を要請する*18 。知的財産保護、為替操作、人権侵害、強制中絶、台湾などの点で中国に対して厳しいポジションを示している。日本への言及は1回のみだが、多数の中国への言及は、反中的なトーンが目立つ。

最後に
ジェラルド・M・ポンパー・ラトガース大学名誉政治学教授は1944年から90年代の党綱領を研究し、与党が綱領の70%の施行を試みているという結論を出しており、無意味の文書として無視すべきではないと指摘している。党綱領は拘束力がなくても、グラスルーツ・レベルの党支持者の意見をまとめた党の方向性を示すものとして、有権者にとって大いに参考となる文書であるといえよう。



*1:2012年共和党綱領 p.4 Inflation and the Federal Reserve
*2:http://www.people-press.org/2012/08/27/more-interest-in-gop-platform-than-romneys-speech/
*3:2012年民主党綱領 pp.1-13 Moving America Forward, Rebuilding Middle Class Security, America Works When Everyone Plays by the Same Rules
*4:2012年共和党綱領 pp. 1-8 Restoring the American Dream: Rebuilding the Economy and Creating Jobs
*5:2012年民主党綱領 p.18 Freedom to Marry
*6:2012年共和党綱領 p.10 Defending Marriage Against An Activist Judiciary, A Sacred Contract: Defense of Marriage
*7:http://www.people-press.org/files/legacy-pdf/06-04-12%20Values%20Release.pdf p.27
*8:2012年民主党綱領 p.18 Protecting A Woman’s Right to Choose
*9:2012年共和党綱領 p.13 The Sanctity and Dignity of Human Life
*10:http://www.people-press.org/2012/08/22/the-complicated-politics-of-abortion/
*11:2012年民主党綱領 pp.3-5 Health Care, Social Security and Medicare
*12:2012年共和党綱領 pp.32-34 Repealing Obamacare, Our Prescription for American Healthcare: Improve Quality and Lower Costs, Ensuring Consumer Choice in Healthcare
*13:2012年民主党綱領 p.13 Immigration
*14:2012年共和党綱領 pp.25-26 The Rule of Law: Legal Immigration
*15:2012年民主党綱領 pp.2-10 Standing Up for Workers
*16:2012年共和党綱領 pp.7-8 Freedom in the Workplace
*17:2012年民主党綱領 p.26 Asia-Pacific
*18:2012年共和党綱領 pp. 47-48 U.S. Leadership in the Asian-Pacific Community