タイプ
論考
プロジェクト
日付
2012/11/27

アメリカ大統領選挙UPDATE 9:「ほぼオバマが完勝した接戦州でなにが起きたか?」(池原 麻里子)

2012年大統領選における9の接戦州(コロラド、フロリダ、アイオワ、ネバダ、ニューハンプシャー、ノースカロライナ、オハイオ、バージニア、ウィスコンシン)のうち、オバマ大統領はノースカロライナ以外の全州を見事に制覇し、再選された。特に大接戦となったフロリダ、オハイオ、バージニアでは、次表のように僅差でオバマが勝利を果たしている。

フロリダ、オハイオ、バージニアの得票率

オバマが8%近い失業率等の不利な経済指標の状況下で再選できたのは、一言で言えば、接戦州における「地上戦」でロムニー陣営より優れた戦法を展開したからである。その基盤となったのはアメリカ政治史上、最も優れたデータに基づくきめ細かい有権者ターゲティングだった。その結果、オバマ陣営の接戦州結果予測は、実際の結果と0.1~0.5%ポイントの誤差しかないという高い精密度を極めた。

まず、オバマ陣営は白人票の割合が年々、減っており、2012年には2008年より更に減ることを計算に入れて、それを補足すべく、非白人票を最大限確保するよう努めた。

アメリカ大統領選挙投票者の人種構成(%)*1

そして実際、2012年に投票した白人票の割合は72%と下がり、オバマが獲得したのはその39%に過ぎなかった。これは1984年にモンデールが獲得した35%に次いで低い数字である。しかし、マイノリティー票に関しては黒人票の93%、ヒスパニックの71%、アジア系の73%の支持を確保した。特にヒスパニック票とアジア系票については、それぞれ2008年の67%、62%を4ポイント、11ポイントも上回る数字となっている。

特に激戦の接戦州と見られたオハイオ州とフロリダ州では以下のような結果が出ており、オハイオでは黒人票、フロリダではヒスパニック票がこれらの州でのオバマの勝利につながった*2

オハイオ州




フロリダ州





ターゲッティング手法
オバマ陣営は有権者を活性化するに当たり、具体的にどのような手法を使ったのか。彼らは投票日までの1年半、Operation Voteという戦略に専念した。まず、有権者プロフィール作りに、選挙資金の4分の1に相当する2億から2.5億ドルを投じた。それは有権者一人ひとりの投票記録、政治資金寄付の実績、定期購読している雑誌や所有車の種類、マイホームの価値、銃所有等のパブリックな消費者データ、そしてオバマ再選キャンペーンのウェブサイトを訪れたか、キャンペーンのフェースブック・アプリをダウンロードしたか、オバマ大統領再選を支持する確率などをまとめたものだ。特にフェースブック・アプリは友人リストと友人とのやりとり情報を入手でき、重要な情報源となった。氏名からヒスパニックやアジア系といった情報も推測可能だった。ジム・メッシーナ選対本部長自身、このフェースブックのアプリが特に貴重なツールだったと語っている。選対は「この友人5人はオバマ支持を決めていないようだから、ここをクリックしてファクトシートを送って欲しい」とか、「支持を要請して欲しい」など、各人にコンタクトすることで、500万人以上に直接にリーチアウトできたのである。この手法は従来のダイレクト・メールといった手法より114%効果的だったという。

そして、オバマ支持基盤の中心である黒人、ヒスパニック、若者、そして女性(特に大卒以上)をターゲットした。地域別と平行して、これらの有権者グループをグループ毎に活性化する組織を作り、彼らにリーチアウトした。不況、高い失業率といった共通の懸念以外に、各グループには例えば移民政策や中絶する権利など共通の関心事項があり、それにフォーカスしたアプローチがとられた。彼らのコンタクト情報が明らかになると、できるだけ頻繁に直接に接触する試みが実施された。その他、通勤ルート等、グループが通り、集まる場所や、好んで視聴するテレビやラジオ番組での広告なども含む。また、ダイレクト・メールやデジタル広告で接触した。

オバマ陣営は特に接戦州を中心に、大統領選で過去最多の選挙事務所を設置した。例えば、ロムニー側の選挙事務所数が300に過ぎなかったのに比べ、オバマ陣営はその倍数の599、そのうち133はオハイオに設置された。これらの事務所からはスタッフの指揮下、ボランティアが電話による接触や、戸別訪問を展開した。多くの事務所が設置されたのは、直接の人的交流が一番効果的であることを熟知していたからだ。2008年の「HOPE」というスローガンに象徴される熱狂的な支持を期待できなかった2012年では、同じ関心を持つボランティア、近所の知人からの接触が、オバマに不満を抱き、放置されていれば棄権したであろう有権者を投票場に向かわせるのに有効だった。データベースはボランティアたちに限られた時間で効率的に活動させるためにも役立った。接戦州でボランティアが登録した有権者数は179万人で、2008年の倍近い数字を達成した。この2008年に投票しなかったlow intensity voterを登録し、投票を促したことは、フロリダなどで勝敗を決める重要な要因となった。

なお、ワシントンDCの隣の接戦州バージニアではアジア系の人口が急増しており、2010年国勢調査では州人口の5.5%を占めるようになり、その大半が北部に集中している。その3分の1が投票日近くまで支持候補が未定という状況だったが、オバマ陣営はアジア系女性スタッフをバージニア北部の選挙事務所に配備し、アジア系有権者へのリーチアウトを展開していた。またアジア系のボランティアたちは選挙関連情報を母国語に翻訳するなど、自分の民族グループへの接触を図った。

全米のボランティアが電話や戸別訪問で何人の有権者と接触したか、そしていくら資金が集まったか、ツイッターをはじめとするソーシャル・ネットワークで話題となっているトピック、世論調査といった情報が一目瞭然となるソフトが開発され、日々、アップデートされる最新情報はジム・メッシーナ選対本部長の戦略形成に役立った。

投票日前の週末には、接戦州のボランティアのチーム・リーダーたちが5117ヶ所のget-out-the-vote (GOTV)のオフィスを自宅などにオープンし、126万件の電話や戸別訪問を展開した。また、接戦州では3日にはすでに30%近くが期日前投票を済ませていた*3 。選挙当日もボランティアたちは投票所で投票時間が過ぎても、長蛇の列で待つオバマ支持者たちに帰らないように呼びかけ*4 、スナックやドリンクを配った。

これに対して、選挙当日も勝利を信じて疑わなかったロムニー陣営では、37,000人のボランティアにProject Orcaというアプリを活用させて、投票所から投票者情報を選対本部にインプットすることになっていた。投票に来たロムニー支持者をチェックし、まだ来ていない支持者に投票を呼びかけることが狙いだった。しかし、このアプリ(実は単なるウェブサイト)に不備があり、混乱が生じたばかりか、選挙日半ばでクラッシュしたまま、回復することはなかった。これらのボランティアたちが接戦州で1人あたり20人に投票させていたら、ロムニーが勝てたとのことである。

Air war vs. ground war
オバマ陣営のground warがair war、つまりテレビ・ラジオ広告に勝ったともいえるが、air warも決して無視できない。例えばオハイオでオバマ陣営がうった広告は100,674件、一方、ロムニーは41,162件だった。しかも、オバマ陣営は1億ドル以上を投じ、ロムニーを企業乗っ取り屋、米自動車業界救済に反対した冷血な人物として攻撃するTV広告を初夏にオハイオやバージニア等の接戦州で流した。これはロムニーが共和党大統領候補に指名されることが確実になったが、選挙資金が枯渇して、反撃できなかった時期である。その結果、ロムニーのネガティブなイメージが有権者の中に浸透してしまい、ロムニーがそれを挽回することは不可能だった。

オハイオ州
上記の広告がロムニーに打撃を与えたこと以外に、終盤においてロムニー陣営がうった「クライスラーやGMが米国内の労働者を解雇し、中国に工場を作る」という広告も、両社から「誤解を招き、事実無根の広告」と批判され、ロムニーの失点となった。

フロリダ州
ロムニー陣営の選挙事務所数も、候補自身による遊説回数も40回近くと一番多く、勝敗が判明するまで数日かかるなど、全米一大接戦の州だった。2008年は投票者の14%に過ぎなかったが、2012年には17%を占めるようになったヒスパニック票の60%を獲得したこと(2008年は57%)がオバマの勝因になったといえよう。またヒスパニック、黒人、若者の中から、4年前には投票しなかったlow frequency voterを見つけ出し、投票させることに成功したことがカギとなった。

終わりに
オバマ陣営の前例にない膨大なデータを基盤とした選挙活動は、今後の大統領選挙のお手本となるであろう。しかし、あくまでもデータは、ボランティア活動を動機付ける魅力的な候補が存在して初めて活性化できる単なる数字に過ぎない。



*1:データ:National Election Pool
*2:同上
*3:https://secure.assets.bostatic.com/pdfs/gotv/113Memo.pdf
*4:有権者は締め切り時点で投票所の列に並んでいれば投票する権利がある。特にバージニア、フロリダではマイノリティー地区に長蛇の列ができており、投票がバージニアでは選挙結果判明後になった有権者もいた。