タイプ
論考
プロジェクト
日付
2012/11/27

アメリカ大統領選挙UPDATE9:「オバマ再選における参加誘導選挙戦術の位置づけ」(細野 豊樹)

投票日直前の追い上げもあって、選挙人数では332対206という大差でオバマは再選された。オバマが選挙人を獲得した州は、辛勝だったインディア州およびノース・キャロアイナ州を落とした以外は、2008年とほぼ重なる。

しかし、高めの失業率という逆風の中で、全米の得票率は2008年の53%から概ね51%に下がっている。白人(特に男性)や支持政党なし層からの得票をオバマは減らした。それでも、女性、黒人、ヒスパニック、若者、労働組合員などの中核支持基盤は離反しなかった。マイノリティー票および女性有権者票の寄与については、我が国のメディア報道でも注目を集めたところである。ただし、出口調査によれば、得票率が上がったヒスパニックを除いて、これらコアな支持層からの得票率は微減ないし横ばいである*1。また、激戦州の郡レベルの得票数(速報値)を2008年と比べると、得票数が減っている郡が少なくない。さらに、オバマの得票数は伸びているものの、ロムニーの得票数の伸びに負けて、得票率が下がった郡が多数みられる。こうしたから、2012年大統領選挙は、4年前と比べてやや目減りしたオバマ連合の勝利だと総括することもできる。

だが、細かくみていくと、2012年のオバマの勝利を2008年連合の縮小再生産だと単純に片づけることはできない。それは、情報技術を駆使した参加誘導の選挙戦術が、2008年以上に完成度を増しているからである。共和党も含めて今後の選挙に影響していくと思われる展開だ。そして、こうした選挙は、「持たざる者」が結束するポピュリスト的な選挙への2012年における転換と表裏を成している。

2012年大統領選挙で特筆すべきは、全米および激戦州において、世帯年収5万ドル以下の投票者の割合が全米および今回の選挙においても最も注目されたオハイオ、フロリダおよびヴァージニアにおいて高まっていることである(表1)。内外のメディアでもっと注目されてよい変化だ。

表1 出口調査における世帯年収5万ドル以下の割合の変化(%)
『ワシントン・ポスト』電子版掲載の出口調査結果より作成。

それは、予備選挙の段階で大量のネガティブ広告を一方的に打って、ロムニーは製造業のアウトソーシングを好む冷酷な経営者というイメージを激戦州にて定着させ、富裕層対ミドルクラスという図式に持ち込んだ成果だと言える。こうしたオバマ再選戦略のポピュリズムは、国内での雇用維持をうたう「経済愛国主義」路線(最後から4番目の段落)、そして「オサマ・ビン・ラディンは死に、GMは健在。」というスローガンとセットになっていた。

ここで強調したいのは、上記の前倒しの選挙広告支出を可能にしたのは、ネット選挙による大量の小口献金だという点だ。オバマ陣営によれば、2012年選挙におけるオバマへの政治献金件数の約98%が250ドル以下の献金である。アメリカの1人当たりの政治献金の上限は、予備選挙と本選挙でそれぞれ2500ドルなので、小口献金者に対しては上限まで何回も政治献金を要請できる。これに対して、大口献金だと簡単に上限金額に達するため、再三の献金を期待できない*2。献金のリピートを期待できないロムニーに陣営は、下手に支出を前倒しにすると、新たな献金者の開拓に奔走しなくてはならないが、何回も献金を要請できる小口献金主体のオバマには、そういう心配がない。

政治献金とともに、政治的関心が高い有権者による政治参加の形が、選挙運動のボランティアである。支持基盤の動員においては、近隣の顔見知りからの働きかけが最も効果的であり、地元出身でないオルグや、州外からの電話勧誘などには限界がある。地域密着のボランティア網が、2004年大統領選挙におけるブッシュ陣営および2008年のオバマ陣営の動員戦術の要であった。

2012年選挙において注目されるのは、オバマ陣営の選挙ボランティア網がさらにパワーアップしたとみられることである。2008年の選挙から、ボランティア網を組織化する「地上戦」の核となる選挙事務所の数において共和党陣営を圧倒している アメリカ大統領選挙UPDATE7(最後から6番目の段落)。2012年選挙では、それに加えて5000以上の活動拠点(staging locations)をオバマ陣営は組織した*3。選挙事務所はオバマ選対が用意するのに対して、活動拠点は支持者の自宅や事務所である。運動拠点は、政治的関心が高いボランティアによる、新たな政治参加の形と言える。

オバマの選挙運動は参加型であるが、ボトムアップを意味しない。2012年の民主党支持層の間では、2010年のティーパーティー運動のような草の根レベルの盛り上がりは全然みられない。このため、選対本部があの手、この手を使ってトップダウンで参加を働きかけていく形であり、オバマ陣営の手のひらの上で展開される、誘導型の参加なのである。

支持基盤動員戦術は、GOTV(get-out-the-vote)と略される。GOTVはもともと民主党が先行していたが、初期のGOTVは、民主党支持者が多い都市部を中心に、労組のオルグなどが絨毯爆撃的に特定の地域を回る重点地域選定型の選挙だった。当時のGOTVをリードした民主党系選挙参謀のマット・リースは、郵便番号レベルで地域を細分化し類型化を行った。こうした第一世代の支持基盤動員を、GOTV1.0と呼ぶことにしたい。

第二世代のGOTV2.0は、マーケティングの手法を応用し、地域でなく個人のレベルで支持者を識別し投票を働きかける。有権者の消費行動から、統計的に支持政党などを割り出すマイクロターゲティングである。例えば、ヴォルヴォの自家用車の所有者については、民主党支持の確率が高いと推定される。マイクロターゲティングでは、民間企業との人材交流が盛んな共和党陣営が2004年大統領選挙で先行し、これを民主党が追いかけた。

そして、ソーシャル・ネットワーキング・サービスや、スマホ・アプリを使った参加誘導型・双方向型の選挙を、GOTV3.0と位置付けたい。2004年の共和党の支持基盤動員戦術のようなGOTV2.0は、基本的期に選対本部が指令を一方的に流すヒエラルキー型の選挙である。これに対してオバマ2008年および2012年のオバマ陣営のGOTVは、単にSNSという参加型の新メディアを駆使したにとどまらず、草の根ボランティアからのフィードバック情報を活用したり、小口献金を募ったり、活動拠点を提供してもらう双方向性と参加誘導性を有する。また、サシャ・アイセンバーグが紹介するように、投票を棄権することの罪悪感に訴えるダイレクトメールで投票率を上げるといった、行動科学に基づく心理操作術*4も、GOTV3.0の新たな側面である。

では、GOTV3.0の威力は、どう評価されるべきか。分析の要となるのは、投票率の変化である。まず全米レベルであるが、得票データの速報値から、投票率はおそらく下がっていると投票率の専門家は判断している*5。しかし、GOTVの効果が表れるのは、両陣営の選挙運動が集中した激戦州に限られる。このため、たとえ全米で投票率が下がっても、選挙運動が集中した激戦州で軒並み投票率が上がっていれば、GOTV3.0は成功したと評価できるところだ。しかし、現時点の速報値を見る限りでは、9つ前後の激戦州における投票率の顕著な上昇は確認できない。もっとも、オバマ陣営は、アイオワ、ネヴァダ、ノース・キャロライナおよびウィスコンシンにおいて投票率が上がったと述べている*6。これが証明されるのは、得票数の確定値が揃ってからであるが、これらの州で投票率が上がっているとしても、微増であろう。

また、民主党の中核支持基盤である女性、黒人、ヒスパニックの出口調査回答者に占める割合を激戦州別にみると、一部で高まった州もあるが、そうでないケースもあり、こちらの解釈も微妙である*7。出口調査回答に占める黒人の割合が大きく上昇したオハイオについては、共和党の露骨な投票抑制行為が逆効果で、黒人を怒らせて投票率が上がったとの分析もある*8。このように投票率上昇効果の評価が難しいGOTVよりも、共和党の右傾化で女性やヒスパニックが離反したことや経済愛国主義路線(前回ブログにリンク)のほうが、オバマ再選への寄与が明確である。

以上のとおり再選への寄与の定量化は簡単でないものの、オバマ陣営は超一流のIT技術者を揃えて構築した選挙戦インフラにおいてロムニー陣営を圧倒し、支持基盤の動員力を2008年以上に強化したのも事実である*9。たとえ激戦州における投票率に大きな変化は確認できないとしても、高めの失業率という強い逆風にも関わらず、投票率の顕著な低下がみられない点が重要だ。オバマの支持基盤のうち、若者、黒人およびヒスパニックは、白人中高年層と比べて投票率が低い傾向がもともとあり、しかも、最近の失業率が全米平均を上回る。さらに、今回の選挙において支持者の投票意欲において共和党が優位に立っていたことを、世論調査は示している。このようにオバマの支持基盤の投票率が下がってもおかしくなかったので、共和党陣営は本気で勝利を信じていた節がある。オバマ陣営の参加誘導型GOTV3.0は、支持基盤の高失業率という強い逆風の中で、得票の目減りを最小限に食い止めた、という評価が成り立つのではないか。

軍拡競争と同じで、いずれ共和党はGOTVにおいて民主党に追いついてくる。ロムニーは、共和党右派の庶民へのアピールが弱かったので、メディア戦主体の選挙戦術を採用せざるをえなかった。これに対してティーパーティーに人気のある政治家なら、オバマに倣って小口献金を大量に集めるインフラを構築できるはずだ。ただし、もともと支持基盤の投票率が高い共和党のほうが、伸びしろが小さいという点では不利だと言えよう。



*1:出口調査における女性、黒人、若者(18-29歳)および労組世帯からの得票率の変化(2008年-12年)は、それぞれ-1%、-2%、-6%、-1%である。
*2:Colin Delany, ”Are Small Online Donors the Key (and Largely Overlooked) Factor in the Presidential Race?” e.politics, November 4th, 2012.
http://www.epolitics.com/about-epolitics/
*3:Donovan Slack, “Obama camp outlines massive ground effort”, Politico, November 3, 2012.
http://www.politico.com/politico44/2012/11/obama-camp-outlines-massive-ground-effort-148287.html
*4:Sasha Issenberg, “The ‘Voter Report Card’ MoveOn Hopes Will Shame Slackers”,
The Slate, October 31, 2012.
http://www.slate.com/blogs/victory_lab/2012/10/31/moveon_can_its_voter_report_card_shame_slackers_into_turning_out.html
*5:Josh Lederman, “Turnout shaping up to be lower than 2008 (AP News)”, Business Week, November 07, 2012.
http://www.businessweek.com/ap/2012-11-07/turnout-shaping-up-to-be-lower-than-2008
*6:Dan Balz, “Obama’s coalition, campaign deliver a second term”, The Washington Post, November 8, 2012.
http://www.washingtonpost.com/politics/decision2012/obamas-coalition-campaign-delivde-a-second-term/2012/11/07/fb156970-2926-11e2-96b6-8e6a7524553f_story.html
*7:例えば、オハイオでは黒人の割合が5ポイント(11→15%)、フロリダではヒスパニックの割合が3ポイント高まったが(14→17%)、ヴァージニアではいずれも変化なしであった。
*8:Roland Martin, “GOP voter suppression fueled black turnout”, CNN, November 10, 2012.
http://edition.cnn.com/2012/11/09/opinion/martin-black-vote/index.html?iref=allsearch
*9:Alexis Madrigal,”How Obama's Tech Team Helped Win the Election
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The Atlantic, November 16, 2012
http://www.nationaljournal.com/politics/how-obama-s-tech-team-helped-win-the-election-20121116?page=1