タイプ
論考
プロジェクト
日付
2014/8/28

2014年アメリカ中間選挙 update 1:社会的争点で守勢に回る共和党(飯山雅史)

米国は、結婚防衛法を違憲とした昨年6月の連邦最高裁判決を受けて、急ピッチで同性愛結婚の完全合法化に突き進んでいる。活気づくリベラル派の風を受けて、民主党が同性婚に反対する共和党攻撃を強める一方、守勢に回った共和党は社会的、宗教的問題の争点隠しに走っている。同党が1980年代から民主党攻撃の決め手としてきた社会的争点は、もはや共和党の足枷との見方も広がりはじめ、社会的争点をめぐる政治情勢の構造変化が2014年中間選挙の特徴になるかもしれない。

連邦最高裁判決以来、全米各州で起きた同性婚合法化を求める訴訟では今年7月末までに25の判決が出て、すべて同性愛グループの完勝となった。この結果、2004年にはマサチューセッツ州一つだった同性婚合法州が、今や20州とワシントンDCに急拡大した。残りのすべての州で合法化を求める訴訟が係争中で、うち11州ではいったん同性婚禁止は違憲との判決がでたことがある*1。さらにいくつかの州では、改めて連邦最高裁の判断を求め連邦レベルでの最終決着を目指す動きも進んでおり、完全合法化に向けた流れはもはや押しとどめるのが困難になってきた*2

この背景には、同性婚をめぐる世論の目覚ましい変化がある。ギャラップ調査によると、1996年で同性婚に賛成する人は27%にすぎず、圧倒的多数の68%が反対派だった。2010年でも過半数の55%が反対派だったが、わずか4年後の2014年には賛成派が55%に増加、反対派は13ポイント減少して42%となり賛否が逆転したのである。宗教右派は相変わらず同性婚問題を宗教的争点ととらえているが、一般的には同性愛者の人権問題ととらえる見方が主流となっている。この観点から同性愛者の就職差別を違法と考える人は89%に上って、すでに国民的コンセンサスとも言えるだろう*3

同性愛問題に関する限り、政治的決着は近いという感触が日増しに濃くなっており、共和党内部にも、同性婚反対に固執して負け組に荷担するのは政治的マイナスだという判断が広がり始めている。著名人ではディック・チェイニー、コリン・パウエル、ローラ・ブッシュなどが昨年、同性婚は憲法上の権利とする文書を共同作成した。同性婚はゲイ夫婦が育てる子供に二人親の家庭を提供するので、「家族の価値」を推進して保守主義の思想に合致するという主張である。共和党知事ではクリス・クリスティー(NJ)、トム・コルベット(PA) 、ブライアン・サンドバル(NV) らが同性婚反対を撤回し、ニューメキシコ州のスサナ・マルティネスは、同性婚容認は「すでにこの国の法律だ」と述べた。2012年大統領選挙予備選に出馬したジョン・ハンツマン元ユタ州知事も昨年、同性婚支持を表明しており、2016年に再び出馬すれば同性婚が共和党予備選で対立争点の一つになる可能性もある。

豊富な資金をバックに路線転換を迫っているのは、ヘッジファンドCEOで億万長者のポール・シンガー。彼はアメリカ団結基金(American Unity Fund)を作って独自に世論データ集め、ロビイストを使って運動している。元共和党全国委員長のケン・メルマンも2010年に自分が同性愛者であることを明らかにした後、同性婚容認を迫っている。

そもそも、2012年大統領選挙敗戦の後、共和党全国委員会がスポンサーとなってまとめた報告書(2013年3月)は、共和党が社会的争点で若者や女性、少数派の意識から乖離していると公式に指摘し、彼らの共和党離れを食い止めるために、より包容力を持つべきだと主張した*4

だが、共和党は1980年代に鮮明な宗教保守政党に転換して以来、ビジネス・ウィングと宗教保守層という価値観の異なった二つの支持基盤を抱え込み、その相克に苦しんできた。宗教保守層は依然として共和党の3~4割の支持基盤であり、宗教問題での路線転換は党内に激しい亀裂を走らせる。このため、現職の共和党指導部であるベイナー下院議長やミッチ・マコーネル上院院内総務は慎重に同性婚反対の姿勢を崩していない。先の報告書も同性婚賛成への綱領改定など、具体策になると口を濁している状態だ。共和党の曖昧な姿勢に苦しむ候補は、同性婚問題の争点化を避けようとしている。スコット・ウォーカー・ウィスコンシン州知事は「(同性婚)問題をけしかけているのは左翼だから」と言って、選挙遊説ではこのテーマに触れていない。

共和党が守勢に回る一方で、民主党は活気づいたリベラルの風に乗っている。メイン州知事選の民主党候補マイケル・ミチョードは昨年11月、彼がゲイだとのうわさに対抗して自ら同性愛を公表したうえで、「どこが問題なのか」とメディアに訴えた。支持率は下がらず、彼は公式に同性愛を認めて当選した全米初の州知事になる可能性がある。コロラド州の民主党上院議員マーク・ユーダルは、対抗馬の共和党候補が「女性に対する戦争」をしかける過激な右翼だと攻撃し、中絶問題をテーマにしたテレビとネットの広告を繰り返した。共和党候補は「ユーダルは社会的争点一本で仕掛けてきた」と悲鳴を上げている。ニューヨークタイムズ紙は、2012年大統領選挙でオバマ大統領がやったのと同じように、民主党は経済政策や外交問題での弱点をカバーするため、同性婚や避妊薬問題に争点をずらす戦略だと指摘する*5

だが、そもそも同性婚や中絶問題が、民主党に有利なテーマと認識されていること自体、社会的争点をめぐる政治潮流の逆転を示すものと言えるだろう。つい数年前まで、同性婚など社会的争点は、共和党にとって、民主党リベラルを攻撃し保守地盤を活気づける銀の弾だったのである。2004年大統領選挙では、同性婚問題の争点化を狙った共和党が、各州で同性婚禁止の住民投票運動をおこし、これに呼応したプロテスタント福音派からの大量得票がブッシュ再選を確実にした。

1960~70年代にリベラル路線に舵を切った民主党は、その後リベラリズムに対する反感が強まるにつれ、社会的、宗教的争点での攻撃に対して脆弱になってきた。2004年の敗北の後、同党内でも宗教保守票の奪回が党勢回復に必須と認識されるようになり、2008年の大統領選挙ではオバマなど多くの民主党候補が同性婚反対を表明してまで宗教保守層にラブコールを送り、宗教問題の争点化を回避しようとしたのである。
だが、同性婚賛成派が急増し始めた2012年の大統領選挙で、民主党は大きく立場を変えた。オバマ大統領が態度を変えて同性婚賛成を表明し、宗教保守票にこびるのではなく鮮明な宗教リベラルに立って選挙に挑んだのである。この潮流の変化が明確になり、ついに共和党の側が社会的、宗教的争点は不利と考えて、争点隠しに走るようになったのが今回の選挙と言えるだろう。

変化は一時的なのか、構造的なのかは明らかでない。そもそも、同性婚問題は今でも社会的、宗教的争点と呼べるかどうかも検討が必要だ。だが、長年の政治対立を生んだこれらの争点をめぐる政治状況に、何らかの地殻変動が起きている可能性は高いだろう。

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*1: Masuma Ahuja, Robert Barnes, Emily Chow and Cristina Rivero, “The changing landscape of same-sex marriage”, The Washington Post, Web version (http://www.washingtonpost.com/wp-srv/special/politics/same-sex-marriage/#), updated Aug. 13, 2014

*2: Adam Liptak, “Both Sides in Gay Marriage Fight in Utah Agree: Supreme Court Should Hear Case”, The New York Times, Aug. 7, 2014

*3: Gallup社ウェブページ(http://www.gallup.com/poll/1651/Gay-Lesbian-Rights.aspx)から。最終確認日付は2014/08/19。

*4: Paid for by the Republican National Committee, “Growth & Opportunity Project,” March 18, 2013

*5: John Harwood, “Democrats Seize on Social Issues as Attitudes Shift,” The New York Times, Aug. 4, 2014

■飯山雅史 北海道教育大学教授