タイプ
論考
プロジェクト
日付
2014/9/4

インターネットとアメリカ政治「アメリカ流・災害時の情報コミュニケーションにおけるソーシャルメディアの活用」(清原聖子)

東日本大震災を災害時のコミュニケーションの観点から振り返ると、情報伝達手段がこれまでよりも多様化し、ツィッターやフェイスブックの活用が注目されたことは記憶に新しい。しかし、日本では災害時の情報伝達の方法として、デマ情報の流布など懸念される問題もあり、ソーシャルメディアは有用なメディアとは言えないとする指摘もある。一方、アメリカではハリケーンサンディをターニングポイントとして災害時の情報伝達手段に連邦政府も推奨して積極的にソーシャルメディアが活用されている。

大統領選が終盤を迎えた2012年10月下旬、バージニア州からマサチューセッツ州まで幅広い地域で甚大な被害を起こしたのがハリケーンサンディであった。オバマ大統領はニューヨーク州をはじめとした複数の州に対して非常事態宣言を発令。広範囲で水害や強風により通信サービスが停止した。無線基地局は蓄電池も備えていたが、洪水と商用電力が数日間以上使えなくなった影響でダウンした。そうした中で、連邦通信委員会(FCC)は、固定電話よりも被害が深刻だった携帯電話のネットワーク負荷を減らすため、緊急通報の911以外には、長時間電話をする代わりにテキストメッセージやソーシャルメディアを活用するように呼びかけた。ジェナカウスキーFCC委員長(当時)は、「ソーシャルメディアは家族などとの情報交換に不可欠なプラットフォームだ。それ以外の通信ネットワークを緊急援助のために空けておくためにも必須だ」と述べて、FCCはソーシャルメディアの積極的な活用を促した。

また、ニューヨーク市や連邦緊急事態管理庁(FEMA)もソーシャルメディアを市民・住民との情報伝達に大いに活用した。ニューヨーク市役所やFEMAの報告ではその有用性が指摘されている*1 。広範囲にわたる被害だったが、ニューヨーク市(とりわけローワーマンハッタンの被害は大きかった)は、地下鉄構内に洪水が押し寄せ、空港やトンネルなどの施設が平常に戻るのにも2週間以上かかったほど大きな被害を受けた。そういう中でニューヨーク市市長室にあるNYC Digitalと呼ばれる部署では、ソーシャルメディアを監視して、住民のハリケーンに対する反応を注意深くチェックし、報告書を毎日市役所に上げていた。市役所の報告書では、ハリケーン期間中に市役所は2,000回のツィートを行い、175,000以上のソーシャルメディアのフォロアーを増やしたと言う。急激なフォロアー増は、ツィッターで質問された内容には素早く答えるといった市役所側の対応があればこそ、であろう。また、市長のユーチューブチャンネルの視聴は10月26日から11月9日までに、100万回近くに達した。さらに新しい取り組みとして、ハリケーンサンディで、ニューヨーク市は全米初のCommercial Mobile Alert System(CMAS)を使った地方自治体となった。これは市が発信する災害時の緊急警報を特定の地域にあって、機能を備えたすべての携帯電話に対して、どの携帯キャリアか、に関わらずテキストメッセージで送信するものだ。このように、ニューヨーク市では、Notify NYCと呼ばれる緊急時に市役所から市民にメッセージを流すシステムをベースに、その情報を携帯電話や電子メール、市役所のツィッターなどありとあらゆる方法を駆使して市民への伝達を試みた。また、市役所との協力で被災者に食事を提供する非営利団体が行う情報提供にもソーシャルメディアが多用された。

一方、FEMAでは2013年7月9日、下院国土安全保障委員会の危機準備対応及び通信小委員会において、ソーシャルメディアを災害時の情報コミュニケーション手段として活用することの重要性について証言した*2 。FEMAは、ソーシャルメディアの利用にはFEMAの災害時の対応を強化する潜在力があると指摘。それではなぜソーシャルメディアが重要なのだろうか。それは端的に言えば人々が日ごろもっともなじみのあるコミュニケーションツールだからである。FEMAの使うソーシャルメディアは主にツィッターとフェイスブックであった。彼らは、人々(被災者)のソーシャルメディア上での会話の中を見ていくことが被災者のニーズを読み取るのに重要であると考えている。また懸念されるデマや偽情報に対応するため、FEMAのウェブサイト上に「ルーモア・コントロール」ページを置き、ソーシャルメディアで流れる情報の正誤判定を随時行い、正しい情報を提供した他、ツィッター・チャットにより、「バーチャルタウンホール」のような直接的なやり取りを被災者と行った。このようにFEMAが自らソーシャルメディアを使って被災者との双方向コミュニケーションを緊密にとることで、ソーシャルメディアによる災害時の偽情報の流布の懸念を払拭しようとした点に注目したい。


<図>

(今でもアーカイブスとして残っているFEMAの「ハリケーンサンディのルーモア・コントロール」ページ


さらにFEMAの報告書では、市民がソーシャルメディアを活用した事例が掲載されている。その一つが、ニュージャージー州の高校生がボランティアでどこのガソリンスタンドが営業しているのか、などの情報をオンライン地図情報のMapplerを使って公開したもので、報告書は彼らの活動を高く評価した。これは高校生が自ら情報を集め、ガソリンスタンドと直接コンタクトを取り、ツィッターやフェイスブックでのアップデートを活用して作った情報であった。さらにこの情報は即座にグーグルのクライシスマップに情報公開される仕組みになっており、多くの被災者に役立ったと報告書では指摘された。

筆者の授業では、昨年、今年とこのFEMAの報告書で挙げられている事例を学生に話したのだが、多くの学生はこうした高校生の集めた情報を信じられない、と懐疑的な目で見る。アメリカのこの事例のように、高校生の情報を頼りに行動するとは考えられない、という反応が多い。一方で、先の市役所が情報伝達手段にツィッターを使う、と言ったことに対して学生は信頼して好意的に捉えるようだ。

最後に、選挙運動にもソーシャルメディアが様々な方法で使われるアメリカでは、今回のコラムで紹介したように、災害時の情報コミュニケーション手段としてもソーシャルメディアの利用が不可欠になっている。「選挙運動と災害時の情報コミュニケーション」―二つは一見すると、まるで別のことのように見えるが、要するに有権者・市民が最もなじみのあるコミュニケーション手段を最大限活かすことで、選挙運動や災害時といったどちらも平常ではない場面で双方向コミュニケーションを可能にし、より良い結果を得ようと試みる点では共通している。冒頭で述べたように、日本では災害時の情報コミュニケーション手段としてソーシャルメディアの有用性に懐疑的な見方がある。また、2013年には日本でもインターネット選挙運動は解禁されたが、それまで長い間選挙運動にインターネットを利用することに対して誹謗中傷などのリスクが懸念され国会の動きは慎重であった。このような日本と比べ、「選挙運動・災害時という平時ではない場面でより大きな成果を得るために、日常的に市民が使っているコミュニケーション手段を最大限活かす」ことに積極的なアメリカの状況は、選挙運動だけでなく災害時の情報伝達方法としても筆者の目には大変興味深く映る。

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*1: ニューヨーク市の報告書:Hurricane Sandy After Action Report and Recommendations to Mayor Michael R. Bloomberg, May 2013.
FEMAの報告書:Hurricane Sandy FEMA After-Action Report, July 1, 2013.


*2: 下院国土安全保障委員会危機準備対応及び通信小委員会におけるFEMAの証言:Statement of Shayne Adamski Senior Manager of Digital Engagement, Federal Emergency Management Agency, U.S. Department of Homeland Security, Before the Committee on Emergency Preparedness, Response, and Communications, U.S. House of Representatives, Washington D.C., “Emergency MGMT 2.0: How #Social Media And New Tech Are Transforming Preparedness, Response and Recovery# Disasters#Part2#GOVT/NGOs”, July 9, 2013.

■清原聖子
東京財団「現代アメリカ」プロジェクト・メンバー、明治大学情報コミュニケーション学部准教授