タイプ
論考
プロジェクト
日付
2014/10/1

2014年アメリカ中間選挙 update 2:中間選挙とアメリカ外交 - 3つの脅威と国内政治への対応(島村直幸) 

2014年11月4日の中間選挙までちょうど2カ月を切った9月4日と5日に、北大西洋条約機構(NATO)の首脳会談がイギリスのウェールズで開催された。アナス・フォー・ラスムセンNATO事務総長は、「歴史的な会談になる」と語っていた。9月下旬には、ニューヨークで国連総会が開催された。中間選挙直後には、アジア太平洋経済協力会議(APEC)の首脳会談とバラク・オバマ大統領のアジア歴訪が控えている。オバマ政権は、2期目の『国家安全保障戦略(NSS)』をまだ発表していない*1 (2期目の『4年ごとの国防計画の見直し(QDR)』は発表したが*2 )。外交と安全保障の戦略を明確に描けていないのである。はたして、オバマ政権は、11月の中間選挙(と2016年11月の大統領選挙)を控えて、いかなる国家安全保障戦略を描いていくのか―。

オバマ政権は、2014年9月下旬の時点で、国際社会で、3つの主要な脅威に直面している。第一にロシアが後ろで糸を引き、混迷を極めるウクライナ東部の情勢のさらなる悪化、第二にアル・カイーダ系武装組織の「イラクとシャームのイスラーム国家(ISIS)」の勢力拡大とその残忍さ、第三に南シナ海と東シナ海で海洋進出を図る中国の動きである*3 。NATO首脳会談の主要なテーマは、ロシアのプーチン外交とイラクとシリアのISISの2つの脅威にいかに対抗するかであった。中国の脅威への対抗は、中間選挙後のアジア歴訪で、主要なテーマとなろう。オバマ政権としては、“緊縮(austerity)”の時代に、これら3つの脅威に対抗する国家安全保障戦略を明確かつ具体的に描く必要があるのである。

第一に、ウクライナ情勢への対応であるが、7月17日のマレーシア航空機の撃墜事件が「ゲーム・チェンジャー」になった。3月18日のロシアによるクリミア併合後も、ロシアへの本格的な制裁に消極的であった欧州連合(EU)諸国が、ロシアに対してより厳しい姿勢に転じる可能性が出てきたのである*4 。EUは、8月下旬から9月上旬にかけて、新たな制裁の調整に入った。この間、ロシアのウラジミール・プーチン大統領は、「軍事介入すれば、(ウクライナの首都)キエフを2週間で落とせる」と発言する一方で、NATO首脳会談の直前に、ウクライナとの間で停戦の合意をまとめた。NATOとEUに、揺さぶりをかけているのである。

NATOは首脳会談で、ロシアへの抑止力の強化を念頭に置いた「即応行動計画」を決定した。有事の際に最短2日間で数千人規模の兵力を投入できる即応部隊の創設を柱とする。加盟各国が国防費の拡大に取り組む方針でも合意した。NATO加盟国は、国内総生産(GNP)比で2%以上の国防費を拠出することが定められているが、それを実現しているのは、アメリカとイギリス、エストニア、ギリシャの4カ国だけである。さらに、これまではロシアへの配慮から控えてきた東ヨーロッパ地域の基地を利用する。オバマ大統領は、5日の記者会見で、「NATOはロシアに対し、行動には結果がともなうという強いメッセージを送った」と発言し、ロシアの今後の行動を牽制した。ジャーナリストのクリスティア・フリーランドは、ロシアは現状の国境線を不可侵とするヨーロッパ地域の安全保障構造を打ち砕いたのだ、と指摘する*5 。キエフを訪問した民主党の上院外交委員長のロバート・メネンデズ議員は、対戦車ミサイルやレーダー・システムをウクライナに供与する必要性を説く*6

第二に、ISISへの対応であるが、9月2 日に2人目のアメリカ人ジャーナリストがISISによって処刑され、その映像がインターネットで公開された。これがアメリカ社会に与えた影響は大きい。イラクのISISへの限定空爆に踏み切っているオバマ政権は、シリアでのISISへも空爆する圧力を国内で受けることになった。8月28日に、オバマ大統領が、シリアでの空爆を巡って、ISISへの「戦略はまだない」と発言し、アメリカ議会の共和党とメディアから激しい反発を受けた。たとえば、ジョン・マケインとリンゼイ・グラハムの二人の上院議員は、「今こそISISと対峙せよ」と9月1日に新聞のコラムで説いた*7 。マルコ・ルビオ上院議員も、「(アメリカ人の)殺害はアメリカへの宣戦布告で、大規模な空爆などが必要だ」と強硬策を説いた*8

ジョセフ・バイデン副大統領は、9月3日に、ISISを「地獄の門まで追い詰める」と発言した。チャック・ヘーゲル国防長官も、ISISに対する軍事行動の目的は「封じ込め」ではなく「弱体化させ、撲滅することだ」と指摘した。ジョン・ケリー国務長官は、「アメリカはどれだけ時間がかかろうとも、彼らを裁きにかける」と発言している。オバマ大統領は、同じ3日、エストニアでの記者会見で、「恐ろしい暴挙だ。 …アメリカはこのことを決して忘れない。脅しには屈しない。この蛮行に裁きを受けさせる」と発言し、報復する姿勢を見せた*8 。また、ISISへの対処方針を「イラク、中東地域、アメリカにとって脅威でなくなるまで弱体化し、壊滅すること」と定義し、「国際社会の協力を得れば、イスラーム国の勢力圏、資金、軍事的な能力を管理可能な程度まで縮小させることは可能だ」と発言した。

こうしたオバマ大統領の発言に対して、共和党のアディソン・ミッチェル・マコネル上院院内総務は、「イスラーム国はわれわれを殺そうとしている。管理可能な状況などではない」と批判した。アダム・キンジンガー下院議員も、「オバマ大統領はイスラーム国を封じ込めるか壊滅させるかの答えを持っていない」と反発した*10 。ジョン・マケイン上院議員は、以前から空爆を求めており、「戦うしかない」と発言している。民主党の議員からも、「オバマ大統領は慎重すぎるかもしれない」(ダイアン・ファインスタイン上院議員)といった不満が漏れているという*11

NATO首脳会談では、「ウェールズ宣言」が採択され、ISISは「国境を超えた脅威」と明記し、加盟国の安全が脅かされた場合は、「集団的自衛権の行使に必要な措置を取ることをためらわない」という方針が打ち出された。オバマ大統領は、9月5日の記者会見で、ISISとの戦いの目標を「壊滅させることだ」と明言し、そのために「連携相手をみつける必要がある」と強調した。ケリー国務長官とヘーゲル国防長官は、国連総会までに、中東地域の周辺国を訪問し、“有志連合”の構築を急いだ*12 。ジャーナリストのトーマス・フリードマンも、穏健なスンニ派国家も有志連合に入れる必要性を説き、「後方からの指導(leading from behind)」ではなく、「内部からの指導(leading from within)」を政策提言している*13

9月10日、オバマ大統領は、ISISへの空爆をシリアまで拡大させることを発表した。ただし、地上軍の派遣はしない方針である。アフガニスタン戦争やイラク戦争と違い、ソマリアやイエメンへの対テロ攻撃に近い、という。前日の9日には、民主党のハリー・リード上院院内総務や共和党のマコネル上院院内総務、共和党のジョン・ベイナー下院議長ら、議会指導者たちと会談し、議会からの支持をほぼとりつけている*14 。長期間にわたる軍事行動になる見通しのため、ティム・カイン上院議員が言うように、議会からの支持は不可欠である*15

こうして、9月22日に、オバマ政権は、ISISを標的として、“有志連合”に賛同した中東諸国とともに、シリアへの空爆に踏み切った。シリアのアサド政権には、事前に空爆を通告したという。シリア空爆の正当性は、自衛権の行使に求められた。ただし、ロシアの反対を恐れてか、「国連外交」を待たずに空爆することになった。実際にロシアは、アメリカのシリア空爆を「国際法違反だ」と批判した*16

第三に、台頭する中国への対応であるが、ヨーロッパ地域でのNATO強化と中東地域への回帰の動きを受けて、アジア地域への「旋回(pivot)」と「再均衡(rebalancing)」が後退するのではないか、という懸念が生じる。オバマ政権は、この点について、アジア地域の同盟国と友好国に対して、まだ明確なメッセージを発していない。またオバマ政権としては、NATO強化と中東回帰、再均衡の3つの対抗策を調整した上で、明確な国家安全保障戦略を描く必要があるのである。

8月9日、南シナ海の公海上空で、中国人民解放軍の殲11戦闘機が偵察活動中の米軍P8対潜哨戒機に異常接近した。中国の習近平政権は、アメリカ側の反応を探っているのか、それとも、現場の人民解放軍の暴走なのかは、よくわからない。しかし、アメリカの地域抑止が中国に対して十分に機能していないことだけはたしかである。オバマ政権が、ヨーロッパ地域と中東地域への対応に追われてしまった場合に、アジア地域で中国が冒険的な行動に出る可能性は少なくない。中国の脅威にヘッジをかけなければ、代償は大きい。

また、選挙の年は、中国問題が選挙の争点となりうる*17

オバマ政権のスーザン・ライス国家安全保障問題担当大統領補佐官は、NATO首脳会談の直後の9月7日から9日にかけて訪中し、APECでの米中首脳会談の調整を行っている。「アメリカが建設的な米中関係の構築に取り組もうとしていることを強調する」ためであるという。ISISへの攻撃で“有志連合”への参加を中国側に打診した、という報道もある*18 。また、空席となっていた6か国協議担当特使にシドニー・サイラー前国家安全保障会議(NSC)朝鮮半島担当部長の起用を決定したことから、6か国協議の再開に道筋をつける目的もあると見られる*19

こうして、NATO強化などロシアへの強硬策、イラクとシリアでのISISへの空爆、そして膨張する中国への対応で、オバマ政権は、国内で、特にアメリカ議会の共和党議員から、「無策ではないか」「慎重すぎる」「より強硬策をとれ」といった批判を浴びている。また、選挙の直前は、外交と安全保障の政策が、内政問題となりかねない。オバマ政権としては、国際社会の3つの脅威への対処と同時に、国内政治でも相応しい対応が求められる。

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*1: オバマ政権1期目の『国家安全保障戦略(NSS)』(2010年5月発表)は、,ホワイトハウスのHPから閲覧できる。

*2: オバマ政権2期目の『4年ごとの国防計画の見直し(QDR)』(2014年3月発表)の要点については、防衛省のHPがわかりやすい。

*3: David E. Sanger, “Three-headed monster challenges Obama foreign policy,”International New York Times, September 5, 2014.

*4: Artis Pabriks, “Europe must confront Putin,”International New York Times, July 26-27, 2014.

*5: Chrystia Freeland, “Why #RussiaInvadedUkraine matters,” International New York Times, September 6-7, 2014.

*6: Neil Macfarquhar, Peter Baker, and Steven Erlanger, “Truce claims in Ukraine set off round of denials,” International New York Times, September 4, 2014.

*7: John McCain and Lindsey Graham, “Confront ISIS now,” International New York Times, September 1, 2014.

*8: 『産経新聞』8月23日。

*9: 『日本経済新聞』2014年9月4日。

*10: 『産経新聞』2014年9月6日。

*11: 『日本経済新聞』2014年9月4日。

*12: John Kerry, “Beat ISIS with global unity,” International New York Times, September 1, 2014. 有志連合の中核となるのは、アメリカ、イギリス、フランス、ドイツ、カナダ、オーストリア、トルコ、イタリア、ポーランド、デンマークの10カ国である。

*13: Thomas L. Friedman, “Leading from within”, International New York Times, September 8, 2014.

*14: 共和党のマコネル上院院内総務は、「オバマ大統領がイスラーム国からアメリカと同盟国を守るための戦略についいて議会と協議する用意があるならば、議会から多くの支持が得られるだろう」と語っていた。『日本経済新聞』2014年9月9日。

*15: Tm Kaine, “Before War, Obama needs congress,” International New York Times, September 17, 2014.

*16: Helene Cooper and Eric Schmitt, “U.S. takes fight into Syria,” International New York Times, September 24, 2014; Thomas L. Friedman, “Confronting the ISIS crisis,” International New York Times, September 25, 2014.

*17: 『産経新聞』2014年8月10日。

*18: 『日本経済新聞』2014年9月11日。

*19: 『産経新聞』2014年9月7日。

■島村直幸 杏林大学講師