タイプ
論考
プロジェクト
日付
2015/2/6

アメリカNOW第123号 2016年大統領選挙共和党内の力学:「反ブッシュ」懸念からケンタッキー州法問題まで(渡辺将人)

2016年共和党予備選の構図はジェブ対「ジェブ以外」か?

2016年大統領選におけるアイオワ党員集会が約1年後に迫った。そろそろ立候補の意志を固め、組織作りを本格化しなければいけない。そのような中、先月末アイオワ州デモインに大統領選に意欲を見せる共和党政治家が集まった。アイオワ州選出連邦下院議員のスティーブ・キングと保守系団体「シチズンズ・ユナイテッド」の主催による「アイオワ・フリーダム・サミット」(1月24日)である。2014年アメリカ中間選挙プロジェクトでのコラムでも紹介した通り、共和党側では2014年中間選挙中に事実上2016年大統領選が始まっていた(2014年アメリカ中間選挙 update 2「中間選挙への相乗りで始動する2016年大統領選挙」)。今回の「サミット」で選挙戦は本格化の色彩を増した格好だ。ジェブ・ブッシュで決まりかのような報道もあるが、「共和党の選挙戦について何か確定的な事を言うのはあまりに早過ぎる」(共和党幹部)との慎重な見方も共和党内に根強い。

「アイオワ・フリーダム・サミット」には、スコット・ウォーカー(ウィスコンシン州知事)、クリス・クリスティ(ニュージャージー州知事)、リック・ペリー(テキサス州知事)、テッド・クルーズ(連邦上院議員・テキサス州選出)、リック・サントラム(元連邦上院議員・ペンシルベニア州選出)、マイク・ハッカビー(元アーカンソー州知事)らが登壇。サラ・ペイリン、ドナルド・トランプらも登場した。しかし、ジェブ・ブッシュ(元フロリダ州知事)、ミット・ロムニー(元マサチューセッツ州知事)、マルコ・ルビオ(連邦上院議員・フロリダ州選出)、ランド・ポール(連邦上院議員・ケンタッキー州選出)、ボビー・ジンダル(ルイジアナ州知事)らは欠席している。出欠の顔ぶれは2016年共和党予備選を占う手がかりになるだろうか。

「ジェブが動けば、ジェブ叩きの集中砲火が始まる」と、ジェブ包囲網を予測しているのは外から共和党の動向を観察している民主党関係者に多い。例えばNDNのサイモン・ローゼンバーグである。ローゼンバーグは次のように述べる。

「ブッシュ家は(批判を)受け入れる心の準備ができていないかもしれないが、共和党を衰退させたのはブッシュ家だ、という主張が今後の共和党内で展開されることになろう。それは他の2016年の候補者達によってなされるだろう。この批判は真実なだけに説得力を持つだろう。父ブッシュも息子ブッシュも最低だったと私も考えるが、ジェブはどうも自分をこの先に待ち受けている事態が理解できていないようだ。共和党の候補者達は決してジェブに優しくしてはくれない。彼の父や兄が大統領だからと容赦はしない。共和党のブッシュ以外の候補者は、ブッシュ家のことを、レーガン革命を台無しにしてしまった一家だと見なしているからだ」

2016年に名乗りを上げている候補予定者たちの多くは「レーガン・チルドレン」と自認している。なるほど「フリーダム・サミット」は、さっそく穏健派包囲網の様相も呈した。今回の「サミット」は主催が過激な反移民の急先鋒のキング下院議員だったことから、移民改革に理解のあるブッシュ、ルビオ、ポールは欠席。実際、「サミット」には移民団体のメンバーが抗議に乗り込んでいる。キングのような「反移民」を旗印にした議員の主催イベントに参加するかどうかは、穏健派としては舵取り次第では「踏み絵」になりかねない。ジンダルもこれまで7回もアイオワ入りして意欲満々なのに、今回だけは「スケジュールの都合」を理由に欠席している(ロムニーは大統領選への不出馬を表明。共和党内部の情報によれば、ロムニーの不出馬の背景は第1には夫人の強い反対だが、第2に近々モルモン教の世界で指導者的高位の十二使徒に就き、いずれひょっとしたら大管長になる可能性すらもあると噂されており、政治よりも信仰の道を優先したとの説が根強い)。

ビジネス保守系:伏兵は「不死身の反労組英雄」ウォーカー知事?

共和党アイオワ党員集会の票の40%は「レギュラー」と呼ばれるビジネス系である。彼らは本選で勝てるエスタブリッシュメント候補を選ぶ特徴がある。中小企業経営者、法律家、コミュニティの指導者層、大企業のビジネスマンらである。彼らはジェブ・ブッシュ、ロムニー、ジョン・ケーシック(オハイオ州知事)、クリスティ、ウォーカーらを好む。ロムニーは不出馬を表明した。現時点で出馬が噂される顔ぶれのままなら40%の票を5人程の候補者で奪い合うことになる。

意外な人気を集めているのがウォーカーだ。ブッシュに比べると国際的な知名度で劣るように見えるが、共和党内では人気急上昇中である。ウィスコンシン州知事として州職員組合から団体交渉権を奪おうとした人物である。反発した組合とそれを支援する他州から応援にきたリベラル活動家が大規模な座り込みデモを行い、全米に連日リベラル系メディアのMSNBCで報道されたことで、かえって知事の知名度を高めた。ウォーカー知事は最終的にリコール選挙に追い込まれたが、この選挙に見事に勝利してしまった。リコールを生き残ったことで、かえって知事の反組合路線が州民の「お墨付き」を得た格好となり、リベラル系活動家と労組には屈辱と打撃を与えた。「不死身の男」「反労組のシンボル」として共和党のニュー・ヒーローの扱いを受けている。ビジネス系保守の支持は極めて強く、宗教保守系からの支持もかなり取れると見込まれている。

また、州知事としてスキャンダルに苦しむクリスティも完全に死んだわけではない。歴史的に州レベルでのスキャンダルは全国レベルでの公職に打って出る際にはダメージにならないことが多い。アーカンソー州知事のビル・クリントンはキューバ人難民を州施設に移した際に暴動が発生し、州知事としては再選を阻まれた。しかし、その後復活し大統領選ではこの問題と州知事として一度落選していることは問題視されなかった。共和党が神聖視するレーガンも同様だ。レーガンがカリフォルニア州知事時代、知事の首席補佐官がゲイの仲間達と共に週末のリゾートに州の専用機を利用して繰り出すというスキャンダルが表沙汰になった。結果、レーガンは関係者の首を残らず切ることで州知事の基盤が揺らいだが、大統領を目指す上では問題とならなかった。

その観点からすると、クリスティ陣営を州知事選で支持しなかった市長への報復で、クリスティの側近がジョージ・ワシントン・ブリッジの交通を阻害したという「ブリッジ・ゲート」は、取るに足らない問題だと考える共和党関係者は少なくない。ただ、州知事のスキャンダルは以前とは違う時代だとの見方もある。レーガンやクリントンが州知事だった時代は、ソーシャルメディアとネットが発達していなかった。プレスへのスピン操作さえ怠らなければ逃げ切れたし、州外の有権者に地元紙の報道は届かなかった。しかし、今では政敵が州知事時代のスキャンダルをほじくり返してソーシャルメディアで拡散することは可能だし、地元紙の報道へのアクセスもウェブ化で容易になっている。ダメージの質がこれまでの時代とは違う可能性には留意すべきかもしれない。

宗教保守系の乱立:「最高裁」見据えた同性婚めぐる巻き返し悲願

アイオワ州では共和党の党員集会票の40%はキリスト教保守である。今回は宗教保守系の候補予定者が複数乱立している。ハッカビーは2008年のアイオワでの勝者、サントラムは2012年の勝者である。2016年に彼らが同時に立候補すると宗教保守票が割れることは間違いない。アイオワ共和党の幹部は「サントラムはアイオワで継続的にキャンペーンを行っているが、ローマ・カトリックであり、その点でバプティストの牧師でもあるハッカビーにプロテスタント中心の宗教保守が流れ、サントラムは不利になる」と分析する。確かに2012年にサントラムが予備選で宗教保守票を集めて善戦できたのは、伝統的なプロテスタントの宗教保守候補が不在だったからだ。しかも、フロントランナーがモルモン教徒だった。反モルモンの宗教保守票はサントラムに流れた。「サントラムは出馬するかどうか不透明。もし出馬しても8月の模擬投票前には離脱する可能性大」という見立てが根強い背景にはハッカビーの動向が絡んでいる。

他方、宗教保守候補が複数、大統領選に意欲を示していることで、近年主要争点から外れていた伝統的な価値問題が共和党予備選で再燃するとの予測も共和党内にはある。「民主党がプロチョイスで共和党がプロライフなのは当然なので、共和党予備選では人工妊娠中絶にダイヤルを合わせられるか、最高裁判事の指名に宗教保守好みの見通しを示せるかで差がつく」(共和党幹部)。同性婚も共和党予備選では大きなテーマとなると見られている。オバマ政権下で同性婚を合法化する州が増加し、最高裁が合法化の判決を下すのは時間の問題(2年以内)という空気が支配し始めている。こうした状況への宗教保守の焦燥感が、ハッカビーとサントラムの再出馬の意欲につながっている。宗教保守票の要因は、「候補者を誰が支持するかというエンドースメントと争点の語り方のスタイルで勝敗がつくだろう」とアイオワの宗教保守関係者は述べる。

リック・ペリーもキリスト教保守と争点的に足並みを揃えられる候補者になると見られている。テキサス州知事であることは資金面でも有利である。同じテキサス州からはテッド・クルーズが割り込もうとしているが他の候補に比べると勝ち目は薄いとされている。「テキサス・マネー」は現時点で知事のペリー側に付いている。

意外と宗教保守の票まで取り込めると目されているのがボビー・ジンダルだ。ジンダルを高く評価する声はアイオワ州の地元共和党幹部にもワシントンの共和党にも偏在し、いわば「隠れファン」が多い。宗教保守へのアピール力もあり、その若いイメージとカリスマ性から共和党内の一部では「肌の黒いボビー・ケネディ(darker version of Bobby Kennedy)」というあだ名でも呼ばれている。インド系というエスニシティは共和党の大統領候補として問題にはならないという意見が党内でも多いが、知事を務める出身州が不利である点を指摘する声はある。「ルイジアナ州は歴史的に政治腐敗の州で、メディアには人種差別の州とも見なされている」(前出共和党幹部)。

これらの候補でアイオワの宗教保守票40%を奪い合う。ハッカビーが首位に立つ有利な位置につけているが、アイオワで息切れして後続州では勝てない可能性が高い。小規模なアーカンソー州が地盤だが、州外に特段の資金源がないとされている。

リバタリアン系:ランド・ポールの決断はケンタッキー州法次第

アイオワ共和党の残り20%の票がリバタリアン系だ。多いように感じるかもしれないが、人口ではなく党員集会参加者の中での割合なので、投票率や熱心さと比例するだけに、リバタリアン系は人口以上の影響力を持つ。「リバタリアン系20%」は、リバタリアン系による「自称」ではなく、共和党主流派の州幹部らによる現実的な見積もりの数字だ。現にアイオワ州では2012年にロン・ポールが3位となっており、リバタリアンの活動家が思いのほか存在する州だ。

しかし、彼らリバタリアン票が支持するランド・ポールには大きな問題がある。それは2016年が連邦上院の再選選挙年でもあることだ。大統領への同時立候補の可否は州法によって違う。2008年のバイデン(上院)、2012年のポール・ライアン(下院)などは、大統領と連邦議員への同時立候補が可能だったケースだ。だが、ランド・ポールの地元であるケンタッキー州法では、上院議員再選選挙に立候補しながら、大統領選にも立候補することを認めていない。もし、大統領選に立候補するなら、上院議員の再選をギブアップしなければいけない。2者択一なのだ。連邦議員親子2代に及ぶ「2世代プロジェクト」と名付けて、ポール支持者達は、ロン・ポールのリバタリアン思想をワシントンに浸透させるために息子のランドを育ててきた。ここでランド・ポールに無理に2016に大統領選に立候補させ、せっかくの上院議員の地位を無にさせてしまうのかどうかは悩ましい。究極の決断になる。

ポールが出馬せずに、ポール派の20%の行き場が無くなると、共和党の票読みは未知なる次元に突入する。「こいつだけはリバタリアニズムの観点から許せない、ビッグスペンダーだ」として、名ばかりの共和党政治家(RINO: Republican in Name Only)の共和党候補を落としにかかる「妨害行動」に出る可能性がある。2008年ロン・ポール大統領選運動とティーパーティの母体となった反ブッシュ運動(マケイン落選運動)、2012年反ロムニー運動などだ。ポールが出ないことがマイナスに働くのはジェブ・ブッシュだ。ジェブはリバタリアンにとって憎しみの対象ですらあるブッシュの弟である。ブッシュの穏健政策は妨害意欲を増しかねない。宗教保守と一致できないとすれば、リバタリアンはジェブ落としのためにリバタリアン党などの第三候補支援的な運動や「棄権」による妨害に出る可能性は皆無ではない。RINOへの憎悪を棚上げしてでも一致して共和党を支えることを優先できるだけの、2012年の「オバマ」に匹敵するような大きな政府を象徴する敵が民主党側に生まれるかどうかが鍵だ。ジェブや穏健派候補は2016年版の「オバマケア」を必要としている。

他の共和党候補者にとっては、ランド・ポールには出馬だけはちゃんとしてもらい、本選までリバタリアン系の支持者を引きつけて、妨害活動や民主党の一部との共闘、第三候補擁立など妙な行動を起こさないように封じ込めておいてもらうのがベストとも言える。ポールが上院議席を失えば、異端的なライバルを議会から葬ることができるとすら考える共和党穏健派も少数ながらいる。

しかし、ポールはケンタッキー州法の改正で、大統領選と連邦上院選のダブル立候補というウルトラCを狙っている。ポール支持派がケンタッキー州法改正の運動を起こしているのだ。州議会上院は共和党多数で改正案を支持する構えだが、下院が民主党多数で改正の妨害をしている。そこで次善の策として、ポール周辺はケンタッキー州を予備選挙から党員集会に変える、という方法を狙っている。「複数の公職欄に同一の候補者の名前があってはならない」というのが、ケンタッキー州法である(アメリカでは同一選挙日に大統領選から連邦議会選挙、地方選挙まで、複数の公職の投票を行う)。そこで、大統領と上院議員への同時立候補を認める州法改正を断念し、ケンタッキー州を予備選挙方式州から党員集会方式州に変えてしまうというのが、ポール派の現実的なシナリオだ。現在2016年5月に予定されている予備選の代わりに、同年3月に党員集会を行う案である。そうすれば形式的には同じ選挙日の候補者欄にポールの名前が複数載ることはない。テクニカルな抜け穴である。いずれにしても、ポールはとりあえず上院再選を目指し、可能ならぜひ大統領への同時立候補を目指したい考えだ。

ゴールドウォーターと同じ勝負を迫られるルビオ

ところで、ポールと同じ境遇にあるのがマルコ・ルビオだ。ルビオも2016年が再選選挙年だが、フロリダ州の州法も大統領選との「併願」は認めていない。フロリダ州ではケンタッキー州のような法改正の動きはない。ルビオは「プランBを考えて大統領選に立候補することはない」と述べており、法改正をしてまで上院の議席と大統領選への出馬を両立させることは考えていない。保守系批評家のジョン・ギジは、これを「バリー・ゴールドウォーター流」だと評している。1964年、バリー・ゴールドウォーター上院議員も同じ境遇にあった。しかし、「上院議席を維持したまま大統領選に出られるよう法改正すべき」とのアリゾナ州共和党関係者の助言を退け、上院議席を棄てて大統領選に打って出た。ルビオはゴールドウォーター式で行くとの見方が強い。ただ、そもそもルビオは2016年大統領選には立候補しないかもしれない。同じフロリダ州からジェブが立候補するからだ。「ルビオは、フロリダ州における師匠(メンター)であり恩人であるジェブ・ブッシュを押しのけてまで大統領選に立候補しない。メンターの指示に従うだろう」とギジも述べる。ジェブが望めば、ルビオは潔く退くとの見方は共和党内には根強い。

伝統的に共和党アイオワ党員集会で勝利するのは、投じられた票のうち20%を獲得した人物だ。25%取れれば上出来で、30%獲得できれば文句無しに大勝利である。共和党アイオワ州委員は次のように筆者に語る。

「誰が20%を獲得できるのか今はまだ予測できない。特に、もしランド・ポールが立候補しなければ、票の流れの予測は完全に立たなくなる」。

共和党は最終的には本選で勝てるビジネス保守系の穏健派を選出する公算が高いが、ジェブ・ブッシュなど当該の候補者が、どこまで支持を安定的に固められるか、どこまで内政・外交で本来の穏健政策の公約を予備選期間中に維持できるのかは不透明だ。反ブッシュに回る共和党候補の「レーガン・チルドレン」とその支持層の動向、そして「ランド・ポール要因」の影響が無視できない状況にある。

■ 渡辺将人 北海道大学大学院メディア・コミュニケーション研究院准教授