タイプ
論考
プロジェクト
日付
2016/2/3

アメリカ大統領選挙UPDATE 2:テロ対策と共和党論戦の行方

 
 激しい党指名候補争いが続く共和党内で、本質的な論戦がかすみがちなのがテロ対策である。不動産王ドナルド・トランプ氏の過激な発言が注目を集める陰で、米国が取るべき具体策の議論は深まっていない。これまで議論が最も活発になったのは、昨年12月15日、ラスベガスで開かれた年末最後のテレビ討論会だ。

 直前の12月2日には、カリフォルニア州サンバーナディーノでイスラム過激思想に染まった夫婦が銃を乱射し、14人が死亡するテロが起きたばかり。11月のパリ同時テロの衝撃とともに、米国民のテロへの関心は高まっていた。

 討論会では、トランプ氏が改めて「イスラム教徒入国禁止」といった極端な持論を展開。同じ壇上で、保守強硬派「茶会運動」のテッド・クルーズ上院議員、そして外交タカ派で若手ホープのマルコ・ルビオ上院議員らが現実的な具体策について論戦を交わした。両氏とも共和党の政治家らしく、「強いアメリカ」を志向する点では共通している。この日、違いが目立ったのは、テロ対策をめぐる二つの具体論だ。

 一つは、インテリジェンスにかかわる通信傍受の問題。米上院は昨年6月、国家安全保障局(NSA)の通信傍受活動に一定の制限をかける「米国自由法(USA Freedom Act)」を可決した。ルビオ氏は、この制限によって米当局の情報収集に支障が出るとして反対票を投じた。一方のクルーズ氏は、「小さな政府」を支持する立場から、公権力介入の制限に賛成した。

 この採決をめぐり、ルビオ氏は「(テロ対策の)相手は、過激な聖戦主義者(ジハーディスト)だ。今はより多くのツールが必要な時であって、減らす時ではない」と、クルーズ氏を批判。対するクルーズ氏も、新法に基づく新制度の方が、実際はテロリストを幅広く監視できるなどと反論し、論争になった。

 皮肉なのは、この通信傍受制度は、2001年の米同時テロ後に強化されたもので、人権やプライバシー保護の観点から批判を受け、リベラルなオバマ民主党政権が制限に動いたものであることだ。発端はともかく、共和党内では保守強硬派の中核にいるクルーズ氏と賛意を共有していることになる。

 もう一つは、移民受け入れのあり方だ。昨秋、中東から欧州への難民流入が大規模になる以前から、米国に流入する中南米の不法移民は、オバマ政権の悩みの種だった。そもそも「イスラム教徒入国禁止」発言のトランプ氏は、昨年6月の大統領選出馬表明演説で、メキシコからの不法移民について「(一部は)婦女暴行犯だ」と放言し、物議を醸した張本人である。

 クルーズ、ルビオ両氏はいずれもキューバからの移民を親に持つが、移民政策の主張は異なる。クルーズ氏は、不法移民への市民権付与を「憲法違反」だとして規制強化を掲げる。対するルビオ氏は、柔軟姿勢とされる。

 15日の討論会出席者の一人で、極端な小さな政府を主張するリバタリアン(自由至上主義者)のランド・ポール上院議員は、「ルビオは弱腰の移民政策のまま、強い国家安全保障との両立はできない」と手厳しく攻撃した。もともとは社会・経済問題の性格が強かった米国の移民問題は、欧州同様、すっかりテロ問題とリンクされてしまった。これら具体策の違いは、目を転じれば、イスラム過激思想の根源につながる中東とどう向き合うか、外交理念の立ち位置と無関係ではない。

 クルーズ氏は、冷戦に勝利したリアリストのレーガン元大統領を理想像にし、「強いアメリカ」「行動する保守」「小さな政府」をスローガンに掲げる。そのうえで、外国の平和と安定の実現にどこまでもつき合うのは、米国の国益からは外れる、と考えているようだ。

 討論会では、オバマ政権がシリアのアサド政権の退陣を求めていることに関連し、「アサドを倒しても、過激派組織『イスラム国』が代わりに来るだけで、米国の安全、国益に資さない。中東の内戦にはまるだけだ」と切り捨てた。イスラム国については、「圧倒的な空爆力で、完全にイスラム国を壊滅させる」と表明。米国は空から攻撃し、地上戦は地元兵力を活用する考えを示した。米国の安全と国益がかかわるなら国際舞台で行動するが、それ以外はかかわらない、という国益至上主義が読み取れる。

 一方、党内エスタブリッシュメント(既存支配層)からも支持があるルビオ氏は、国際主義者の一面を持つ。イスラム国対策では、地元のスンニ派勢力が地上軍を作り上げるべきだとする一方、「米軍も、さらに追加の特殊部隊を地上に派遣しないといけない。地元部隊を訓練し、特殊作戦を補佐し、空爆の精度を上げねばならない」と述べ、地上への特殊部隊増派の必要性を強調した。
 
 余談ながら、民主党側では、最有力のヒラリー・クリントン前国務長官が同じ12月15日、ミネソタ大学で総合的な対テロ戦略を発表した。クリントン氏はこの中で、?米国内でのイスラム国の勧誘(特にネット上)阻止?「聖戦主義者」出入国の未然防止?テロ計画の探知と阻止?司法機関職員らの支援?米国内のイスラム・コミュニティー支援による過激化防止--の5項目を打ち出した。

 いずれも努力目標で、どう具体化するかが最も重要だ。特に、通信傍受などの監視活動をめぐり、プライバシー確保と安全保障のバランスをどうとるかなどの難題について、回答はない。ただ、「国務省時代にこう取り組んだ」といった国務長官としての経験、知見を駆使している点で、強みがある。イスラム過激テロ対策も中東戦略も、いずれも共和党内でしのぎを削る各候補たちの立ち位置が色濃く反映されることになる。今後の中東の動きやテロの進展に、各候補がどう反応していくのかが注目される。

 
 飯塚恵子 読売新聞編集局国際部長