タイプ
論考
プロジェクト
日付
2010/8/16

2010年アメリカ中間選挙の動向  細野豊樹

本年11月の米国中間選挙の見通しは、多数党の民主党にたいへん厳しい。大統領の政党は第1期目の中間選挙において議席を失うという定例的・構造的要因に輪をかけて、世界同時不況を背景とする政治不信が、民主党への強い逆風となっている。

以下では、まず民主党が特に苦戦している連邦議会下院選挙を中心に、連邦上院と州知事選にも言及しつつ最新の動向を紹介したい。そして各種世論調査から、民主党への支持が低迷する背景を分析する。

「政治は一寸先が闇」、”You never know in politics”といった格言にあるように、政治の予測は極めて難しい。多くの有権者が投票予定を決めるのは9月以降なので、現段階での見通しはかなりの不確定要素を含むことに留意すべきである。
連邦下院選挙─高まる民主党過半数割れの可能性
連邦下院は2年に一度全議席が改選されるため、世論の変化が反映されやすい。その反面、現職議員に有利な区割りのため、逆風下でも現職再選がほぼ確実な選挙区も多い。

今回の選挙でも、連邦下院の435議席のうち300以上の選挙区において現職議員は安全圏にある。Cook Political Reportによれば、現職議員が民主党の選挙区(255)のうち、民主党やや優勢が32、民主党優勢が34、伯仲が30、共和党やや優勢が7、共和党優勢が13となっており、残り(5割強)が安全圏にある(7月22日現在)*1。現職議員が共和党の選挙区(178)については、民主党やや優勢、伯仲、共和党やや優勢と共和党優勢を全部併せて15選挙区にととどまり、残りの議席(9割以上)は再選ほぼ確実である。

選挙情報サイトRealClearPoliticsは、伯仲選挙区が32、民主党やや優勢が29、民主党優勢が24、共和党やや優勢が27、共和党優勢が10と予測している(8月初旬現在)*2。RealClearPoliticsとCook Political Reportでは前者のほうが安全圏の現職共和党議員を少なくみているものの、伯仲選挙区や安全圏でない民主党議員については概ね軌を一にしている。

Cook Political Reportの予測の推移をみると、2009年7月6日の段階では民主党議員が安全圏でない選挙区は58だったが、これが2010年7月22日には116選挙区に増えている。そして大統領の支持率および中間選挙の議席数には相関があるなか、前述のとおり中間選挙の秋には大統領の支持率が下がるケースが多いため、こうした従来のパターンがもしも継続するなら、民主党への逆風は一層厳しくなると言えよう。

Cook Political Reportにみる28の伯仲選挙区の特色は、一言でいえば構造的に共和党優位の選挙区が多いことである。これらの選挙区の約2/3は、Cook Political Reportの「党派的投票指数」(Partisan Voting Index (PVI))が+1以上の、構造的に共和党の得票率が高い選挙区となっている。

2010年の中間選挙は、基本的にはニューヨーク・タイムズのMatt Baiが指摘するように大統領選挙と本選挙と中間選挙の投票率の差(5割台対3割台)に起因する「満ち潮・引き潮政治」(tidal politics)である。循環的な揺り戻しを世界同時不況が増幅している面があるものの、支持基盤の組み換えや選挙の区割り変更に起因する政治変動ではない*3

全米公共ラジオ放送(National Public Radio)が6月に行なった世論調査は、民主党にたいへん厳しい結果だった。この調査は、現職議員の落選の可能性が最も高い70の下院選挙区に居住する、投票に行く可能性が高い1200名の有権者(likely voters)を対象としている。同調査によれば、民主党が特に苦戦している30の選挙区(苦戦度1)において、オバマ大統領の支持率が40%であり、全米平均を大きく下回る。また、支持政党なし層の民主党離れも深刻である。もしも選挙がただちに行なわれると仮定した場合民主党に投票する、と答えた支持政党なし層は29%に過ぎず、共和党に21ポイントもの差を付けられている*4

この調査は全米公共ラジオ放送が2人の選挙コンサルタント(民主党のアラン・グリーンバーグおよび共和党のグレン・ボルジャー)に委託したものだが、ボルジャーは調査結果から民主党は下院で少なくとも30議席を失うと予測している。また、ブッシュ前大統領の選挙対策を統括したカール・ローヴは、この調査を引用して、苦戦度1の30の選挙区において共和党が全勝し、苦戦度2の30選挙区の多くで共和党が勝利するだろうと分析している*5。この予測どおりになれば、民主党の議席数は連邦下院の過半数を割ることになる。ただし、投票日まで何が起きてもおかしくないのが選挙というものである。

上院選および州知事選
連邦議会上院(選挙区は州単位)については、改選議席37のうち民主党議員が現職の19の州において、民主党候補が安全圏にあるのが6、民主党優勢とやや優勢が2、伯仲が13、共和党優勢とやや優勢が2であるというのが、Cook Political Reportの最新の分析である(8月5日現在)*6。共和党議員が現職の18の州については、共和党候補が安全圏にあるのが10、共和党が優勢またはやや優勢が3、伯仲が5となっている。共和党が優勢であるものの、改選議席の半数に近い18州が伯仲であり、下院と比べて流動的である。

カール・ローヴは、各州の世論調査結果に基づいて、より踏み込んだ予測を行なっている。49名の民主党候補および43名の共和党候補・現職議員が改選なしまたは再選と予測され、接戦の8州のうち5州で共和党候補がリードしているというのが、ローヴの情勢分析である(前掲のウォールストリート・ジャーナルへの寄稿)。

上院においては、多数党が入れ替わる可能性が下院と比べて低いと言えよう。

州知事選に関しては、改選がある37州のうち18州が伯仲だと、Cook Political Reportは分析している*7。約半分の州が伯仲である状況は、上院選と似ている。これら37州のうち24州は現職知事が立候補しない新人同士の対決であり、それが接戦の多い背景になっている*8

知事選が接戦の州には、大統領選で毎回激戦となる大票田のオハイオ、ペンシルヴェニアおよびフロリダが含まれる。州知事は大統領選挙における州内の挙戦に少なからぬ影響力を持つため、オバマの再選可能性の観点からも注目される。
 
民主党苦戦の背景
民主党苦戦の底流にあるのは、不況脱出の見通しが立たないアメリカの現状への不満および政府への不信である。PEW研究センターの調査によれば、2002年においてはアメリカ人の5割以上が現状に満足し政府を信頼していた。それが最近では25%を切っている。現状への満足度と政府への信頼がこれだけ低いのは、民主党が中間選挙で大敗した1994年以来である*9

こうしたアメリカの現状および政府への不満は、政権を担当する大統領および民主党への支持率低下に結びついている。大統領の支持率は、中間選挙の得票と相関するため、今回の選挙における民主党議員への逆風の指標となる。

大統領への支持率には、強い党派性がある。PEW研究センターによれば、オバマ大統領就任直後の2009年2月の支持率は、民主党支持層については88%だったが、支持政党なし層は63%、共和党支持層は34%だった。それが2010年6月には、それぞれ78%、44%、16%に低下している*10。民主党支持層と比較して、支持政党なし層および共和党支持層の支持率の下げ幅が大きい。

民主党支持層は民主党候補に、共和党支持層は共和党候補に投票する傾向が強いため、選挙の帰趨を左右するのは支持政党なし層である場合が多い。キャスティング・ボートを握る支持政党なし層の民主党離れが、今回の中間選挙における民主党の苦戦をもたらしている。民主党の現職下院議員が落選する可能性が最も高い選挙区において、支持政党なし層の大統領支持率が低いのは、前述のとおりである。

では、なぜ支持政党なし層と共和党支持層の大統領支持率が大きく低下したのか。最も説明力があると考えられるのが、政府の役割をめぐる世論である。アメリカ国民の間では小さな政府志向が強まっている。PEW研究センターによれば、2008年半ばにおいては小さな政府志向と大きな政府志向は42%と43%で拮抗していた。それが2010年初頭には小さな政府志向が50%に増え、そして大きな政府志向が39%に減っている*11

政府の役割に関するイデオロギーの違いが、民主党と共和党の対立の根底にある。少なからぬ地域差はあるものの、前者は大きな政府を、後者は小さな政府を基調とする政策を推進してきた。選挙の行方を決める支持政党なし層は、少なくとも総論レベルでは、民主党支持層よりも小さな政府志向がかなり強い*12。このため政府の役割の一般論が選挙の争点になれば共和党に有利である。

民主党政権は、政権発足直後から政府の役割を拡大する大型施策を次々と推進、立法化している。最大の業績は、2009年2月の景気刺激法、本年3月の医療保険改革および7月の金融規制法である。大型財政出動および金融規制は、リーマンショック後の世界における先進国の共通課題である。国民皆保険に大きく近づいた医療保険改革は、民主党にとってニューディール以来の積年の課題だった。

これらの取組みは、民主党支持層にはアピールするが、小さな政府を好む共和党支持層および支持政党なし層の抵抗を招く。減税や金利の低下だけでは世界同時不況を乗り切れないため、政策的に求められるのは財政出動による有効需要の創出であり、金融のシステミックリスクの回避である。ところが、経済政策的には概ね正しい施策を推進すればするほど、大きな政府を嫌う支持政党なし層などの支持を失い支持率が低下する。このように公共政策と選挙のニーズが相反することが民主党政権の悩みである。

政府の役割に関する世論の構造には、総論反対各論賛成の側面がある。例えば、PEW研究センターの世論調査において経済に対する政府の規制は良い考えという回答は、良くない考えという回答を一貫して大きく下回る。対照的に金融規制という各論に関しては、賛成が反対を大きく引き離している*13

今のところ共和党は、底流にある景気への不満・不安に対して、大きな政府は財政赤字と景気を悪化させるという総論レベルのポピュリズムで応えて成功している。それを金融機関や医療保険提供者の規制といった各論の議論に持ち込めるなら民主党を利するが、そういう流れに変わる兆候は今のところみられない。

オバマ政権は、財政出動が無かったら失業はさらに悪化していたと繰り返し指摘しているが、それが有権者になかなか浸透しないのも悩みである。

投票日に向けた注目のポイント
強い逆風のなか、民主党は今回の中間選挙において連邦下院および上院ならびに知事選で議席を減らすのはほぼ確実であり、どれだけ議席減を食い止められるかのダメージ・コントロールが見どころである。

中間選挙の投票率は低く、平均は3割台である。このため支持基盤の動員が中間選挙ではものを言う。支持基盤の投票率については、共和党が民主党に対して毎回の選挙で構造的に優位に立つ。それに加えて、今回の選挙ではオバマ政権に反発する保守層の投票意欲が、ティーパーティー運動の参加者を含めて著しく高い。これと対照的に、近年民主党の支持率が高い若者層の投票意欲は今のところ低い。

こうした中で民主党の頼みの綱は、2010年の大統領選挙においてオバマの勝利に大きく貢献した黒人およびラティーノ(ヒスパニック)である。政治資金面での優勢や、2008年大統領選挙で構築したオバマ支持者のネットワークをフルに活用し、これら非白人有権者の動員により投票率を極限近くにまで上げることができるなら、逆風への防波堤となるかもしれない。

冒頭で引用したCook Political Reportにみる連邦下院の伯仲選挙区には、黒人およびヒスパニックの人口比が3割を超える選挙区が少なくない。これらの選挙区においては、民主党と大きな政府を支持する傾向が強い非白人有権者の動員戦術がおそらく効果的である。

しかし、支持基盤の動員だけでは限界があり、支持政党なし層からの支持率を多少なりとも回復できるか、あるいは支持率がさらに低下するかがポイントとなろう。現段階で投票態度を固めていない有権者、特に支持政党なし層の動向が、民主党の議席の減少が最小限にとどまるか、あるいは大敗するかの分かれ目になるかもしれない。

民主党は下院の40の重点選挙区において選挙コマーシャルに2,800万ドルを投入する計画だと報じられている*14。こうした資源の集中投入で、逆風をある程度しのぐことは可能である。

上院選については、6つの州の共和党予備選挙において共和党執行部が応援した候補がティーパーティー系の候補に敗れており、それが民主党を利する結果となっている*15。それは政府の役割に関するティーパーティー候補の発言が、イデオロギー的に穏健な有権者や支持政党なし層に過激すぎるからである。

しかし、もしも2006年中間選挙の、ゲイの共和党幹部をめぐるスキャンダルのような事件が終盤に起きれば、支持政党なし層や終盤まで投票予定を決めない有権者の投票行動に強く作用しよう。スキャンダルに限らず、大きな天災や国際的事件にも同様の効果がある。

基本的には民主党が議席を減らすのは確実な情勢であり、しかも議員のスキャンダルが出るなど民主党の苦境は時とともに増している感があるものの、最後まで分からないのが選挙である。



*1: http://www.cookpolitical.com/charts/house/competitive_2010-07-22_13-41-18.php
*2: http://www.realclearpolitics.com/epolls/2010/house/2010_elections_house_map.html
*3: Matt Bai, “Democrat in Chief?”, The New York Times, June 7, 2010 (electronic edition)

*4: http://www.npr.org/templates/story/story.php?storyId=127845693

*5: Karl Rove, ”Obama and the Woes of the Democrats;The president‘s low ratings mean he can’t lift his party by campaigning“, The Wall Street Journal, June 24, 2010 (electronic edition).

*6: http://www.cookpolitical.com/charts/senate/raceratings_2010-08-05_09-21-12.php
*7: http://www.cookpolitical.com/charts/governors/raceratings_2010-06-17_09-35-40.php
*8: Monica Davey, “With 2012 in Mind, Parties Focus on Governorship”, The New York Times, August 9, 2010 (electronic edition).

*9: http://people-press.org/reports/pdf/606.pdf

*10: http://people-press.org/report/?pageid=1744
*11: http://people-press.org/reports/pdf/606.pdf

*12: 同じPEW研究所センターの調査において、政府の役割は縮小すべきという回答が、共和党支持層は67%、民主党支持層は21% 支持政党なし層は51%となっている。

*13: http://people-press.org/reports/pdf/606.pdf

*14: Jeff Zeleny, “Democrats Sketch Ad Plan for Defending House Seats“, The New York Times, July 22, 2010 (electronic edition).

*15: Jeff Zeleny, “Concern Over Centrists as G.O.P. Leans Right”, The New York Times, August 11, 2010 (electronic edition).


■細野豊樹:東京財団現代アメリカ研究プロジェクトメンバー、共立女子大学国際学部教授