タイプ
論考
プロジェクト
日付
2018/1/24

ワシントンUPDATE トランプとニクソン、そしてアフガニスタンの今後

 ポール・J・サンダース

センター・フォー・ザ・ナショナル・インタレスト常務理事

東京財団「現代アメリカ」プロジェクト・海外メンバー 

 

 

米トランプ大統領は、2017年8月21日にアフガニスタン及び南アジアにおける米国の戦略について重要な演説を行い、多くの保守主義者の懸念を見事に払拭した。その懸念材料とは、トランプ氏が就任当初から米国史上最も長い戦争に対し懐疑的な態度を取り続けていたこと、またオバマ前政権が公表した米軍撤退のタイムテーブルであった。その中で、早期撤退を否定したこの政策転換の底流にある意図を的確に見出した人はほとんどいない。出口の見えない戦争をさらに長引かせることを決定した、就任したばかりのニクソン大統領が取った行動とダブらせてみて初めて、トランプ氏の真の思惑が垣間見えてくる。

 

1969年11月、ベトナム戦争に関して行ったニクソン氏の演説は、反戦運動が高まるなか、「大多数を占める国内の同志」に対し戦争継続支持を呼びかけたもので、「サイレント・マジョリティー(声なき大衆)演説」として知られる。ニクソン政権は、すでに戦闘の主な責任を南ベトナムに肩代わりさせ、段階的に米軍撤退を進める「ベトナム化」政策を公表しており、説得力ある説明をすれば国民から支持を得られると期待していた。アフガニスタンにおいても、防衛軍の軍備を増強し訓練を施そうと、ブッシュ、オバマ、トランプの三つの政権にわたり、10年以上も同様の戦略を進めてきた。

 

しかし約50年前、ニクソン氏はいみじくも「多くの国民は政府が語ってきた政策について信頼を失っている」と述べ、「国民はその政策が本当に意味するところを知らない限り、戦争と平和にかかわる重要政策について支持を求められるべきではない」と認識していた。ニクソン氏は、トランプ氏が2016年の大統領選期間中に行ったような米国の介入に対する表だった反対はしなかったものの、前任者であるリンドン・ジョンソン大統領の戦争のマネジメントの仕方に対する批判は率直に口にした。ニクソン氏の特徴はその実用的な考え方にある。彼は「我々は戦争中であり、それを終わらせる最善の方法は何か」を問うたのだ。

 

アフガニスタンとベトナムの類似点と相違点

トランプ氏は、アフガニスタンに関する演説で、幾分明確さに欠けるところはあるものの、ニクソン氏に似た手法を用いた。勿論、ニクソン氏は和平協定の締結に向けトランプ政権以上に前向きに進めていた。1969年初めには、停戦を国際管理下に置くこと、1年以内に南ベトナムから「外部勢力」を撤退させること、共産党の参加も受け入れた自由選挙を実施するといった提案を公表していた。したがって、ニクソン氏の演説の少なからぬ部分は、信頼ができ満足のいく和平(1973年のパリ和平協定の宣言では、「名誉ある平和」と称していた)を獲得するためには、南ベトナムが戦闘を肩代わりできるまで米国が戦争に関与し続けることが必要だということを説明するための努力だったのである。

 

トランプ氏が、「アフガニスタンでの勝利とは、敵を攻撃し、ISISを抹殺し、アルカイーダを壊滅させ、タリバンのアフガニスタン占領を防ぎ、アメリカに対する大規模テロ攻撃を未然に止めることだ」と定義したのに比べ、ニクソン氏の軍事的な目標は控え目だ。

 

ニクソン大統領は、もはやベトコンや北ベトナム正規軍の抹殺や壊滅というより、(米軍なしに)米国の武器や資金を使って南ベトナムの征服を防ぐことに主眼を置いていた。北ベトナムが米国のライバルである超大国の支援を受けていたことに対し、アフガニスタンにおけるタリバン等の敵対非国家主体は、同レベルの支援を提供できない。北ベトナムの壊滅やベトコンの抹殺には、既に膨れ上がっていた米国の軍事コミットメントをさらに大幅に増強することが求められ、当時としては実効性の面で無理があったのだ。

 

ニクソン氏は、苛立った米国の選挙民の信頼を勝ち得るために(オバマ氏と同様)撤退のタイムテーブルを公表しながら、敵に軍事的、心理的プレッシャーを与え続けるため(トランプ氏のように)タイムテーブルを示さないという中間的な方策を取った。「サイレント・マジョリティー」演説では、地上戦闘部隊の完全撤退に向け段階的な撤退タイムテーブルを協議検討していることを明らかにしながら、撤退は「米軍の弱さではなく、強さ故に行うもの」であり「南ベトナム軍の強化に伴い」実施すると述べた。

 

つまり、ニクソン氏は、「撤退タイムテーブルを公表するつもりもない」と言ったのである。パリ和平会議の進展、敵の動き、南ベトナムの戦闘肩代わり能力により事情は変わるからだ。戦争が際限なく長引くことに懸念を持つ人々の気持ちを鎮めるべく、撤退タイムテーブルがあることを明示する一方で、北ベトナムやベトコンに対しては、米軍の段階的撤退につけこんだり、パリ和平交渉を行き詰まらせて米政府を焦らそうとしようものなら、米国の軍事的介入を引き延ばすだけだ、という姿勢を示した。

 

ニクソン氏がタイムテーブルが秘密裏にあるように語ったのも頷ける。オバマ氏やトランプ氏がアフガニスタンの長期戦争で味わっている政治的プレッシャーに比べ、ニクソン氏のベトナム撤退に伴うプレッシャーの方が格段に大きかったことを考えれば無理もない。なぜならば、アフガニスタンへは職業軍人や州兵のボランティアが派遣されてきたのに対し、ベトナムへは徴集兵が派遣され、大きな政治問題に発展しやすかったからだ。

 

トランプ氏は段階的撤退を行うのか?

上述以外にもベトナムとアフガニスタンの両戦争に重要な違いは色々あるが、トランプ氏の戦略は驚くほどニクソン氏のそれに似ている。大規模な内乱鎮圧作戦、米国の国家利益に対する共通の認識、リーダーシップや信頼性のような無形のものに対する優先順位の共有化といったところに明らかな類似性が見うけられるのだ。

 

また、トランプ氏の演説にはニクソン氏の演説とダブるものが幾つかあるが、それは本人(またはスピーチライター)が意図的に似た言葉を選んでいるとも考えられる。例えばアフガニスタンに関しては、トランプ氏は「我が国は名誉ある不朽の結果を見出さなければならない」と述べているが、このコメントはまさにニクソン氏の「名誉ある平和」を連想させる。なお、トランプ氏は既に大統領選中、「サイレント・マジョリティー」という言葉を使っており、自分がその擁護者であることを自認している。ただ、「戦略的に軍事力を行使する目的は、永続的な平和を達成する政治プロセスの土壌を作ることだ」と述べる一方で、その具体的な内容に関しては多くを語っていない。

 

アフガニスタンにおける米国の戦争継続決定については、大統領を支持する大衆基盤は反対するだろう、と一部の政治評論家はみる。「エスタブリッシュメントの理論」を採用し、戦争に際限なくコミットし続けるのは、大統領の「アメリカ第一主義」のメッセージに背を向けることになる、との指摘だ。しかし、このように結論づけることは早計だ。トランプ氏の演説には、アフガンにおける米国の役割を短期的に増やすことで、ベトナム戦争よりも急速に撤退を実現するための国内的、軍事的、外交的条件を作り出そうとするメッセージが込められているともいえる。

 

「我々はもはや、遠く離れた異国の地に民主主義を打ち立てるのに米国の軍事力を使ったり、我々が思い描く形で他国を再建しようとしたりしない」と語っており、この考え方は確かに米軍撤退の追い風となるだろう。トランプ氏は事あるごとに、米国の意図をライバル国に打ち明けないと述べているが、一部の人が抱いているように際限のない戦争に巻き込まれるのではないかという危惧もあると同時に、アフガニスタン撤退の意思があることも汲み取ることもできる。トランプ大統領に本当に撤退の意思があるのなら、アフガニスタンに駐留する米軍の規模はリンドン・ジョンソン大統領の最終年にベトナムに駐留した50万人規模の米軍に比べはるかに少ない規模だという事実から、撤退プロセスが思いのほか早く進む可能性もある。撤退がどう進むか注目しよう。

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