タイプ
論考
プロジェクト
日付
2016/9/26

現地報告 2016年全国党大会「番外」②:連邦議会選挙と副大統領ファクター

 

 

連邦議会多数派維持を目指す共和党の「反ヒラリー」結束

 全国党大会に際して、両党に共通していた目的は連邦議会選挙であった。共和党議会指導部としては、たとえヒラリー・クリントン政権が誕生しても上下両院で民主党が少数派のままなら、立法成果は阻止できる。仮にトランプ政権が誕生しても、トランプの大統領府に対して共和党議会が主導権を握るには勢力維持は重要だ。

 予備選挙では共和党参加者が民主党を上回っていた。「情熱度」ギャップを考えると共和党の本選投票率も民主党のそれを上回る可能性がある。しかし、議会選挙に関して、今回特有の予測不可能要因は、熱心なトランプ支持者の多くが初めて予備選に参加した無党派層であることだ。反移民、保護貿易主義などでトランプ個人を好いている彼らは、「共和党」や「保守主義」に強い帰属心はない。トランプのイベントには嬉々として参加する彼らも、議会選挙を左右する献金や動員(GOTV)などの地味な草の根活動には興味を示さない傾向がある。

 また、トランプへの憎悪や共和党をトランプに任せることへの不安から「棄権」が広がれば、議会選挙で共和党候補が巻き添えをくらう。党内に「反トランプ」熱が過剰に残存すれば、共和党常連の議会選挙の投票率まで下げてしまう。そこで共和党は党内の「反トランプ」感情を抑制すべく、「反ヒラリー」を強調した党内結束を党大会で演出した。ウィスコンシン州知事のスコット・ウォーカーは党大会演説で「トランプ以外への票はクリントンへの票になる」と述べ、「親トランプ」ではなく「反クリントン」を強調し、「ロック・ハー・アップ(ヒラリーを牢屋にぶち込め)」が共和党代議員の合い言葉になった。

民主党も連邦上院選挙に焦点を合わせた副大統領候補選び

 議会選挙が鍵になるのは民主党も同じであった。特に、戦後初めての3期連続の大統領輩出を狙う民主党としては、4期連続すなわち次期大統領の再選には相当な向かい風がある。議会両院で少数派のままの政権スタートでは、「1期大統領」色が冒頭から濃くなる。民主党は上院奪還、下院では奪還は無理でも差を縮めたい考えだ。民主党は5議席勝利すれば上院で多数派になれる(民主党副大統領が誕生したら4議席)。

 そこでヒラリー陣営は副大統領候補にティム・ケインを選んだ。この選択には党内でも賛否両論がある、ウォーレンへの期待感もサンダース支持者の間で最後の段階まであった。だが、ヒラリーは元々、2つの基準を副大統領候補選びで重視すると明示していた。第1に議会選挙にプラスかどうか、第2に大統領に何かあれば即大統領を任せられるかである。

 議会選挙に役立つ候補から逆算したときに、ケイン以上の人物はいない。ケインは元全国委員会委員長で、全米各州の党幹部に顔が利き、ファンドレイジングも巧みである。人物的に華がなく地味だとの声もあるが、「お父さん」風の親しみやすさでは抜群であり、党大会では「少し崩れたトム・ハンクス」とのあだ名でも呼ばれ始めていた。

 党大会3日目に民主党下院選挙運動委員会(DCCC)が非公開のランチを開催し、筆者は議員関係者席で参加させてもらった。冒頭のナンシー・ペロシ演説もその後の関係者の演説にも裏話的なニュースはさほどないと気が緩んでいた所、突然ケインがサプライズのゲストとして登場した。プロンプターがない即興的演説のほうが、茶目っ気が発揮されていた。閉会後もケインとの写真撮影を求める下院議員や献金者が後を絶たなかったが、退席時間を延長して一人一人に丁寧に応じていた。「議会選挙担当」副大統領候補のケインは、党大会中からさっそくヒラリーに任された仕事をこなし始めていた。

 また、ヒラリーが望んだ2点目の条件である、大統領に何かあったとしてもすぐ大統領を任せられるかは、意外と有権者心理に最後の段階で作用する。ケインは州知事と連邦上院、すなわち統治と立法の双方の経験を実証済みだ。ヒラリーの健康問題は党大会時点では表面化していなかったが、こうした要因からも、即日交代できる能力を重視しておくことが有権者の安心感につながる。

 そして番外で、ある意味で最重要条件でもあったのは、上院議員である場合、地元州の現知事が民主党であることだった。いくつかの州を除き、知事が臨時議員を任命する。共和党知事の州で上院議員が空席化すれば、上院議席は共和党に明け渡すことと同義だ。「上院の1議席喪失を上回る価値」が無い限りは敵に塩を送るような判断だ。この条件から、共和党が知事を務める州のウォーレン、ブッカー、ブラウンは自動的に除外された(ウォーレンは最高司令官としての素質の点でも問題に)。「反移民」のトランプが指名を獲得し、ヒスパニック票に過度に媚びる必要が消えたため、カストロも除外された(オバマ政権からの「チェンジ」を強調する意味でも、現政権閣僚は新鮮味がない問題もあった)。

民主党全国大会での「梃入れ」アウトリーチ

 激戦州の上院選の梃入れのため、党大会期間中、民主党は州別イベントの強化、ヒラリー派の議員を用いた代理人キャンペーン、部門別コーカスにおける代議員と活動家の連携の活性化を目指した。

 筆者は、イリノイ州選出のジャン・シャコウスキー議員に随行したので、ある日の流れを記してみたい。党大会では州はホテルごとに本拠地を築く。2016年民主党大会におけるイリノイ州の本拠地はマリオットホテルだった。夕方以降のスタジアム内での演説が、テレビ放送されるメディア・イベントとしての「表の党大会」であるとすれば、各州の本拠地ホテルやコンベンションセンターで朝から夕方までの昼間のアウトリーチ活動は、メディアで報道されにくい「裏の党大会」だ。

 各州は合同朝食会を兼ねて、決起集会を連日開く。上院選、下院選、地元公職の候補者の演説などが行われる。重要な支持基盤の団体の幹部、地方党幹部も一同に会する。党大会に参加している現職連邦議員は、4日間、朝食、ランチ、コーヒーを分刻みでこなし、夜は党大会に参加する。議員スタッフは昼間のうちに、大口献金者や支持基盤の団体関係者の選別を行い、日替わりで非代議員向けのクレデンシャル(入場許可証)を限定配布する作業で忙しい。2016年民主党大会は会場の狭さから非代議員のクレデンシャル発行数を削ったので、配偶者以外に数枚程度しか委員会からクレデンシャルが出ない議員もいて、スタッフはクレデンシャル配布リストから外れた支持者へのお詫びの電話で、ホテルに缶詰状態になっていた。

 例えば、シャコウスキー議員の党大会4日目は以下のような動きだった。イリノイ州代議員朝食決起集会(市内ホテル)、サービス業労組SEIU幹部との会合(市内ホテル)、シニア・コーカス(コンベンションセンター)、民主党下院選挙運動委員会ランチ(市内ホテル)、ユダヤ系コーカス・ラウンドテーブル(コンベンションセンター)、ラジオ・インタビュー、テレビ・インタビュー、ファーゴセンター(ここから「表の党大会」日程)で代議員団と演説を聞く。

 2012年と2016年の党大会の間の技術発展で特記すべきは、スマートフォンを用いた配車サービス「ウーバー」の浸透だが、混み合うと価格が高騰するし、進入規制や渋滞が多い党大会開催都市では使いにくかった。結局、タクシーと徒歩で現場を梯子するのだが、若いロジ専門のスタッフは紙の昔ながらの大きな地図を知らない。スマートフォンのGoogleマップでは俯瞰的な全体図の中での現在地を掴みにくく、炎天下で議員を遠回りで歩かせる「迷子事件」も発生した。

 また、党大会での州別イベントは、党内での対立関係をかえって露呈することもある。シカゴ政治ではエマニュエル市長派とそれ以外が微妙な緊張関係にある。イリノイ州は女性退役軍人のタミー・ダックワースが連邦上院議席に王手をかけており、結束を固める必要があった。4日目朝の決起集会にはシカゴ市長のエマニュエル、ダービン上院議員らが顔を揃えたが、エマニュエル市長は早々に退席したことで会場はざわついた。

 前夜の党大会3日目の夜に流されたオバマ紹介ビデオに、「オバマケア」の実現過程の振り返りがあった。そのなかにエマニュエルにとって居心地の悪い昔話に言及があったのだ。ホワイトハウスでは、2012年に再選ができなくなるとして、オバマケアにエマニュエル首席補佐官は最後まで抵抗した。しかし、オバマ大統領はこのエマニュエルの制止を振り切って実現した。

 インサイダーの間では周知だったストーリーが、なぜか民主党大会のビデオ内でさりげなく暴露された。「党大会委員会の誰かが、この決断を下した」と関係者は語る。そこには「オバマのレガシーをヒラリーの選挙に絡ませる意図」、「オバマのレガシーの語りが、ヒラリー選挙のサイクルで紡がれる」様相も呈していた。案の定、ダービン上院議員はダックワースの応援演説をするはずが、自分とシャコウスキーがオバマを担ごうと決めてオバマを説得して根回しをした思い出話をしてしまった。しかし、興味深いのは聴衆の受けは良かったことだ。シカゴ郊外出身のヒラリーをイリノイ人として考えているイリノイ州民主党は、「オバマからヒラリーへ、イリノイ州が2つのホワイトハウスを繋ぐ」ことに政権継続のイメージを重ねていた。ダービンはその代弁者になったのだ。

 コンベンションセンターでの有権者集団別のコーカスは、2012年に比べると参加者数が少ない印象だった。党大会会場のスタジアムとダウンタウンのコンベンションセンターがあまりに離れており、交通の便が悪かったことで代議員の参加が低調だった。また、耳が不自由な参加者向けに発言のキャプションが大画面に映されるサービスが始まった点は良かったが、決まりきった招待演説の連続で自由討論がない形式には、運営上の限界も垣間見えた。

 案の定、筆者が参加したユダヤ系コーカスで「なぜ延々とスピーチを聞く方式なのだ。対話形式にしないのはなぜだ」と参加者が発言し、民主党全国委員会の司会は困惑しながら「貴重なご意見を今後に反映させます」としか言えなかった。「ゾグビーとかコーネル・ウエストのような反イスラエル的な人物が、党綱領作りに入るのをどうして見逃しているのか」という、少々センセティブな質問も飛び出した。

 民主党全国委員会としては有権者別コーカスで本音の質問が出過ぎて、それがプレスに報道されてしまうと、結束の場としての党大会の意味がなくなってしまうジレンマを抱えている。自由討議で有権者の問題意識や情熱を活性化させるのか、お定まりの儀式的な決起集会に終わらせるか。民主党大会も「反トランプ」というカードしか万能の薬がなかった点では、「反ヒラリー」で結束した共和党と類似していた。

 

渡辺将人  北海道大学大学院メディア・コミュニケーション研究院准教授