2日の夜10時からデモインのHoover High School体育館で開催されたオバマの”Stand for Change Rally”を見学した。かなり大きな体育館で、中央部分は椅子が無く立見席であったにもかかわらず、会場は満員であった。若い人が多かったが、中年・老年の人も多数参加していた。また、チャーリー・クック、ジョージ・ステファノプロス、ティム・ラサートなどの姿も見かけた。押し寄せたメディア関係者の数も凄まじいものであった。 演説は「変化」を訴えるもので、聴衆を沸かせるテンポやリズムはいま一つであったが、会場にこれだけの数の有権者の足を運ばせるオバマ陣営の力は印象的であった。若者が多いせいもあり、元気のよさ、ノリのよさも特徴であった。
以下に引用したCNNでのデービッド・ガーゲンのコメントにあるように、それは単に政策演説でもアジ演説でもなく、政策の違いや党派の壁を越える含意をもった演説であった。まさにマーティン・ルーサー・キング牧師を髣髴とさせる演説であった。翌日のFOX Newsでも、トニー・スノーが「偉大な演説」と賞賛している。オバマは4日、ニューハンプシャーで同様の演説を行っているが、奴隷制を撤廃し、ファシズムを打ち勝ち、そしてセルマ、モントゴメリーなど南部での人種差別克服を支援してきたアメリカ人、とくに白人の貢献に触れながら、希望と国民の統一・一体性(unity)の実現を語った。ちなみに、彼が語る、なぜ今立候補するのかについての説明としての、”fierce urgency of now, right now”も、キング牧師の言葉と重なり合っている(邦訳『黒人はなぜ待てないか』(みすず書房、新装版、2000年))。オバマは、自分は人種の壁を越えることができることを示し、それによって、硬直した政党対立も溶かすことができると主張する。彼を支持し勝利させることにより、アメリカに誇りを感ずるアメリカ人も、とくに民主党には少なくないであろう。 今後、民主党員だけでなく、多くのアメリカ人は、普通の政治家以上のものをオバマに感ずるかもしれない。
David Gergenのコメント I thought Barack Obama's speech was one of the best I have ever heard from him. There were echoes of Martin Luther King in that speech, as well as, of course, echoes of his own convention speech. But he's doing something more than that. Hillary went -- why she seemed a little plodding against him, she went to the change theme, change, change, change. He -- he went ahead of that. He said, change by unifying, by becoming one country. It was very nationalistic. And it was -- and there was a sort of implicit message: If I can bring down the barriers between blacks and whites in this country, we can bring down the barriers between Republicans and Democrats. (http://transcripts.cnn.com/TRANSCRIPTS/0801/03/se.04.html)
考えてみると、クリントンも、初の女性大統領を目指す。しかし、アイオワの民主党員は初の女性大統領より初の黒人大統領を支持した。その理由は、一般論というよりも、オバマ個人の魅力に負うところが大きいであろう。彼は若者に対して、「一緒に世界を変えよう。一緒に歴史を作ろう」と訴えた。理屈の上では、クリントンも、同様のレトリックを使って選挙戦を展開することはできたはずである。しかし彼女は、「大統領に就任した瞬間から準備万端」(ready on day one)を強調した。ビル・クリントン時代のスタッフに囲まれ、潤沢な政治資金に恵まれた彼女は、政策的に意図的に右寄り姿勢をとってきたことも重なって、多くの民主党員の目には、いつの間にか“establishment”の候補と映っていたように思われる。