タイプ
論考
プロジェクト
日付
2008/2/4

アメリカNOW 第12号 フロリダ「地上戦の見取り図」から読み解くマケイン勝利とジュリアーニ敗退(2008年2月4日 渡辺将人)

【はじめに】
フロリダ予備選を終え、民主党、共和党ともに候補者の淘汰が激しくなり、首位グループが明確になってきた。民主党はエドワーズ候補が離脱した。しかし、民主党側は当初より事実上の「2者レース」になっていて(エドワーズ候補が2位圏内に食い込んだのはアイオワのみ)、民主党関係者の間ではエドワーズの離脱への驚きは少ない。他方で、予備選開始前までは共和党候補で最も有力な候補者とされてきたジュリアーニ候補があっけなくフロリダの敗退で選挙戦そのものから離脱したことには、ジュリアーニ首位路線の論調を作ってきた米メディアにも困惑の様子がうかがえる。フロリダの政治関係者の声をもとに「アメリカNOW」では、なぜジュリアーニが敗退したのか詳しく見ておきたい。

【フロリダ「地上戦」の鉄則】
フロリダ州の共和党予備選は以下のようであった。マケイン候補36% (693,508票)、ロムニー候補31% (598,188票)、ジュリアーニ候補15%(281,781票)、ハッカビー候補14% (259,735票)、以上CNN調べ。フロリダ、ニューヨーク、カリフォルニアのような大票田だけを狙い、アイオワ、ニューハンプシャーなど序盤の小さな州を無視するというジュリアーニの「後追い作戦」が見事に失敗となった格好である。今回の大統領選挙の過程で、ほとんど何の「華」も見せることないまま、「後追い戦略」の開始とともにいきなり離脱することになった背景には、もっとも力を入れてきたフロリダで2位につけることすらできなかったためである。そこにはジュリアーニには苦しいフロリダの地域性も大きく作用していた。

フロリダ州は歴史的には南部である。「歴史的には」というのは、政治の現場では近年では他の「南部」と分離して考えることが多いからだ。1970年代半には「南北戦争」以来の南部魂は健在で、南部出身のカーターを大きく支持した土地だ。しかしレーガン時代に大きく共和党の地盤へと変貌していった。フロリダを理解するには、7つの異なる「政治文化」がフロリダに詰まっていることを知らねばならない。共和党全国委員会のスタッフによれば「フロリダはカリフォルニアよりもはるかに多様な選挙区。カリフォルニアは3つの政治文化に分離できるが、フロリダにはもっと多くて7つある」という。以下、その分類を紹介する。

【(1)深南部隣接ブロック <下院選挙区:1、2、4、6>】
州境の上層、左側に突き出た細長い部分をふくむエリア。ここは「南部」である。ルイジアナ州の女性たちの人生を描いた映画『マグノリアの花たち』(サリー・フィールドら主演1989年)で日本人にも知られる南部を象徴するマグノリアの花と、スペイン苔など深南部の植物に象徴される土地。民主党保守派の牙城である。2つ例外エリアがある。西部のペナスコラ、ウォルトンビーチ地域と、北東端のジャクソンビルである。前者は空軍基地があり、多くの退役軍人が存在する。後者は海軍基地があり、多くの政治に活動的な軍人が存在する。このブロック内でとくに共和党が強いエリアだが、退役軍人か保守系に有利で、マケインとハッカビーが多くを獲得した。しかし、今回の隠れた異変の一つは海軍基地のあるジャクソンビル周辺の北東部でロムニーが善戦したことである。とくにデューバルカウンティではロムニーが42%獲得した。

【(2)「宇宙」沿岸ブロック<下院選挙区:7、24、15>】
「深南部隣接ブロック」から、大西洋沿岸にパームビーチ・カウンティ手前まで広がるエリア。地元政治関係者の間では「スペース・コースト(宇宙沿岸)」と呼んでいる。有名なケネディスペースセンターもここにある。オーランドから50マイル東。発射施設はカナベラル岬に位置していて、これを共和党関係者は皮肉をこめて「ケネディ岬」とも呼ぶ。宇宙産業など政府の受注産業、空軍、NASAが存在し、当然ながらマケインが有利になる土地。

【(3)ゴールドコースト・ブロック<下院選挙区:16から24を除く25まで>】
パームビーチ、ブロワード、マイアミ・デードの3カウンティ。通称「ゴールドコースト」である。ニューヨーク州、コネチカット州からの富裕な定年退職者が多い。また、1960年代初期に移民してきたキューバ移民の集住地。ニューヨーク州からの移住者の多さからジュリアーニはここを票田に当て込んでいた。しかし、このブロックの代表的下院議員(両方ともキューバ系ヒスパニック。うち1人は女性)はマケインを支持した。パームビーチカウンティでマケインは40%、ジュリアーニは17%しか取れていない。

【(4)サンコースト・ブロック<下院選挙区:9から15を除く16まで>】
フロリダ州の半島先端から北上しパスコ・カウンティまでの内側沿岸。共和党の比重がもっとも州内でも強いエリアである。ナプレス、メイヤース、ヴィニース、サラソタの各カウンティ。通称「サンコースト。中西部からの定年退職者が多く、とくにミシガン州からの人口が多い。ロムニーとマケインが分け合うブロックである。マケインは60歳以上のシニア層で圧倒的な強さを見せた。

【(5)ゴールデンガードル・ブロック<下院選挙区:5、8、24>】
タンパ、オーランドからデイトナまで、大西洋岸に内陸を貫通して突き抜けるブロック。「ゴールデンガードル」と通称される。フロリダ州内で「定年退職者向け」以外の産業や経済活動が栄えるエリアである。運輸のタンパ、燐酸塩のレイクランド、観光産業のオーランドである。オーランドにはディズニーとその類似の観光産業が割拠する。マケインとロムニーが善戦した。

【(6)古きフロリダ・ブロック<下院選挙区:5、8の一部など>】
「ゴールデンガードル」の南北。オーランドとタンパを結ぶ州間道路4号線の南北30マイル。都市開発されていない「オールド・フロリダ」と州の政治関係者が呼ぶ地域。農業が中心で人口密度が低い。北部にはオレンジなど柑橘類の栽培、馬が走り回る田園地帯。南部にも、オレンジなど柑橘類栽培のほか、牛放牧など酪農、サトウキビのプランテーションのなごりがある。本来ならばハッカビー支持が中心であるが、マケインとロムニーが支持をわけあった。

【(7)タンパ内部ブロック<下院選挙区:5>】
タンパはキューバ系の集住地である。しかし、反カストロのキューバ系ばかりでなく、1890年代にキューバがスペイン統治下だった時代に移り住んだ、通称「タバコ栽培のキューバ系」が多く存在する。こうした旧世代のキューバ系住民は家系内でも長い間分断の辛酸をなめた。タンパ内のヨボアシティにはこうした、「反共リパブリカン」とは無縁の旧世代の伝統をくむキューバ系ヒスパニックがいる。こうした移民としての辛酸を家系内の伝承で語り継いでいる集団はとくに、また新世代のヒスパニック系も、移民政策に寛大さをアピールしてきたマケインに流れた。

【全ブロックを万遍なくおさえたマケイン】
筆者と語った州内セントピータースバーグ出身の共和党州議会議員は、今回の共和党予備選の結果を予備選2日前に、数パーセントの誤差内で、順位も含めて完璧に当ててみせた。なぜ予測できたのかについて以下のように語った。「マケインは地元紙、マルチネス上院議員、クリスト知事のすべての支持を得た。しかし、一番の理由はそういうことではない。1番から7番までの州内のブロックのすべてで、1位かさもなければ善戦の2位の票獲得ができたからだ。ロムニーは約1つのブロックで1位になり、ほか数ブロックでかなり善戦した。ジュリニアーニはといえば、彼の集票力はわずか1つのブロックそれもごく限られた層に限定されていたからだ。ハッカビーも同様に1つのブロックでしか取れない」。

【2つの選択肢に分化:マケインVSロムニー】
得票結果を概観すると、おおきく2つの選択肢があったことがわかる。1つはマケインの象徴する年配層、大統領選候補者として馴染みが有る、より中道派、もう1つはロムニーが象徴するビジネス重視、新々で、より保守的。これはブロックの地域性とだいたい重なる。しかし、ロムニーとハッカビーが局地的勝利なのに対して、マケインは全州で満遍なく勝利した。地域性をこえ、共和党をまとめあげる候補としての期待票も集まったことがうかがえる。パインラス、ウエストコーストなどでマケインは38%から30%を獲得している。ここは定年退職者のカウンティで、フロリダでも共和党度が非常に高いカウンティである。若年層がオバマを支持しているように、共和党でも高齢層がマケインを支持する傾向が明確にでている。両党ともに今回の選挙では「年齢層の分断」が顕著になっている。

【フロリダの元ニューヨーク州民がジュリアーニを厳しく評価】
なぜジュリアーニが独走という昨年の報道とこうも違うのかという筆者の質問に前出の共和党州議会議員は、「ナショナル・メディアは候補者の同行取材に忙しくて選挙区の取材ができない。粗い世論調査や陣営のスピンに頼りがちだ。地元の産業、宗教、エスニシティに習熟した地元紙のほうがアメリカの選挙では予測が正確なのはそういう理由による。ニューヨークから乗り込んでいたジュリアーニの側近ですら、どの程度負けるか正確に把握していたのか疑問ですらある」。また別の共和党関係者はマケインに好意的な報道が多かった理由として、『セントピータースバーグ・タイムズ』など州内の民主党寄りのリベラルメディアがこぞって中道派のマケインを「共和党の中ではマケインが一番まし」という理由で支持し、それが結果として影響を与えるという、プレスを通して民主党サイドが共和党の予備選に間接的に影響を行使する現象がおきたという。またある共和党戦略家は「ここまでジュリアーニがとれなかったことに唖然といている共和党員は多い。結局、ジュリアーニはペーパー・キャンディデイトだったということだろう。フロリダに移住してきた元ニューヨーカーがかなり反ジュリアーニで投票している。同時多発テロが起きるまでは、支持の賛否が濃厚に分かれる市長だったことがフロリダで滲み出た。元ニューヨーカーのほうが、フロリダしか知らない選挙民よりも、ニューヨーク時代の否定的評判も色々と知っているからだと思う」。

【ダマト元上院議員の予測が的中】
筆者が今回のフロリダの結果を受けて痛感するのは、昨年末にニューヨークで筆者がインタビューしたダマト元上院議員である(アメリカNOW第4号)。共和党の実力者として今も党内情勢とくにニューヨーク政治の裏表を知り尽くしている氏は「ジュリアーニは無理だ」と予測し、同じニューヨークのイタリア系の同胞でありながら、早期にジュリアーニ不支持を打ち出していた。ダマトが昨年から示唆していたのは、「早晩火を噴く」とみていたジュリアーニの社会問題でのリベラルさだ。中絶容認、同性愛者への理解という共和党候補としてはおよそマンハッタンでしか通用しないリベラルな態度は、フロリダに割拠する保守的なオレンジ農家やサトウキビ農家、カトリック教徒のヒスパニック系に完全にそっぽを向かれた。アイオワとニューハンプシャーで陰が薄くなってしまったから、というメディアの分析とも異なり、もともとフロリダではよほどの「地上戦の仕込み」をしない限り、ジュリアーニには勝てない土地だったという見立てが地元共和党では有力だ。冷静な地上戦分析があれば「後追い戦略」1本に賭けることはしなかったはずだという。

前出の州議会議員はさらに強調する。「後追い戦略云々の前に、こういうフロリダのデモグラフィック状況で、パームビーチのニューヨークからの定年退職移住者票だけで勝てるという目算がそもそもおかしい。ヒラリーに勝てるのはジュリアーニしかいないという昨年の過熱報道、そうした報道に影響を受けた側面も少なくない世論調査の数字などに少し油断しすぎたのではないか」。経済問題が焦点として浮上し、得意分野のテロ問題の陰も直前で一気に薄くなった。もっとも党内でも「市長としては有能なテロ後の行政対応を示したが、外交経験がなくテロ予防の実績は未知数」という辛口評価もあった(アメリカNOW第1号)。勝利したマケインはカリフォルニアのシュワルツネッガー知事の支持も受け、勢いを増している。マケイン候補をめぐっては、気になる高齢問題だが、共和党関係者も「1期限定の大統領になるかも」というが、ハードなキャンペーンを当面問題なくこなしている。フロリダの勝利で、改めて健康アピールにもつながったようだ。

以上

■ 渡辺将人: 東京財団現代アメリカ研究プロジェクトメンバー、米コロンビア大学フェロー、元テレビ東京政治部記者