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アメリカNOW16号 予備選挙の裏で語られる正副大統領候補の組み合わせ

February 18, 2008

【クリントンとオバマのペアを望む声】

ヒラリーとオバマの「ドリームチケット」については、政治関係者の間でも「入り口」のところまで論じられるものの、その先にはなかなか進まない。そもそもこれが民主党にとって「ドリームチケットなのか」という根本問題への疑念もあるが、ここであえて検討してみたい。これを「ドリームチケット」としたい希望が党内から出ているのは、ほかならぬ大接戦へのもつれ込みである。予備選で最後まで生き残ったということで、両方とも甲乙付けがたい魅力を持っていると評価してよいとされるなか、オバマとヒラリーが2人でペアを組めばそれだけ最強のコンビになるのではという希望が1点である。2点目に、この2人で仲良く組むことで党内に「しこり」を残さずすむのではないかという「しこり」対策。3点目として、これだけ長く予備選を行ったのだからせっかくの両陣営の人的資金的資源を本選にそのまま合流させるのがベストという現実論である。こうした希望は、両陣営のどちらかに決めかねながらも、民主党政権を強く望む中立的立場の民主党員に多い。

【「ドリームチケット」成立の障害とは】

しかし少なくとも現時点では、こうした希望的観測は残念ながら「非現実的」という見方が大勢だ。1つは大統領候補と副大統領候補が出身地域を分散しあうという常道からは外れる点である。ヒラリーとオバマはともにニューヨーク州とイリノイ州という北部、しかもリベラルな色彩の強いニュヨークシティとシカゴという大都市を抱える人口過密州の選出議員であり、きわめて出身母体が似通っている。南部、農村地帯、保守性という特徴をもつ地域の出身者を正副大統領候補に欠いた選挙戦となってしまう。2つ目は、「女性」と「黒人」という初の要素を持つ2人が正副大統領候補で組むことがあまりに「挑戦的」「進歩的」にすぎ、共和党保守派の投票率をいたずらに高める懸念、つまり本選でのギャンブル性である。3点目は予備選の激化で対立を深める双方の支持層の融合をめぐる困難さである。とくにオバマを支持する情熱的な層は、オバマに最後まであくまで大統領を目指して戦うことを求める声が少なくない。オバマの誠実な性格からしてこうした層を裏切って副大統領候補を受けるかという点はおおきな課題だ。またオバマ陣営の少なからずが、ヒラリーへの「カウンター」意識から結束したことは否定できない。そのヒラリーをペアに迎えることにもオバマ支持層は強く反対する可能性がある。

【副大統領「候補」の魅力とリスク】

また、ここで追記したいのはヒラリーが副大統領候補になる可能性の低さである。既に8年もの間ホワイトハウスの住人だったヒラリーが改めて副大統領になることに見いだす意義は少ない。近年のチェイニー副大統領という例外的な存在を除けば、一般的に副大統領がきわめて限定的な役割しかホワイトハウス内で持てないことを元大統領夫人ヒラリーは一番よく知っているからである。また、副大統領候補として本選を戦い、仮に負けた場合のリスクは、オバマ、ヒラリーともに甚大である。オバマはまだ「若手」とはいえ「大統領選挙に本選で負けた議員」と「予備選で撤退し本選未参加の議員」の差は大きい。将来の再出馬に少なからずの影響を与える。

エドワーズのケースは示唆的だ。2004年に副大統領候補として本選を戦ったエドワーズが、2008年に再度大統領選挙に挑んだものの、予備選で2位に食い込むこともできず既に撤退したのは周知の通りだ。2004年の大統領候補はケリーでありエドワーズの責任や能力の問題ではないとの指摘もある。しかし、負け戦に一度でも参加してしまえば、負けた候補者というイメージはついて回る。筆者はアイオワからエドワーズ陣営の活動に触れ、陣営スタッフや支援者などとも対話を重ねて来た。エドワーズの政治家としての高い資質やメッセージのクリアさがよく伝わってきて、むしろ陣営はきわめて活力があった。しかし、2004年に「イケメン候補」と騒がれたときのあの報道熱は完全に消えており、ニューハンプシャー以降は完全に泡沫的扱いであった。副大統領候補の声がかかることは名誉なことであるとともに、組む大統領候補と選挙年の情勢次第では政治生命の最後となりかねない。これは再出馬候補を比較的好む共和党とは異なる傾向でもある。

【南部がキーワードになるか:男性か知事か】

さて、では誰を選ぶのが望ましいのだろうか。予備選立候補者で既に撤退しているなかで一定の可能性があるのは、ヒラリーが大統領候補になった場合の、バイデン、リチャードソンとの組み合わせである。バイデンは白人男性であることと、外交における経験力と重量級の議員であることが魅力だが、専門が外交に偏りすぎていることと、南部出身ではないことがマイナスである。また上院議員が2人ペアを組むことへの不安視もあり、知事を望む声は根強い。リチャードソンは、クリントン政権時代からのクリントン夫妻への忠誠心が高いが、既に得意分野であるヒスパニック系をあえてヒスパニック系の知事と組むことで確保する必要性の低さと、やはり地域が南部出身ではないことが決め手に欠けるとされている。南部出身ではなく知事でもないが、可能性の高い人物にインディアナ州選出のエバン・バイ上院議員がいる。もともと筆者周辺の民主党の選挙関係者の間でも2005年頃から大統領選出馬の呼び声が高かった。財政保守派の中道的民主党員でクリントン大統領の信頼もある。その他は、ウェズリー・クラーク将軍も名前があがるが、2004年の大統領選挙で惨敗しているのと特定の州の公職者ではないので地域地盤の提供に適さない弱みがある。その他、接戦州(バトルグラウンド州)の公職者と組むことにも利益があり、オハイオ州のテッド・ストリックランド知事の可能性も指摘される。アイオワ州前知事でヒラリーの全国共同委員長でもあるトム・ヴィルザックの名前もあげておきたい。

【白人女性の副大統領候補の可能性】

オバマ周辺で語られているサプライズの可能性の1つとして、オバマが白人女性副大統領候補を選ぶとの切り札である。あえて女性と黒人という初物の要素を組み合わせてしまうことで、「新進気鋭」のイメージを全面に押し出し、高齢で中道のマケインの共和党側との差別化をはかろうという狙いである。また、ヒラリーに集う女性ムーブメントをそのまますくいとって本選になだれ込みたいという女性エネルギーの吸収である。ヒラリーが焚き付けた女性ムーブメントは確かなものであり、今回の大統領選挙で台風の目となっている「初の女性大統領候補を」の歴史参加の期待をくみとらない手はないからである。民主党の複数の選挙関係者や議会スタッフが筆者に個別に語ったところによると、オバマが選びそうな可能性として話題にのぼっているのが、白人女性であるカンザス州のカスリーン・セビリウス知事である。外交や安全保障での経験の乏しさは不安視されるが、カンザスという中西部の中心部の白人女性知事は魅力的だ。ただ、白人女性を選ぶのにヒラリーではない候補者という展開は、ヒラリーへの忠誠心の高い女性票の参加意識をかえってそぎ、この層の投票率を低下させるリスクもある。

【エドワーズ・ゴア・リーバマン】

ここで目が離せないのはエドワーズの動向である。エドワーズの白人南部男性としての要件は魅力的である。副大統領候補にならずとも有力な閣僚での政権参加が期待される。また、ヒラリーにとっての究極のドリームチケットとしてニューヨーク選出の民主党議員補佐官らの間で2月に入ってから期待を込めて一部語られているのが、ゴアの副大統領候補待望論である。ゴアは政策面でのクリントン夫妻との親和性が高い上にネームバリューも大きいことから、このような話が出始めた。しかし、一度は大統領になりかけた人物である以上に、ゴアは今回一切特定の候補を支持しないであろうと予測されており、現時点では夢物語の待望論の範囲にとどまっている。ゴアは中立を維持して、候補者が決まった後にデンバーの党大会で何らかのスピーチをするのではないかとも予想されている。いまやノーベル賞受賞者のゴアは、民主党全体を活性化する頼もしい存在であることは間違いない。それだけにゴア級の政治家が特定の候補者を現時点で支援することは党内のしこりにつながる恐れもある。共和党はロムニーが驚きの撤退後、早くもマケイン寄りの姿勢をみせるなど副大統領候補に意欲をちらつかせるなか、予備選で粘りをみせているハッカビーの保守派内からの人気も高まり、保守派取り込みを考えるのであえばハッカビーとの声もある。しかし「変わり者」マケインがあえて「中道コンビ」路線を打ち出す型破り戦略の下馬評も完全には消えない。キャンペーンに随所で付き添っているリーバマン上院議員の「サプライズ・チケット」である。これは主に共和党内というより、民主党内で「警戒」の文脈で語られている。

【ブルームバーグ市長の最新動向は】

最後に立候補の噂が消えないニューヨークのブルームバーグ市長であるが、市長周辺は筆者に対して「第三候補としての立候補の可能性はまだ否定も肯定もできない」と可能性が完全にゼロではないことを示唆しながらも、副大統領候補としての参加は「あり得ないだろう」として否定した。その理由として「世界でも有数の企業経営者として成功しており、ニューヨークという特殊な街のトップに現役で君臨する立場として、ナンバー2にわざわざ志願する理由などない」というもっともなものであった。ここで再認識させられるのは、副大統領候補というのは現政権などの重量級副大統領の例外を除けば、「ナンバー2」とみなされる現実である。とくに政界以外の分野で既に「ナンバー1」の座を手に入れていて後に政界に足を踏み入れたものには、魅力的にみえないポストなのかもしれない。もちろん政権で副大統領がどの程度力を持てるかどうかは、大統領が誰か、大統領と副大統領の関係などに依拠するもので一般化はできない。いずれにせよ、ブルームバーグ市長の動向には今後も目は離せない。

以上

■ 渡辺将人: 東京財団現代アメリカ研究プロジェクトメンバー、米コロンビア大学フェロー、元テレビ東京政治部記者

    • 北海道大学大学院メディア・コミュニケーション研究院准教授
    • 渡辺 将人
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