タイプ
論考
プロジェクト
日付
2009/4/21

「オバマ外交3か月と日米関係・米欧関係」(2)

ストラスブール(その1):オバマ大統領とNATO

このようにテロとの戦いの本家本元において、それに対する懐疑が広がっている状況で、そこからやや離れた場にいるアメリカ以外のNATO(北大西洋条約機構)構成国が、とくにその国民が、アフガニスタンでの軍事作戦を拡大・強化することにどの程度乗り気になるかどうかは、自ずと想像がつくであろう。オバマ大統領は、ヨーロッパ歴訪中のある演説で、ヨーロッパもアメリカ同様にテロの脅威に曝されていると警告し、ヨーロッパもアメリカと共通の利益をアフガニスタン安定化に対して持っていることを訴えた。オバマ大統領がヨーロッパ歴訪で抱えた課題はきわめて大きなものであった。

オバマ大統領がヨーロッパで一部にはロック・スターとすら呼ばれるほど高い人気を博していることは否定しようがない。ジョージ・W・ブッシュ政権下のアメリカを嫌ったヨーロッパの人々は、民主党政権の誕生を歓迎したし、ましてやJ・F・ケネディの再来とオバマの登場を歓迎したドイツのメディアに典型的に見られるように、オバマを一種のカリスマとして見る雰囲気すらある。にもかかわらず、G20に引き続きNATO首脳会合でも、オバマ大統領は、基本的には狙い通りの成果を上げることはできなかったといえよう。

NATOの創設60周年を記念し、フランスとドイツの共催で開かれた加盟28カ国の首脳会議は4月4日、「ストラスブール・ケール宣言」などを採択し、閉会した。オバマ米大統領によると、加盟国やパートナー国がアフガニスタン安定化のため、計約5,000人の部隊増派に同意した。アフガン安定化では、NATOとして(1)8月のアフガン大統領選に向けた計3,000人超の部隊増派、(2)アフガン国軍育成のための「NATO訓練派遣団」新設と追加資金供与、および(3)警官訓練のための300人超の治安警官派遣―などを決めた。このほかオーストラリアなどNATO非加盟国による貢献と合計すると、計5,000人増派となる。

ある意味で、軍事的にはきわめて規模の小さな共同戦線であるといえよう。イギリスのブラウン首相が相当アメリカに配慮したものの、それでも派遣される部隊は秋のアフガニスタンでの大統領選挙までの協力というニュアンスが濃厚である。

このような結果について、「ジョージ・W・ブッシュからであろうと、オバマ氏からであろうと、いくつかのヨーロッパ諸国は結局、軽い家事程度のことしかしないであろう」と、ある論者は指摘する(John Vinocur, “How Obama Did, Minus the Charm,” the International Herald Tribune, April 14, 2009)。

そのようななかで、フランスがNATOに完全復帰したことは、フランスとアメリカの関係改善を印象づける出来事の一つであった。オバマ大統領がグアンタナモ基地の対テロ戦収容所を2月に閉鎖すると決定したことはサルコジ大統領を喜ばせた。米仏関係は、G20やトルコのEU加盟問題などで依然として意見の違いを抱えつつ、また「特別な関係」といわれる米英関係を凌ぐことはとてもできなかったが、基本的には大きく改善したといえよう(“Allies of a Kind: France and America,” The Economist, April 11, 2009)。

なお、オバマ政権は、アフガニスタンについて、軍事力強化だけで対応しようとしているわけではないことには留意する必要がある。すでに前ブッシュ政権末期においても、アフガニスタンでの軍事作戦が成果を生み出せなかったという認識は持たれていた。さまざまな反省や教訓が語られていた模様である。それを踏まえつつ、オバマ政権は、より本格的な政策転換に踏み切ったといえよう。軍の増派はその一部であり、他には、一部タリバン勢力との交渉、経済的誘因の活用、復興支援など経済的援助の提供、パキスタンの支援、そして周辺国との協力などが含まれよう。これは、各国との関係を考える際に、重要な含意をもつ。

ストラスブール(その2):米欧の違い

アメリカとヨーロッパ諸国の政策の違いの原因は何であろうか。これは容易に答えられる問いではないが、ここでは敢えて3点に絞ってみたい。

一つは、アフガニスタンをどう見るかについての認識の不一致である。NATOは9.11事件後機構発足後初めて条約の第5条(締結国への攻撃に対する集団的防衛)を発動し、それによってアフガニスタンでの軍事行動を支持しているとはいえ、その脅威認識においてアメリカとは大きな温度差がある。主要国ではドイツを筆頭に、国内世論はアフガニスタン戦争に対して反対が強い。今回のNATO首脳会議開催中にも、反対派のデモが現地で行われていた。オバマを歓迎する雰囲気はありながら、アフガニスタンでの軍事行動には反対の意見が強い、多くのヨーロッパ人は、アメリカ国民と比較すると、元来軍事力で決着をつけようとする政策を支持しない傾向があるうえに、アフガニスタンでの戦争が、自分たちの安全とどのように関わるかについて、それほど強い切迫感を持てないでいるといえよう。

もう一点は、とくに二国間の同盟と比較した場合の特徴であるが、まさにNATOが多国間的同盟であることに由来する脆弱性である。たとえある一国がアメリカを熱心に支援しなくても、現在のように28カ国という多数の国からなる同盟体制であれば、とくにそれが目立たない小国であれば、そのような「ぬけがけ」が許容される可能性があり、またそのような国が存在しても、同盟体制そのものがただちに崩壊するわけではない。二カ国間同盟と比較すれば、ある意味で、フリーライダーの登場や存在がありうる構造になっている。

まして、消極的な加盟国が多数派になれば、アメリカが置かれた形勢はますます悪くなる。これが、第3点目の特徴であろう。ソ連による攻撃のような真に切迫した危機においては、すべての国が協力するであろうし、その場合には軍事力で突出したアメリカに対して、他の国は頼ることになろう。しかし、現在のように条約の第5条が発動されながら、切迫した危機意識が加盟国に共有されていない状況では、NATO全体の方針はかなりの程度多数決的になっていく。圧倒的な軍事力を提供しているアメリカの意思がどの程度尊重されるのか、必ずしも自明でない。

ブッシュ政権期には、ブッシュに対する反発が、NATO諸国の非協力的態度の原因の一つであるとの議論もあったが、オバマ政権になって、それが劇的に変わったわけではない。むろん、先にふれたように、ブラウン首相のようにオバマ大統領に相当配慮した指導者もいた。しかし、「ソフトパワー」的概念にあまりに依拠した議論は的外れになりやすい。事態の本質は、いかにヨーロッパで人気のあるアメリカ大統領が懇願しても、アメリカが望む増派はほぼありえないのであった。

ドイツの週刊誌Die Zeitの編集者ヨフェは、この点について、オバマ個人の人気はほとんど意味をもたない、国家には国益があるのみであり、友人はいないと冷たく論評している(Josef Joffe, “Obama's Popularity Doesn't Mean Much Abroad,”)。

ただ、気をつけねばならないのは、日本でも世界の多くの国でも、アフガニスタンに関する報道の仕方が、いかにアメリカ以外のNATO諸国がアメリカに協力していないかの方に、必要以上に傾斜していることである。いかに象徴的なものにすぎなくても、多数の国が戦闘要員を送り込んでいる事実も、銘記しておく必要がある。

東京:日本での日米関係の見方

ここで、日米関係について、目を向けてみよう。

現在の日米関係を考える際に重要な要因は、オバマ政権の性格と外交政策課題であり、また同時に日本の政局であろう。

日米関係の現状も、見る立場や角度によって、いろいろな評価が可能であろう。

やや長期的に、たとえば1970年代から80年代頃からの展開を踏まえて見る人がいれば、当時、日米の関係を「同盟」と表現するかどうかといった問題で政治的に紛糾したことを思い起こすと、いかに関係が深化し、またとくに日本国内で安保面での日米協力に対する支持が強まったかに気づかざるをえない。

他方で、現在の日本の政局を判断基準にすれば、近いうちに、かねて懸案の集団的自衛権についての憲法解釈の見直しなどが行われる可能性はきわめて小さく、この分野での日米関係を強化できる可能性はあまりない。インド洋での給油活動も、近いうちに中止される可能性もある。その意味では悲観的にならざるをえないという意見が存在しても当然である。

さらに、アメリカの政権が民主党政権であると、それだけで日米関係は悪化すると議論する立場もある。このような人は、日本では必ずしも少なくない。アメリカで民主党政権が登場すると日米関係は悪化すると決めてかかる議論が、日本ではやや多すぎるような気がするが、ともかく民主党政権に対する偏見は凄まじい。

さらに別の立場もある。まさにアメリカとアメリカ以外のNATO諸国の同盟関係との比較的観点からみる立場である。その観点から見れば、現に多くのNATO諸国がアフガニスタンに軍隊を送り、アメリカとともに戦っていることからわかるように、NATOがまさにともに戦う同盟であるのに対し、日本はそれができない。この点では、明らかに日本はアメリカの同盟国の中で、数段階弱い立場に置かれていると結論できよう。