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日中政策勉強会レポート「世界の食糧価格の高騰、その背景に迫る」

June 16, 2011

ゲストスピーカー:阮蔚 農林中金総合研究所主任研究員


東京財団で毎月開催している日中政策勉強会では、5月25日、農林中金総合研究所の阮蔚主任研究員を招き、昨今の世界の食糧価格の高騰について講演を頂き、最近の世界の食糧事情について、グローバルな視点から高原明生上席研究員をはじめ行政関係者、党スタッフ、議員秘書等が積極的に意見交換を行った。以下、研究会での講演内容をレポートする。

1.はじめに

2007年までの30年間、穀物価格は全く上がっていない。干ばつなどで一時的に高騰することもあるが、すぐに元に戻る。こうした状態がずっと続いていた。しかし、最近では穀物に対する需要の増加や投機マネーが流れ込み、価格の乱高下が起こっている。これが、穀物を輸入している途上国で社会不安を生み、暴動へとつながるきっかけを作りだしている。しかし、それは、あくまでもきっかけに過ぎず、根底には、以前からの問題として、先進国が余剰穀物を大量に途上国に輸出することによって途上国の生産体制が崩れている現状がある。投機マネーへの規制とともに、根底に横たわる問題を解決しなければならない。では、その根本的な問題とは何なのか。

2.穀物輸入率の高さと暴動の相関

今年初めに暴動、革命が起きたチュニジア、エジプトなどの北アフリカでは主食である小麦を4割から5割輸入している。エジプトでは、輸入依存率が8割にもなった時期もあった。中米も輸入依存率が4割と高い。2008年にハイチで暴動が起き、大統領が辞任に追い込まれ、ハイチの次にはメキシコで暴動が発生した。こうした食糧輸入率の高い国々では、エンゲル係数が高いため穀物価格の高騰が市民生活に直結する。その結果社会も不安定化し、暴動なども起こりやすい。それに引き換えアジアでは食糧輸入率は約8%と低く、基本的には自給自足が達成されている。ジャスミン革命の背景には“穀物の輸入問題”があった。アジアにおいて中国とインドが穀物を自給できているということは社会の安定の基礎となっていると言える。

3.北アフリカや中米で穀物輸入率が高い理由

北アフリカ、それに中米の共有点は地理的に北米とEUに近いという点である。2007年までの40年間以上、世界の穀物問題とはすなわち、供給過剰と価格低迷である。最も過剰状態にあるのはアメリカとEUである。供給過剰の穀物はアフリカや中米など途上国向けに輸出される。IMFはアフリカに融資する際の条件として実質関税を下げないと資金融資をしないとしているため、こうした国々は先進国からの穀物を輸入せざるを得ない状況だ。途上国の農家は零細農家で競争力が弱いために、輸入される安い穀物に負けてしまう。市場は輸入された穀物ばかりだ。アフリカにおける飢餓・貧困問題は、世界で主食となる穀物が過剰供給であるにもかかわらず、所得配分が公正に行われていないために起こる穀物問題と言える。

4.アメリカにおける農家への補助金とエタノール問題

では、なぜアメリカとEUは穀物供給過剰の体制を長期的に維持できてきたのか。そこには、アメリカやEUなどで実施されている農家の票を獲得するための農業補助金制度がある。アメリカの例を見てみよう。アメリカにおける農業補助金は、70年代以降、多額の金額が投入され、それによって、穀物は増産されていった。穀物を多く作れば政府は必ず買い取り、それだけ多くの補助金が農家に入っていった。しかし、80年代、90年代にはこうした補助金は政府の財政を圧迫するようになる。政府は増産された穀物を世界中に輸出する努力をしてきたが、それでも供給過剰と財政負担の軽減は見られなかった。そこで、アメリカは供給過剰のトウモロコシをエタノール製造に使い、90年代半ばよりエタノール補助金制度を導入し、国内のエタノール向けの新規需要を作り出すようにした。アメリカは「トウモロコシから取れるエタノールは石油よりも環境にいい」という理由で積極的にエタノール化を進めている。しかもアメリカは関税措置を取ることによってブラジルなどのより安価なエタノール輸入を阻止している状況にある。2000年以降、多くの農家がエタノール用のトウモロコシを生産するようになり、現在年間約1億2000万?のトウモロコシはエタノール向けに消費されている。こうしたエタノールのトウモロコシ需要は、補助金等制度に支えられ、確実なものであるため、投機資金もトウモロコシ等穀物市場に入るようになっていった。現在もこうして穀物供給過剰の状態は維持されている。

5.途上国の穀物増産による自給率向上

アフリカ等途上国は穀物を増産して自給率を高めていく必要がある。それには優良品種の開発と普及、灌漑設備や倉庫・輸送等農業インフラの整備が欠かせないが、いずれも膨大な投資になる。優良品種の開発に関してはかつて国際稲研究所が開発したコメの優良品種がアジアに普及し、アジアのコメ単収を大幅に上げたことと同様に、営利企業でない国際機関が行うことが望まれる。営利企業が開発した品種は、その開発コストを回収するために、農家が自主的に採種できないものが多く、毎年価格の高い種を買わなければならない。アフリカ等途上国の零細農家は高価格なそうした種子を採用しにくい。また、灌漑や輸送等インフラの投資に関しては先進諸国からの援助が期待される。これまで先進諸国は大量な穀物を援助してきたが、これからは「魚」を提供するのではなく、「釣りのやり方」を教えていくように、「穀物」の押し売りや無償提供だけでなく、穀物の生産性を高める「技術」や「資金」を途上国に提供していくことが望まれる。さらに、先進国の農業補助金がなくならないのであれば、アフリカ等途上国は関税を引き上げて国内穀物生産を守ることも必要ではないか。

6.中国における食糧問題

上記でも述べたように、中国では、基本的には食糧自給が達成されている。しかし、水不足や土壌汚染の問題もあり、さらに凶作となれば、多くの穀物を輸入せざるを得なくなるかもしれない。主食ではないが、すでに大豆は、世界で流通している8千万トンから9千万トンのうちの半分以上の5000万トンほどを輸入しており、国際価格がそのまま国内に展開されている。そこに投機マネーが入れば、一気に値段が上がるため、将来的には大豆を餌としている肉や乳製品が値上がるという状況は起こりえる。ただ、アフリカとは異なり主食となる米や小麦などは国内自給が達成されているため、食糧による急激な社会不安にはつながらない。また農業の雇用面で役割は相変わらず重要である。出稼ぎに出ている1億人以上の農民工が都市部に吸収され、定住しない限り、中国政府としては、農業を保護していく政策をとっていく。したがって、よほどの天候等要因による減産がない限り、輸入が今後すぐに大幅に増えることはないだろう。

(文責:大沼瑞穂 東京財団研究員)



配布資料「昨今の世界の食糧価格高騰と日中関係」 (PDF:1.44MB)

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