タイプ
論考
プロジェクト
日付
2012/9/26

胡錦濤政権の回顧と中国18全大会の注目点 ―経済政策の領域に関して(1)

中国の「国進民退」は改善されるのか ~民営企業と「新36条」を中心に~


多摩大学経営情報学部准教授
巴特尓(バートル)


1.はじめに


中国では、胡錦濤・温家宝体制発足以来、「中華民族の偉大な復興」と「和諧社会の実現」「科学的発展観」をスローガンとして掲げ、江沢民時代の経済成長至上主義がもたらした社会の歪みの是正に取り組んできた。発足当初の二年間こそGDP7%成長を目標に掲げたが、その後2005年から2011年まで7年連続で「保八」(GDPの8%成長を堅持)の目標を掲げ、2010年には中国は日本を追い越し、GDP総額世界第2位の経済大国となった。しかし、高度成長の代償として、貧富の格差拡大、環境汚染、共産党幹部の腐敗、社会のモラルの低下などの社会不安要素が顕著となってきている。更に、中国政府がリーマンショック後に実施した、国有企業によりほぼ独占されている鉄道や道路などインフラ分野への集中投資と2010年後半から本格化した金融引き締め政策により、一部の分野では国有企業のシェア拡大と民営企業のシェア縮小の傾向が顕著となった。いわゆる「国進民退」である。中国の民営企業は、中国の国内総生産(GDP)の6割、雇用の8割を占めるとされ、改革開放政策が実施されて以来の中国の高度成長に大きな役割を果たしてきたが、ここにきて大きな社会問題となりつつある。

本稿では、民営企業のこれまでの歩みと現状を踏まえた上で、今夏中国政府が打ち出した『民間投資の健全な成長の奨励と誘導に関する若干の意見』(以下「新36条」という)の内容と実施細則について概観し、今秋開かれる第18回中国共産党全国代表大会で発足すると見られる次期中国最高指導部が「国進民退」の局面を如何に克服するのか、について考えてみたい。

2.民営企業とは

1)民営企業の定義

(1)中国経済は、国有企業を中心とする公有経済(全民所有制経済ともいう)と民営企業・外資系企業を主とする非公有経済(以下、民営経済と称す)に大別できる。国有企業は、公有経済を構成する重要な要素で、中央国有企業と地方国有企業とに分けることができる。企業形態としては「国有独資会社(中央・地方政府による単独出資会社)」・「国有持ち株会社(国有株の持株比率により絶対的支配と相対的支配に区分される。前者の持株比率は 50%以上、後者は 30%以上 50%以下であるが、国が株式会社に対し支配的な影響力を持つ。)」・「国家資本(株式)参加企業」などに区分される。かつては国営企業と呼ばれていたが、所有権と経営権の分離を定めた1992年の中国共産党第14期全国代表大会以降、国有企業と呼ばれるようになる。一方、民営経済とは、民営企業と同義語で、個人企業(中国語では「個体工商戸」)と私営企業で構成される。民営企業は、公司あるいは企業分類上の名称で、あらゆる非公有制企業を指す。その他の企業タイプで、国有資本の参入がないものは、全て民営企業に属する(以下、個人・私営企業の総称として民営企業と称す)。

(2)個人企業とは、一般には経営者家族以外の被雇用者が8人未満、農業以外に従事する個人経営の小規模な事業体で、個人経営企業として登記されているものを指す。

(3)私営企業は、農村地域の請負世帯、外資企業、外資持ち株会社、株式会社、国内の個人による独資企業、個人同士のパートナシップ企業、個人出資の有限責任会社が含まれる。私営企業は、基本的に民間人が所有する企業で民営企業として登記され、かつ被雇用者が8人以上の企業を指す。


2)民営企業の歩み

民営企業は、改革開放政策の実施を契機として30年余りの紆余曲折を経て今日に至る。その紆余曲折を辿ると概ね次の三つの飛躍の契機を経て成長してきた。第1期:1978年末から始まった改革開放政策の実施以降、第2期:1992年のトウ小平の「南巡講話」以降、第3期:2005年の国務院「個人・私営企業等非公有制経済発展の奨励、支持および指導に関する若干の意見」(「非公36条」)の発表以降。主な発展プロセスは表1の通り。

3.民営企業の現状

1)企業数・雇用面で大きく躍進

中国では改革開放政策が実施されて30数年になる。この間、その申し子とも言うべき民営企業の経済規模は年平均20%以上(中国経済全体は年平均9.5%)の高成長率を維持し、国内総生産(GDP)に占める割合は1979年の1%未満から2006年は65%を占めるに至った*1。国家統計局の発表データによれば、個人企業数は1980年末の80万社超から2011年末は3,600万社に、私営企業は1989年の9万581社から964万社にまで増え、民営企業の数は中国全体の法人数の90%以上を占めている(これまでの企業数の推移は表2参照)。

また、「中国企業トップ500社」に占める民営企業の割合は2003年の3.8%(19社)から2007年は17.8%(89社)にまで拡大したほか、2011年末現在の民営企業は就業人口の80%をも吸収している(これまでの推移は表3参照)。更に、2004年7月1日から実施された民営企業への対外貿易経営権の緩和により、民営企業は国際貿易への参入が可能となり、対外貿易面でも重要な役割を果たしている。2009年の民営企業の輸出入総額(5,053億ドル)は、中国の対外輸出入総額の約23%を占め(2001年は1.7%)、国営企業の輸出入総額(22%)を初めて超過した。

こうした民営経済の急速な発展の背景には、1990年代初期から本格的に推進された国有企業の民営化がある。とりわけ、中小規模の国有企業の民営化は国有企業の国民経済に占める割合を大きく縮小させた。工業生産に占める国有企業の割合は、当初の約8割から、2008年には約3割まで低下した。

2011年に国家発展改革委員会と科学技術部が公布した「民営企業の研究開発機構設立の加速、促進に関する実施意見」*2によれば、中国全体の65%の特許や80%以上の新製品は民営企業によってもたらされた。このように、民営企業は中国の経済発展と技術革新や新製品の開発に大きな役割を果たしている。

2)世界的競争力を備えた企業が台頭

こうした中で、パソコン大手のレノボ(聨想)をはじめ、アリババ(電子商取引)、華為技術(通信設備)、サンテクパワー(太陽電池)、吉利(自動車)、海爾(家電メーカー)、蘇寧(家電量販)、三一集団(建機)などの企業に代表されるように、一部の民営企業は国内に留まらず海外でも企業上場(国内外合わせて1,000社以上とされる)を果たし、海外市場では頭角を現し始めている(2011年度「中国民営企業トップ500」上位10社は表4、「中国民営製造業トップ500」上位10社は表5参照)。

3)民営企業の課題

民営企業は次のような課題を抱えている。

(1)未上場の企業が多く、資金調達に困難がある。それによって、原材料価格の上昇、融資コスト高、税負担の増加などで民営企業の発展が阻害されやすい。

(2)企業のイノベーションと自社ブランドの確立の過程で、人材不足に加え、産学連携が難しく、また政府による政策的支援体制も及ばず、人材の確保や育成体制が形成されていない。

(3)「自己自営型」と言われるように多くの企業はファミリー・ビジネスに留まっているため、国内の国営企業ほか、外資系企業との競争に弱い。

(4)不動産や株など投機的な分野で成功を収めた企業経営者が多く、製造業やサービス業などで敬意を集める人物は限られており、また企業経営のプロと見なされる人はさらに少ない。

(5)エネルギーや原材料、金融、通信、鉄鋼といった国家の基幹産業部門で国有企業、特に中央政府系企業による独占・寡占化が進み、民営企業の市場参入が困難。

(6)海外での事業展開の際に、多くの企業は経済状況の変化や貿易障壁に悩まされている。例えば、土地使用、融資難、煩雑な許認可手続きなど。




  




*1 中華工商業連合会『民営経済青書』(2006年)。尚、外資を除くと45%を占める。
*2 同意見書の全文は、中関村国家自主創新示範区ウェブサイト(http://www.zgc.gov.cn/zcfg10/gj/75052.htm)、国家発展改革委員会幹部のコメントは、(http://tzswj.mofcom.gov.cn/aarticle/e/201208/20120808270634.html)に掲載されている。