タイプ
論考
プロジェクト
日付
2013/4/1

胡錦濤国家主席と温家宝総理の最後の全人代 <前編>

中国政府人事の動向


東京財団研究員
染野 憲治


胡錦濤国家主席、温家宝総理としての最後の、そして昨年11月の共産党大会にて習近平、李克強ら7名の党中央政治局常務委員体制となって初の両会(第12期全国人民代表大会(全人代)第1回会議、第12期全国政治協商会議(全国政協)第1回会議)が本年3月に開催された。

本稿では、(1)今回の全人代で最も注目された人事の動向、そして(2)今年1月より関心が高まっているPM2.5などに代表される中国の環境問題に関する全人代での議論を紹介する。

1. 日程

全人代は3月5日から17日午前までの12日間半(12日は休会)の日程で開催された。

全人代の議題は16議題、4部に分かれ、第一部(三日間半)は三時間半で政府活動報告などを聴取、第二部(三日間半)は三時間半で全人代常務委員会活動報告などを聴取、国務院(内閣)機構改革と職能改変法案を審議、第三部(四日間)は四時間で全人代常務委員会委員長・副委員長、国家主席・副主席、国務院総理・副総理、国務委員、各部部長、各委員会主任などの人事決定、第四部(半日)は各種草案の審議・採決、閉幕式などが行われ、17日午前に全日程終了後、新総理より記者会見が行われた。

なお、全国政協は3月3日から12日午前までの9日間半で開催された。

2. 主な中央政府等の人事

今回の全人代での注目点の一つは人事であった。昨年11月に第18回中国共産党大会(18大)が開催され、11月15日に第18期第1回全体会議(一中全会)にて次期の共産党最高指導部の顔ぶれ、習近平党総書記をトップとする党中央政治局常務委員7名などの選出が行われた。今回は国家主席・副主席、国務院総理・副総理、国務院(内閣)の各部長・主任などの人事が決定するとともに、地方トップの人事なども同時期に発表された。(表1)


ここで注目された人事の一つは国家副主席であった。同ポストは長らく名誉職的な位置づけであったが、1998年、江沢民国家主席が胡錦濤政治局常務委員(当時)を副主席に任命して以来、重要性を増し続く曽慶紅、習近平と政治局常務委員から選出されていた。今回も同様に政治局常務委員から選出されるのであれば劉雲山(序列第5位)の可能性があったが、結果はその下の政治局委員18名(常務委員7名を除く)のなかから李源潮が選出された。李源潮は昨秋の共産党人事でも政治局常務委員入りの可能性が噂された人物であり、同様に政治局常務委員入りの話があった劉延東、汪洋も今回、副総理で処遇されている。李源潮、汪洋の二人は5年後にある政治局常務委員の改選期にも年齢制限にかからず(現在の政治局常務委員7名のうち習近平、李克強両名以外は年齢制限により引退の見込み)、次期の政治局常務委員入りが濃厚とされている。

外交関係では、外交担当の国務委員が楊潔篪前外交部長に、外交部長が王毅前国務院台湾弁公室主任となった。2001年~2005年に駐米大使を経験し中国きっての知米派である楊と2004年~2007年に駐日大使を経験し知日派の王という組み合わせである。もう一つ、中国において外交を担当する重要ポストとしては、党の外交窓口である「中国共産党中央対外連絡部長」のポストがある。同部の王家瑞部長が18大では中央委員に選出されなかったことから、その後任に外交部筆頭副部長で、元対外連絡部副部長の張志軍の名が挙がっていたが、同氏は王毅の後任として国務院台湾弁公室主任に就いた。2013年3月末現在、対外連絡部部長は引き続き王家瑞氏となっている。なお、外交政策では彼ら3名より党序列が上の政治局委員に胡錦濤政権での外交顧問と言われる王滬寧中央政策研究室主任もいる。

経済関係では、マクロ経済政策を担当する国家発展改革委員会主任に、地質鉱山部や国務院での秘書経験があり温家宝前総理に近い徐紹史前国土資源部部長、財政部長に、朱鎔基元総理を支えた「四天王」とされる楼継偉前中国投資有限責任公司(CIC)董事長、商務部部長にWTO交渉などに携わり対外貿易の専門家である高虎城前商務部筆頭副部長が就いた(工業情報化部は苗圩部長が留任)。異例であったのは、18大で中央委員に選出されず閣僚級として定年の65歳を迎えていた周小川中央人民銀行行長が、王家瑞対外連絡部部長と同様に全国政協副主席に選出され(副主席は国家指導者級として定年が延長)、留任となった。太子党とされる周小川行長の留任は習近平主席の意向が働いたものとも考えられるが、彼もまた朱鎔基元総理を支えた「四天王」の一人でもある。

3. ポスト習近平の世代 - 60后(リュウリンホウ)の人事

政治局常務委員に選出されるには、共産党大会開催時に68歳未満であることが必要とされている。ポスト習近平が選出される第19回共産党大会が2022年10月に開催されると仮定した場合、政治局常務委員となる可能性があるのは、その時点で68歳未満(1955年11月以降に出生)の者であり、特に63歳未満(1960年11月以降に出生)の者は2022年より10年間の政治局常務委員を務める可能性を有している

ここでは、習近平党総書記の後任となり得る1960年以降生まれ(「60后」中国語の発音ではリュウリンホウ)の党中央委員及び党中央委員候補についての人事を概観する。

8000万人以上の中国共産党員から昨秋の18大では2270名の代表が選出された。このうち党中央委員は205名(うち政治局委員25名、その25名のうち政治局常務委員7名)、党中央委員候補は171名となっている。

60后は党中央委員に9名、うち政治局委員には2名がいる。党中央委員候補では62名おり、新疆ウイグル自治区アルタイ市書記の劉剣(LIU Jian)が1970年2月生まれで最年少かつ唯一の70后となっている。この62名のうち、7名が女性、12名が少数民族出身(女性はうち2名)、約20名弱が主に学術・軍・企業の経歴が中心の者であり、ポスト習近平という点では残る約30名が注目される。(表2)


昨秋の18大の時点では政治局委員の胡春華内モンゴル自治区書記、孫政才吉林省書記、中央委員の周強湖南省書記が省・自治区の書記として頭一つ抜けていた。昨年11月には胡春華が広東省書記に、12月には孫政才が重慶市書記とより大きな省・市へ異動した。他方、周強はこの3月に名誉職的な最高人民法院院長(我が国の最高裁長官に相当)へ異動した。

省・自治区の地位に次ぐ省のナンバー2(省長・副書記)には、党中央委員の蘇樹林福建省省長、張慶偉河北省省長、努璽•白克力新疆ウイグル自治区主席、陳敏爾貴州省省長の4名がいた。さらに、この3月に党中央委員の陸昊が黒竜江省代理省長に、党中央委員候補の郝鵬が青海省代理省長となり、この6名がほぼ横に並んだ。特にポスト習近平としては、ウイグル族の努璽•白克力新疆ウイグル自治区主席を除く5名が注目される。

さて、胡錦濤前国家主席は1984年~1985年に共産党の若手エリート集団である共産党青年団第一書記を務め、その後、同ポストは宋徳福(故人)、李克強、周強、胡春華、陸昊が引き継いだ。李克強は国務院総理となり、その後の3名は60后として今、名前を挙げたとおりである。本年3月には、この陸昊の後任として秦宜智前チベット自治区常務副主席が就いた。秦第一書記も60后の党中央委員候補である。なお、秦宜智第一書記は2009年秋に共産党組織の派遣により日本で研修を受けており、東京財団はこのときの日本側事務局を務めている。

60后の党中央委員候補では他にも孫金龍安徽省副書記、趙勇河北省副書記が元共産党青年団常務書記、吉林北京市副書記が元共青団北京市書記と共青団関係者が多い。

この他、前述の党中央委員候補で注目される30名には李国英(LI Guoying)水利部副部長など中央政府機関の副部長級、毛万春(MAO Wanchun) 洛陽市書記、高広濱(GAO Guangbin) 長春市書記、楊岳(YANG Yue) 福州市書記、陳川平(ZHEN Chuanping) 太原市書記、楊衛澤(YANG Weize) 南京市書記、王寧(WANG Ning) 北京市西城区書記、李群(LI Qun) 青島市書記、王文涛(WANG Wentao) 南昌市書記、呉政隆(WU Zhenglong) 重慶市万州区書記、万慶良(WAN Qingliang) 広州市書記など市・区のトップらが含まれる。


【参考資料】

  表1 主な中央政府等の人事 (PDFファイル:63.4KB)
  表2 主な60后の人事 (PDFファイル:75.2KB)




 中国共産党における定年制度については、政治局委員においては年齢上限が2歳の超過を認められることから(70歳定年制)、ポスト習近平は1958年11月以降の出生となる可能性もある。