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【Views on China】中国の軍事活動2015(3)-米中は軍事衝突するか-

February 22, 2016


東京財団
小原 凡司

地域情勢を左右する軍事プレゼンス

中国海軍が西に展開するのは、中国経済の海外発展を保護するためである。中国は、中東及び北アフリカ等の地域において、軍事プレゼンスを示す必要があると考えている。1991年の湾岸戦争を目の当たりにした、中国海軍の父と呼ばれる劉華清は、「中国海軍は世界に展開しなければならない」と指示した。米国のみが、軍事力をもって、自国に有利な地域情勢を創出できると考えたからだ。

また、2012年、弾道ミサイルによる攻撃や、機雷によるホルムズ海峡封鎖などをちらつかせて米国を牽制するイランに対して、米国はカタールに新たなレーダー基地を建設し、またペルシャ湾で多国間掃海演習を実施した [i] 。イランのけん制が無効であることを、軍事的実力を以て示したのである。

そして、再度、中東及び北アフリカに対する軍事プレゼンスの強化を加速しなければならないと中国に思わせる事象が生起した。2016年1月3日、サウジアラビアがイランと断交したのである [ii] 。「一帯一路」の真ん中で軍事衝突が起これば、中国の経済発展戦略は根底から覆る。

米国のシェールガス革命によって、米国がサウジアラビアから石油を輸入する必要が低下し、関係が希薄になったとは言え、サウジアラビアは米国の同盟国である。

シリアまで伸びる「シーア派ベルト」の構築を目論むとされるイランの背後にはロシアがつく。対立が深刻化し、軍事衝突を起こすことになれば、米国もロシアも、それぞれに軍事支援等のプレゼンスを強めることになる。

中国は、米ロと異なって、どちらかの側につくことをせず、双方に投資や軍事協力を行ってきた。両国の国交断裂後の同月19日から23日にかけて、習近平主席はサウジアラビア、エジプト、イランの3か国を訪問した。中国は、経済力を背景に両国に軍事衝突回避を促し、影響力の維持を図る [iii] 。しかし、地域における十分な軍事プレゼンスを持たない中国は、米ロのゲームの中で行動せざるを得なくなるかもしれない。

中国が仕掛ける非対称戦

中東に対する米国の影響力拡大を望まない中国は、日本に母港を置く米第7艦隊の艦艇等が地中海に展開する際に、その航路上にある南シナ海において米艦艇の行動に圧力をかける可能性もある。南シナ海は、海軍が世界中のどの地域にも自由にアクセスできることを安全保障の根幹とする米国と、自国の発展のために米軍の自由なアクセスを阻止したい中国の、双方の国益が衝突する海域であると言える。

中国が南シナ海で米海軍の行動を妨害したいと考えるのは、中東等の地域における軍事プレゼンス競争において米軍に対抗するために、当該地域に到達する米海軍の能力を少しでも低下させたいからだ。南シナ海における中国の軍事活動は、中国が米国に仕掛ける非対称戦であるとも言える。

現在、中国海軍は、少なくとも2隻の空母を建造中であり、2015年1月に、12000トン級の055型駆逐艦の建造を開始したとされる。さらに、中国版イージス艦と呼ばれる052D駆逐艦及び1990年代にはデザインが固まった054Aフリゲート等も大量建造中である。中国は、軍事力が劣勢の間は非対称戦を仕掛けながら、一方で、空母打撃群を西に展開できるよう、海軍力の増強をさらに加速する。

中国が、自らが望む軍事プレゼンスを世界各地に展開できるようになれば、その時には、中国は米国と声を揃えて「航行の自由」を主張するかもしれない。

中国が仕掛ける非対称戦は、南シナ海だけに止まらない。現在の米軍の作戦を支えるのは、衛星を含むネットワークである。大陸間弾道ミサイルの数量でも米国に劣る中国は、米国に対する核抑止の効果を心配している。

米国に対して核抑止を効かせ、通常兵力における劣勢も補うために、中国はサイバー攻撃や衛星破壊兵器の開発を進めている。自らの能力を米国と同程度まで向上させることが出来ないのであれば、米国の能力を下げれば良いと考えるのだ。

そして、米国が最も懸念するのが中国のこれらの活動である。現在では、中国の米国に対するサイバー攻撃は、米国の軍事作戦用ネットワークにも及んでいる。2015年5月に公表された米国の議会報告書は、中国のサイバー空間や宇宙空間における活動を明らかにしている [iv]

力のバランスがとれているかどうかは、双方の認識による。双方が、バランスがとれていると考えれば、相互に抑止が働く。しかし、非対称な両者の間では、どこでバランスがとれるのかわからないため、双方の不信感と警戒心が高まることになる。

サイバー攻撃をめぐる米中攻防

現在の戦闘は、ネットワークによる情報共有や指揮を基礎にしている。実際の戦闘では、指揮、通信、情報に関わるシステムやネットワークを無効化することが第一に行われる。その手段が、ジャミング(電子妨害)であり、サイバー攻撃である。実際の武器とサイバー攻撃は複合的に使用される。

ハイブリッド戦が一般的な戦闘手段になっている現在、サイバー攻撃に対する脅威認識は、その後に続く武力行使の可能性によって高められるのである。中国は、物理的な軍事衝突での米国に対する劣勢をサイバー攻撃等の非対称戦で補おうとするが、却って米国の対中脅威認識を高めている。

サイバー空間及び宇宙空間での活動は表面化しにくい。だからこそ米国は、衆目に晒される南シナ海で中国に圧力をかけている。米国が、中国から引き出したい譲歩は、南シナ海問題だけではない。実際に中国は、米国の圧力に屈して、サイバーセキュリティーの面でも譲歩しているように見える。

米国メディアは、9月の習近平国家主席の訪米を前に、中国当局が、米国の要請により数人のハッカーを逮捕していたと報じた [v] 。中国はさらに、企業などを標的とするサイバー攻撃を実施しないと米国に約束し、12月1日及び2日には、初の米中閣僚級サイバー対話にも応じたのだ。

しかし、サイバー対話に関する米国司法省の発表を見る限り、中国の譲歩は見せかけのものに留まっている。当該発表によれば、米中双方は、サイバー犯罪対処のガイドラインの作成、机上演習の実施、米中首脳間のホットラインの設置、サイバー犯罪対処における協力の強化等について合意した。これら合意は米中協力を印象付けるものであるが、その内容は、「協力を進める」ということだけである。

軍事衝突を避けつつ軍事力を向上させる

中国は、米国との決定的な対立を避けつつ、自らの軍事力向上を進める。地方の指導者との癒着の原因ともなっていた、軍区の再編にも取り組み始めた。習近平主席が、前出の中央軍事委員会改革工作会議において、「新たに戦区を設定し、戦区統合作戦指揮機構を構築する」と述べたのである。

中央軍事委員会が、2016年1月1日に公表した『国防と軍隊改革の深化に関する意見』によれば、人民解放軍改革の原則は、「中央軍事委員会が全てを管理し、戦区は戦闘し、軍種は建設する」ことである [vi] 。フォース・ユーザーとフォース・プロバイダの分離である。フォース・ユーザーとは作戦指揮の系統であり、フォース・プロバイダは部隊を養成してフォース・ユーザーに提供する。陸、海、空、ロケット軍の各軍種司令部は部隊養成を担い、原則として作戦指揮を行わない。この系統の司令部は「領導機構」と呼称され、作戦を行う「指揮機構」と区別される。

作戦指揮は戦区が行う。「中央軍事委員会-戦区-作戦部隊」という指揮系統になる。戦区の作戦は、戦区統合作戦指揮機構(統合作戦司令部)の下で、統合作戦になる。人民解放軍全体に対する統合作戦司令部ではなく、戦区ごとに陸海空統合作戦が行われ、中央軍事委員会が直接指揮するのだ。

中央軍事委員会に権限を集中し、4総部も廃止される。指揮系統及び管理系統を単純化し、中央の意図を末端まで行き渡らせ、人民解放軍の戦闘能力を向上させることが目的である。中国は対外活動における軍事力の後ろ盾を今すぐにでも必要としており、中国人民解放軍の改革と発展に拍車がかけられることは間違いない。


[i] 「米国防総省、カタールでレーダー基地建設 ペルシャ湾で掃海演習へ」 The Wall Street Journal 、2012年 7月 17日、 http://jp.wsj.com/public/page/0_0_WJPP_7000-479118.html
[ii] 「サウジ、イランとの国交断絶 在テヘラン大使館襲撃受け」『朝日新聞DIGITAL』2016年1月4日、 http://digital.asahi.com/articles/ASJ142G70J14UHBI001.html?rm=460
[iii] 「中国、アラブに2兆円超融資 習近平国家主席「信頼関係は揺るぎない」」『読売ONLINE』2016年1月22日、 http://www.sankei.com/world/news/160122/wor1601220010-n1.html

「中国、イランで原発2基建設へ 計70兆円の貿易合意」『朝日新聞DIGITAL』2016年1月23日、 http://digital.asahi.com/articles/ASJ1R5K08J1RUHBI018.html?rm=407

[iv] “Annual Military Report to Congress - Military and Security Developments

Involving the People’s Republic of China 2015”

[v] 「米の要請でハッカー逮捕 米紙報道 中国、習近平国家主席の訪米前に」『産経ニュース』2015年10月11日、 http://www.sankei.com/world/news/151011/wor1510110006-n1.html
[vi] “中央軍委関于深化国防和軍隊改革的意見”≪ 新華社≫2016年1月1日、 http://news.xinhuanet.com/mil/2016-01/01/c_1117646695.htm
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