第10回 新しい地域再生政策研究会報告 | 研究プログラム | 東京財団政策研究所

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第10回 新しい地域再生政策研究会報告

April 1, 2010

研究会概要

○日 時:2010年2月18日(水)18:30-21:15
○場 所:東京財団A会議室
○出席者:
岩佐 吉郎  (名桜大学教授)
梅川 智也  ((財)日本交通公社調査部長)
篠原 幸治  ((社)全国信用金庫協会地域活性化推進室長)
白石 克孝  (龍谷大学法学部政治学科教授)
関係省庁政策担当者
(東京財団)
赤川 貴大  (東京財団政策研究部研究員兼政策プロデューサー)
井上 健二  (東京財団政策研究部研究員兼政策プロデューサー)
冨澤 太郎  (東京財団奨学事業部) 他

議事次第

1.開会
○第9回研究会での議論のポイント
2.ゲストスピーカーによる報告
○演 題:『英国のパートナーシップによる地域再生の取組と日本への示唆』
報告者:白石 克孝 氏(龍谷大学法学部政治学科教授)
3.報告を踏まえた質疑、意見交換
4.今後の研究会の予定等について
5.閉会


前回研究会の議論等のレビューを行った後、ゲストスピーカーの白石克孝氏(龍谷大学法学部政治学科教授)から、英国におけるパートナーシップを基本とした地域再生等の取組の変遷及び現在進められている「地域戦略パートナーシップ」の仕組みやその具体的な取組事例などについてご報告を頂き、その報告をもとに意見交換を行った。以下は主な内容である。

【ゲストスピーカー報告要旨】

○多者協議型パートナーシップとローカル・ガバナンスを組み合わせていく中で、パートナーシップ型の社会が地域の中に作られる。これと併せて、持続可能性を実現していくことで、自立型の地域社会ができていく。
○英国のパートナーシップ型社会に向けた取組は、社会実験精神に満ちており、朝令暮改も失敗も恐れないで、とにかくどんどん制度を生み出し、チャレンジをしている。
○英国は中央政府の影響力が非常に強く、中央政府がガイドラインを示し制度の導入を進めると、地方自治体はそれに従わざるを得ないような仕組みになっている。
○例えば、自治体の評価項目の中に地域戦略パートナーシップが色んな形で明記されているので、実質的に自治体はパートナーシップに取り組まざるを得ない状況におかれることになる。ただ、中央政府はガイドラインは作るが、中身を全てデザインするというようなことはせず、地域の実情に合わせて取り組めるようにしている。ボトムアップを伴っているところと、伴わないところとで、結果として、地域によってずいぶん差が出来てきている。
○地域戦略パートナーシップに取り組む自治体の5%~10%でも成功するところが出てくれば、ローカル・ガバナンスという問題から見れば、とても大きな成果。
○パートナーシップというとアメリカのモデルが日本では紹介されることが多いが、イギリスの取組の方が日本になじみやすく参考になるのではないか。
○右肩上がりの経済社会は終わり、人口が減って経済が停滞する状態が一般化するというのは明らか。「成功の物差し」が変わる。
○いかに経済を成長させるかということというよりも、成長の定常化という事態が、地域社会に打撃にならないような仕組みとはどういうものかということを考えていくべき。その際、グローバル経済が地域の打撃の関数になってしまわないよう地域経済の仕組みをしっかりする必要がある。
○例えば社会の活力が、税の関数にならないようなあり方もあるはず。イギリスの荒廃指標の下位の地域へ行っても、経済の衰退がただちに社会の停滞や混乱につながっていないところもある。その意味で、社会の持続可能性をいかに増大させることができるかが重要で、経済成長と社会活力がストレートに結びつかないような社会づくりが必要。
○パートナーシップの重要性は、個々人が持っているエネルギーを社会化できる、結果的にそれがまた個人に返ってくるという循環ができるということ。
○地域再生ではコミュニティのトータルなクオリティが追及されなければならない。個別の事業の成功よりも、全体としての戦略的な成功が意味を持ってくる。
○パートナーシップには政策アプローチ、行政改革、民主主義の3つの系譜がある。この3つの系譜が合流することでパートナーシップが社会エネルギーを増大させながら、ひとつの仕事を多様な目的のために実施できることになる。
○例えば、ある公園を作るということをNPOが取り組む場合に、造園業者に頼んで公園を作ってもらうのではなく、地域の人たちが、その公園という1つのプロジェクトを通じて変わっていく。また、その公園の中に、生物多様性やビオトープのような発想を取り入れたり、子どもの参加などが組み込まれ教育的な効果も出てくるなど様々な目的が1つのプロジェクトの中で実現できることがとても重要。その評価は、植えた木の本数、緑地面積、金額だけではなく、その公園を巡って地域の人たちに新しい結び付きが生まれたか とか、地域がその公園を誇りに思うようになったか、地域への帰属意識への影響も評価 指標として必要。
○英国の地域再生系の政府予算は、自治体が単独で取れる予算は1つもない。全てパートナーシップを組まないと予算は出ない。パートナーシップを組まないプロジェクトは成果が乏しい、インパクトに乏しいという認識。アウトカムだけを問題にするのではなく、社会的なインパクトも問題にしている。
○英国のパートナーシップの取組は、最初はプロジェクトベースの、政府と民間事業者あるいはボランタリー組織との2者間パートナーシップだったが、多者協議型のパートナーシップが生まれ、やがて包括型の地域予算による政策ベースの多者協議型のパートナーシップへと変化してきた。成功や失敗を経験する中で、もっとより戦略的にその地域政策を立案し、実施していくような多者協議型パートナーシップが必要だという議論が、メジャー保守党政権の中期から労働党政権になって展開されてきている。
○パートナーとは誰かというと、NPO、協同組合、社会的企業(CIC:イギリスでは社会的企業の的確な法人格が先年作られた。)、会社法人、LLCのような合同会社、コミュニティ組織といった様々な事業体で、これらが組み合わさってジョイント・ベンチャー型の多様な事業を展開している。
○ローカル・コンパクトの重要性が増している。ローカル・コンパクトに署名する代表的なミニマムのメンバーは、自治体、ボランタリーセクター、コミュニティセクターのそれぞれ代表が参与する方式。当初は運動型で20%台に満たない締結率だったが、2004年以降、政府からの指示があり、ローカル・コンパクトを締結しないと自治体評価をきちんとされないということで拡大。
○保守党政権下の1994年に作られた単一地域再生予算(SRB)チャレンジ・ファンドというものが最初。その後、地域再生系の予算は、補助金であっても使途が限定されず、複数年次にまたがる包括補助型予算となっていった。これは後の労働党時代もしばらく受け継がれ、第6期まで応募された。2006年からは、公共サービスを供給するボランタリー組織などに対してはフルコスト・リカバリー助成(ボランタリー組織が、一般の事業者としてきちんとした事業体になり得るために必要な社会保険の費用や事務所維持のための経費などの費用も含めた事業費)が実現。
○重要なのは、自治体単独では様々な地域再生系の競争的予算は獲得できない申請の仕組みになっていること。マッチング・ファンドと呼ばれ、民間企業をはじめ、パートナーシップを組む様々な主体からの資金を話し合って出していく、その中で、事業の優先順位が決められていく。そういう意味で、予算を獲得するプロセスの中で、一定の合意が形成されるのが、イギリスの地域再生系の予算の原型になっている。
○パートナーシップを組むという以上は、ボランタリーセクターやコミュニティセクターが一定程度成熟、成長することが必要。そこで、労働党政権下では、コミュニティやボランタリーセクターに対する支援プロジェクトが行われた。例えばコミュニティ・ニューディール資金が98年にスタートした。ボトムアップ型の包括補助型の予算で、若者の雇用訓練を特に重視し、助成エリアを近隣コミュニティに置き、パートナーシップの実績を積んでいってもらう取組。その後、コミュニティ・エンパワメント資金とコミュニティ・チェストが作られた。これはもっと小さい予算で体験作り、組織づくりを支援するもの。こうした小さな組織に様々な形で、簡単な申請書を2、3枚出せば、100万、200万の単位の支援が受けられるようなことをやってきている。
○2003年から6年に、公共サービスの担い手として団体を育成していこうということで、フューチャー・ビルダーズという支援事業を実施。4年間に1億2,500万ポンドを執行。チェンジアップは、2014年までを目標に定められたもので、最初の時期の2003年から7年に、1億5,000万ポンドが支出されている。これはボランタリー団体が活動しやすくするためのインフラストラクチャーを作ろうというもので、イングランド全土でコンソーシアムが作られ、その中に様々な専門組織が立ち上がり、コミュニティやボランタリー組織に対するスキルアップや能力アップを支えている。このように多額の予算を投入、本気でサードセクターを養成している。
○社会的企業についても同様で、ビジネス型のアプローチで社会的課題の解決を図る事業体として、今までは開発トラストやチャリティ団体や協同組合があったが、新たにコミュニティ利益会社(CIC)が作られた。政府は2002年に社会的企業戦略を策定、2006年にアクションプランとして継承されていて、社会的企業に対する地域金融システムとしてコミュニティ開発金融機関を作り、応援している。
○パートナーが自然に育ってくるのを待つのではなくて、パートナーをきちんと育てていこうということが明確に取れるようなフレームワークとお金の使い方をしている。
○地域戦略パートナーシップはLSPと呼ばれる。これは2001年からスタート。当初は、まず近隣再生資金(NRF)という包括交付金(2008年で終了、総額29億2,500万ポンド。)が設けられ、最もイギリスで衰退した88の自治体に対して、荒廃度指数のよくない選挙区、ウォード(WARD)を対象に交付金が支出された。
○保守党政権時代は、パートナーシップを上手に組んで、いい事業を提案したところが競争的資金獲得していくという仕組みだったが、一定の地域間格差が発生。成熟の乏しい荒廃コミュニティというのは、パートナーシップで予算獲得といっても難しいので、一定期間てこ入れが必要ということで、100%政府資金で5つのカテゴリーの交付金を設け、支援を実施。地域戦略パートナーシップを構築し、衰退コミュニティに対する戦略として近隣地域再生戦略を立てることを地方自治体に求めた。
○2000年の地方自治体に関する法律がイギリスで初めて制定されたが、その中でコミュニティ戦略を持つことを義務付けた。様々な経済や住居、交通、都市計画に関連する組織、警察、消防、ボランタリー&コミュニティセクターや地元の企業、あるいは保健や文化や教育関連組織、環境関連の組織などが協議をし、中期的なコミュニティ戦略を策定、ここで地域の目標や優先事項を決定していくこととなった。
○LSPはインセンティブが弱い仕組みとして始まったため、LSP発展のための策が打たれてきたが、重要なのがLocal Area Agreement(LAA、地域合意契約)の導入。最近はLSP&LAAのワンセットでイギリスのガバナンスの説明がされることが多い。
○LSPのタスクとしては、持続可能なコミュニティ戦略の策定と実践。パートナーシップの過重負担を軽減するための地域のパートナーシップ組織の合理化、さらに、中央政府と地方自治体および地方自治体のパートナー(=LSP)の間で、3年間地域運営においてどういうアウトカムを出すのか、どのような予算配分にするのかを政府と地域主体との合意締結が主な内容。
○LSPの中には様々な政府系のエージェンシーや民間事業者も入っているので、民間の投資インセンティブを含めてこのLAAの中に埋め込んでいくというようなことが議論されている。
○政府から見れば、政府資金のデリバリーをしていくためにLAAがあるというイメージになっていくということで、メインストリーミングと言われている。
○ノッティンガムの地域合意契約を見てみると、115のターゲットが挙げられている。そのうちひとつが、「より安全で強靭な力強いコミュニティ」。クリーンで緑が多く、安全な公共スペースを構築するという目標がその中にあり、住民の近隣地域への満足度の高い地域と低い地域との差(現在は20%の開き)を埋めて、2009年までに半減させるという具体的な指標が掲げられる。エビデンス・ベースと言って、証拠を挙げないと評価されない。
○実践にあたって責任を持つパートナーシップ/団体、アカウンタブル・ボディは誰かというと、LSPの中でそれぞれのプロジェクトごとに確認する。イギリスの戦略的なパートナーシップは、サードセクターやコミュニティセクターが大きく関与する、そのための力をつけるため実践ベース、資金、組織ベースでも行っている。
○EUの構造政策でも直接地方政府に行くようなお金がいくつかあって、その中に社会実験事業リーダーというのがあり、これはパートナーシップを組まないと予算が申請できないことになっている。
○社会実験型でいろんなことをやっていく中で、民の力と政府の力の組み合わせ方を、どうやったらうまくいくのか学んできた。近隣再生資金の活用事例でみると、住宅地の再生を行う場合、貧困地区は課題が複合的なので、住宅をきれいにすれば何とかなるということではない。そこで、集会所、図書館、コミュニティカレッジや市役所の窓口、起業家支援、職業訓練、生涯教育の拠点施設を作り、併せてここで様々なプログラムを実施する、その際、近隣再生資金がドンと投入される。たくさんの事業リストがあって、優先順位を付けて組み合わされる。
○EUはマッチング・ファンドで50%助成、厳しい地域はもう少し助成率が高い。その残りを地域で自弁することになる。イギリスでは、このEUのマッチング・ファンドに、様々な地域再生系の補助金や資金を組み合わせることで残りの50を公的資金や民間資金でカバーした。こうした多様性は事業内容にも活かされ、複合施設を縦割りではなく、地域に必要なものをミックスして、ワンストップで全てできるようにすることも可能。

【意見交換ポイント】

○LAAは、基本的にはいくらの予算の枠の中で、どういう優先順位を付けていこうか を政府と地方政府が「契約」するという話。戦略ビジョンと合わせて お金の使い道もすり合わせる方向になってきているということ。
○補助金が細かく再分化されないようにするということで、社会開発については自治体 レベルのシングルポット、経済開発は広域レベルのシングルポット。それと政府の直 接的なメインストリーム(プロジェクトベースではないタイプの資金)があり、それぞれ一定の予算枠がある中で、その組み合わせ方をどうするかをLSPで話し合う ことになっている。LSPはとてもバーチャルな存在といえる。
○日本との大きな違いは、予算の規模。ボランタリー団体のネットワークづくりや、その専門者組織を作るために1億5,000万ポンドの資金をボランタリー組織の支援につ ぎ込んでいる。金額が大きく、かなりのことができるので、目に見えた成果が挙げられる。特徴的なのは、ボランタリー・アンド・コミュニティセクターというアプローチで地縁的なものも含んでいること。色んな特性を持った人たちが一緒に取り組むパートナーシップ文化の成熟は、1990年代から続けてきた蓄積の結果。
○中間年で1回モニタリングが入り、出来が悪ければ予算が削られ、あるいは修正を求 められる。評価の文化が定着している。枠組みを作る人が、実際に事業を実施する人と直結している。イギリスの地域予算は、マッチング・ファンドなので、残りの 資金を何から捻出するか議論が必要になってくる。話し合って合意できることが、即 実行されるというスタイルになっている。
○イギリスの場合でも15年ぐらいかけて制度を変化させてきている。日本で取り組む場合には、一挙に戦略型の予算編成ができるかと言われると難しいが、せめて個別プロジェクトではなく、テーマベース、課題ベースの地域再生予算制度にすべき。
○協働というとき、日本では、自治体の周辺業務をその対象としがちだが、本体の業務 を協働の対象としていくことが大切。
○グランドワークのコミュニティ公園は、訪問する度に少しずつ変わっていたが、これは自分たちで公園を作り変えていっている、コミュニティに対するオーナーシップのある公園。日本の場合だと、どういう公園にするかは専門家と自治体の人が話し合って決め、メンテナンスだけ町内会、地縁組織や子どもたちにやらせるという形になってしまっている。一番楽しい部分の、どんなものを作るかやどんな動植物がここにいて欲しいかということは、専門家の知恵は要るが、みんなで決めて作り上げていき、メンテナンスこそ自治体がやればよい。そこが本末転倒になっているから、地域が消耗していく。
○政策評価については、例えばEUの場合、構造基金から出る様々な結束政策(旧構造政策)では、評価のための経費が事業費の何パーセントとレギュレーションに組み込まれているので、それを外部に委託、第三者評価させることができる。類似地域の相互訪問やネットワークを作りということも予算の中に組み込まれている。それぞれの事業費の中に、一定の評価のルールと費用が組み込まれるというのが、ヨーロッパのスタンダード。
○この他、プロジェクトをマネジメントできる人を外から呼んできて雇用する経費も予 算に含まれていて、若いチャレンジブルな人や協働に関わる経験を持った人を外部から人材をハンティングし雇用している。LSPの事務局長クラスでは新聞で公募されることもある。人材の流動的な 活用が大切。
○目標の設定の仕方がこなれていて、分かりやすく、参加しやすいことが求心力につな がっている。例えば、健康に関わる目標を例にあげると、イングランドの平均余命よりも、リバプールの平均余命は何年間か短いので、それをこの何年間の間に、どこまで上げようといった目標が設定され、そのために、医療機関はどうする、健康に対する教育はどうする、というように、各々が取り組むべきことを議論、整理していくことになる。


文責:井上

〔参考:研究会配布資料〕
配布資料『英国のパートナーシップによる地域再生の取組と日本への示唆』【345KB】

    • 元東京財団研究員
    • 井上 健二
    • 井上 健二

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