H22年度 第1回 新しい地域再生政策研究会報告 | 研究プログラム | 東京財団政策研究所

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H22年度 第1回 新しい地域再生政策研究会報告

July 27, 2010

研究会概要

○日 時:2010年6月21日(月)18:45-20:45
○場 所:日本財団ビル2F 第8会議室
○出席者:
板垣欣也  (マネージメント・デザイン・オフィス代表)
岩佐吉郎  (名桜大学教授)
柏木千春  (神戸国際大学都市文化経済学科観光学コース准教授)
清水慎一  (地域活性化伝道師、JTB常務理事)
高橋一夫  (流通科学大学教授)
千葉光行  (市川市前市長)
関係省庁政策担当者
(東京財団)
井上健二(東京財団政策研究部研究員兼政策プロデューサー)

議事次第

1.開会
2.ゲストスピーカー報告
○演 題:『地域再生・まちづくりと新しい公共
~1%支援条例の経験から新しい公共を考える~』
報告者:千葉光行氏(市川市前市長)
3.報告を踏まえた質疑、意見交換
4.閉会

意見交換等の概要

個人市民税の1%相当額について、納税者自らが指定したNPO法人やボランティア団体の活動を支援する1%支援条例を全国ではじめて制定・施行するなど、いわゆる「新しい公共」の活動の重要性を認識し、これを以前から政策として積極的に市長として主導してきた経験を踏まえ、1%支援条例制定の背景やねらい、民主党政権下で積極的に進めることとされている「新しい公共」のあり方等についてご報告を頂き、その報告をもとに意見交換を行った。以下は主な内容である。

【ゲストスピーカー報告要旨】

○市川市では市長時代に「まちづくりミュージアム構想」を推進。これは、「まち回遊展」といって、町をぐるぐる地区ごとに回って、自分の町のよいところを発見するのと同時に、井上ひさし先生をはじめ様々な文化人の方々が市川市に住んでいらっしゃったので、住民の方々にそうした地域の文化的蓄積をもう一回検証してもらいながら、自分の町を愛するようにしようという取組。
○市川市の人口ピラミッドをみると、顕著なのが、団塊の世代と言われる60代の層と現在35歳の第2次ベビーブーム生まれの方々の層。この2つの層が非常に突出して大きい。35歳の方々があと25年すると60歳になり、今60歳の人が85歳になると、この人口ピラミッドの姿が相当変わり、今までとはまったく違った高齢化社会が出来上がる。この25年の間に真の高齢化に向かった社会づくり、対策づくりをしないと大変なことになるのではないのか。
○ところが、この国の長期債務は、これから高齢化がこのような形で進んでいくことが予想されているにもかかわらず、歳出が90兆になろうとしている中で、税収より国債の方が発行高が高くなってしまっている。このような状況下で、今のような「ばらまき」の政策で本当にいいのだろうかと懸念。今こそ、苦しいかもしれないが、きちっとした財政再建をしないといけない。
○市川市でも、平成3年から13年間で税収だけで123億が減少する、毎年10億円ずつ税収が減るという厳しい状況にあった。
○市長に就任した際に、市政運営のキーワードとして3つの言葉を掲げた。「地域」、「健康」、「協働」。「協働」は、市民参加のことで、これからのまちづくりは市民の力なくしてはできない。税収の入ってくる枠は決まっているわけで、その枠の中でやるには、市民の協力がないかぎり不可能。どのように市民に参加してもらう中で、まちづくりを進めていくか。「地域再生」の中の1つのキーワードとなる「市民参加」あるいは「市民協働」というものをどうつくり上げるかということに尽きる。そういう流れの中で、全国ではじめて市川で実施し注目された1%支援制度創設の動きが出てきたということ。
○団塊の世代の問題や市民ニーズの多様化・複雑化する中、市民サービスが拡大。それぞれをすべて賄いきれない状況。市民はまだまだ明治時代の感覚で、何でも行政にやっていただこうという意識が残っている。市民が自分たちの町は自分たちでつくるんだという意識をどのように持ち、どういう行動をとるかというのが、まさにこの1%支援制度の本質。
○市民の目線に立った行政を進めるため、3部18課を減らす大行政改革をする中、ボランティアの精神なくしてまちはつくれない、どのようにボランティアの人たちの力をもらうかということで、ボランティア支援課(現在はボランティア・NPO推進課)を新設した。
○市川市のボランティア活動の状況を分析してみると、法人が119、ボランティア活動・市民団体活動というのが約200、全体で約300団体。市政に協力してもらうのには、どうしてもNPO活動、ボランティア活動のお金が必要だが、300もある団体、規模も大小様々ある中で、どう補助金を出したらいいか基準づくりに困っていた。同時に、これだけあるボランティア・NPO団体の活動を市民に理解してもらい、どのようにして参加してもらえるようにするのか。それらを考えていく中で出てきたのが、この1%支援制度。
○制度創設にあたって、議会では保守系の中から反対討論まで出たし、革新系の政党からも反対されたが、実際は説明していく中で、最終的には大変近票差の中で議会において成立。構想を練ってから実際に市が予算で組むまでに約2年。
○1%支援制度の制度化にあたっては3原則を掲げた。事務費がかかりすぎないようにすること、税金を使うのだから正確であるということ、できるだけ市民が参加しやすいようなシステムにするということ。
○1%支援制度がどのように運用されているか、おおざっぱにいうと、1年以上市内で活動しているNPO・ボランティア団体が活動提案を市に出すとともに、市民に活動提案の内容をアピール。市では、NPO・ボランティア団体の提案を取りまとめ、冊子等にして全戸配布したり、WEB上で情報発信するなど市民に公表し、市民が支援してもよいと思う団体に投票すると、その投票された内容に従って補助金を団体に渡すという流れ。支援対象は、事業費のみ。団体の運営費等は対象外。支援金は、提案活動に係る事業費の2分の1が限度。市民からの1%申請の金額が総事業費を超える分は基金に預けられることになる。
○支援金交付にあたっては、NPO法人、税理士、市民、学識経験者等でつくる市の審議会で、ボランティア団体等からの申請書を審査、評価し、見直すべき点を指摘し、指摘事項を訂正した申請書を再提出してもらった上で、交付対象にしている。
○申請団体数は平成22年度で136団体、市民からの届出数も10,000人超と過去最大。平成19年度により利用しやすい制度になるよう、主婦や年金者など納税者以外の方の参加を可能にする地域ポイント制度の導入、選択できる団体を1団体→3団体にするなどの見直しを行った。
○地域ポイント制度とは、自治会の清掃活動や防犯活動、市川市が年1回やる江戸川クリーン作戦とか、年2回の町の安全パトロール、献血活動などに参加するとポイントがもらえ、そのポイントは市民プール、動物園や地域バスにも使えるというシステム。
○市川市では、市民の方にインターネット上で市政についてモニター調査をさせていただく「eモニター制度」という仕組みをつくっている。現在、4,000人がモニター登録。双方向性で、氏名・住所・年齢がわかるようになっていて、来年度の予算をつくるときに、「あなたはどういうようなことを予算の中でしてもらいたいですか」、「市川市の中であなたの何をいちばん重点を置いてもらいたいですか」という質問を投げかけていく、その中で、市民の本音の声を聞いて予算化しているほか、政策にも反映。「eモニター制度」でアンケートに答えるとポイントがもらえるようになっている。
○さらに、多くの市民の人たちに参加してもらうために、納税通知と一緒に、1%支援の投票用紙を一緒に同封し、自分の番号がすぐ書けるようにしたり、市民向け広報誌に申し込み用のはがきを付けたり、インターネットでの申し込みもできるようにするなどの工夫をしている。
○1%支援制度の導入で、市民団体の活動や事業をPRする機会が飛躍的に増え、市民への説明責任を通じて団体にも意識が変化。
○去年11月に1%支援制度に類似の制度を導入している自治体が一堂に介する「1%サミット」を開催。奥州市、八千代市や一宮市など14市が参加。どの市も税を払っていない人をどう参加させるかに苦労。市民税の0.1%相当額を予算化し、市民に団体を投票してもらって、投票数に500円をかけるというようなやり方で、支援額を決めるといった方法を導入するなど、各市様々な工夫をしている。
○税の収入の限界が見えてきているので、指定管理者制度をはじめ、様々な形で民間の力を使っていかなければ行政そのものがやっていけなくなるのではないか。
○市川市では行財政改革をはじめ、様々な改革に取り組んできた。歳入に見合った歳出にしていこうということで、職員の採用の2年間凍結、学校給食をはじめとした行政サービスの委託化の推進、庁内の部への人事権委託、予算編成権の部への一部権限移譲、経営会議の設置、市川市版ABC分析の導入、学歴・年齢を撤廃した採用試験の導入、専門員制度、60歳以上の高齢者の採用、e-モニター制度、コンビニと連携した電子化やISMS(Information Security Management System)の取得等の電子自治体の推進等。
○このほか、子育てに悩むお母さんの不安解消のために電話相談だけではなく、直接職員が出向き相談になる「すこやか応援隊」、二十歳の歯科検診や還暦式の開催などに取り組んでいる。また、ホームレスの自立支援のために、ホームレスを対象とした健康診断も実施。保健所と共同して、ホームレスのレントゲンを無料で撮って、そのときに、市営住宅や民間が提供してくれた住宅に入ってもらい、住居をはっきりさせることで、住所ができ、生活保護がもらえるようになる。3カ月の間に職業をあっせんし、自立してもらおうという仕組み。
○さらに、緑の少ない市内に緑を増やすための生垣設置補助や高台で降った雨を地下へ戻してもらうための浸透枡の整備を、高台で住宅を新築する場合には義務付け、既存住宅には浸透枡を無料で設置する「雨水条例」の制定などユニークな政策を推進。

【意見交換ポイント】

○民主党政権が打ち出している「新しい公共」という考え方は以前からあったもの。麻生総理の時の「ふるさと納税」は市川市の「1%支援制度」を参考にしたもの。自分たちのまちは自分たちで守ろう、つくろうというのが原点。日本における寄付意識は欧米に比べ低い。そういう意識をつくり上げていこうというのが発想の原点。明治以来の政治は、基本的に、税ですべてを賄う、あるいは国・県・市から市民が何かをしてもらうというような与える政治だった。民の方から何かをつくっていこう、自分たちのまちづくりは自分たちが主役だという意識を抑え込んできたのではないか。「市民が主役」とは、具体的に何が主役なのか、何をすればいいのか、みんな市民はわからないでいるのが現実。それを具体的に示していくことも施策の1つ。
○1%支援制度に登録した市民の中には、さらにボランティア活動にも参加するようになった人もいる。この波及効果は非常に大きい。さらに、1%支援制度の効果としては、税の使われ方への関心が高まったこととボランティア団体の横の連絡が出来たことがあげられる。
○市民の活動に税金を投入して支援する理由は、NPOやボランティア団体が取り組んでいる事業のほとんどが、きめ細かくやるとすれば、本来、行政がやるべき事業そのもの。ただ、行政はそこまでできていない。これまでの行政は、こうした事業を実施する団体に対して、自分たちの価値判断で評価し、支援をしてきた。今度は、それを市民自身が選ぶということ。
○市民活動の活性化というと、言葉は簡単だが、難しいこと。行政主導でやるとやや強制的になってしまう。市民活動の活性化とは、自分たちが自主的に動くようになること。自主的に動くためには、「納得」や「燃える想い」が必要。市民活動を活性化させるというのは、いくつかのボランティア団体の活動を市民が見て、活動に参加するようになること。
○市の職員のモチベート方法の1つが、年頭の施政方針説明会。フリーダムに意見交換し、年を追うごとに信頼関係ができてきた。
○ふるさと納税のいちばんの基本は、税の配分をどうするか。税の使い方に不満を持っている人が多い。裏側にあるのは、やっぱり税の使い方の問題。行政が制約された税の中で何をいちばんの優先順位として取り組むか。そもそも税の優先順位をどういうふうに決めるか。
○今、地方で議論になっているのは、公共交通機関の問題。地方はマイカー社会だったが、ようやく見直されてきている。公共交通機関の議論では、必ず交通事業者の経営問題にすり変わってしまうのだが、本当は行政が責任を持って取り組むべき話。こういったことも含めて、税のそもそもの使い方の問題が根源にある。
○予算の組み方は、国・県・市ともそれほど変わらない。財政担当部局がやっている。どこに予算を割り当てるかについて、省庁間あるいは部門間の力関係や首長をはじめとする他からの様々な圧力を感じた感覚、感性でだいたい振り分けられているのが実態。本当に市民・国民が願う予算編成なのかというと、必ずしもそうじゃないということは私自身も感じていた。そこでe-モニター制度を予算編成に組み込むなどの工夫をしてきたということ。130にわたる項目の予算づくり関わるアンケートを市民に向かって投げかけることで市民の声を聞き、財政とこの結果等を合わせてつくっているのが市川市の予算。どれだけ市民の声を予算化に組み込めるか。ただ、e-モニターも、30、40代が多く、子どもの保育所問題など子どもを中心にした声が多い。一方、違ったアンケートをとると、高齢者問題に対する声が大きい。市民の声・ニーズの分析は本当に難しい。そこを今、市川市も模索している中で、チャレンジしているというのが現実。大事なのは、オープンにすることと、国民の声、市民の声をどれだけ反映できるかということ。
○保育所の数と待機児童の数は非常に面白い相関関係があり、保育園をつくると同時に待機児童が同じように増加する。なぜかというと、なければしょうがないから我慢するが、施設ができたなら子供を預けたいということで、待機児童は減らない。今後、国は保育園の増園に対して力を入れるといっていますが、永遠の課題ではないか。
○市川市では市民から提案されたものを、行政は基本的にはお金は出さないが、人とモノは出しましょうという市民協働提案型制度もある。たとえば、自動車道路の横の斜面地に、通学用の歩道を地域の人たちが自分たちでつくるという提案があり、担当職員が設計図を書き、必要な道具も全部市が貸し、歩道をつくったという事例がある。
○市民活動支援の制度創設にあたって、現行の1%支援制度という税方式にしたのは、税金の使い道に関心を持っている人が非常に少なく、それをもっと、自分たちで払った税金を自分たちがどう使うんだという意識を持って見てもらいたかったため。税を「見える化」することが、払うという意識をつくることにつながる。ファンド方式という考え方は今でも消えていない。1%支援制度の支援額を超える申請分は基金に回しているので、いずれこの基金が大きくなると想われることから、その基金の使い道をどうするかについては内部でずっと議論されている。

文責:井上


〔参考:研究会配布資料〕
■ゲストスピーカー報告資料:『民の担う公共性の創造「1%支援制度」から考える新たなシステム』(PDF:3.07MB)

    • 元東京財団研究員
    • 井上 健二
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