タイプ
論考
プロジェクト
日付
2018/4/4

(特別寄稿)SDGs時代のCSR活動 ――ソーシャルセクターとの協働の意味

ANAホールディングス株式会社

コーポレートブランド・CSR推進部

グローバルCSRヘッド 金田  晃一

 
CSR活動の企業経営への統合活動、両者とSDGsを含む2030アジェンダの関係性の考察を踏まえ、改めて企業価値の観点からSDGsが日本のCSRに与える影響を「製品・サービス提供活動」「誠実な事業プロセスの維持・向上活動」「社会貢献活動」に整理し分析。SDGs時代における企業とソーシャルセクターの協働による社会貢献プログラム実施のキーポイントについても論じる。

 

― index ―
SDGsの有用性
SDGsが日本のCSR活動に与える影響
SDGs時代の社会貢献プログラム

 

 筆者は『CSR白書2014』(東京財団、2014年)において、1999~2014年の期間における日本のCSR活動の変化を概観し、「CSR活動による企業価値の保全・向上効果に対する理解が進んだ結果、グローバルに事業展開する企業を中心にCSR活動の企業経営への統合が進展している」と論じた。

 

 具体的には、CSR活動を以下の3つの実践活動に分類し(図1)

●社会課題を解決・軽減する「製品・サービス提供活動」

●自社に起因する社会負荷を低減する「誠実な事業プロセスの維持・向上活動」

●金銭寄付、製品寄贈など企業資産の無償提供に代表される「社会貢献活動」

それぞれの活動の経営統合が進展する理由として、

●新たな市場での売上に直接的に貢献する「企業価値の向上」効果

●ボイコット、ストライキ、訴訟などの事象を回避する「企業価値の保全」効果

●マーケティングやブランディングを通じた間接的な「企業価値の向上」効果

を挙げた。

 

図1 CSR活動の分類

 

出所 筆者作成

 

 さらに、「グローバルな社会課題リストであると同時に、潜在市場リストでもあるPOST2015アジェンダがCSR活動と企業経営の統合ドライバーとして重要な役割を果たしていく」と述べ、POST2015アジェンダ、すなわち、持続可能な開発目標(SDGs)を含む「我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ」(以後、2030アジェンダ)がCSR活動と企業経営のさらなる統合を推し進める点を指摘した。

 

 本稿は『CSR白書2014』掲載論考の続編である。2015年9月に国連で採択されたSDGsの有用性を企業価値の観点から概観した上で、日本のCSR活動に与える影響について、同様に「製品・サービス提供活動」「誠実な事業プロセスの維持・向上活動」「社会貢献活動」ごとに考察することを目的にしている。最後に、CSR活動の中でも「社会貢献活動」に焦点を当て、企業がNGO/NPO等のソーシャルセクターと協働して社会貢献プログラムを策定する際に留意すべきポイントについて、これまで経験した交渉現場の視点から紹介する。なお、本稿は筆者個人の見解である。

SDGsの有用性

 企業がSDGsを活用するメリットは何か。SDGsの企業向け解説書ともいえる「SDGsの企業行動指針(SDG Compass)」には、「企業がSDGsを利用する理論的根拠」として、以下の5点を挙げている(括弧内は記載内容の一部抜粋または要約)[1]

●将来のビジネスチャンスの見極め

(革新的なソリューションを提供できる企業にとっての成長市場を示す)

●企業の持続可能性に関わる価値の向上

(資源の効率的な利用や持続可能な事業モデルへの転換を促す)

●ステークホルダーとの関係強化、新たな政策展開との同調

(ステークホルダーとの信頼関係の構築を促し、法的リスクや評判リスクを回避する)

●社会と市場の安定化

(ルールに基づく市場、透明な金融システム、腐敗がなくガバナンスされた組織などの確立に向けて支援することで事業活動において発生しうるコストやリスクを軽減する)

●共通言語の使用と目的の共有

(ステークホルダーとの円滑なコミュニケーションと協働を促す)

 

 ここで挙げられている各要素を「戦略上のメリット」と「企業価値への貢献パターン」に分類した上で両者を関連付けることで、SDGsの活用による企業価値の保全・向上までの流れを整理した(図2)。SDGsを意識しながらCSR活動に取り組むことが、将来の市場への気付き、必要とされる革新的な製品やサービス、企業姿勢を含めたブランド力の強化、低コストの代替資源の利用、従業員のモチベーションの向上、操業についての地域社会からの容認、ステークホルダーとの信頼関係の強化などを通じて、最終的には、売上拡大、コスト削減、生産性向上、リスクの事前回避、リスクの事後対応力強化などの形をとって企業価値に繋がる道筋が見えてくる。具体的な事例として、ANAグループの考え方を示す。社会とANAグループの双方への影響度の観点から特定した重要課題(マテリアリティ)に対して重点的に取り組むことにより、経済的価値と社会的価値を創出することで、グループの持続的成長と、グローバル企業としてSDGsに貢献する道筋を「アニュアルレポート2017」上で開示している(図3)

 

図2 SDGsの活用によるメリットと企業価値

出所 SDGs Compassを参考に筆者作成

 

図3 ANAグループの考え方――マテリアリティと経済的価値・社会的価値

出所 ANA ホールディングス「アニュアルレポート2017」( https://www.ana.co.jp/group/investors/irdata/annual/pdf/17/17_00.pdf ) 32-33頁。

 

 また、社会の安定化が新たな市場をつくり、透明性の高い取引ルールや金融システムが取引コストの削減や取引リスクの軽減という形で企業セクター全体に対して裨益するという指摘は重要である。SDGsは、企業に対して、ルールやシステムなどの国際公共財づくりへの参画を促している。

SDGsが日本のCSR活動に与える影響(図4)

(1)「製品・サービス提供活動」への影響

 2030アジェンダには「民間企業の活動・投資・イノベーションは、生産性及び包摂的な経済成長と雇用創出を生み出していく上での重要な鍵である。(中略)我々は、こうした民間セクターに対し、持続可能な開発における課題解決のための創造性とイノベーションを発揮することを求める」との記述がある[2]。社会課題を事業機会ととらえる考え方は決して新しいものではないが、「民間企業の活動・投資・イノベーション」、すなわち、本業である「製品・サービス提供活動」が国連加盟193カ国の政府セクター、およびソーシャルセクターから期待されている、という明確なメッセージが発信されたことは、この活動に対する国際社会からの正当性、言い換えれば、“お墨付き”を得たという点で、企業セクターにとっては大きな意味がある。

 

図4 SDGsが日本のCSR活動に与える影響

出所 筆者作成

 

 2016年5月、日本政府は内閣総理大臣を本部長とするSDGs推進本部を設置し、同年12月に決定したSDGs実施指針において「SDGsの達成のためには、公的セクターのみならず、民間セクターが公的課題の解決に貢献することが決定的に重要であり、民間企業(個人事業者も含む)が有する資金や技術を社会課題の解決に効果的に役立てていくことはSDGsの達成に向けた鍵でもある。既に一部の民間企業がSDGsに社会貢献活動の一環として取り組むのみならず、SDGsを自らの本業に取り込み、ビジネスを通じて社会的課題の解決に貢献することに取り組んでおり、政府としてこうした動きを歓迎する」という考え方を表明している[3]。また、経済界においては、2017年2月、経団連が「Society 5.0[4]実現による日本再興―未来社会創造に向けた行動計画」を発表し、新たな経済成長モデルとして提唱した「Society5.0」が目指す未来とSDGsの理念は「軌を一にしている」[5]として、「Society 5.0」を通じてSDGs達成に貢献する考え方を示している。さらに、経団連では2017年11月に「企業行動憲章」および「実行の手引き」をSDGsの観点から改定する計画もあり、2018年以降、SDGsは日本企業に着実に浸透していくことが予想される。

 

 SDGsの最終年は2030年、そして、社会課題を解決・軽減する製品・サービスを世界に紹介する絶好の機会ともいえる東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会は、その名のとおり2020年に開催される。これら2つのイベントは、バックキャスティング思考に基づいたCSR活動の計画づくりや実践を促している。今後、日本のCSR活動は、創造性とイノベーションの発揮を通じて社会課題の解決・軽減を目指す「製品・サービス提供活動」を軸に、企業経営との統合を深めながら進展していくであろう。なお、そのような製品・サービスの開発やマーケティングには、ソーシャルセクターからの協力が必要になることは言うまでもない。

 

(2)「誠実な事業プロセスの維持・向上活動」への影響

 他方、SDGsには、企業にとって心地よい響きの目標やターゲットだけが盛り込まれているわけではない。「強制労働」「現代の奴隷制」「人身売買」「差別的な慣行」「廃棄物管理」「気候変動」「海洋汚染」「破壊的な漁業慣行」「劣化した森林」「動植物種の密猟および違法取引」「汚職や賄賂」など、研究・開発・調達・生産・広告・宣伝・マーケティング・販売・廃棄などの事業プロセスにおいて、企業が生み出す可能性のある負のインパクトを表す事象についても各所に盛り込まれている。

 

 上辺だけの活動でSDGsへの貢献を強調する「SDGsウォッシュ」や既に取り組んでいることに対する単なる「SDGsタグ付け」などの行為に対して、ソーシャルセクターからは批判的な声が上がり始めている[6]。2016年11月14日に開催された第5回国連ビジネスと人権フォーラムにおける基調講演で、ハーバード大学のジョン G. ラギー教授は、企業にとって都合のよい一部のテーマだけを取り上げて負の側面に触れない「チェリーピッキング(いいとこ取り)」について懸念を示した[7]。SDGsを推進するにあたり、企業は売上に直結する「製品・サービス提供活動」に着目しがちではあるが、「誠実な事業プロセスの維持・向上活動」は「製品・サービス提供活動」を進めるにあたっての前提条件であることを認識しておく必要がある。特に、人権に対する取り組みはすべての企業が果たすべき基本的責任であり、SDGsは実質的に企業に対して人権デューディリジェンスを導入するよう求めている。

 

 日本では、2016年4月、SDGsの達成のために、幅広い市民社会のネットワークづくり、および政府・国会などとの対話を促進することを目的とした「SDGs市民社会ネットワーク(SDGsジャパン)」が発足した。SDGsが掲げる各課題について、日本のNGO/NPOの幅広い連携や協力を促進し、企業との連携も図っていくとしている。また、日本の国際協力NGOのネットワーク組織である「国際協力NGOセンター(JANI)」も、企業を含む多様なステークホルダーをパネリストに迎えたSDGs関連のシンポジウムを開催するなどSDGsの達成に向けた取り組みに積極的である。ソーシャルセクターとの建設的な対話を進めることは、企業価値の保全の観点から重要なアクションである。

 

(3)「社会貢献活動」への影響

 金銭寄付、製品・サービスの無償提供、技術、施設、設備、ネットワークの無償提供、従業員ボランティア活動支援、企業財団活動支援などに代表される「社会貢献活動」は、「製品・サービス提供活動」や「誠実な事業プロセスの維持・向上活動」と比較すると経営戦略との統合度は低い[8]。しかし、SDGsの採択によって「社会貢献活動」は、以下に示す2つの観点から、より本業支援の色合いを強め、経営戦略との統合を深めている。

 

 元来、「社会貢献活動」は、自社の企業価値の向上ヘの道筋を考えた上で、対象となる社会課題を選択するなどの戦略性を持つことで、製品やサービスのマーケティング活動や企業のブランディング活動としても活用できるが[9]、先に述べたように、SDGsが社会課題の解決・軽減に向けた「製品・サービス提供活動」に“お墨付き”を与えたことにより、これに影響される形で「社会貢献活動」についても本業支援の傾向が強まっている。筆者が座長を務める経団連の社会貢献担当者懇談会では、2017年3月に「SDGsについて日本企業における対応を考える」をテーマに会合を開催したが、議論の中心は本業との連動性であった[10]

 

 さらに、「社会貢献活動」は「誠実な事業プロセスの維持・向上活動」を下支えすることで本業を支援する効果もある。これまでは、企業が不祥事を起こした際の事後的なリカバリー策として「社会貢献活動」が活用されるという印象が強かったため、「贖罪」というレッテルを貼られることがあった。しかしSDGsの時代には、自社の事業プロセスを見直して自らが作り出していると認識した課題に対しては、それが深刻化する前に、改善活動としての「誠実な事業プロセスの維持・向上活動」と併せて、課題の解決・軽減に資する「社会貢献活動」を進めることで、本業を支援することができる。

 

 具体的な「社会貢献活動」の活用例としては、「社会課題の解決・軽減を目指して開発中の商品を将来の市場候補地に無償提供し、フィードバック情報を開発に活かしながら、将来の消費者に対して製品名や会社名をPRする」「従業員を途上国の地方自治体やNGO/NPOのオフィスに派遣して現地の社会課題の解決・軽減に貢献しながら、将来の事業機会を探る」「基金や企業財団を創設して広範囲な資金助成プログラムを展開することにより、各地のNGO/NPO・研究者・学者などのキー・オピニオン・リーダーとのネットワークを構築する」「NGO/NPOへの寄付を通じてサプライチェーン上で関係する工場や農村の従業員に対するエンパワーメント・ブログラムを実施する」などが挙げられる。このようにSDGsは、「社会貢献活動」に対して「製品・サービス提供活動」や「誠実な事業プロセスの維持・向上活動」を側面支援する役割を与えている。

 

 他方、「社会貢献活動」は「誰一人取り残さない」という考え方の実践アプローチとして、今後、注目される可能性がある。「誰一人取り残さない」というコンセプトを実践するために、2つのアプローチがあると理解している。創造力、イノベーション、テクノロジーなどを通じて、さまざまな便益をこれまで届けられなかった数多くの人々に対して広範囲に届けるという「インパクト重視」のアプローチ、そして、目の前に課題を抱えている人々がいることを知った場合、その知っている範囲内で人々を一人も取り残さずに救うという「確実性重視」のアプローチである。前者は、市場メカニズムを通じ大勢の人々にアウトリーチする「製品・サービス提供活動」が得意とするアプローチである一方、後者の文脈では「社会貢献活動」に重要な役割が与えられている。特に、現場をよく知るNGO/NPOと実施する社会貢献プログラムは「誰一人取り残さない」を進める手法として再評価されるべきである。確かに、一過性、救われる人々の数が限定されること、受益者の支援慣れなどさまざまな批判はあるが、社会的に弱い立場にある取り残されそうな人々を少人数でも見出し、個々人のニーズに対応した、いわゆる人々に「寄り添った」形で支援する「確実性重視」のアプローチは、SDGsの趣旨に即したものである。

SDGs時代の社会貢献プログラム

 筆者はこれまで4つの異なる企業で18年間にわたり、「社会貢献活動」を含むCSR活動に携わってきたが、この間には、協働の難しさにも直面し、対話の途中でプログラムの企画が頓挫する経験もした。既に述べたように、SDGs時代の「社会貢献活動」は本業支援の傾向を強めると同時に、「誰一人取り残さない」コンセプトを実践するために、NGO/NPOとの協働プログラムに注目が集まる。本稿の最後に、より多くの質の高い本業支援の協働プログラムが実践されることを期待して、プログラムの策定プロセスにおける企業セクターがおさえておくべきポイントについて述べる。

 

(1)対話の初期段階で自社が得たいメリットを伝える

 社会貢献プログラムを策定したい企業は、パートナーとなるNGO/NPOに対して、プログラムを通じて自社が獲得したい「企業側のメリット」、すなわち、本業支援の観点について、対話の初期段階で説明しておくことが重要である。このプロセスを踏むことで、その後の対話がより円滑に進み、プログラムの完成度も高まる。「企業側のメリット」は、ステークホルダーとの関わりの中から創出される。例えば、社会一般との関わりからの「レピュテーションや知名度の向上」、顧客との関わりからの「売上の増加やファンの獲得」、社員との関わりからの「生産性の向上やイノベーションの発揮」、国際機関や政府との関わりからの「正当性の獲得や公的ファンドの活用」などが挙げられる。以下は、その一例であり、具体的な推進例についても併せて記載する。

 

●社会との関わり:レピュテーションや知名度の向上

 対象とする地域(国際社会全体、日本国内、活動地域)、アピールしたいプログラムの特徴(インパクトの大きさ、モデルのユニークさ)、情報発信メディア(マスメディア、ソーシャルメディア、口コミ)などを明確にして戦略を考える。プログラム名に企業名を入れるか、中間支援組織と協働するか、また、助成金プログラムの場合は、公募型助成にするか、計画型助成にするかという選択肢も事前に検討しておく。

 

●顧客との関わり:売上の増加やファンの獲得

 将来の顧客獲得に向けた製品・サービスの無償提供、現在の顧客獲得のためのコーズ・リレーテッド・マーケティング(例:売上連動型寄付)など多様な戦略がある。このほかにも、顧客参加型プログラムには、協働プログラムの現場に顧客がボランティアとして参加できるようなタイプや、顧客の寄付に企業が同額マッチング寄付を行うタイプ、企業が支援するNGO/NPOを顧客に選択してもらうタイプなどがあり、これらを通じてファンの支持を集めることも可能である。

 

●社員との関わり:生産性の向上やイノベーションの発揮

 将来の優秀な社員の採用、現在の社員のモチベーションや求心力の向上に寄与する。寄付プログラムを従業員投票で決める、従業員の寄付と同額の寄付をマッチングファンドとして企業が行うことなどにより、従業員のオーナーシップ感やリーダーシップ感を醸成するアプローチがある。協働プログラムの現場への社員参加をダイバーシティ研修の一環として推進することで、イノベーションを創出しやすい環境をつくることも可能である。社員の自主的な社会貢献組織とNGO/NPOとのつなぎ役を行う方法もある。

 

●国際機関・政府との関わり:正当性の獲得や公的ファンドの活用

 国際的なキャンペーンや実施国政府の国家戦略との連動性を確保することで、社会貢献プログラムの正当性や社会的なコーズ(大義)を獲得し、プログラムの推進力を高める。国際機関・政府と共同ブランディングをする方法もある。インパクト拡大のために、国際機関・政府のファンドを活用することなども視野に入れる。

 

(2)対等性を維持し補完性を見出す

 例えば、企業がNGO/NPOに協働プログラムの策定について相談をする際、細部にまで作り込んだプログラム案を持ち込み、それを変更の余地なく押し通そうとすると問題が発生する。NGO/NPOは企業のパートナーとしての資質に疑問を持ち始め、「企業はNGO/NPOを事業の下請けと見ている」と判断するかもしれない。対話の際にはNGO/NPOとの対等な関係性を常に意識しながら、プログラムを一緒に作り上げていくというスタンスを維持することが重要である。

 

 これまでの経験と反省から、まずは、企業側から、「解決・軽減したい課題」と「提供できるリソース」の2点、そして可能であれば、3点目として、想定している「実施アプローチ」を提示することから始めると、その後の対話が円滑に進む。参考までに、これまでNGO/NPOに実際に提示した課題のうち、プログラムとして実施にまで至った例を分野別に示す。

 

●教育:

・AV機器を活用したアジアの子どもたちの識字率向上[11]

・金融の仕組みを活用したインドネシアとフィリピンにおける教育アクセスの向上[12]

・自社施設を活用した日本の大学生向けサステナビリティ・カレッジの開校[13]

●健康・医療:

・アジアの子どもたちが直面する保健医療アクセス課題[14]

・アフリカ複数国を対象とした三大感染症に関する医薬品以外での10年間支援[15]

・日本国内に埋もれている公的支援体制が脆弱な保健医療課題[16]

●被災地支援

・マイクロファイナンスを活用したスマトラ地震被災者の生活再建[17]

・助成金を活用した10年間にわたる東日本大震災の被災者支援[18]

・無償航空券を活用した熊本地震の復興支援リーダーの育成[19]

●環境保全

・世界遺産周辺地域の生態系保全[20]

●NPOの基盤強化

・日本のNPOのリーダー育成のための人件費・研修費に限定した支援[21]

 

 NGO/NPOは社会課題に関する専門性があり、現場経験も豊富である。そこで、次の段階は、NGO/NPOから、より焦点を絞った課題の設定や具体的な解決・軽減方法などに関する提案を受ける。このあたりから、企業とNGO/NPOの相互補完性を意識した対話が始まる。その後は、想定される活動の実績(アウトプット)、成果(アウトカム)、社会への波及効果(インパクト)、そして、それらの測定や評価方法について対話を続け、信頼関係を深めながらプログラムの内容を精緻化していく。また、同時並行で、NGO/NPOは現場での活動準備を始め、企業はリソースの確保や決裁プロセスの準備を含む各種の社内調整を始めるという段階に入る。協働プログラムの策定にあたっては、このように「対等な関係」を維持し、「補完的な関係」を見出して、互いの役割や強みを尊重し合うことが重要である。

 

『CSR白書2017 ――ソーシャルセクターとの対話と協働』(東京財団、2017)pp46-57より転載

*書籍の詳細はこちら

◆英語版はこちら→ How the SDGs Can Benefit Japanese Businesses: Tips on Collaborating with the Social Sector


 

[1] Global Reporting Initiative(GRI)、国連グローバル・コンパクト(UNGC)、持続可能な開発のための世界経済人会議(WBCSD)「SDG Compss: SDGsの企業行動指針―SDGsを企業はどう活用するか」8-9頁( https://sdgcompass.org/wp-content/uploads/2016/04/SDG_Compass_Japanese.pdf )。

[2] 「我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ」第67条(国連文書A/70/L.1をもとに外務省仮訳、29頁)。

[3] 「SDGs実施指針」8頁。

[4] 狩猟社会、農耕社会、工業社会、情報社会に続く第5段階の社会「超スマート社会」に向けた取り組み。日本の経済発展と国内外の社会課題の解決を両立し、快適で活力に満ちた生活ができる人間中心の社会を目指した国家ビジョン。

[5] 「Society 5.0実現による日本再興―未来社会創造に向けた行動計画」4頁。

[6] 持続可能な開発に関するハイレベル政治フォーラム(HLPF)に関するNGO・外務省意見交換会(2017年5月11日)資料22頁より。

[7] 一般財団法人アジア・太平洋人権情報センター(ヒューライツ大阪)のウェブサイト掲載「第5回国連ビジネスと人権フォーラム基調講演」テキスト・日本語訳参照。

[8] 金田晃一「企業経営とCSR」『CSR白書2014』東京財団、2014年、180頁を参照。

[9] マイケル E. ポーター、マーク R. クラマー「競争優位のフィランソロピー」『DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー』2013年3月号、フィリップ・コトラー、ナンシー・リー『社会的責任のマーケティング』東洋経済、2007年、166-200頁を参照。

[10] 「週刊 経団連タイムス」2017 年3月30日号。

[11] 教育テレビプロジェクト(中村陽一、日本NPOセンター編『日本のNPO2001』日本評論社、2001年、108頁)。

[12] ソニーアジア基金(中村・前掲注11、108頁)。

[13] ダイワJFS・青少年サステナビリティ・カレッジ(日本経済団体連合会自然保護協議会編著『環境CSR宣言 企業とNGO』同文舘出版、2008 年、53頁)。

[14] タケダ-Plan保健医療アクセス・プログラム(『月刊グローバル経営』2013年7・8月合併号、日本在外企業協会、14頁)。

[15] タケダ・イニシアティブ(外務省『外交青書2013』173頁)。

[16] タケダ・ウェルビーイング・プログラム(塚本一郎、関正雄編著『社会貢献によるビジネス・イノベーション』丸善出版、2012年、75頁)。

[17] 大和証券グループ津波復興基金(日本経済団体連合会自然保護協議会・前掲注13、51頁)。

[18] タケダ・いのちとくらし再生プログラム(塚本・前掲注16、78頁)。

[19] 震災復興リーダー・コネクト・プログラム(ANAホールディングスグループ プレスリリース、2017年4月14日)。

[20] ダイワCI生物多様性保全基金(日本経済団体連合会自然保護協議会・前掲注13、53頁)。

[21] 「ダイワSRIファンド」助成プログラム(日本経団連社会貢献推進委員会編著『CSR時代の社会貢献活動―企業の現場から』日本経団連出版、2008年、166頁)。