タイプ
論考
プロジェクト
日付
2016/12/14

新たなモデルを構築できるか――中国のCSRの課題と可能性

Earth Hour 2016 In China  写真提供:Getty Images

 

CSR研究プロジェクト

プロジェクト・リサーチ・アシスタント 倉持 一

 

制度論では測れない存在

 現代の企業経営において、CSR(企業の社会的責任)は無視しえない。

 そもそも企業とは、利益獲得を目的に人為的に設立された実体のない組織(モノ)でありながら、法人というヒトとしての側面も持ち合わせている[1]。この文脈からCSRをごく簡単に説明すれば、市民社会から企業に対して寄せられる期待感とそれへの応答であるといえる。従来の「企業と市場」の関係性が、「企業と市民社会」へと幅が広がっている。

 CSRに対するこうした理解は世界各国へと広まっているが、興味深いことは、各国・地域でCSRに特徴が生じていることである。つまり、CSRは万国共通ではなく、ある程度現地化して根づいてきている。日本のCSRはしばしば「視野が狭く、海外の社会課題にまで目が向いていない」、「労働問題や人権問題に弱い」などと指摘される[2]。この現象の原因については、企業活動の土台となる文化・倫理思想、法制度、経済政策などの相違に求める新制度派経済学の制度論の観点からの研究が進んでいる。

 では、世界第2位の経済大国となった隣国、中国のCSRはどうなのであろうか。実は、中国のCSRは制度論だけでは測れない特殊な存在である。

環境は整っているものの……

 中国には、日本の渋沢栄一の唱えた道徳経済合一説にも影響を与えた孔子の教えがある。また、中国の企業法(中华人民共和国公司法)第5条は、企業に対する社会的責任の受諾義務を謳っている[3]。さらに、中国の企業制度をみれば、ドイツと同様に労働者の代表を役員に登用する義務を課すことで企業経営に労働者の意見・視点を組み込むことを企図するなど、中国のCSRを形づくる環境は、実はかなり整っている。その他、政治的にも中国ではCSRの国策的な普及措置が取られており、自然災害への援助や基金設立などといった分野の取り組みには、ここ数年で大きく進展がみられる。

 しかし一方で、マスコミでも大きく報道されるように、中国の企業が倫理的な問題や環境汚染に代表される極度の外部不経済を引き起こすのは珍しいことではない。また、戦略的CSRやCSV(共有価値の創造)のような本業を通じてCSRを実行していこうという動きが、欧米や日本に比べて弱いことも事実である。

作用しないモニタリング機能

 私は、この中国のCSRに生じている一種の矛盾的な状況の要因の一つに、「党企関係」に代表される社会構造上の特殊な関係性があるのではないかと考えている。党企関係とは、執政党である中国共産党と企業とのきわめて密接な関係である。多くの中国企業の役員・幹部は、同時に中国共産党の企業内党組織の幹部でもある。つまり、中国企業のガバナンスは、取締役会や監査役会が自律的に担っているのではなく、究極的には中国共産党が握っている。

 例えば、2008年に中国で発生したメラミン入り粉ミルク事件では、河北省石家荘市の大手食品メーカー・三鹿集団によって重大な健康被害が引き起こされたが、これにも党企関係が深く影響している。既に消費者や病院などからの報告で、自社製品によって乳幼児に健康被害が生じていることを把握していながら、同社社長は、反対する役員が存在する中で、事件隠蔽を主導した。兼務する同社内党組織代表として、記念すべき国家行事である北京オリンピックの開幕を控えた時期に世界中の注目を悪い意味で集めることは避けたいとの党上層部の決定に従ったのである。こうした一種の歪んだガバナンスが、今も中国では存在している。

 また、党企関係に加え、中国ではNGO/NPOといった市民社会の力が、政府や中国共産党の管轄・管理から自由ではないことの影響も大きい。モニタリング機能が企業のガバナンスレベルでも、社会構造レベルでも十分に発揮されていないのだ。

コーディネート次第で

 つまり、制度的・政策的には国家・企業・市民社会にCSRを促す流れ(トレンド)があっても、本質的には各々が相互に結びついておらずバラバラなのである。このように、制度論の直接的な援用だけでは容易に判断・分析できないのが、中国のCSRの特徴である。

 しかし、逆にいえば、コーディネート次第では、中国でCSRに関する諸々の関係性が強まり、国家主導という新しいCSRモデルとしてその力を発揮するかもしれない。いかにして、また、誰がこのコーディネート役を務めるのかが、今後の中国のCSRの課題である。


【執筆者略歴】

倉持 一(くらもち はじめ)

立教大学大学院経営学研究科博士課程後期課程修了、博士(経営学)。専門領域は、CSRに代表される高付加価値型ビジネスモデルの探求と、その国際的な応用可能性の分析。特に、同ビジネスモデルにおける信頼とコミュニケーションの役割や、CSRの多様性の制度論的分析などに強い関心をもつ。共著書に『CSR白書2016』(東京財団、2016年9月)、単著書に『中国のCSRの課題と可能性――善き経営の実現に向けて』(丸善出版、2016年12月25日刊行予定)。

 

[1] 参照:岩井克人(2005)『会社はだれのものか』平凡社。

[2] 参照:東京財団(2016)『CSR白書2016』。

[3] 「中华人民共和国公司法(2013年改正)」中華人民共和国国家工商行政管理総局。

 http://www.saic.gov.cn/zcfg/fl/xxb/201402/t20140227_142232.html