タイプ
論考
プロジェクト
日付
2018/10/23

CSR白書2018エグゼクティブ・サマリー「企業は社会課題別・取り組みの類型別にCSR 活動にどう取り組むべきか」

CSR研究プロジェクトが2017年度に実施したアンケートでは、「CSR活動の意義の再確認」をテーマに、個別社会課題別に、課題解決の取り組みと事業活動との関係性の実態把握を試みた。その現状を踏まえたうえで、企業は社会課題別・取り組みの類型別にCSR 活動にどう取り組むべきか、その意義を社内外に浸透させるうえでの課題と対策は何かについて、有識者論考からの示唆を踏まえ、提言する(『CSR白書2018 』(東京財団政策研究所、2018)pp6-10より転載)

プロジェクト実施の目的

東京財団政策研究所では、2013 年度より毎年、多くの企業にご協力いただき、CSR 活動についてアンケートを実施し、有識者論考や企業事例と合わせ、『CSR 白書』を刊行してきた。

2017年に刊行した『CSR 白書2017』では、多様化・複雑化する社会課題と、企業に対する期待と圧力の高まりを論じたが、この1年間でも、海外では、低炭素・脱炭素社会への移行にどう対応するか、国内では、労働生産性の向上・労働環境の改善等をどう実現するかについての議論が注目を浴びた。

企業が解決を迫られる社会課題は広がり続けている。東京財団政策研究所が主張してきた、社会課題解決と事業活動の「統合」の形も、社会課題の広がりに対応して多様化の傾向にあり、CSR 活動の意義については、社内でも役職や部門によって認識が異なることが多くなっている。結果として、本来達成しうる効果・成果が十分に得られない状況も起きているのではないか。

こうした問題意識のもと、2017 年度アンケートでは、定点観測としてステークホルダーとの対話と協働の実態等を質問することに加え、CSR 活動の意義を再確認するために、個々の社会課題別に、課題解決の取り組みと事業活動との関係性の実態把握を試みた。

具体的には、CSR 活動を「社会課題解決に向けた企業の取り組み」と捉えたうえで、次の3つの類型に分類し、優先的に取り組んでいる社会課題別に具体的な取り組みの類型を質問した(なお、ここでいう「社会課題解決」には、企業が事業プロセスで生み出す可能性のある、気候変動や差別的な労働慣行などのマイナス面を削減することも含む)。

  1. 金銭や物品の寄付、無償提供、社員のボランティア参加などといった社会貢献(社会支援)活動を通じた社会課題解決
  2. 調達、製造、物流などといった事業プロセスや、雇用・人事管理を通じた社会課題解決
  3. 社会課題解決に直接的に寄与する製品・サービスの研究開発や販売を通じた社会課題解決

CSR活動にどう取り組むべきか、その意義を社内外に浸透させるうえでの課題と対策は何かについて、研究者・実務家・アドバイザー等、異なる視点から有識者論考を執筆いただき、さまざまな示唆を得た。以下、アンケートと有識者論考からの示唆をもとに、企業の社会課題解決に向けた取り組みについて提言する。

提言

1.社会課題への関心・取り組みの優先順位のあり方

 アンケート分析結果:
社会課題への関心については、課題が国内なのか海外なのかで大きな差があり、その差は実際の取り組みの段階で顕著となる。また、関心の高低、および取り組みの優先順位の高低は、企業が本業として取り組める課題なのかということと一致する傾向にあり、これは社会課題解決と事業活動の「統合」が企業のテーマとなっていることをうかがわせる。

[ 関心・取り組みの優先順位が高い国内社会課題]

 経済成長・雇用、気候変動・災害、健康・福祉

[関心・取り組みの優先順位が低い国内社会課題]

 貧困、飢餓、平和


有識者論考から:

  • 企業と市民の関心のギャップ(市民は国内の貧困・飢餓・平和の問題に高い関心を持っているという調査もある)を埋めるうえでは、ソーシャルセクターをはじめ、幅広いステークホルダーとの対話がこれまで以上に重要である。
  • SDGs(持続可能な開発目標)に代表される社会課題を現在の事業活動に当てはめるという作業だけではなく、社会課題解決の視点から事業や組織を変革していくことが重要。旧来のビジネスの延長線上にある「リノベーション」ではなく、領域も手法も違う「イノベーション」が求められている。
  • 本来、企業とは、社会課題に対する解決策を提供することが役割であり、その貢献への対価をいただく存在である。企業はその原点に立ち返ることが、これからの「持続的経営」に繋がる。
  • 企業にとって、ステークホルダー、特に、NGO・NPOや社会的弱者等との対話や協働が、経営者や社員の心に自律的な価値判断を根付かせることになり、企業の意思決定や活動を後押ししていく。 

結論:

社会課題の解決が企業の役割であるという原点に立ち、本業に直結しない社会課題、成果の設定が難しい社会課題に対しても、広い視野で関心を持つべきである(その際、ステークホルダーとの対話が重要)。また取り組みにあたっては、既存の事業や組織を所与のものとせず、アウトサイド・インの発想で、社会課題起点で変革を行う必要がある(資金的・人的リソースの限界については、ステークホルダーとの協働で補うことを検討すべき)。

 

 2.社会課題解決と事業活動の「統合」―その類型別に求められること

アンケート分析結果:

具体的な取り組み内容については、社会課題ごとにばらつきはあるものの、社会課題解決と事業活動の「統合」の形は、「社会貢献活動を通じて」に比べ、「事業プロセス、雇用・人事管理を通じて」、「製品・サービスの開発・販売を通じて」が多く、企業は(少なくともCSR担当部門としては)社会課題解決と事業活動の直接的な「統合」を意識していることがうかがえる。CSR 活動の自社に対する効果としては、企業イメージアップや組織的・人事的効果(育成、採用、意識向上)が比較的高いが、収益の向上を感じている企業の比率は高くない。

有識者論考から:

  • 経済価値に社会価値を「統合」することは、競争優位性を実現するための攻めの戦略となる。その際、必要なコストを回収することができるのか、新しい市場展開において構造的で持続性のあるビジネス・モデルを構築できるのか、が重要となる。
  • SDGs の各社会課題の関連を気づかせる横軸となる「人権」への意識を高めるべき。人権尊重の基本方針を確立し、人権侵害を未然に防ぐ仕組みを確立し、確実に運用することが重要。
  • 社会貢献は、人材育成やモチベーション、信頼関係やネットワークの構築などの面から経営の基盤作りに役立つ。ただ、経営の基盤作りのどこに、どのように生かしていけばいいのか、そこでは戦略的視点が問われている。
 結論:
  • 今後、「製品・サービスの開発や販売を通じた社会課題解決」への取り組みが競争優位性の実現のためにこれまで以上に重要となるが、理念だけでなく、持続的に収益を生み出すことのできるビジネス・モデルの構築が重要。
  • 「事業プロセス、雇用・人事管理を通じた社会課題解決」において、すべての社会課題に関わる「人権」についての意識を高め、人権侵害を未然に防ぐ仕組みの運用が重要。
  • 伝統的なCSR活動のイメージである「社会貢献(支援)活動を通じた社会課題解決」への取り組みと、本業との関係性について、戦略的視点と丁寧な説明が必要。

 

3.CSR 活動の意義を浸透させるために

アンケート分析結果:

自社CSR 活動に対しては、概ね肯定的に認識している(特に「経営層のリーダーシップ」、「事業活動への結びつき」、「社会課題解決への寄与」)。一方、肯定意見の比率が低いのは、「社内研修・教育」、「予算・人員の確保」、「取組評価」である。

ただし、「経営層のリーダーシップ」の肯定意見の比率が高いのに、「研修・教育」、「予算・人員」、「取組評価」の比率が低いのは、経営層の旗振りが現場にまでは浸透していない可能性がある。

有識者論考から:

  • 重要性を増したサステナビリティと経営の統合に関して、経営としての方向性や優先順位を示すことは、もはやトップ以外にはなしえない。さらに、業界内のリーダーシップや政策提言にも積極的に取り組むべきではないか。
  • 「経済価値」に「社会価値」を統合する過程は大きな変革であるが、経営者は、そのベースにある「価値観」を社員(特に変革をリードするミドルマネジメント)に継続して訴え続けることが重要。
  • 企業は社会課題に対する貢献度を可視化し、コストや品質以外の新たな競争軸を確立していくことが期待される。グローバル先進企業は、創造すべき価値を具体的に定義し、アウトカムやインパクトを計測・開示している。

結論:
CSR 活動の推進に経営層のリーダーシップが重要であるという認識にとどまらず、経営層が、社会課題解決と事業活動のさまざまな「統合」の内容と意義について、継続的に社内外に訴え続けることが必要である。活動の評価については、客観的な評価指標の導入を推進し、新しい差別化要因として確立していくことが求められる。 

 今後の検討課題

今後、プロジェクトでは、多様化するCSR 活動の内容や意義の浸透について、外部のステークホルダー(特に投資家・顧客)に焦点をあてて、研究を進める予定である。ESG投資への関心が高まる中、本白書の論考でも、「先進企業の活動や開示が進むにつれ、それだけ企業に期待される活動水準も高まる。

一方で、開示は情報利用者、特に投資家に意思決定の判断材料を与えるが、受益者を意識した、リテラシーの向上も求められる」「CSR活動はステークホルダー、特に投資家に対しては必ずしも明示的な説明が行われていなかったが、株主の影響力が強まり、ESG投資が拡大する中、企業は自らのCSR 活動を、より明示的に情報発信することが求められる」との指摘がされている。

ステークホルダーを取り巻く環境の変化、情報開示の在り方、さらには、情報の受け手に求められるもの(責任・価値観・情報リテラシー)について、多面的に検討を行う予定である。