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CSRを拓く対話と協働――第4回「CSR 企業調査」分析

February 28, 2018

CSR研究プロジェクト
リサーチ・アシスタント 倉持 一

東京財団「CSR企業調査」の構造

東京財団CSR研究プロジェクトでは、これまで3回、「CSR企業調査」を実施してきた。今回の調査(2016年実施の 第4回調査 )でも基本的な方針に変更はない。東京財団「CSR企業調査」の基本方針とは、社会課題を中心として組み立て、そこにソーシャルセクターとの関わりを加味するということだ。CSRに関する類似の調査では、企業活動が中心になっていることが多い。しかし、われわれは、CSRの本質は社会課題の解決にあると見ている。そこで、今回の調査では、社会課題に関して若干の変更を加えた。それは、従来の東京財団独自に設定してきた10項目の社会課題を、持続可能な開発目標(SDGs、 図表1 )に基づく17項目に改めたことだ( 図表2 )。

図表1 SDGsの17目標

出典 グローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパン(GCNJ)「持続可能な開発目標(SDGs)」

図表2 社会課題の変更

出典 東京財団

さらに、社会情勢の変化やこれまでの調査で浮き彫りになった日本企業のCSRの現状と課題をふまえて、第4回「CSR企業調査」の枠組みを以下のようにつくり出した。まず、ステークホルダーに対する認識、ソーシャルセクターとの協働の現状、自社CSRに対する成果認識など、これまでの企業調査と同様に、定点観測として、繰り返しにはなるが企業側に尋ねている。また、ステークホルダーに関する重要事項については深掘りを進めるため、新たな質問も用意した。合理的配慮への対応状況も新たに追加した項目の一つである。これらさまざまな角度から現代的なCSRに切り込む設問を用意することによって、日本企業のCSRの成熟化と新たに浮かび上がった課題を提示したいと考えた。また、今回は、SDGsのインパクト、合理的配慮への対応状況といった、ここ最近の社会情勢を踏まえた質問も行っている( 図表3 )。

図表3 今回の「CSR企業調査」の基本構造

出典 東京財団

約200社から回答を得て

2016年9月5日、公開情報をもとに東証一部上場企業、主要非上場企業、主要外資系企業約2,400社に質問票を郵送した。回答期限は11月30日に設定し、郵送またはメールにより197社から回答を得た。このうち148社(約75%)は、前回の調査でも回答いただいた企業である。80社近い企業からは、第1回から今回の第4回までのすべての「CSR企業調査」に回答いただいている。

回答企業197 社の中心となったのは、「年間売上高1,000億円超5,000億円以下」、「総従業員数1,000人超5,000人以下」といった規模の企業である。なお、これらの比率は過去の調査と大差ない。おおむね、本企業調査に回答していただく企業の規模は固定化されてきている。

本調査から明らかになった5つのこと

調査分析結果の詳細や具体的数値は『CSR白書2017』をご覧いただきたいが、今回の調査分析では以下の事項が明らかになった。

一つ目は、「SDGsが日本企業に与えた影響は限定的であった」ということ。日本企業の約8割は、SDGsの発効を原因とするマテリアリティの変更を行っていない。さらに、SDGsの発効によって新たに認識した社会課題も多くない。では、日本企業がSDGsの発効という国際社会の動静を無視していたのかといえばそうではない。前回の調査結果から見ても、SDGsそのものへの関心は高かった。要は中身の問題である。SDGsという存在や意義には大いなる関心を有していたものの、その中身(17目標)の多くが日本企業にとって既知の領域であったがゆえに、マテリアリティの変更というCSR活動の根本を揺るがすまでには至らなかったのだろう。良くいえば、日本企業のCSRの成熟化を示しているし、悪くいえば、日本企業のCSRの硬直性を示す現象だ。

これに加え、日本企業のCSRが解決目標として重要視し、解決に向け実際に努力している社会課題にも固定化の兆しが見られる。つまり、「取り組み率の高い社会課題」と「取り組み率の低い社会課題」が、ほぼ決まりつつある( 図表4、5 )。繰り返しになるが、日本企業のCSRに必要なのは、シンプルな表現だが、「視野を広げていくこと」に尽きる。

図表4 取り組み率の髙い社会課題

出典 東京財団

図表5 取り組み率の低い社会課題

出典 東京財団

二つ目は、「ステークホルダー対話の実施率は極めて高いが、その対話相手には偏りがある」ということ。過去3年分の調査結果を振り返ったことで、日本企業のステークホルダー対話の実施率が極めて高いレベルで推移していることが明確になった( 図表6 )。企業とステークホルダーとのパイプは、確かにつながっているようだ。しかし、対話の相手を詳しく検証すると、「NGO・NPO」といったいわゆるソーシャルセクターとの対話が少ない( 図表7 )。もしかすると、日本企業はNGO・NPOに対して一種の見えない恐怖感を抱いているのではないか。そしてそれは、相手に対する情報が不足しているからではないだろうか。『CSR 白書2015』の海外事例(マークス・アンド・スペンサー、SAP)で示したように、海外企業の中には、NGO・NPOといったソーシャルセクターの情報を収集し、テーマに合わせて適切な対話相手を選択しているところもある。そうした企業は、NGO・NPOと対話し、つながることを恐れていない。情報の少ない相手と対話することは誰でも難しい。まずは、情報収集と蓄積が必要ではないか。

図表6 ステークホルダー対話実施率の推移(過去3年間)

出典 東京財団

図表7 ステークホルダー対話の相手

出典 東京財団

三つ目は、「ソーシャルセクターとの協働実施率が逓減傾向にある」ということ( 図表8 )。それだけではない。総体的には、日本企業がソーシャルセクターとの協働に寄せる期待感も弱まっている( 図表9 )。この要因を探ることは、現時点では難しい。営利追求を旨とする企業と、非営利組織であるNGO・NPOとが、ずっと同じ方向を向いて手を携えて歩いていくことは、根本的に難しいのかもしれない。しかし、企業は社会課題解決に対して万能ではない。足りない知識も能力もあるだろう。ソーシャルセクターをパートナーとして肯定的・積極的にとらえていく必要がある。今後企業は、自らがノード(結節点)となり、ソーシャルセクター同士をつなぐという意識が求められるのではないか。

図表8 ソーシャルセクター(NGO、NPO等)との協働の実施状況(過去3年間)

出典 東京財団

図表9 ソーシャルセクター(NGO、NPO等)との協働に期待していること(過去3年間)

出典 東京財団

四つ目は、「合理的配慮への対応は順調」ということ( 図表10 )。日本経済団体連合会(経団連)などの調査結果によれば、日本企業はコンプライアンス面への意識が高い。障害者に対する合理的配慮もコンプライアンスでとらえる企業も多いだろう。まずは、それでもいいだろう。しかし、CSRがそうであったように、いずれ障害者雇用や合理的配慮にも戦略性が問われるようになるのではないか。そうしたときに、日本企業はコンプライアンスという従来のとらえ方を転換できるのか。その準備はいまのうちからしておくべきではないか。対応が順調であるがゆえに、コンプライアンスという枠にはまり過ぎないか、若干の懸念が残る。

図表10 合理的配慮への対応の有無と対応していない理由

出典 東京財団

最後は、CSRの一つの側面であるガバナンスの問題と自社CSR活動の自己評価である。前者についていえば、日本企業の役員の多様性確保にはまだ改善の余地があり( 図表11 )、特に、「女性役員の社内登用は遅れている」( 図表12 )ことが明らかになった。日本政府は近年、ワークライフバランスについて具体的な方針や目標を示し、女性の社会進出や活躍を後押しし始めている。少子高齢化社会に突入した日本にとって、労働力の確保と優秀な人材の活用は、安定的な経済成長を持続させる上でも喫緊の課題だ。新入社員から管理職を経て役員まで段階的に昇進するという、日本企業に多く見られる人事システムに則れば、女性役員の社内登用が増加していくのには、しばらく時間がかかるだろう。期待を込め、その推移を見守りたい。

図表11 役員の出身元

出典 東京財団

図表12 外国人・女性役員の登用状況

出典 東京財団

また、CSRの自己評価についていえば、おおむね現状に満足しているようだ。質問に回答した142社のうち124社(約87%)が50点以上と判断している。この点についても、今後の推移や他の質問事項との関係性を分析するなどして、自己評価を高める方策について追究していきたい。以上を取りまとめたものが 図表13 である。

図表13 今回の調査で明らかになったこと(まとめ)

出典 東京財団

企業が持続可能な成長を遂げるために何が必要か

われわれは今回の「CSR企業調査」の結果を踏まえ、キーワードに「対話と協働」という言葉を選んだ。環境ビジネス業界の権威であるスチュアート・ハート コーネル大学ジョンソンスクール教授は、企業が持続可能な成長を遂げるためには、NGO・NPOを含む外部ステークホルダーと交流を深め、単なるビジネス遂行だけでは得られない知識や経験を習得することが必要だと説いた( Capitalism at the Crossroads, 3rd ed., 『未来をつくる資本主義[増補改訂版]』 )。対話と協働は、CSRの促進だけでなく、持続可能性を高めるという企業経営の基本戦略においても重要なキーワードとなる。こうした視点を企業のみなさんにももってもらいたい。

今回も多くの企業のみなさま方に、ご多忙の中アンケート調査にご協力いただいたおかげで、これだけ多くの知見を得ることができた。あらためて、ここに感謝を申し上げたい。

◆英語版はこちら→ Dialogue and Collaboration for Sustainable Management: Analysis of the Tokyo Foundation’s Fourth CSR Survey


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『CSR白書2017――ソーシャルセクターとの対話と協働』 (第1部 総論 第2部 対話と協働をつなぐ)

『CSR白書2016ーー変わり続ける社会、生き残る企業』 (第1部 変わり続ける社会における企業/第2部 生き残る企業とは/第3部 変化がみええきたSRIの動向/第4部 小さいからこそ「できる」――中小企業が取り組む社会課題解決)

『CSR白書2015――社会に応えるしなやかな会社のかたち』 (第1部 日本のCSRの課題と今後の道すじー第2回「CSR企業調査」分析/第2部 「対話」と「内包化」を実現する6社の事例/第3部 CSR最前線―絶えず変化する社会の要請に応えるために)

『CSR白書2014――統合を目指すCSR その現状と課題』 (第1部 今、なぜCSRなのか/第2部 6社の事例から見るCSRのこれから/第3部 CSR最前線―マルチステークホルダーの視点から/第4部 企業は社会課題解決の担い手となれるのか―課題「CSR企業調査」)

関連CSR論考

倉持一 「戦略的CSRとしての障害者雇用」 (2017/12/13)

鈴木隆 「 いま、見直すステークホルダーとの関係――高まる期待と圧力、求められる対話と協働」 (2017/11/8)

    • 東京財団政策研究所CSRワーキンググループメンバー/実践女子大学 生活科学部 現代生活学科 准教授
    • 倉持 一
    • 倉持 一

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