タイプ
論考
プロジェクト
日付
2017/11/8

CSR論考「 いま、見直すステークホルダーとの関係――高まる期待と圧力、求められる対話と協働」

 

鈴木 隆

CSR研究プロジェクト・リーダー

 

多様化・複雑化する社会課題は解決の方向に向かっているか

 企業活動を社会課題解決の視点から調査分析する東京財団CSR研究プロジェクトが2014年に『CSR白書』の刊行を始めてから一貫して主張してきたのは、社会課題解決と事業活動の「統合」である。これは、社会にとっての利益(SDGsに代表される社会課題解決への貢献)と会社にとっての利益(事業活動への貢献)双方を実現する経営や事業を進めていくことを意味する(図1)。アンケートやヒアリングによる調査からうかがえることは、CSR部門のみならず、経営層もしくは社員一人ひとりが、さまざまな「統合」の方法を試みていることである[1]

 一方、広く世界に目を向けると、社会が激変する中で、社会課題は解決の方向にあるといえるだろうか。むしろ課題は多様化・複雑化し、解決のハードルはより上がっているといえないだろうか。

 ここでは、ここ3年間の国内外の環境変化を踏まえた上で、4回目を迎えた「CSR企業調査」分析やCSRの現状と課題、特に「ソーシャルセクター[2]との対話と協働」について論じてみたい。

国際協調路線の変容と行政の守備範囲のさらなる縮小

 最近3年の環境変化としては、まず、グローバルな社会課題に対する国際協調路線の変容が挙げられるだろう。2008年のリーマンショック、その後のユーロ危機を乗り越えてきた国際協調路線の変化の象徴として、2016年6月、英国において欧州連合(EU)離脱の是非を問う国民投票が行われ、EU離脱がEU残留への投票を上回ったこと、2016年11月、アメリカ大統領選挙において、保護主義的な通商政策(環太平洋パートナーシップ協定[TPP]撤退、北米自由貿易協定[NAFTA]見直し)や移民・難民に対する厳格な政策を訴えたトランプ氏が勝利したことが挙げられる。

 その変容の背景には、さまざまな要因の積み重ねがある。中でも大きな要因として見落とせないのが、深刻化する移民・難民問題である。主としてシリア・アフガニスタン・南スーダンからの難民はこの数年で急増し、難民・庇護申請者の合計は、この3年で急激に増加している[3]。にもかかわらず、リーマンショック以降に顕在化した、国内での格差問題を抱え、各国の対応はさまざまな状況である。先進国での景気(税収)の低迷が続く中で、ボーダーレスな社会課題解決に国家が役割を果たすことは、難しくなってきている。

企業への期待と圧力は高まっている

 一方、企業の社会課題解決に対する期待と圧力は高まるばかりである。2015年9月、国連総会において「持続可能な開発のための2030アジェンダ」が採択された。このアジェンダは、それまでの「ミレニアム開発目標(MDGs)」の後継となるもので、その中で掲げられた17の目標と169のターゲットが持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals: SDGs)である。先進国による途上国支援の色彩が強かったMDGsに対し、SDGsは先進国を含めた全世界の共通目標とされた。行政の守備範囲が縮小する中、SDGsの達成における企業への国際社会の期待は高まっている。

 東京財団では、『CSR白書2016』の巻頭論考において、各企業がSDGsをきっかけに、自社CSRの捉え直しの動きが出ていることを論じた。同書発行後に実施したアンケート、第4回「CSR企業調査」では、SDGsの17目標に沿った形で、「社会課題」への関心・解決のための実践について質問した。この調査結果から見えてきたのは、一方で、対象となる社会課題の固定化が懸念されるものの、日本企業の多くは(少なくともCSR担当部署としては)、既にSDGsで提示された社会課題に対してなんらかの取り組みを実践中である状況、他方で、多くの企業で、役員や社員を対象にSDGsに関する研修プログラムなどを実施してきたが、結果としては、「CSR担当部署以外」のSDGsへの認識・理解は高いとはいえない、という相反する状況である[4]

 『CSR白書2016』において期待した、「SDGsをきっかけに、日本企業の強みがさらに活かされ、社会がより良いものになり、そこに日本企業が貢献し、競争力が高まる」という理想と、現実とのギャップをどう埋めていくのか、東京財団としても現状把握のみならず、具体的な解決策についても今後問題提起していきたい。

あらためて、社会課題の解決に“必須”のソーシャルセクターとの対話と協働に注目する

 『CSR白書2017』(11月20日刊行予定)では、ステークホルダー(特にソーシャルセクター)との「対話と協働」に注目している。その理由としては、SDGsやパリ協定に見られるように世界規模で解決すべき社会課題が提示され、企業への期待と圧力が高まる一方で、企業の単独の努力では限界があり、さまざまな立場のステークホルダー、特に社会課題を熟知し、その解決のヒントを与えてくれるソーシャルセクターとの対話と協働が重要と考えたからである。

 これに対し、多くの企業がステークホルダー対話を実施しているものの、ソーシャルセクターとの対話の実施率が、「株主・投資家」「顧客・消費者」「従業員」「地域社会・コミュニティ」「サプライヤー、ビジネスパートナー」に比べ相対的に低いことがわかっており、今回の調査でもその状況に変化はなかった[5]。さらに、ソーシャルセクターとの協働実施率の低下傾向も同様に確認された[6]

 これまでも、ステークホルダー(特にソーシャルセクター)との対話が社会課題の発見に有効であること、一方で、重要な社会課題発見の機会で、多様なステークホルダー(特にソーシャルセクター)との対話が少ないことを指摘してきた(図2参照)

企業とソーシャルセクターの対話と協働の実態・あるべき姿

 ソーシャルセクターの強みとしてさまざまな点が挙げられるが、企業との連携の観点からは、特に下記の点に注目したい。ただし、対象となる社会課題の内容・ソーシャルセクターの活動の規模や歴史により、必ずしもすべてに当てはまるものではない。

 

専門性:特定の社会課題への強い関心から、社会課題の発生原因・解決方法への知識・経験、また、自らが対応できないときの人脈を豊富に有している。

機動性:社会課題に常に関心を持っており、リソースを集中させているため、課題の発生に対して(場合によっては発生前段階から)機動的な対応ができる。

第三者目線/客観性:特定のステークホルダーとの利害関係が弱いことから、課題に対してステークホルダーと関わる際に、第三者目線・客観性を保つことができる。

地域との連携:社会課題を抱える地域の行政・企業・住民との関係性は、商品やサービスを提供する企業と地域の関係性とは異なる(事業所・工場などがあって地域の税収や雇用と密接に関係している場合を除く)。

 

 一方で、ソーシャルセクターの弱みは、営利を主たる目的としていないことから、組織力・資金力にあるとされる。対し、組織力・資金力は企業セクターの強みである。この部分が補完されるとすれば、企業とソーシャルセクターとの連携は双方にとって大きな効果があるはずである。

 東京財団「CSR企業調査」では、協働を行わない最大の理由は「接点がない」「適切な相手がわからない」となっている[7]。日本企業と国内外のソーシャルセクターとの連携の状況を包括的に分析することは現実的にはできないが、企業やソーシャルセクターへのヒアリングから、対話と協働が理想どおりには進んでいない面があること、およびその理由について、以下のような示唆を得た。

 

・東日本大震災は、「健全な社会がないと、健全な企業活動は成り立たない」という意味で、企業セクターが「社会の中の企業」であることを強く自覚した、CSRにとっても大きな出来事であった。あれから6年が経って、企業セクターの社会課題への認識や、ソーシャルセクターとの連携の経験は深まったものの、その次に何をしたらよいのか、悩んでいる企業は多いのではないか。

・一方で、東日本大震災を一つの契機として、ソーシャルセクターに何かをしてもらわなくても、自分たちで考えて、ソーシャルセクター顔負けの社会貢献、具体的には、社会的に弱い立場にある人の自立を促す活動をしている企業も多い。

・別の視点として、企業が事業活動として取り組むには、ソーシャルセクターが関わる社会課題、それを解決する事業のボリュームが小さいのではないか。一部のソーシャルセクターを除いては、社会課題は地域に限定されたものが多く、それが分断されたものである限りは、企業が参入するほどのマーケットにはならないのではないか。

 

 さまざまな課題はありうるが、両者の強みを活かすために、企業、ソーシャルセクター、評価者それぞれの立場から、次のような提案・指摘がなされている。

 まず、企業の立場からは、ソーシャルセクターとの間で、CSR活動をとおして解決・軽減したい社会課題を共有するだけでなく、活動をとおして企業側で獲得したいメリットについても対話の初期段階から共有すべきこと。一方で、対話の中で対等性を維持し、相互補完性を見出しながら、互いの役割や強みを尊重して協働プログラムを策定していくこと。

 次に、ソーシャルセクターの立場からは、日本ではソーシャルセクターが必ずしも存在感があるわけではないという前提の下、まずはソーシャルセクターがその役割をしっかりと果たした上で、互いをパートナーと位置付け、目的を共有し、互いの理解を深め、正直に接することが重要であること。さらに、そのコミュニケーションを円滑にしたり、全体としての事業規模を大きくすることに「中間支援組織」[8]の貢献可能性が高いこと。

 最後に、評価者の立場からは、企業が、社会課題≒公益は国家が担うものという無意識のバイアスを、自らが打ち破るべきこと、社員が社会活動に積極的に取り組むことをさらに促進すべきこと[9]、等である。

まずは、対話から

 以上を総括すれば、ソーシャルセクターの対話と協働という観点からは、まずは「対話」の重要性を再認識すべきということになろう。異なる立場の人々、特に、必ずしも対価を前提とせずに社会課題に取り組むソーシャルセクターの人々とのコミュニケーションを成立させることにより、CSR部門のみならず、さまざまな部門の社員にとって大きな成長の機会となる。最終的に、すべての社会課題の解決には取り組むことはできないにしても、その課題に対し、自分・自社が何をすべきかの議論(アウトサイドイン・マーケットアウト)をとおし、自分・自社の強みや意義を再確認する意義は大きい。

 一方で、多くの企業では、CSR活動の目的・意義が役員や社員には十分に共有されていない現状がある[10]。これは、『CSR白書2015』で既に「内包化」というプロセスで挙げた課題である。

 冒頭に述べたように社会課題が多様化・複雑化する中で、自社が取り組むべき社会課題は何か、その解決にどう貢献できるのか、自社のあるべき姿の実現を社会課題の解決をとおしてどう達成するのかを、ソーシャルセクターとの対話を最大限に活用して、社内でしっかりと議論し、コンセンサスをつくるべき時期にきている。

 東京財団としても、社会課題解決と事業活動の「統合」を、CSR活動の長期的な目標として提示してきたが、多種多様な商品・サービスを提供する企業や、広範な地域にステークホルダーを有するグローバルな企業に対して示すべき方向性として妥当なのか、あらためて検討していく予定である。CSR活動において評価軸は必要なのか、必要だとしたらどのような評価軸が妥当なのか、企業の実態を踏まえた上で考察を深め、社内外での活動の判断基準となるものを提示していきたいと考える。


[1] 大企業の「統合」の方法については、『CSR白書2014』東京財団、2014年、『CSR白書2015』同、2015年を参照のこと。また、中小・中堅企業や業界団体における進め方については、「第4部 小さいからこそ『できる』――中小企業が取り組む社会課題解決」『CSR 白書2016』同、2016 年、140-166頁を参照のこと。

[2] 既刊の『CSR白書』では、企業セクター・行政セクターに並ぶ重要なセクターとして、NGO、NPOなどの専門家を「市民セクター」と称してきたが、本書より「ソーシャルセクター」と称する。

[3] 国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)“Global Trends Forced Displacement in 2016”(http://www.unhcr.org/statistics/unhcrstats/5943e8a34/global-trends-forced-displacement-2016.html)による。2016 年末時点で、紛争や迫害を逃れ、家を追われた人の数は約6,560万人、うち難民は約2,250万人、庇護申請者は約280万、国内避難民は約4,030万人。

[4] 東京財団「CSR企業調査」では、毎年、自由記入として、経営層・業務執行部門・CSR 推進部門それぞれの「CSRを進める上での課題」を聞いているが、「SDGs」に代表される社会課題の取り組みに積極的な企業でも、「経営層・業務執行部門での社会課題の認識が不十分」と答える企業は少なくない。

 また、企業活力研究所が上場企業2,757 社を対象に2016 年11~12 月に実施した「社会課題(SDGs 等)解決に向けた取り組みと国際機関・政府・産業界の連携」に関する調査(回答143社)によれば、「SDGsに取り組む上での課題」として挙がった最多の課題が「社内の理解度が低い」(57.7%)であった。グローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパン(GCNJ)と地球環境戦略機関(IGES)が共同で、GCNJ会員233企業/ 団体を対象に2016 年9月に行ったアンケート調査では、「SDGsが経営陣に定着」が28%、「中間管理職に定着」はわずか5%であった。

[5] 『CSR 白書2016』東京財団、2016 年、21-28頁、本書26-30頁を参照のこと。

[6] この傾向は、「東洋経済 CSR 調査 業種別集計結果」における質問項目「NPO・NGO との連携」の回答率の低下からも見受けられる。

[7] 『CSR 白書2015』東京財団、2015 年、26 頁など。

[8] 中間支援組織とは、一般に、市民、NPO/NGO、企業、行政などの間に立ち、NPO/NGOのさまざまな活動を間接的に支援する組織である。

 中間支援組織が活躍している実例に、損害保険ジャパン日本興亜が日本NPO センター・NPO 支援センター(42 団体)・各地域の環境団体(60 団体)と協働して実施した市民参加型の環境イベント「SAVE JAPAN プロジェクト」がある。中間支援組織である日本NPOセンターおよびNPO 支援センターが、全国規模のプロジェクトの実現に重要な役割を果たしている(公共経営・社会戦略研究所「『SAVE JAPAN プロジェクト2015』SROI評価レポート」[2016年8月29日]より)。

[9] 企業からソーシャルセクターへの社員の一定期間の派遣は、これまでに『CSR白書』で紹介した事例(『CSR白書2014』東京財団、2014年、34-37頁)のほか、西武信用金庫からNPO法人ETICへ1年半職員を派遣、派遣終了後もその経験を活かす形で登用した例もある(内閣府ウェブサイトより)。

[10] 東京財団第4回「CSR企業調査」では、「CSRの理解を深め、関心を高める社内研修・教育を行えた」かどうかとの質問に対して否定的な回答が他の質問との比較で相対的に多い(本書39頁「図表26」)。

 また、企業市民協議会(CBCC)が、経団連会員企業1,363社を対象に2017 年1~2月に実施した「CSR実態調査」(回答167 社)によれば、「CSR をさらに推進するために、どのような課題があるか」との質問に対して、あてはまるという回答が最多の課題が「CSRに対する従業員の理解と行動」(149社)であった。また、「CSRへの取り組みを各部門や全従業員に浸透させるために、どのような課題があるか」との質問に対し、あてはまるという回答が最多の課題が「CSR への認識共有が難しい」(144社)であった。