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レポート
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日付
2008/7/8

中国依存を緩和するレアメタルの新しい供給源についてのレポート掲載中

四川大地震の影響から見えるレアメタル中国依存からの脱却の必要性



平沼光
東京財団 政策研究部プログラム・オフィサー



中国に依存する日本のレアメタル供給源
四川大地震から一ヶ月が経過する中、震源地付近を産出地とするレアメタルの供給減少、また価格の上昇が懸念されている。震源地付近では自動車の特殊鋼材の原料となるマンガンやバナジウムといったレアメタルが産出し、日本はその多くを中国から輸入している。既にバナジウムの価格は地震前に比べ大きく値を上げ、日本の自動車、鉄鋼メーカーは今後の動向に注目をしている。
以前より日本のレアメタル供給源が中国に依存していることは指摘されていたが、今回の地震であらためてそれを確認することになった。

備蓄対象や要注視対象になっている主なレアメタルのいくつかを例に、日本への供給国割合を下記表のように整理するとその中国への依存状況がよくわかる。(※下記表は2005年の供給国割合)



※総合資源エネルギー調査会鉱業分科会レアメタル対策本部「今後のレアメタルの安定供給対策について」(平成19年7月31日)から筆者作成

レアメタルは産業のビタミンなどと呼ばれIT、自動車をはじめハイテク産業など幅広い分野で日本の産業を支える必要不可欠なものであり、特定の国、地域にその供給を依存しすぎることは資源エネルギー安全保障の面から見ても好ましいことではない。もともとレアメタル自体の埋蔵に地域的な偏在性が強いということはあるが、今回の地震や生産国の政情などに左右されない供給源を確保することが求められる。

需要が増すレアメタル
2006年5月に経済産業省が発表した新国家エネルギー戦略によると、運輸エネルギーの次世代化計画として、ほぼ100%石油に依存している運輸部門の石油依存度を2030年には80%程度の依存に引き下げるとされている。そのための施策の一つとして、ハイブリッド自動車、電気自動車、燃料電池自動車の更なる普及が挙げられている。それに応じるように、トヨタ自動車は2007年の世界販売実績約28万台のハイブリッド車プリウスの販売台数を、2010年の早い時期に年間100万台にまで引き上げる方針である。 ホンダも全世界で年間20万台の販売を見込んだ新型ハイブリッド車を2009年初めに発売し、その後ハイブリッド車の車種を増やし、ハイブリッド車の年間合計販売台数を50万台程度にする見通しだ。

ハイブリッド自動車、電気自動車、燃料電池自動車などいずれもニッケル水素電池やリチウムイオン電池など白金、リチウム、レアアースなどのレアメタルを必要とする二次電池が必要である。トヨタ自動車やホンダのハイブリッド車戦略強化の動きは、世界的な自動車産業の動向として今後ますますレアメタルを必要とする二次電池を搭載した車が市場にあふれるということになり、自動車一つとっても今後レアメタルの需要が急増することが容易に予想される。

既に中国は資源保護の強化を国策に、レアアース等の外国企業の採掘の禁止や制限、また2006年9月にはレアメタルの多くについて輸出増値税の還付制度の廃止など、資源の囲い込みを行っているが、世界的なレアメタルの需要増は今後ますます資源確保の競争を激化させる方向にあるといえる。
需要国である日本がとるべき方策として、

(1)供給国の多元化
(2)レアメタル備蓄制度の強化
(3)レアメタルのリサイクルの促進(都市鉱山の活用)
(4)国内鉱山の再開発
(5)金属代替技術の促進

などが検討されているが、今後のレアメタルの世界的な需要の増大を考えると、日本は上述に限らずレアメタル確保のための様々な可能性を検討し、金属資源確保の手段を多元化しなければならないであろう。

中国依存を緩和するレアメタルの新しい供給源
このような状況の中、中国依存を緩和するレアメタルの新しい供給源の可能性として考えられるのが日本の排他的経済水域(EEZ)と大陸棚延伸可能域内に存在する海底鉱物資源の利用がある。日本のEEZと大陸棚延伸可能域内にはレアメタルを含む海底熱水鉱床、そしてコバルト、銅、白金を含むコバルト・リッチ・クラストなどが多数発見されており、海底熱水鉱床では世界第一位、コバルト・リッチ・クラストでは世界第二位の資源量があるとされている。 

各国の資源メジャーも海底鉱物資源に注目しており、パプアニューギニア、ニュージーランドなどで海底鉱物資源の探査、開発活動を行っているNeptune Minerals社(英)の日本法人、ネプチューン・ミネラルズ・ジャパン(株)は、日本の鉱業法に基づき、伊豆諸島や小笠原諸島、沖縄近海などの日本のEEZ内における試掘権の申請を2007年2月に外資系として初めて行っている。また、資源メジャーのTeck Cominco社(カナダ)、Anglo American社(英)、Epion Holdings社(露)が株主のNautilus Minerals社(カナダ)はパプアニューギニア、フィージー、トンガ、ソロモン諸島などで海底資源探査、開発を行っており、近い将来商業生産者となるべく活動している。 

これまで海底鉱物資源の利用はコストがかかりすぎ実現が難しいとされてきたが、昨今の資源価格高、鉱物価格高により海底鉱物資源の開発・利用の採算性が高まってきたこと、今後、中国をはじめ世界的に資源ナショナリズムの傾向はさらに強くなりあらゆるところで資源の囲い込みが起こるであろうこと、そして、各国の資源メジャーが海底鉱物資源に注目しはじめ、実際に日本近海や太平洋で探査・開発を行っていることを考えると、日本としても海底鉱物資源の利用を資源確保手段の多元化の施策として、これまで以上に実現を視野に入れた検討を行っていく必要がある。

海面上昇の危機に晒される太平洋島嶼国の海底鉱物資源の共同開発
金属資源の新たな供給源の一つとして期待される海底鉱物資源であるが、海外の資源メジャーが日本近海にまで触手を伸ばしてきている現状を考えると、今後は日本近海の海底鉱物資源のみならず、海外の海底鉱物資源の確保も検討していく必要がある。海外の海底鉱物資源の確保のためにはどのような外交手段があるであろうか。ここでは、海外の海底鉱物資源の確保のための新しい外交手段として、海面上昇により危機に瀕する太平洋島嶼国との関係強化を一つの可能性として示したい。

国際協力機構と石油天然ガス・金属鉱物資源機構は1985年から2005年にかけて南太平洋のSOPAC(South Pacific Applied Geoscience Committee:南太平洋応用地球科学委員会) 加盟国の排他的経済水域(EEZ)において海底鉱物資源の調査を行った。その結果、クック諸島、キリバス、ツバル、サモアの4カ国のEEZにおいてマンガン団塊の調査を行い、特にクック諸島海域でマンガン団塊の高密度分布を確認、キリバス、ツバル、サモア、マーシャル諸島、ミクロネシア連邦の5ヶ国のEEZではコバルトリッチクラスト鉱床の賦存の把握を行い、特にマーシャル諸島、キリバス、ミクロネシア連邦において顕著な賦存を確認した。また、ソロモン諸島、バヌアツ、フィージーの海域で海底熱水鉱床の賦存を確認するなど、南太平洋の島嶼国には海底鉱物資源開発の可能性が秘められていることが明らかになった。

その一方、ツバルやキリバスをはじめ南太平洋の島嶼国は海面上昇による危機にさらされており、海底鉱物資源の開発以前に国家存続の手立てを考えなければいけない状況におかれている。既にツバルなどでは塩害による被害などが出てきおり、このまま海面上昇が続けば島での居住がさらに困難になるという危機的状況におかれるであろう。国連海洋法条約によると「人間の居住又は独自の経済的生活を維持することのできない岩は、排他的経済水域又は大陸棚を有しない。」とされており、海面上昇により居住も独自の経済活動生活も出来なくなった島は排他的経済水域、大陸棚といった海洋に係わる権利も消滅してしまう可能性がある。

このように海底鉱物資源の利用の可能性はあるものの海面上昇の危機にさらされている太平洋の島嶼国に対し、島で生活が出来なくなった島嶼国民の日本への受け入れ、また、沖ノ鳥島の経験などを生かし、海面上昇後も独自の経済活動を可能にするための経済的・人的支援などEEZを確保できる島の維持活動を実施するなど、日本が積極的に支援を行い、その関係を強化することで、太平洋島嶼国のEEZを共同で管理し、海底鉱物資源を一緒に開発・利用する合意を得るという外交政策を展開することは、資源外交の新しいオプションとして考えることができる。

太平洋島嶼国のEEZを日本と共同で管理すること、または優先的に利用する権利を得ることは法的に可能であろうか。国連海洋法条約第72条権利の移転の制限の項には、「第69条及び第70条に定める生物資源を開発する権利は、関係国の間に別段の合意がない限り、貸借契約又は許可、合弁事業の設立その他の権利の移転の効果を有する方法によって、第三国又はその国民に対して直接又は間接に移転してはならない。」とあり、関係国の合意が形成されれば資源を開発する権利を得ることが可能といえる。

以上、四川大地震をきっかけに日本のレアメタル供給源が中国に依存している実情をあらためて確認し、それを緩和するための新しい可能性としての日本近海の海底鉱物資源の利用、ひいては海面上昇の危機に晒される太平洋島嶼国のEEZの共同管理の可能性などを記した。

確かに海底鉱物資源の開発は現状では地上の鉱物資源開発に比べフロンティアであり先に手をつけて他国を先行するという可能性を秘めているが、昨今の中国の全方位的な資源外交の姿勢など見ていると近い将来中国もこれまで以上に海底鉱物資源に注目をしてくることは大いに考えられる。地上での鉱物資源獲得で中国に遅れを取っている日本としては、海底鉱物資源の開発では遅れをとらないことが望まれる。


<平沼光/東京財団 政策研究部プログラム・オフィサー>
元日産自動車勤務。現在は東京財団政策研究部にて外交・安全保障分野のプログラム・オフィサー。「エネルギーと日本の外交」研究プロジェクト担当。

※本稿はユーラシア情報ネットワークの分析レポート「四川大地震の影響から見えるレアメタル中国依存からの脱却の必要性」([特別投稿]平沼光氏/東京財団プログラムオフィサー)」にても掲載されております。