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再エネ普及を頓挫させないため発送電分離を急げ―九州電力につづき東北電力も再エネの受け入れを保留

October 1, 2014

東京財団研究員
平沼 光

9月30日、九州電力につづき東北電力も再生可能エネルギー(以下再エネ)の受け入れを保留する方針を発表した 1 。保留の理由は九州電力と同じく、急速に普及し拡大してきた再エネをこのまま受け入れると電力系統に影響を及ぼし、東北電力管内の需給調整に支障をきたす恐れがあるというものだ。

現在の日本の再エネ固定価格買い取り制度では、「当該電気事業者による電気の円滑な供給の確保に支障が生ずるおそれがあるとき」には接続を拒否できることになっている。

東北電力によると5月時点で設備認定を受けた東北電力管内の太陽光発電設備がすべて系統に接続(連系)した場合、再エネ発電設備の出力は、既に200万kWまで受付可能としている風力発電と合せて1,200万kWを超える規模となり、東北電力管内の需要が低い昼間の需要970万kWを上回ってしまうことから需給調整に支障をきたすということだ。

受け入れ保留の対象となるのは2014年10月以降に申し込みを受け付けた案件について電力会社からの接続承諾の回答が保留になる。通常、再エネ事業者が電力会社の接続の検討を経て着工に至るまではおよそ4~6カ月を要すことから再エネ事業者はその期間を想定して資金調達、設備購入、土地取得などの事業計画を立てて取り組むわけだが、今回の保留によりいったい何時になれば接続承諾の回答が得られるのか先の見通しが立たなくなったことから再エネビジネスに与える影響は大きい。

3.11後の日本のエネルギー政策と経済発展が“絵に描いた餅”に

再エネ受け入れの保留は再エネビジネスばかりでなく今後の日本のエネルギー政策と経済発展にも大きな影響を及ぼす。

福島原発事故により、これまでの原発を中心とした大規模集中型発電、電力十社による発電から小売りを垂直統合した業態と地域独占、そして東西を分断した周波数といった日本の電力システム体制には様々な弊害があることが浮かび上がり、分散型電源の活用、地域を横断した広域での電力運用の重要性が広く認識されている。

福島原発事故後の日本のエネルギー政策が目指すべき方向は、川上(発電)から川下(小売)にわたり多様な担い手を創出し、地域分断ではなく広域で運用していくという資源エネルギーの多元化を促進することにほかならず、再エネはそのための重要な分散型電源であることは3.11後に公表された政府のエネルギー政策の中身を見ても共通認識と言える。

こうした再エネを活用したエネルギーの多元化はなにも日本に限った動きではなく、自国の資源を活用したエネルギー安全保障、地球温暖化対策、エネルギー産業の創出など様々な理由から欧米各国においても盛んに取り組まれており、今や世界のエネルギー需給体制構築のトレンドとなっている。

そうした中で、今回の電力会社の再エネ接続保留の動きは日本のエネルギー政策再構築の動きを鈍らせ3.11原発事故後に日本が向かうべきエネルギー政策を“絵に描いた餅”にしかねない。

再エネ普及の動向は今後の日本の経済にも大きな影響を及ぼす。2013年6月14日に安倍政権下で閣議決定されたアベノミクスの第三の矢の中身となる「日本再興戦略-JAPAN is BACK-」では、クリーンエネルギー分野の国内市場について2013年の4兆円から2030年には11兆円になると見込んでおり、また、グローバル市場については2013年の40兆円から2030年には160兆円に成長するとしている。160兆円の市場規模とは実に自動車産業に迫る規模である。クリーンエネルギー分野とは、再生可能エネルギー、高効率火力発電、蓄電池、次世代デバイス・部素材、エネルギーマネジメントシステム、次世代自動車、燃料電池、省エネ家電、省エネ住宅・建築物等の省エネ技術関連製品・サービスなどを示すが、中でも再エネはクリーンエネルギー分野の中核といえる。

周知のとおり再エネは天候に左右されるという不安定さが弱点である。前述したとおり欧州をはじめ世界各国も日本と同様に再エネをエネルギー多元化の重要な要素として位置づけ、その普及促進のため弱点を克服する技術の開発に急速に取り組んでいる。そうした技術開発は電力統合技術(エネルギー・インテグレーション) 2 と呼ばれ、再エネをはじめ多様な電源を電力系統に問題なく統合し、それを効率的に運用するというコンセプトで取り組まれている。これは、発電側では再エネという不安定なエネルギーが電力系統に入ることを前提に、それを安定化させるかたちで高効率火力発電、蓄電池、燃料電池などを配置していき、そこで作られる電力を需要側では次世代自動車、省エネ家電、省エネ住宅・建築物等など高効率化された設備で消費し、そして全体の需給のバランスをIT技術を駆使したエネルギーマネジメントシステムでコントロールしていくというものだ。

すなわち、世界各国で開発が進められているエネルギー需給システムは再エネの天候に左右される不安定性を弱点として遠ざけるのではなく、逆にその弱点を克服することで新しい技術と市場を構築するというトレンドにある。そうして生み出される技術と市場が今後自動車産業に匹敵する規模になるということで、ここで日本が再エネを本格的に普及出来なければ技術も国内市場も創出することができず、ひいては160兆円のグローバル市場の獲得競争にも負け、アベノミクスが思い描いているような経済発展も“絵に描いた餅”になるだろう。

福島の復興にも影響が

今回の東北電力の発表は東北電力管内の福島にとっても大変大きなショックとなろう。震災と原発事故からの一日も早い復興を願う福島県では、再エネの推進を大きく掲げた県の復興計画を整え、福島を“再生可能エネルギー先駆けの地”とすべく再エネ発電所の導入を中心とした取り組みを活発に行っている。福島県の計画では、県内の一次エネルギー供給に占める再エネの割合を2009年度の実績である 約20%から、2020年度までに 約40%に高め、2030年度までに 約60%、そして2040年頃を目途に 100%とすることを県の推進ビジョンとしている。こうした目標に向けて福島では官民が協力して、県内の再エネポテンシャルの掘り起し、造り酒屋さんや温泉街の人々といった民間活力による再エネ発電会社の起業、そして再エネ発電を通した子供たちへの環境・エネルギー教育などを果敢に行ってきた。今回の発表はそうした人々の活動と復興への情熱にブレーキをかけることになろう。

問われる日本の電力会社の実力

3.11原発事故からはや3年半が経っているが、その間、再エネの必要性は十分に認識され、エネルギー政策も再エネの普及促進という方向で進んできたはずだが、いったいなぜ今になってこのような事態になっているのだろうか。原因として電力会社の想定を上回って再エネの普及が進んできたということが考えられるが、日本は再エネ普及においては後発国であり、既に先行して普及を進めているドイツなど他国の事例を検証すれば再エネの固定価格買い取り制度の導入によりその普及が急速に進むことは予測できる。

また、九州電力の公表では、「昼間の揚水運転の実施や地域間連系線を活用した九州外への送電など、現状で可能な最大限の需給バランスの改善策により、九州本土において再エネをどこまで受け入れることができるかを見極める検討を行う」とのことだが、再エネの普及において揚水発電の活用や電力系統の広域運用による区域を越えた需給調整は各国では当然行われていることであり、それを3.11原発事故から3年以上も経った今から“検討する”とはもっと迅速な対応が必要だったといえ、日本の電力会社の実力が問われることになる。

再エネ普及を頓挫させないため発送電分離を急げ

9月30日には東北電力だけでなく四国電力 3 、北海道電力 4 も再エネ受け入れの保留を発表している。今後、他の電力会社も同様に再エネ受け入れの保留を発表することが考えられるが、五月雨式に各電力会社が保留を発表し、さらに地域間連系線の活用もこれから検討するという現状ではとても電力会社の間の区域を越えた需給調整の実施は早急には望めず再エネ普及が頓挫しかねない。エネルギー多元化の重要な要素である再エネの普及を頓挫させないためにも電力システム改革の足取りを速めるべきだ。特に、再エネの余剰電力を広域で調整させるため発送電分離を早急に進め、電力系統の中立性を確保し、広域運用による区域を越えた需給調整を実施することは急務だ。現状の電力システム改革のスケジュールでは、第二段階の電力市場の全面自由化の後に第三段階として発送電分離を行うことになっているが第二段階と第三段階の順番を入れ替えてでも発送電分離を急ぐべきだ。また、現状の電力システム改革の発送電分離方法は電力会社との資本関係が残る形で送電部門を分離する法的分離という方法がとられるが、より中立公正性を確保するため電力会社と資本関係が残る法的分離ではなく、所有権分離による完全分離を行うとともに、全国大での運用を円滑に行えるよう送電部門を一つに統合することが望まれる。

東京財団資源エネルギープロジェクトでは、こうした施策を含め日本のエネルギー政策を再構築するための提言 「日本のエネルギー政策再構築~電力統合体制(Energy Integration)を構築しエネルギーの多元化を実現せよ~」 を2014年9月25日に公表した。小渕優子経済産業相は26日の閣議後記者会見で、「再生エネルギーの最大限の導入に向け、何ができるか あらゆる角度から検証する 」と語っている。であれば、筆者が提言するように現状の電力システム改革のスケジュール、発送電分離の方法をあらためて見直すことも視野に入れていただきたい。日本のエネルギー政策の再構築は待ったなしの状況にある。果たして日本は既存の体制を改革することができるか、電力会社の実力だけではなく政府の実行力も問われていることを忘れてはならない。


1. 東北電力プレスリリース: http://www.tohoku-epco.co.jp/news/normal/1188271_1049.html
2. 詳細は東京財団提言「日本のエネルギー政策再構築~電力統合体制(Energy Integration)を構築しエネルギーの多元化を実現せよ~」 https://www.tkfd.or.jp/research/detail.php?id=2617 を参照。
3. 四国電力プレスリリース: http://www.yonden.co.jp/press/re1409/1186924_2061.html を参照。
4. 北海道電力プレスリリース: http://www.hepco.co.jp/info/2014/1189736_1635.html

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