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レアアース輸出規制を強める中国への対処法(3)

September 8, 2010

5.レアアース確保における日本の対中施策

前述してきたように、レアアースについては中国の影響力が強い事、都市鉱山や代替技術で対処するにはまだ時間がかかる事が予測されるなどから、当面はレアアース確保における中国との関係をどのように構築していくかを検討し施策を講じていく必要がある。
日本が取るべき施策には、(1)供給国(中国)への協力を促進する施策、(2)需要国との連携を促進する施策、(3)日本の技術革新の促進とその国際周知を促す施策、の3つをバランスよく講じることが重要と考える。

以下にて各々についてどのような施策がとれるかその具体策と可能性を述べる。

(1)供給国(中国)への協力を促進する施策:
~広東省での資源開発、利用、リサイクルまで一貫した協力による資源獲得~

中国がレアアースの輸出枠削減を行う理由は、前述したとおりまず今後増えるであろう自国の需要を優先することが考えられる。そしてもう一つは、レアアースを交渉カードとして他国の優れた環境・エネルギー技術の中国への技術移転や、中国にとって優位な形での海外企業の誘致を獲得する事が想定される。

現在、中国は自国の環境問題やエネルギー問題に対処するため都市のエコシティー化を急速に進めている。エコシティー化を進めるには省エネ高効率発電、スマートグリッド、次世代自動車の普及など様々な環境・エネルギー技術を手に入れる必要がある。そうした様々な環境エネルギー技術の実用化で不可欠となるレアアースをカードに海外の技術と資本を手に入れる事を目指していると考えられ、それが中国のニーズであると言える。

であれば、中国のレアアースを獲得するには日本が持つ優れた環境エネルギー技術を供与するなど中国への技術協力を進める事となるが、それでは単に日本の技術の切り売りに繋がりかねえない。交渉の度に個々個別の技術を毟り取られていてはやがて交渉も行き詰まり、日本は技術だけ持っていかれ恒久的な資源の獲得に至らないという事態が懸念される。

日本としては恒久的に資源供給を得られる形での技術協力という施策を取ることが重要だ。

そこで、施策の一例として “広東省における、レアアース資源開発→利用→リサイクル、に亘る一貫した技術協力による資源獲得” を提案する。

下記図を参照いただきたい。広東省はレアアース問題の核心部と言えるジスプロシウムなどの重希土類が産出されるイオン吸着鉱がありレアアースの重要な産地の一つである。

そして、広東省の深セン、東莞では現在エコシティー開発計画がある。さらに、清遠市では「都市鉱物モデル拠点」計画がある。「都市鉱物モデル拠点」計画とは廃棄された電気機械設備、電線・ケーブル、通信機器、自動車、家電製品、電子製品、金属・プラスチックのパッケージなどから先進的な技術を活用し鉱物資源をリサイクルするモデル拠点を建設すると言う計画だ。先ごろ公表された中国の「都市鉱物モデル拠点の建設展開に関する通知」では今後5年間で「都市鉱物モデル拠点」を中国国内に約30ヵ所建設する予定であるという。そのうちの一つがレアアースの産地である広東省に建設されるのだ。


即ち、広東省には、

・レアアース資源開発 ⇒ 新豊県、河原市、梅州市のイオン吸着鉱
・資源利用 ⇒ 深セン、東莞のエコシティー開発計画
・資源のリサイクル ⇒ 清遠市の「都市鉱物モデル拠点」建設

という、資源の開発、利用、リサイクルという資源循環に係る一貫した計画が存在するのだ。そこで日本は広東省で実施される上記の計画全般について技術協力と企業進出について広東省への協力を行うことで日本に必要なレアアースを広東省と言う産地から確保するという施策を取ることが考えられる。
具体的には、

・レアアース資源開発
新豊県、河原市、梅州市のイオン吸着鉱からのレアアース採掘に係る環境問題への協力。

・資源利用
深セン、東莞のエコシティー開発計画におけるスマートグリッド、次世代自動車普及等
に係る協力。

・資源のリサイクル
清遠市の「都市鉱物モデル拠点」計画でのレアアースリサイクルの協同研究の提案。

などが考えられ、協力とともに中国市場のビジネス獲得もしたたかに狙うことが可能だ。
要は、技術と資源をバーターにする個別交渉を行うのではなく、中国(広東省)の資源エネルギー政策に深くかかわる形の協力を行う事で日本無しでは政策の遂行に不具合が生じると言うところまで関係を構築すると言う、 協力するからにはこちらもハンドルが握れるよう徹頭徹尾やる という事だ。

これまで日本は中国のエコシティー計画への協力と資源獲得の施策は別のものとして動いてきた感があるが、これからは中国との交渉に当たっては様々な交渉と協力案を俯瞰して考えるハイブリッド・ポリティクスの視点で動くべきである。

このような施策は広東省だけでなくこれから開発が盛んになる曹妃甸エコシティー計画を擁する河北省などでも当てはまるものと考える。

もちろん、この施策を実施するに当たっては日本の企業間、政府間、そして企業と政府間で十分な検討を行う事が必要だ。特に技術が絡む協力はともすれば日本の秘匿技術を開示しかねない事態になりかねないので、日本としてできる技術協力はどこまでなのか?そしてそれが交渉カードとして魅力を持たせることが出来るのか?などを企業間そして政官学民の間で十分練り上げる必要がある。

(2)需要国との連携を促進する施策
~国際的な枠組みを利用した中国との交渉~

レアアース資源問題に直面しているのはなにも日本に限った事ではない。現状世界供給の9割を中国が占めているとう状況では欧米をはじめレアアースを産業に利用するほとんどの国が直面している問題と言える。そうした状況で、今回のような中国の輸出枠削減の動きは国際的な批判を招きかねない。実際、中国がレアアースの輸出削減を公表した後、EU欧州委員会ではEUにとって不可欠な鉱物資源(EUはレアアースを含め14種類の鉱物を選定している)を資源国が輸出規制を強化した場合、WTOへの提訴を含めて対抗する方針を打ち出している(8月30日日経夕刊)。

今後こうした国際的な批判の動きは強まることが予想され、特に、気候変動問題に絡めてレアアース資源の供給不安問題が国際的な枠組みの中で取り上げられる可能性が高いと考える。

気候変動問題に対処するには環境エネルギー技術の更なる普及と革新が必要である事はCOPをはじめ様々な国際枠組みで共通認識されているが、そのために不可欠となるレアアースをはじめとする鉱物資源の供給不安問題はこれまであまり国際枠組みの中で話し合われてきてはいない。おそらく資源国を刺激しないようにとの配慮からこれまで話題にされてこなかった事が考えられるが、供給不安の度合いが強まることで需要国である欧米諸国は国際的枠組みを使い資源国に圧力をかけていくことが予想される。日本は前述した供給国(中国)への協力を促す施策と合わせ、こうした国際社会の動きをうまく利用して日本の要求を国際枠組みを通して資源国に対し主張していくことが肝心と考える。つまりは、日本と供給国(中国)の二国間では協力の姿勢を示し、厳しい要求は国際枠組みを通して間接的に主張するという、いわゆる飴と鞭の二面性を持って対処するという方針だ。二国間協力において日本の申し入れが通っている際には国際枠組みからの圧力の手を弱め、逆に、日本の申し入れを受け入れてくれない際には需要国と連携し国際枠組みからの圧力を強めると言うバランスをとった対処法である。

レアアースをはじめとする資源問題はCOP16、また2011年のG8、G20といった場で課題にされる可能性がある。日本としても今からどのような態度を取っていくか検討しておく必要がある。

(3)日本の技術開発の促進とその国際周知を促す施策

レアアースの供給不安問題で日本が独自に対処出来る事はないだろうか。レアアースの供給不安は現状リサイクル技術や代替技術が開発途中である事がその問題を深化させていると言ってよい。翻ってみればリサイクル技術や代替技術等の新技術が開発されれば問題は解消するのであり、それは時間の問題であるとも言え、日本としてはリサイクル技術や代替技術等の新技術の開発を可能な限り早くすると言うのが単独で取り組める事と言える。そのために日本は技術開発に今以上に資金と人材を投入するべきであるのは言うまでもないが、大事なのは “日本が本腰を入れて新技術の開発に取り組んでいる”という事を国際社会にアピールするという事だ。

誰もがレアアースのリサイクル技術や代替技術の確立は望んでいる事であり日本が技術確立に一番近そうだという事になれば日本の技術ノウハウの価値を高める事になる。その事はたとえ技術が確立していなくとも、将来的な技術格差(Technology divide)を恐れる他国に対して十分な牽制の意味を持つことになる。ましてや供給国(中国)にとって虎の子の戦略物資が技術開発により意味のないものになりかねないとなると二国間交渉等での日本の発言は無視できないものとなる。供給国(中国)側からレアアースを供給する代わりに技術協力を持ちかけられるようになれば成果は大きい。国際ビジネスでもそうだが国際交渉の場において相手の要求を先に引き出すことは交渉を優位に運ぶ一手となる。

6.施策実施の前提となる日本の政官産学の連携

以上、供給国(中国)に対して日本が取るべき施策は前述の3つの施策をバランスよく講じていくという事になる。但し、その時に必要になってくるのが日本の政治、行政、産業界、学界といった関連する様々なプレイヤーの間における合意の形成である。前述した3つの施策を実施するには多分に分野や業種を横断して取り組む必要があり、そのためには従来の行政割りや業種業界の垣根を飛び越えてお互いに戦略的な合意形成を促す必要がある。

例えば、広東省でレアアースの資源開発、利用、リサイクルまで一貫した戦略的な協力を行おうとする場合、ざっと考えてみても行政関連では少なくとも環境省、経済産業省、外務省の連携が必要で、さらには各省庁の中においても様々な部署の連携は欠かせない。企業関連では、資源関連商社、環境技術関連企業、電気機器メーカー、電力会社、自動車メーカー、インフラ系ゼネコン、リサイクル企業等々の多種多様な企業の協力が必要となる。それに加え学術関連の各種団体も交え、“日本としてブラックボックスにしておくべき技術は何か? 中国に協力できる技術には何がありそれをどのようにして交渉カードとして価値を持たせるか?”等を検討し、各プレイヤーの合意のもと実施していく必要がある。

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