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再生可能エネルギー スペインの成功事例を見よ(2)

August 23, 2011

電力の大半を再生可能エネルギーで賄う国

今年3月31日、スペインの送電管理会社レッド・エレクトリカ社(REE社)からわれわれ日本人にとって大変興味深いニュースがリリースされた。なんとスペインの3月の電力供給において、風力発電が占める割合が他の火力、原子力を超えて最大の電力供給源になったというのだ。

スペインの3月の電力供給割合は、風力21%、原子力19%、水力17.3%、石炭火力12.9%、太陽光2.6%、その他コンバインドサイクル発電やコジェネレーション発電となっている。実に再生可能エネルギーだけで国の発電の4割以上を賄っていることになる。スペイン風力発電協会(AEE)はこの成果について、スペインの風力発電は300万世帯に供給する能力があることを示しているとしている。

スペインの面積は51万平方キロメートル(日本比135%)、人口4,702万人(日本比37%)、全発電設備容量は1億308万6,000キロワット(日本比51%)、全発電電力量295,7億3,700万キロワット(日本比31%)、風力発電設備容量1,995万9,000キロワット(日本比866%)となる。

日本と比較した場合、面積と風力発電設備容量を除きそのスケールの違いがあるとしても、それでもこれだけの規模の国においてその発電の4割を再生可能エネルギーで賄っているというのは驚きを禁じえない。さらに瞬間値では09年12月31日に風力発電の電力供給比が75%となった記録もあるなど日本では考えられない状況となっている。

日本では実現できていない再生可能エネルギーの大規模な活用がなぜスペインで実現できているのか。そのカギはスペインの発電管理方法と送電網にある。前述した通り、再生可能エネルギーはお天気任せであったり風任せであったりするため電力が安定しないという弱点がある。この弱点を克服するべくREE社は06年6月にマドリッド北部近郊に再生可能エネルギーコントロールセンター(CECRE)という組織を設立している。

CECREではスペイン全土の風力、太陽光、水力などの再生可能エネルギーとコジェネレーション発電の監視・制御を行っている。07年6月からは設備容量1万キロワット以上の風力発電所はCECREに管理されなくてはならないとされている。CECREは、その情報収集センターとしておよそ21ヵ所設置されているジェネレーションコントロールセンター(WGCC)をリンクしており、WGCCがスペイン全土の風力発電所やメガソーラー発電所の発電電力量や運用パラメーター情報を吸い上げ、CECREに伝えるとともに、CECREからの各発電所への制御指令を15分以内に実行するという役割を果たしている。

さらに、特徴的なのは気象予測システムを活用しているという点だ。気象予測システムを利用することで、翌日の風況や日照などの気象予測に基づく再生可能エネルギーの発電電力量を計算し、それを系統運用に引き入れ、発電全体のバランスコントロールしているのだ。

簡単に言うと天気予報を見ながら翌日に風力、太陽光など再生可能エネルギーでどのくらい発電できるかを計算し、発電量が多ければ火力・原子力など再生可能エネルギー以外の発電を抑え、少なければ火力・原子力発電などの発電量を増やすといったコントロールを行うことで、風任せ、天気任せといった気象条件に左右される弱点を克服しているのだ。気象予測も取り入れながらの制御とは注目に値する。

発電地と消費地の距離の課題はどうであろうか。実は、スペインの風力発電の発電地と消費地は必ずしも近距離にあるわけではない。スペインの主な風力発電の発電地はガリシヤ、バルセロナといった地域、そして主な消費地はマドリッド、バルセロナとなっている。バルセロナについては発電、消費が一致していると言えるが、スペインの地図を広げて見ていただければ分かるように、ガリシヤ―マドリッド間、バルセロナ―マドリッド間は距離があり遠隔となっている。

「再生可能エネルギーの発電地と電力消費地が離れていると送電が困難ではなかったのか?」と思われることだろう。この距離をどのようにして克服しているのだろうか。スペインでは、広域にわたるメッシュ状の送電網(400キロボルトおよび220キロボルト)を採用しており、そこに生まれる送電余力を活用することで再生可能エネルギー発電の大量導入に対応しているのだ。

一方、日本の送電網は「串刺し形」といわれる各電力会社の送電網を連系線でつなぐ形式で、この連系携線の容量が限られて、地域間の電力融通に制限がある状況と言える。

スペインではこうしたCECREによる全発電のコントロールと、メッシュ形の送電網を巧みに活用することで風力発電の大量導入に成功しているのだ。つまりは、再生可能エネルギーによる発電を管理センターやメッシュ形送電網といったインフラを整備しコントロールすることで対処していると言えるのだ。

ところでスペインの発送電体制はどのようになっているのだろうか。スペインでは送電管理会社はREE社の1社に対し、発電会社は複数となっている。

つまり、多様な発電会社の参入を進めて独占を防ぐ一方、そのコントロールは一元化できるように送電管理会社は1社に絞っていると言える。

現在、日本では発送電分離の議論があるが、スペインの事例を見る限り発電と送電を分離すれば済むという単純な話ではない。要は、多様な発電を導入するとともに、その発電を臨機応変にコントロールできる体制をどのように作るかということが今問われていると言えるのだ。

勝負はスマートグリッドの国際標準化

前述してきたように再生可能エネルギーの普及にはその資源量もさることながら、電力インフラの整備ということが重要なカギとなる。再生可能エネルギーの導入に対応する電力インフラとして昨今報道などでも注目されているのが、いわゆるスマートグリッド(次世代送電網)だ。

スマートグリッドとは何か。実は一言でスマートグリッドといってもその明確な定義があるわけではないが、資源エネルギー庁の資料では、「従来からの集中型電源と送電系統との一体運用に加え、情報通信技術の活用により、太陽光発電等の分散型電源や需要家の情報を統合・活用して、高効率、高品質、高信頼度の電力供給システムの実現を目指すもの」などとしている。

このスマートグリッドを将来的に日本で普及させるべく、経済産業省では新成長戦略における「グリーン・イノベーションによる環境・エネルギー大国戦略」の一環として、スマートグリッドの構築を促進する実証実験を横浜市、豊田市、京都府(けいはんな学研都市)、北九州市などで行っている。実証実験では、電力系統と家庭、ビル、EV(電気自動車)などを結んだ情報連携による再生可能エネルギー活用の最大化、地域のエネルギー需給状況に応じて電力料金を変動させるダイナミックプライシングの実施などを行いスマートグリッドの導入を図っていこうというわけだが、国内での取り組みとは別に、国際的な取り組みがその普及の明暗を左右するカギを握っているのだ。それはスマートグリッド関連技術の国際標準化という課題だ。

現在、グリーン・ニューディールといわれるような環境経済政策の世界的な広がりにより、太陽光発電、リチウムイオン電池、次世代自動車、スマートグリッドなどさまざまな環境エネルギー技術の普及が世界的に進もうとしている中、環境エネルギー技術の国際標準化の動きが活発化している状況にある。中でも「デジュール標準」と呼ばれる国際標準化機構(ISO)、国際電気標準会議(IEC)といった公的な国際標準化機関で作成される国際規格については特に注意が必要だ。なぜならば、世界貿易機関(WTO)が1995年に発効した貿易の技術的障害に関する協定(TBT協定)では、原則としてISOやIECなどが作成する国際規格を自国の国家標準においても基礎とすることが義務付けられているからだ。つまりは、いかに技術的に優れたものを日本が持っていても、技術は劣るがデジュール標準化された他国の技術があればそちらを採用しなければならないということになり、いくら日本国内で頑張ってもデジュール標準化の枠を外れた技術は普及できなくなるからだ。

ISO、IECなどの国際標準化機関では、参加国の多数決によりその国際規格が決まってしまうことから、盛んな外交交渉が繰り広げられている。

従来、国際標準化の交渉の場でのプレゼンスが弱いとされている日本であるが、スマートグリッドをどのように構築し、その中のどういった技術をデジュール標準化していくかということを、政官産学の関連するすべてのプレイヤーによるオールジャパンで決定し、推進していくことが今まで以上に必要になっている。

日本の覚悟が問われている

日本の再生可能エネルギー資源を活用するには、従来の電力インフラに代わるスマートグリッドなどの整備が必要となる。そのためにはスマートグリッドの国際標準化に見られるように、国としての方向性を打ち出していくことが必要だ。このことは、今後の日本の電力供給体制をどのようにしていくべきかという新たな国家ビジョンを描くことに等しい。

発送電分離の議論はその過程におけるテーマの一つと言えるだろう。現在、日本の電力供給体制は発電から送電、小売りに至るまで電力会社による一貫体制となっている。90年代に始まった電力自由化の流れにより、電力会社以外の事業者による発電ビジネスへの新規算入が認められたものの、実態として新規参入にあたる全国の独立系発電事業者が電力販売に占めるシェアはわずか3%に止まっている。

再生可能エネルギーを普及させるとなると各地の風力、地熱、太陽光発電などの新規参入が欠かせなくなるが、現状では、まったく進んでいない。なぜなのか。この点は大いに議論し、改善する必要があるだろう。そして改善にあたっては当然既存のやり方を大きく変えることも想定しなければならない。それは長年の電力10会社による地域独占の体制にメスを入れることも覚悟する必要があると言うことだ。

よく、日本の再生可能エネルギーは何が実現可能で、何が不可能かという話になるが、ポジティブな見方をすれば、先に示したポテンシャル分の実現の可能性があると言える。しかし、ネガティブな見方ではそれはコストや現状の電力供給体制を考慮していない机上論だと見なされる。議論が迷走している。なぜ迷走するのか。そこにわれわれの確固たる覚悟がないからだ。

前述したように、日本には再生可能エネルギー資源の高いポテンシャルがあることが環境省により示されている。そして、実例としてスペインのように電力インフラを整備し国の電力の4割を再生可能エネルギーで賄っている国もある。もちろんスペインにもまだ対処しなければならない課題もあろうが、国として覚悟を決めて舵を切った結果が現状のスペインだ。こうしたポテンシャルと実例がある以上、あとはわれわれがどこまで覚悟を決めて既存のやり方を改善するかどうかで、その実現性が確固たるものになり、逆にそれがなければ日本の再生可能エネルギーの普及はいつまで経っても不可能と言えるだろう。

本稿を執筆している最中に、東日本大震災復興構想会議から震災復興のビジョンを記した「復興への提言」が公表された。中には再生可能エネルギーの利用促進とエネルギー効率の向上という項目がある。東北地方は日本の中でも風力、地熱といった再生可能エネルギー資源に恵まれているほか、太陽光発電にも適しているので、これらを導入して被災地のエネルギーインフラと産業を再構築しようとの主旨だ。

では具体的に何をするのか。残念ながら「復興への提言」では先の主旨の総論は記されているものの具体的に何をするのかは記されていない。総論は出るが各論にまで行きつかない。それが再生可能エネルギーに対する今の日本の覚悟の限界なのかもしれない。では、覚悟を決め再生可能エネルギーの利用促進による復興を考えた場合、どのような具体的なプランが考えられるだろうか。

「復興への提言」に記されている通り、東北地方は再生可能エネルギー資源に恵まれている。これらを活用し電力を確保し、さらに特区制度を活用して東北地方に電力特区を創出する。電力特区に再生可能エネルギー関連の産業が進出する場合は、その利用電力の割引、また、進出した工場、事業者が行う再生可能エネルギー発電の優先的な買い取りなどを行い再生可能エネルギー関連産業の誘致を行う。被災して職を失った人たちは誘致した再生可能エネルギー関連産業で職を得る。

進出した再生可能エネルギー関連企業が生産する太陽光発電システムや定置型蓄電池、電気自動車などの環境エネルギー機器は優先的に被災地への消費に供給され、全半壊合わせて17万棟以上といわれる東北の被災地の復興に役立てるとともに、環境都市の創出を促す。被災した建物17万棟すべてに太陽光発電と災害対応にもなる蓄電池が設置された姿が実現できれば圧巻であろう。

これにより、東北地方は世界でも類のない環境都市圏となり世界中が日本の復興に注目するとともに、日本の環境エネルギー技術の優秀さをあらためて世界に示すことができるだろう。それは、今後世界の大きなトレンドともなる環境エネルギー・ビジネスにも大きなプラスとなるはずだ。

日本が覚悟を決めれば、このような大胆なビジョンも描けるのではないだろうか。

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