アフガニスタン:大統領選挙と今後の情勢 | 研究プログラム | 東京財団政策研究所

東京財団政策研究所

詳細検索

東京財団政策研究所

アフガニスタン:大統領選挙と今後の情勢

June 17, 2014

宮原信孝 研究員

アフガニスタン大統領選挙と新政権を取り巻く状況

6月14日、アフガニスタンにおいて大統領決選投票が行われた。報道によれば(*1)、反政府武装勢力タリバーンによるとみられる攻撃で少なくとも47人が死亡したが、選挙は成功したと同国政府が発表した。同報道によれば、同国政府は700万人以上が投票し、投票率がおよそ60%に上るという見通しを示した。大統領選挙は第1回目が4月5日に行われ、5月15日、上位2名が決選投票に臨む旨が発表されていた。第1回目の有効投票数が約660万であること、及び、タリバーンの攻撃も少なく、また、国際的監視があり比較的に公正に行われたとされる2004年に行われた大統領選挙での投票数が約700万票であることを勘案すれば、不正投票が横行した前回2009年の大統領選挙に比し、順調に選挙は行われたと言えるかもしれない。 決選投票に進出した2名の候補は、アブドラ・アブドラ元外相とアシュラフ・ガーニ元財務相であるが、どちらが当選しようと2015年以降のアフガニスタンの舵取りは容易ではない。第1に、これまでのところ、タリバーンとの和解はなされず、逆にタリバーンは現在の体制に攻勢を強めている。タリバーンとの粘り強い交渉を行わなければならないが、二人の候補者にその準備が出来ているかが問われる。舵取り次第で、2001年以前に北部同盟とタリバーンが対立していた構図がそのまま再現される可能性もある。 第2に、米国を筆頭とする国際治安支援部隊(ISAF)は、予定通り本年末までにアフガニスタン治安部隊(ANSF)の訓練・助言を行う一部の兵力を除き全面撤退する。ANSFは30万人を超す人員を擁しているが、現在でもタリバーンの攻勢を抑え切れておらず、給料は外国からの財政的支援により賄われるとしても、新政権の指導能力次第では、弱体化する可能性もある。どちらの候補が大統領になっても米国との間で米軍駐留協定を結び、アフガニスタンの治安維持を米国が支援することになるであろうが、これ以上治安能力が向上する見通しはない。 第3に、米国が撤退を予定通り進めることで、周辺諸国の影響力が強まっている。パキスタンでは、イスラム過激主義がテロにより言論界及び社会双方に大きな打撃を与えている。アフガニスタンのタリバーンにしてみれば自由に動ける状況にある。これに対し、イラン、インド、中央アジア諸国並びに中国、ロシアが影響力を行使するべく、様々な形で働きを強めている。 第4に、米国がアフガニスタンのみならず、世界各地で直接関与を避ける外交政策を取る中、必要とされる復興開発支援が国際社会から得られるか疑問視される。 7月2日には、決選投票の結果は明らかになる。上記に挙げた4点を検証するには大統領が決まった後行うのが適当であるが、決選投票に進出した2名の候補の支持母体等を見ていくことで、上記4点が明らかになる部分がある。そこで、この稿では、2名の候補者に焦点をあて、2015年以降のアフガニスタン情勢を検討していく。

州別第1回投票結果

5月15日独立選挙委員会発表によると、アブドラ・アブドラ元外相(以下AA)は45%、アシュラフ・ガーニ元財務相(以下AG)は31.56%、ラスール元外相(ZR)は11.37%の得票率(*2)で、前2者が決選投票に進出した。投票結果を州別に見ると、全34州のうち、AAが19州、AGが14州、ZRが1州でトップの得票率だった。しかし仔細に見ると次のことが分かる。  AGがトップをとった州のうち、50%以上の圧倒的得票率を示したのは、8州のみで、残りの6州は、ラグマン49.82%、ファラ40.03%、ニムロズ33.59%、ヘルマンド32.94%、ザブール38.19%、ウルズガン26.95%である。更にニムロズ、ヘルマンド、ザブール、ウルズガンは南部パシュトゥーン地域に当たるが、投票数が極端に少なく、AGが得た票数はそれぞれ15,562票、34,110票、7782票、6022票であった。また、南部の最重要州カンダハールで、AGは得票率13.90%(34,698票)の3位に沈み、ZR53.96%(134,720票)、グル・アガ・シェルザイ元カンダハール州知事(GA)16.02%(40,004票)の後塵を拝した。これらから言えることは、AGは、パシュトゥーン人候補ではあるが、パシュトゥーン系が最も多い南部地域には浸透していないということであり、ZRおよびGAが決選投票ではAAを支援する旨述べている(*3)こともあり、第1回投票と同じ投票行動となれば、かなり不利となる。

AGが50%以上の圧倒的得票をしたのは、2種類に大別できる。南東部及び東部のパシュトゥーン地帯(パクティカ、パクティア、ホースト、ナンガルハール、クナールハ、ロガール)と北西部のウズベク人地帯(ジョウズジャン、ファリヤブ)である。得票数を見てみると、10万票を超えているのは、パクティカ、パクティア、ナンガルハール、ジョウズジャン、ファリヤブの5州のみである。ウズベク人地帯でのAGの強さは、ウズベク人であるドスタム将軍を第1副大統領候補としていることが挙げられる。

これに対して、AAは、勝利した19州のうち15州で得票率50%を超えていた。また、これらの州での得票数で10万票を下回ったのは5州のみである。これらの5州についても人口の少ないパンジシールが37,925票(87.29%)、カピサが52544票(78.81%)で、他の3州は、7~9万票を獲得している。更にAAは、カーブルという首都が位置し人口も多い州において49.62%(389,584票)を獲得している。AAは、母はパシュトゥーン人であるが、タジク人として見られており、本来であればパシュトゥーン人が多い地域では不利であるが、不利と思われた地域でも善戦している。この背景には、幅広い支援のネットワークがあるものと推定される。

候補者から見た2015年以降のアフガニスタン情勢見通し

第1回投票で敗退した多くの候補がAAを支持することを表明している中で、AAの優勢が伝えられているが、選挙では何が起こるかわからないこともあり、両候補の支持母体とそれらの影響力から、それぞれの候補が当選した場合、アフガニスタン情勢がどうなるか、推論してみたい。

まず、AAの場合、得票の多かった州から見ると1980年代から続くムジャヘディーン系のグループの支持が多いものと見られる。何者であるかはあまり関係ないつながりである。筆者の友人の一人は、南部パシュトゥーン地域の部族長家の出身であるが、早い段階からAAを支持している。また、AAの第1副大統領候補は、ムハンマド・カーン(MK)(*4)という元ヘクマチアール派で、2001年のアフガン戦争直後に現政権に投降し、2005年の議会選挙では下院議員に当選している。ここでも支持のネットワークの広がりが見られる。

他方、AAは南部、南東部及び東部のパシュトゥーン人地帯での得票は少ない。AAが当選した場合、AGを支持した南東部及び東部、並びにその全体投票数から投票を行った人数が少ないと考えられる南部では、AAに対する民族的な壁が生まれる可能性も排除できない。特にタリバーンが攻勢を強めこれら地域に浸透していった場合、南部と北部との間の分断が起こる可能性も排除できない。たとえ、パシュトゥーン人地帯の部族長を味方に引き入れても、タリバーンの影響を受けやすい若者が離反すればこの可能性を高めることになる。MKその他のパシュトゥーン人支持者がどれだけタリバーンとの交渉に力を発揮できるかが鍵となるであろう。

AGについては、AG出身部族アフマドザイ(*5)の影響力の強い、南東部および東部の支持を得るとともに、第1副大統領候補であるドスタム将軍の地元でも強い支持がある。もし、南部地域のパシュトゥーン人を糾合できていれば、逆転勝利は全く可能性がないわけではない。

他方AGは、2001年以前は世銀職員であり、ZR(*6)と同様ソビエト侵攻以降の時代にアフガニスタンを離れていた。同じパシュトゥーン人であっても困難な時代を共にすごした経験が、ムジェヘディーン出身者についても、国内に残ったり、パキスタンやイランの難民キャンプにいたりした一般のアフガニスタン人についてもない。部族的血縁の疎遠な南部諸州のパシュトゥーン人がAGを信用するには時間がかかると考えられる。

また、そのことからタリバーンとの対話交渉に齟齬が生じる可能性もある。AGは有能であり、タリバーンとの交渉についても適切な人選等行っていると想像できるが、肝心のタリバーンとの信頼関係構築に課題が生じる可能性がある。

更に、戦争犯罪の罪が疑われるドスタム将軍を第1副大統領候補にしたことも他の有力民族タジク、ハザラなどからすれば、権力から遠ざかることを意味し、納得がいかないであろう。民族対立の火種をもつことになる。

以上をまとめると、AAが大統領になった場合、タリバーンに近い位置にいるパシュトゥーン人をまとめ、政府側に惹きつけられなければ、北部と南部の分断が強まる可能性がある。AGが大統領になった場合、一方でパシュトゥーン人全体の支持を得るために多大な努力が必要であり、他方で民族対立の激化が心配される。

(注)

  • (*1)NHKニュースインターネット版6月15日5時23分   http://www3.nhk.or.jp/news/html/20140615/k10015229841000
  • (*2)Independent Election Committee(IEC), Presidential Elections Final Results by Vote Order Result Status: Certified May 15, 2014 http://results.iec.org.af/en/finalresults/presidential/1
  • (*3)Who is who in Afghanistan Data Base, Abdullah Abdullah, Dr.(2014年6月16日採取) http://www.afghan-bios.info/index.php?option=com_afghanbios&id=14&task=view&total=2879&start=7&Itemid=2
  • (*4)Afghanistan Analysts Network(2014年6月15日採取、記事6月12日) http://www.afghanistan-analysts.org/elections-2014-26-the-other-possible-vice-president-dr-abdullahs-running-mate-muhammad-khan
  • (*5)アフマドザイ部族は、パキスタン・アフガニスタン国境付近の両国にまたがって住んでいる大部族である。
  • (*6)ザルマイ・ラスールは、イタリアに亡命したザーヘルシャー元国王の秘書官を務めていた。
    • 元東京財団研究員
    • 宮原 信孝
    • 宮原 信孝

注目コンテンツ

BY THIS AUTHOR

この研究員のコンテンツ

0%

INQUIRIES

お問合せ

取材のお申込みやお問合せは
こちらのフォームより送信してください。

お問合せフォーム