タイプ
レポート
日付
2014/7/28

習近平訪韓から見る韓国の対中認識

[特別投稿]黄洗姫氏/海洋政策研究財団 研究員

 7月3日と4日、習近平中国国家主席が韓国を訪問した。日韓関係の悪化と北朝鮮核問題の低迷が続く中、今回の習主席の訪韓で韓中両国がいかなる戦略的な会話を行い、どのような協力を導くのかが韓国社会の主な関心事であった。中国国家主席としては初となる単独訪韓であり、北朝鮮訪問よりも先となったことから、韓中関係の異例の接近を評価する論調が訪韓前の韓国世論を支配していた。

経済・社会交流の促進と北朝鮮問題の限界

 3日の首脳会談後に発表された共同声明を見ると、韓国社会の期待に応えるように、今後の両国の協力に関する実質的な合意が得られたことが分かる。同声明において、青年交流事業の拡大や、領事協定の締結、環境・人道的な分野における協力強化といった、社会文化面での人的交流を促進する合意が記されている。社会文化面の交流は、昨年朴大統領が訪中した際に発表された「韓中未来ビジョンの共同声明」で提示された協力内容を継続・推進するものである。経済分野においては、韓中FTAの年内締結に向けて努力することが言明されており、両国通貨間の直接取引システムの構築も明記されている。

 一方、北朝鮮問題に関しては、「朝鮮半島における核兵器の開発に反対」し、六者協議による問題解決を訴え、六者協議参加国が2005年9月19日の共同声明および国連安全保障理事会の関連決議を履行することを催促するにとどまった。韓国の対中接近の狙いが経済協力と北朝鮮問題での協調であるだけに、原則論に終始する中国の姿勢に対して、韓国社会から不満の声も上がっている。とりわけ、「北朝鮮の非核化」ではなく「朝鮮半島の非核化」を明言することは、戦術核を含むアメリカの核戦力が韓国に展開することを警戒する中国の狙い通りであるとの批判が提起された※1 。

中国の朝鮮半島政策をめぐる議論

 朴政権が積極的に中国接近を推進するにつれ、韓国では中国の対朝鮮半島政策をめぐる議論が展開されてきた。先ず、大国としての自信感を身につけた習近平体制は、朝鮮半島の安定および現状維持を優先したこれまでの方針から脱却し、朝鮮半島問題および北朝鮮の核問題に対する再調整を図っているという見解がある。このような観点煮立つ論者は、「戦争防止、北朝鮮の混乱防止、韓国による統一阻止、そして非核化」という、「三不一無」の原則を保持してきた中国の対朝鮮半島政策が、「非核化、安定と平和維持、対話による問題解決」へ変更されたことに注目する※2 。昨年、国連の北朝鮮制裁に中国が一部参加した経緯もあり、中国が「韓国による統一阻止」を放棄し、朝鮮半島の安定に重点を置き換えているという予測が広まった。

 このような認識の背景には、 朴政権下の韓国外交の特徴が存在する。米韓同盟と対中協力を同時進行させることが韓国外交の近年の課題であり、とりわけ朴政権発足からは対中関係の進展が積極的に推進されてきた。解決策を見いだせない北朝鮮の核問題や、歴史問題等をめぐり停滞している日韓関係の行き詰まりを、対米・対中外交の成果で補う構図が出来上がったのである。こうした中、中国の北朝鮮政策の根本的な変化を予測する楽観的な見解がマスコミを中心に広まりつつある。

 しかし一方では、相次ぐ北朝鮮の核実験やミサイル発射が中国の対北朝鮮政策に変化をもたらしたことを認めながらも、北朝鮮の戦略的な価値を無視した根本的な政策転換は生じないという見方がある※3 。また、習近平体制の対朝鮮半島政策において継続と変化が平行しているとの見解もある。このような視点からは、北朝鮮が依然として中国の唯一の軍事同盟国であるがゆえに、中国が北朝鮮体制の急激な崩壊を回避し、北朝鮮における影響力の拡大を図っているとの分析がなされる※4 。

 今回の首脳会談は、以上のような相反する議論を検証する場でもあった。そして中国は、韓中共同声明において、北朝鮮問題の解決に向けた韓国の努力を高く評価し、理解を示しつつも、上述のような朝鮮半島の非核化を目指す姿勢を固守した。このような声明内容について、韓国政府が中国政府を説得するよりもむしろ主導権を奪われ、自らの足場を狭めたとの批判も上がっている※5 。中国の韓国傾斜を期待した楽観的な見解は、今回の首脳会談によって再考されることになった。

国際政治のパワーゲームの難しさを実感

 しかも訪韓二日目の4日、習主席はソウル大学での講演において、歴史問題をめぐり韓中が共同で日本に対応することを訴えた。共同声明において対日メッセージを控えていた韓国政府は、習主席の対日発言に戸惑いを見せた。当日の昼頃まで日本関連の言及を回避していた青瓦台(大統領官邸)は、習主席の対日発言の後(午後5時)に慌てて前日の非公式協議の内容を発表した。外交安全保障首席が「両国首脳は日本の歴史修正主義と集団的自衛権問題に懸念を示した」との会談内容を公開したのは、中国の対日政策に韓国政府が追随するという国内批判への対応であった。しかし非公式協議の内容の公開が韓国外交の信頼性を損なったという批難も上がり、今回の習主席訪韓の成果は色あせる結果となった。

 近年の国際情勢をめぐり、中国がアメリカの対中封じ込めの枠から韓国の離脱を望む分、韓国の戦略的な価値が上がったという楽観的な認識が韓国社会の主流となっていた。このような状況認識もあり、盧武鉉政権の「北東アジアバランサー論」から近年のミドルパワー外交に至るまで、韓国外交は米韓同盟の深化と韓中接近の並行を図るものになっている。しかし国際政治において、純粋に両国間の関係のみを対象とした協力はそもそも不可能かもれない。今回の習主席の訪韓は、日本、そしてアメリカを警戒する中国と、北朝鮮問題の進展を図りたい韓国の異なる思惑が交錯していることを改めて浮き彫りにした。

 日韓関係の悪化とアメリカの衰退、そしてアメリカ主導のミサイル防衛への参加に対する国内の抵抗から、対中接近は韓国の安全保障政策の代案として期待された側面がある。しかし、日米韓協力を置き換えるものとして韓中協力を推進することは、韓国外交の行動範囲を制約するだけで根本的な外交戦略として機能しない。対中接近の前提が反日連帯となることには一貫して慎重な姿勢を示す韓国としては、皮肉にも、今回の韓中首脳会談によりむしろ日韓関係の改善の方が必要であることを再び認識することになったかも知れない。

  • ※1 文化日報、2014年7月1日。
  • ※2 キム・フンギュ「北中関係の含意」『韓半島フォーカス』2013年7/8号、13-15頁。
  • ※3 シン・クァンジン「中国の対北政策—戦術的な変化」『韓半島フォーカス』2013年7/8号、16-19頁。
  • ※4 チョン・ジェフン「習近平体制の発足以降の対外政策の変化考察–対朝鮮半島政策を中心に」『北朝鮮研究学界学術発表論文集』2013年、379−403頁。
  • ※5 キム・ジユン、イ・イチョル他「習金平の訪韓の成果と課題–一場中夢と揺るがない世論」『アサン・イシュー・ブリフ』2014年7月。