タイプ
論考
日付
2015/2/9

?財政健全化の行方を読む(1)-最近の三つの動きから見えてくること

東京財団ディレクター・研究員
亀井善太郎


2月5日、自民党財政再建に関する特命委員会(委員長:稲田政調会長)が初会合を開いた。12月の総選挙での公約である「消費税増税は先送りするが財政健全化は堅持する」を具体化するため、これで、政府、与党それぞれの動きが始まったことになる。
これらの動きは、12月の総選挙明けから足下まで一連の流れのもとにある。では、この先はどうなるのだろうか、懸念があるとすればどんなことだろうか。

本稿では、今回と次回の二回に分けて、日本の財政健全化の行方について、総選挙明けから足元までの「来年度予算案」、「経済財政諮問会議」、「自民党政調」の三つの動きを概観しながら、そこから読み取れること、また、各国の財政健全化の経験を踏まえた原則も踏まえ、これから進むべき道について、改めて考えてみることにしたい。

そもそも、財政健全化については、その一里塚とも位置付けられ、当面の目標と位置付けられるのは、プライマリーバランス(基礎的財政収支)*1の2015年度での半減(2010年度ベース)、2020年度での黒字化だ。2015年度の目標達成は概ね見込めるものの、2020年度については現行の歳入(税制)や歳出構造のままでは絶望的な状況にある*2

内閣府の昨年7月の試算によれば、アベノミクスが成功した場合(経済再生ケース)でも、2020年度に11兆円程度の赤字が見込まれる。この試算は、総選挙の公約となった、消費税率の引き上げ先送り、法人税率の引き下げを織り込んでいない試算であり、今後の見込みはさらに厳しくなるはずで、財政にとって好材料は見当たらない。

それでも、安倍総理は「財政健全化は堅持する。夏までに財政健全化の道すじを明らかにする」と国民に約束し、総選挙に臨み、勝利を得た。選挙後は、その約束を守るための具体策として見えてきたのが三つの動きだ。

動き その一 平成27年度予算案

【図1】日本の歳入・歳出・公債発行額の推移(兆円)

注:平成24年度までは決算、25年度は補正後予算、26・27年度は当初予算のみ
出所:財務省ホームページ「一般会計税収、歳出総額及び公債発行額の推移」、平成27年度予算案等より東京財団作成

リーマンショック以降、財政が経済を下支えする傾向が強くなったが、その傾向の是正には至っていない。もちろん、高齢化の進展に伴う社会保障費の増加の影響は大きいが、この間の政権交代の影響を歳出規模の推移から見ることはできない。現在のアベノミクスのような大胆な金融緩和による経済政策は、本来、リベラル政党や社会民主主義政党、つまり、米国における民主党、英国における労働党が唱える政策である。ところが、日本では、そうした政策を、保守政党を標ぼうする自民党政権が担っている。もちろん、リベラル政党や社会民主主義政党は、これに加え再分配政策の強化を謳うであろうが、財政政策について見てみれば、保守もリベラルも同じ政策を掲げており、国民にとっての選択肢を失わせてしまっている。これは先般の総選挙において、多くの有権者が、選択肢が無いと考えたことと同様である。つまり、この予算だけを見ても、財政健全化の意志を感じるのは難しい。

動き その二 経済財政諮問会議でのやりとり

次に、昨年12月22日と27日に開かれた経済財政諮問会議でのやりとりを見よう(下線筆者)。財政健全化を進めていくうえで、目標を何にするのがよいかという論点について、民間議員の間、そして、閣僚の間でも発言のトーンに微妙の差があるようにも読める。

民間議員による、従来のプライマリーバランスの黒字化ばかりではなく、債務残高とGDPの関係も見ていこうという問題提起は重要だ。プライマリーバランスは政策経費だけで国債の償還や利払いが含まれていない。金利が上昇すれば、利払いが膨らんでしまうので、保守的に考えれば、また、より長期で考えれば、プライマリーバランスだけではなく、利払いも含めた歳出のあり方をフローとして考え、さらにはストックベースで考えていかねばならない。

ところが、金利がきわめて低く、今後の経済成長を見込む当面の間は少し不思議な状況になっている。金利の上昇よりも経済成長が先行するので、上記の原則とは違う状況になる。つまり、プライマリーバランスが黒字化していなくても、債務残高対GDP比は低下することになる(【図2】の経済再生ケースの状態)。一見すると債務残高をコントロールできるようになるので、財政健全化のレールにのるように思われるが、長期で考えれば、やがては経済成長に伴い金利が上昇し、利払いが増加するので、プライマリーバランスを黒字化し、加えて、利払いを賄えないかぎり、財政は再び発散してしまう(【図3】の二つのシナリオの右側のグラフにおけるベースライン)。だからこそ、まずプライマリーバランスを黒字化し、その上で債務残高を考えるという順番こそが重要なのだが、そこに対するスタンスには微妙な違いがあるように思われる。

○経済財政諮問会議12月22日の議事より(下線筆者)*3

 (伊藤議員)
2点目は財政健全化について。資料1*4に書いてあるとおり、日本の財政健全化の目標としてプライマリーバランスをずっと使ってきた。これはもちろん非常に重要ではあるが、そういうフローの部分だけではなく、財政の持続可能性を見るためにはストック面を前面に出す必要がある。債務残高の対GDP比ももちろん大事だが、資産側もしっかり判断し、その上でネットの債務とGDPの比等をしっかりとチェックすることをこれまで以上に検討する必要があると思う。(中略)

(麻生財務相)
御意見をいただいた中で、2020年度のPBの黒字化に向けた新たな財政計画について、後ほど財政制度審議会の議論を紹介するが、市場や国際的な信認を維持するためには、具体的かつ現実的な案を出さないといけない。まずは徹底した歳出面の改革が必要なのは当然だが、社会保障については、持続可能なものするため、給付・負担の両面について改革を行う必要がある。資料1の3ページに記載されている取組だけを行えば良いわけではなく、その他の様々な歳出についても、人口減少に合わせた、徹底した見直しに取り組む必要があり、国と地方両方の歳出全般について踏み込んだ議論が求められる。また、先ほど新浪議員からも言われたように、歳入についても、部分的な手直しではなく、経済・社会の構造変化に合わせて、税制全般にわたる総点検作業を進めていく必要がある。
新たな財政計画について、来年夏までに具体化できるよう取り組んでまいるが、先ほど伊藤議員が言われたストックの話は、今までフローの議論はしてもストックの議論がなされることは少なかったので、この観点からも考えることは重要である。

(安倍首相)
2015年度に対GDP比でPB赤字を半減するという目標を立てた。2020年度にはPBの黒字化を目標としているが、これは政府の税収と政策的経費との関係になっている。
勘案するものは果たしてそれだけでいいのか。それだけで全て見てしまうのではなく、累積債務に対するGDP比、世界でも割とこれを指標としているところがあるが、GDPを大きくすることで累積債務の比率を小さくすることになる。そこで投入された国家資源がしっかりとしたストックになっていくことについて、どう評価するかという観点から伊藤議員はおっしゃったのだろうと思うが、もう少し複合的に見ていくことも必要かなと思う。

○経済財政諮問会議12月27日の議事より(下線筆者)*5

(伊藤議員) 
資料3「今後の課題」の2ページ、4行目に今後の財政健全化の評価についての部分があるが、前回お話ししたことを更に詳しく説明させていただく。前回申し上げたことは、フローで見た基礎的財政収支、PBの重要性に加えて、債務残高、あるいは資産・債務両方のストックも同時に見なければいけないという話をしたが、この点に対して2つ重要なポイントがある。

フローも重要であるが、国の資産と債務、この規模がGDPに対してどれだけの大きさにあるかということも重要である。過度に大きな負債、あるいは過度に大きな資産を抱えた経済というのは財政が非常に不安定になる。これまでも諮問会議において、例えば、PPP/PFIや民営化を通じて、債務・資産の両方を軽くするということを考えてきたわけであり、そういう意味では、資産負債両面を含めたストックを見るという視点が重要である。
もう一つ、これはアベノミクスに非常に深く関わる点であるが、デフレのときには言うまでもなく、負債は名目金利で増えてしまうが、分母のGDPはマイナスの名目成長で減ってしまう。しかし、これから日本はデフレを脱却して穏やかなインフレに向かうので、この流れが少し変わっていくだろう。今後、デフレを脱却した成果として、ストックの負債のデータがどうなるかということを見ていくことが重要である。

(中略)

(麻生財務相)
 新しい財政計画について、民間議員、また甘利議員から貴重な御意見をいただいたことに感謝申し上げる。
2020年度までにプライマリーバランスを黒字化して、その後、債務残高の対GDP比を引き下げるためには、不退転の覚悟をもって臨まなければいけない。経済再生はもちろんのことだが、歳出歳入両面にわたる改革に取り組んでいかなければならず、特に社会保障と地方財政における改革が不可欠である。
また、財政健全化目標を実現するための財政計画は、定性的なものではなく、市場の信頼や国際的な評価を維持できるよう、具体的対策が入ったものとする必要がある。しっかりとした内容のものを、来年の夏までにきちんと策定したい。

(黒田議員) 
甘利大臣が提出された「経済財政諮問会議における今後の課題について」に関してコメントを申し上げたい。
今後の課題として挙げられた点については全く賛成で、特に伊藤議員が言われた、フローの基礎的財政収支に加えて債務残高の対GDP比をよくみていく必要があるということは、そのとおりである。長期的に債務残高の対GDP比を減らしていかなければならないと思うが、基礎的財政収支が赤字のままでは債務残高の対GDP比は発散してしまうので、2020年度に基礎的財政収支を黒字化するという財政健全化目標は堅持する必要があるだろう。

(高橋議員) 
従来から内閣府はPB赤字と、債務残高対GDP比の2つを公表しているが、そこに金利などの諸条件も組み合わせて、どうなるかということを複眼的に見ていくことを議論しなくてはいけないのではないか。これが正しい、これが間違っているという決め打ちではなくて、いくつかのことをきちんと見ながらやっていくことが必要だと思うので、そういう議論をぜひとも来年以降させていただきたい。

(麻生財務相) 
黒田議員、高橋議員のご発言と同じことだが、基本的にPBが赤字の間は、GDPをいくら増やしても債務残高は増えていく。それは当然であり、まずはPBをきちんと黒字化させることが重要である。債務残高対GDP比など改善しなければならないところはいくつもあるのだと思うが、まずPBの黒字化を達成したうえで、2020年度以降のことを考えておかなければいけない。

(安倍首相)
PBを黒字にしないと、もちろん債務残高の絶対額は減っていかないが、同時に対GDP比という観点から見ていくわけだから、PB黒字化へのスピードをただ単に上げていこうとした結果、成長が止まってマイナス成長になれば、むしろ債務残高とGDPとの関係においては悪化していくことになる。どこが適正なスピードなのかということは難しいが、高橋議員がおっしゃったように、俯瞰的に見ながら、経済は生き物であるという認識は常に忘れずに、机上の計算どおりにはいかない中において、調節をしながら進んでいくということが大切である。


【図2】内閣府の推計から見る「日本の財政の今後」



【図3】財政制度等審議会における長期推計から見る「日本の財政の今後」
(経済再生ケース、2020年度プライマリーバランス黒字化達成)



(経済再生ケース、2020年度プライマリーバランス黒字化できず)

 

動き その三 自民党政調での動き

冒頭にも書いたとおり、2月5日、自民党財政再建に関する特命委員会(委員長・稲田朋美政調会長)が初会合を行った。政府の財政再建計画が出てくる6月をにらみ、委員会の考え方をまとめるとしている。
この動きは、1月21日、自民党河野行革本部長は稲田政調会長に自由民主党・行政改革推進本部中長期財政見通し検討委員会のこれまでの検討を踏まえ手交された「報告」に連なる。委員会設置の骨格ともなる「報告」のポイントを見ておこう。

  • 中長期財政試算の適切なやり直しを
  • 新たな中長期計画の作成と検討のための党組織立上げを
  • さらに踏み込んだ財政健全化目標の枠組みを
  • 社会保障を含めた聖域なき歳出構造改革を

一点目は現下の経済状況や政策を反映した推計の早期実施、三点目は経済財政諮問会議のやりとりと同じであるが、長期視点でのストック指標の追加というポジション、財政に対しては保守的な姿勢での表明だ。四点目はいわゆる社会保障費の自然増にもメスを入れるべきということである。そして、二点目の党組織の立ち上げが「財政再建に関する特命委員会」であり、政調会長が委員長となっていることからも党をあげての組織ということが推察される。財政健全化に向けた党をあげた組織の立ち上げという意味では、小泉政権下での中川秀直政調会長等のリードによる党主導の複数年度にわたる歳出カットに踏み込んだ事例が思い出されるが、今回の取組みも、そうした事例をイメージしたものである*6

以上、三つの動きをあらためて整理するとこうなる。

  • 具体的な数字として出てきた今年度予算だけを見れば、財政健全化に向けた努力はほとんど確認できない
  • 財政健全化においては、すでに国際公約となっているプライマリーバランスの黒字化ばかりではなく、債務残高GDP比のような別の指標も目標として採り上げる方針が明らかとなりつつあり、その取扱いについては政権内に温度差もある。
  • 政府、与党、それぞれで組織を挙げて財政健全化に取り組む動きが出てきていて、夏ごろまでには何らかの具体策が明らかになりそう

財政健全化の事例から見た評価

この三つの動きをどう見るのがよいだろう。まず、個別の評価に入る前に、これまでの各国の財政健全化の経験から、必要なポイントを整理しておきたい。

  1. 国民の代表により、財政健全化を推進するための法律がつくられ、政府に財政健全化をきちんとやらせる仕組みをつくる【法整備を伴うガバナンス改革】
  2. 財政を考えるうえでの経済前提等の数値やロジックは、政府のお手盛りを避け、中立的な機関が担う【独立推計機関の利用】
  3. 単年度ではなく、複数年度での財政の枠組みをつくり、その制約のもとで予算をつくるようにする【複数年度での取組み】


次稿では、これらのポイントについて、各国の財政健全化の具体例を踏まえて、その原則を明らかにすると共に、これを踏まえ、いまの日本の動きを評価し、今後の道すじについて論じてみたい。
 



*1 税収・税外収入と、国債費(国債の元本返済や利子の支払いにあてられる費用)を除く歳出との収支のこと。その時点で必要とされる政策的経費を、その時点の税収等でどれだけまかなえているかを示す指標である。
*2 詳しくは拙稿「財政健全化に目を背ける日本への処方箋」を参照されたい。
*3 経済財政諮問会議(12月22日)議事録3~4ページ。
http://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/minutes/2014/1222/gijiyoushi.pdf
*4 http://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/minutes/2014/1222/shiryo_01.pdf
*5 経済財政諮問会議(12月27日)議事録4~5ページ。
http://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/minutes/2014/1227/gijiyoushi.pdf
*6 実際、初回の講師は中川元政調会長であった。2月5日付ロイター報道等