タイプ
レポート
日付
2011/4/22

第3回「介護現場の声を聴く!」

 第3回では、全国各地で在宅介護サービスなどを手掛ける「株式会社日本介護福祉グループ」で高齢者専用住宅の建設などを担当する千葉由樹子さん、山梨県南アルプス市のデイサービス事業所でエリアマネジャーとして勤務する日本介護福祉グループの小尾幸弘さん、都内で介護・保育関連施設を展開する「株式会社global bridge」介護部長の片岡淳さんに対し、東日本大震災の対応や現場が直面する課題、介護業界に入った動機などを聞いた。

__<インタビュアー>
石川和男(東京財団上席研究員)
三原岳(東京財団研究員兼政策プロデューサー)

<インタビュイー>(画面左から)
千葉由樹子さん(株式会社日本介護福祉グループ特殊業務部)
小尾幸弘さん(株式会社日本介護福祉グループ甲州茶話本舗デイサービス赤石亭エリアマネージャー)
片岡淳さん(株式会社global bridge介護部長)

※このインタビューは2011年4月11日に収録されたものです。


要 旨

国会停滞で高齢者住宅の建設に影響

 第1~2回に続き、インタビューは東日本大震災の影響で始まった。千葉さんによると、震災対応で国会審議が停滞していることが業務に影響を及ぼしているという。

 停滞しているのは、バリアフリー化など高齢者に配慮した設計を持つ高齢者向け住宅の建設。政府は現在、24時間対応の訪問看護サービスを実施する「サービス付き高齢者住宅」を創設する法改正を予定しており、日本介護福祉グループは国からの補助金を見越して高齢者向け住宅の建設を計画している。

 しかし、震災の影響で国会審議が停滞し、法改正を主管する国土交通省のホームページから補助金申請書のダウンロードができなくなっており、千葉さんは「補助金が(貰え)ない場合も考えないと…」と話す。

 小尾さんの事業所は計画停電の影響を受けた。

 高齢者がデイサービスから帰る間際に入浴すると、湯冷めで風邪を引く可能性があるため、小尾さんの事業所では普段から少し早めに入浴サービスを提供しているが、計画停電の時間帯が午前中にセットされたことで、昼食を挟んだ形で入浴時間をセットせざるを得なくなかったという。しかし、高齢者はご飯を食べた後に横になりたがるため、すぐに風呂に入って具合が悪くなっても困るので、小尾さんは入浴時間の設定に苦労した。

 さらに、被災地のテレビを見て不安になる高齢者もいるため、レクリエーションの時間を増やすなどの対策を講じているという。

 片岡さんが苦労したのがガソリン不足。勤務する事業所では施設に影響はなかったものの、「(火災対策に比べて)地震対策は抜けていた」と総括した上で、「(普段から)半分ぐらいになったらガソリンを満タンにするよう指示していたが、1週間ぐらいはスタンドに並んで2時間待ってやっと10リットル(を買える状況だった)」という。

利用者の笑顔が活力

 インタビューは後半に入り、介護業界に入った動機などを聞いた。

 「病院で働いているうちに介護職に魅力を感じた」と話すのは千葉さん。

 千葉さんが以前、働いていた病院では特別養護老人ホームへの入居を待つ高齢者が多数入院しており、看護師は注射や薬のケアなど淡々とルーティンワークをこなしていく業務が中心と映ったのに対し、ヘルパーは会話や食事介助などを通じて高齢者と交流があるヘルパーの仕事に魅力を感じたという。

 千葉さんは「治療だけだと尊厳が感じられない。同じベットに寝ていても『今はこうしたい』(という高齢者の)要望をかなえるのは介護の力。看護師よりも心の入った人間味のある介護職に入った」と話した。

 花屋で働いていた小尾さんが介護職に興味を持ったのは、介護施設に花を配達した時。その時、介護施設の職員が女性の高齢者に怒鳴っている場面に出くわした小尾さんは「自分の家族のような感じで言った方がいいのに…」と腹立たしく感じ、高齢者に話し掛けると高齢者が良い笑顔を見せたという。

 一方、小尾さんの認知症になった祖母を介護できなかったことが心残りになっていたため、「自分が恩返しにみたいに介護できれば」と感じ、介護の世界に入ったと話す。

 動機とともに、やりがいを聞いたところ、3人は口を揃えて「利用者の笑顔」を挙げた。

 「利用者の笑顔が活力源。今の日本を作ってきた利用者さんのために何とかしたい」と話すのは小尾さん。

 自宅に帰りたがる認知症患者を引き止める際、なかなか自宅に帰れないことを理解して貰えず、認知症患者から殴られるなどの苦労も絶えないというが、「どんなにつらい時でも、利用者さんの笑顔があると、『やってて良かった』と思う」という。

 片岡さんは介護保険制度の導入直前、訪問介護の仕事に携わった際、利用者の笑顔が仕事を続ける動機となったと話す。現在は「苦労とは感じないぐらいような(利用者本位の)気持ちを心掛けている」と話す。千葉さんも介護サービスを通じて、自分が利用者の体の一部分を代替することで、利用者の生活が良くなかった時に仕事のやりがいを感じるという。

わずか1日で退職するケースも

 介護従事者の離職率の高さも話題になった。

 財団法人介護労働安定センターの「介護労働実態調査結果」によると、介護従事者の離職率(2008年10月~2009年9月)は17%。その背景としては、待遇の低さなどが指摘されており、政府は2009年度第1次補正予算で、月額賃金を1万5000円上乗せする基金を創設した。

 しかし、他の産業と比べて離職率は依然として高止まりしており、現場に携わる3人からは高い離職率の背景が明らかにされたほか、早期離職による苦労も相次いで示された。

 千葉さんによると、施設長との相性の良し悪しも離職率の高さの背景にあるという。千葉さんは派遣職員をやりつつ、色々な介護施設を短期間で回った経験があるが、「(施設の運営に)施設長の色が出てくる。空気感やケアのやり方が(施設ごとに)大きく変わる」と指摘。相性が合わない場合、別の介護施設に転職する人は少なくないと話す。

 小尾さんは唐突な退職に戸惑った経験を話した。

 「アレッ?何であいつ来ないなんだろ」。前日から働き始めた新人が出勤して来ないことを心配し、職員が電話したところ、電話は繋がらず、その後そのまま辞めてしまったという。さらに、筆記試験と3年以上の現場経験などが必要な介護福祉士の資格を取ったのに、トラック運転手に転職した人も。1カ月程度で辞めた人は「結婚するのに家庭を養えない」として、低賃金を理由に挙げたという。

 人手不足を痛感している片岡さんも「長く働いている人はいるが、1週間で辞める人もいる。(欠員を)補てんしても教育するのに何カ月も掛かる」と苦労を明かした。

 インタビューの最後に聞いた国の制度改革に向けた要望では、片岡さんが「制度が分かりにくい。サービスを受けたくても受けられない人がたくさんいる。家族が理解できる仕組みを考えてほしい」と注文。

 小尾さんは「サービスを利用できない利用者がいるので、間口を広げて欲しい。(施設への入所ではなく)お泊まりサービスを充実していけば、家族も助かるのでは」、千葉さんは「お金を持っている人もない人もサービスを受けられる社会になって欲しい」と、それぞれ話した。

【文責:三原岳 東京財団研究員兼政策プロデューサー】