タイプ
レポート
日付
2011/10/6

第26回「介護現場の声を聴く!」

第26回目のインタビューでは、訪問介護などのサービスを全国で展開している「株式会社やさしい手」社長の香取幹さん、特別養護老人ホームや通所介護事業所を運営する「江戸川光照苑」苑長の水野敬生さんに対し、今年6月成立の改正介護保険関連法に盛り込まれた「地域包括ケア」の実現性や年末に控えた介護報酬改定に向けた展望などを聴いた。


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インタビューの概要
<インタビュイー>
香取幹さん=「株式会社やさしい手」社長
水野敬生さん=「社会福祉法人光照園 特別養護老人ホーム江戸川光照苑」苑長

<インタビュアー>
石川和男(東京財団上席研究員)

※このインタビューは2011年9月26日に収録されたものです。


要 旨


「地域包括ケア」の定義

第26回インタビューでは、今年6月に成立した改正介護保険関連法に盛り込まれた「地域包括ケア」が話題となった。

厚生労働省の「地域包括ケア研究会」が2009年に取りまとめた報告書に従うと、地域包括ケアとは「ニーズに応じた住宅が提供されることを基本とした上で、生活上の安全・安心・健康を確保するために、医療や介護のみならず、福祉サービスを含めた様々な生活支援サービスが日常生活の場(日常生活圏域)で適切に提供できるような地域での体制」という定義。

車をで概ね30分で行ける範囲を想定しており、水野さんは「住み慣れた地域で、安心して住み続けられる。高齢になって介護が必要になったとしても、365日24時間絶え間ない介護を提供されながら生活できる。自助、公助、共助の理念の元に生活する」と解説した上で、「理念は素晴らしい」と評価した。

しかし、厚労省は2003年の報告書で、地域包括ケアを2015年度に実現するとしていたのに対し、今回の法改正で実現年度は2025年度に持ち越された。

このため、水野さんは「(実現年度は)当初2015年だったのが2025年に延びた。現実的にどうかということになると、政治家の人達が掲げる理念」と実現性に疑問を投げ掛けた。さらに、「官僚の人達は今の介護雇用や施設整備を全部含めて細かく具体的に出していかなけれないけない」「都内でセキュリティーがしっかりしているマンションに鍵を持ってスタッフが自宅に入り、介護して帰ることが本当にできるか」「認知症(ケア)のことが殆ど触れられていないことが、認知症がドンドン増えていく中で、大きく掲げられていないことに危惧する」と注文を付けた。中でも、認知症ケアに関しては、「『認知症の方でも安心して』と言う方もいるが、定期巡回型なので(定められた)時間の中で行っており、認知症の方はケアが大変。機械的に行くことが認知症の高齢者にとっていいサービスなのか?」と指摘した。

一方、香取さんの経営する会社は今回の改正をにらみ、既に24時間訪問介護看護サービスを展開しているが、香取さんは「住み老い」という造語を用いて地域包括ケアの概念を説明した。香取さんは住み老いを「住み慣れた家で老いる。生み慣れた地域で老いる。略して『住み老い』」と定義しつつ、「住み老いのために必要な在宅医療をどう提供していくか、生活支援をどう提供していくのかをきちんと整理して、(サービスを)提供していく仕組みを作っていくこと」「重度要介護、単身という2つの課題を抱えている利用者に向けて提供されるもの」と語った。

中でも、後者に関して、香取さんは「(家族と同居する利用者を対象に)夜中に鍵をガチャガチャ開けて『どうも』と入って行く介護は不自然」と説明しつつ、一人住まいの要介護高齢者や、夫婦両方が要介護者(の世帯)が地域包括ケアの最大のターゲットであるとの認識を披露した。

その背景として、香取さんが強調したのが一人住まい高齢者の増加。香取さんは「我が国の近代化とともに(高齢者)夫婦と息子、娘世帯が別々に住む傾向が進み、都市だけでなく地方も含めて2005年から2025年までの間に単独世帯、夫婦のみの65歳以上世帯が増えて来る」と指摘しつつ、「(これらの世帯に対して)どういう介護サービスが必要なのか問題になって来る。これを解決するのが地域包括ケア」と強調した。

さらに、「こういったサービスは地方の方が先にニーズがある可能性がある。単独世帯で言うと、東京は住宅事情が厳しい。多世代住宅、二世代住宅を解消して新しく住居を確保するのが困難。地方は家賃が安く、単独の方がもう1つ世帯を持つ。成熟した日本では地方の方が先に欧米化してしまう可能性がある」と語った。

一方、水野さんは地域包括ケアの仕組み自体は広島県尾道市(旧御調町)など一部で取り組まれてきた点を引き合いに、「(地域の先進)モデルを大都市モデルだと言っている。現実には簡単に行かないのは誰もが考えても分かる気がするが、23区でも世田谷区と台東、葛飾区では違う。それぞれの自治体のモデルを作っていかないと、全国一律に同じ24時間介護を提供するのは難しい」と指摘。

その一例として、現在の夜間訪問介護に対するニーズが高くない点を一例に出し、「『入って来られたら困る』という事情に加えて、介護報酬単価が高いのでそれを使うと昼間のサービスが薄くなってしまう。当然、夜間の訪問介護員は時間単価が上がって来る」と述べ、「ニーズは少ないけど、人件費は掛かるとなると、利益はどうなるのか」「(女性の)ヘルパーが一人で夜中に行くのは危険があるし、(夜間は)賃金が上がる。『介護報酬を上げないぞ』と言っていたら、人が来ない。夜間が働く人は多くない。昼間でも集まらないから夜間はリスクが伴う」と指摘した。

これに対し、香取さんは現在の巡回サービスを提供する範囲について、「都心では交通事情が悪いので、2キロ半径という現実。多くの事業所がサービス提供の在り方として参入するのは意味があるし、それほどの市場はある」と強調した。

このほか、水野さんは特養の意義として、「人権侵害、重度認知症のためにある専門的に提供する施設」と強調した。中でも、最近は施設から在宅への転換を促す意見が高まっており、その一つの根拠として「最期は何処で迎えたいか?」というアンケート調査に対し、自宅で迎えたいという答えが多いことが挙げられている。

しかし、水野さんは「僕が聞かれても『自宅で生活したい』と言うと思う。実際にギリギリの所で『どうしますか?』とお聞きすると、『最後は特養』という答えが多い現状。ニーズはないということではなく。最後は安心できる場所がないと」「離れて暮らしている家族が心配だったり、一緒に住んでいる方でもギリギリの所まで頑張っている方が多く、介護殺人や高齢者の自殺が今でも減っていないとなると、最後に求める所をキチンとセーフティーネットして持っていないと、介護が必要にあっても安心して暮らして行くことにならない」と強調。その上で、「施設重視、在宅重視(の二律背反)ではなく、(施設、在宅の)両輪が必要。必要な人が必要な時に利用できるだけのキチンとした仕組みやサービスの量を確保する必要がある」と力説した。


介護報酬改定の注目点は?

話題は年末に控えた介護報酬改定に移った。

介護報酬は3年に1回改定されており、2012年度予算編成では医療機関向けの診療報酬と同時に改定される。

その中での焦点は「介護職員処遇改善交付金」の取り扱いだ。この話には伏線があり、民主党は野党時代の2008年1月、月額2万円程度の引き上げを目指す法律を議員立法で提出。さらに、政権を獲得した2009年8月の総選挙では、介護職の給与を月平均4万円を引き上げる方針をマニフェスト(政権公約)に盛り込んだ。

これに対し、当時の政権与党だった自民、公明両党は2009年度第1次補正予算で、月平均1万5000円の給与引き上げを目指す同交付金を創設。しかし、交付金の期限が2011年度に切れるため、継続されるかどうかが注目されている。

水野さんは「処遇改善交付金は基本的に全国一律。(大都市は)物価指数、住宅(価格)が違う。全国一律で良いのか」と問題提起し、地域ごとの物価、地価などの違いを考慮する必要があると訴えるとともに、「一番の注目は地域係数」と語った。

地域係数とは物価や賃金、地価などの違いを考慮し、介護報酬を上乗せする制度。東京23区の場合、現在は最大15%が加算される仕組みとなっており、水野さんは「これから高齢化していくのは東京を初めとする大都市。ただ、大都市の(事業所)経営は非常に厳しい状態にあるのが現実.介護人材もそうだし、大都市の問題をどうしていくのか注目しなければならない」「大都市の高齢者が安心して生活して行くには質の高い施設や事業所、そこで働く質の高い職員・スタッフを確保して行くためにも、処遇改善交付金が上乗せされても(給与、処遇が)全産業平均を今でも下回って低い状況にあるのが現実」と指摘した上で、国家公務員の地域手当に準じて5区分から7区分に細分化される地域手当の設定に注目して行く考えを示した。

一方、香取さんは注目点として、自らの会社で提供する「定期巡回随時対応型訪問介護看護」「小規模多機能居宅介護の複合サービス」の報酬設定を挙げた。中でも前者に関しては、厚生労働省が包括払い(=実際のサービスごとに報酬を支払う出来高払いに対し、特定のサービスに定額の報酬を支払う方式)を導入する考えを示している点について、「(利用者のニーズに応じてサービスを提供できる)定期巡回型は包括払いにした方が必ず良い結果が生まれる」と語った。

さらに、香取さんは「地域包括ケアが上手く行くために重要なポイントは診療報酬。介護報酬も重要だが、在宅医療診療報酬も重要なポイントになる」と語り、在宅医療向け診療報酬も注目点に挙げた。香取さんは「在宅医療に関する診療報酬が高目に設定されている中、現実に地域で在宅医療が行われているかというと違う。在宅医療が地域にネットワークが組まれて行くには、今まで通りに(報酬が)高目に設定することによって、初めて介護会社と在宅医療がネットワークを組み、地域包括ケアが実現する」「立派な先生が非常に多いが、全ての先生が同じ活動できるのかというと、そうではない。新しい在宅医療が普及して行くことで、介護会社と連携して地域包括ケアが『絵に描いた餅』ではなくなる」と述べた。


3つのマネジメント


香取さんは地域包括ケアを実現する上での課題として、介護報酬だけでなく「かかりつけ医」との整合性も挙げた。

香取さんによると、ある市区町村と定期巡回型随時訪問看護介護サービスについて話していた所、その当該団体では以前からかかりつけ医制度を整えているため、24時間巡回とともに在宅医療機関と連携する介護サービスを展開することに関して、「誠に困ります」と言われた時があるという。

香取さんは「在宅医療だと月2回。定期的に医者が健康管理を含めて総合的に病気を面倒見るために来る。特に都内で活躍している在宅医療の先生が複数で、複数の診療科目で提供する取り組みも始まっている。連携する訪問看護ステーション。介護事業所と情報をやり取りする中で、お客様の日々の医療的なサービスの状況について医学的管理を行い、その医学的管理の中で相応しい介護サービスを提供されるという仕組みが今後の地域包括で重要なポイントになる」といった取り組みを引き合いに出しつつ、「かかりつけ医制度と在宅医療は現実に全く違う。新しい在宅医療に移って行くことについての知識と認識を広めて行くことが地域包括ケアにとって重要なポイントになる」と話した。

さらに、香取さんは「在宅医療は多少なりとも必要な部分はある。ただ、本当に重度になってから在宅医療を使うのは殆ど難しい。要介護2~3の中度で在宅医療を利用し、患者が医者と信頼関係が築かれれば、信頼される医者の元で重度になっても在宅の生活を初めて続行できる」と語った。

これに対し、水野さんは介護報酬での課題を指摘した。水野さんは「介護職員が痰の吸引をできるようになり、そのために研修を何十時間も受けなければならない。介護福祉士が専門福祉士になって行くことになると、(職員の)インセンティブが発生して来る。安い給料のまま、同じ業務をやって行くのは難しい。インセンティブが上がって来るので介護報酬が上がる」と指摘した。

さらに、「平均寿命や介護度は上がって行き、施設、在宅においてはターミナルケア(=終末期医療)が重要になっている。ターミナル(ケア)をやるには訪問看護、在宅医療が必要だし、ヘルパーも資格が必要になって来る」と発言。その一方で、「ターミナルケアの方も(報酬上は)加算して行く所もあるが、(手厚い支援を講じれば)介護報酬が上がって行く」と発言。地域包括ケアの実現に費用が掛かるとして、「そんなに介護報酬が上がると国は見込んでいないので、現実的にできるのかという所に(結論が)帰ってしまう」と述べた。

一方、香取さんは苦笑いしつつ、マスコミや既存業界から「定期巡回型随時訪問介護看護はできないでしょう?」という質問を受けて来たエピソードを披露。しかし、香取さんは「必ずできる」と答えているという。

香取さんは「新しいサービスは既存の方々にとってプラス面がない部分が十分にある」としつつも、「介護の業界は準市場(クアジマーケット)。必ずイノベーションで新しいサービスを創造することは必要になって来る。定期巡回型随時訪問介護看護は一つのイノベーションになり得る」と強調した。さらに、指定訪問介護のサービスを提供している有料老人ホームが増えているとして、「入居一時金が安く、入りやすい施設が増えている中で、今回の定期巡回型随時訪問介護看護(の)認知が増えて来る」と期待感を示した。

このほか、今年4月に成立した改正高齢者居住安定確保法に基づいて創設される「サービス付き高齢者向け住宅」も話題となった。これまで高齢者用の賃貸住宅としては、高齢者の入居を拒否しない「高齢者円滑入居賃貸住宅(高円賃)」、高齢者向けにバリアフリー化などを講じている「高齢者専用賃貸住宅」(高専賃)、高専賃の優良物件を認定する「高齢者優良賃貸住宅」(高優賃)などの制度が存在した。

しかし、これらの分類を同法は「サービス付き高齢者住宅」として一本化し、▽床面積25平方メートル以上▽トイレ、洗面設備の設置▽バリアフリー施設▽安否確認、生活相談サービス提供―などの要件を満たした住宅を都道府県に登録する制度が創設された。香取さんはビジネスモデルとして、土地所有者が銀行から金を借りて建物を建てた上で、20年間一括借り上げた不動産会社が高齢者に部屋を賃貸する方法に言及しつつ、法改正を受けて多くの施設が造られるとの見通しを披露した。


上記の試算(やさしい手作成)によると、現在のペースで高専賃が建設されると、2010年度の5万7211戸から2015年度には23万8088戸に増加するという。香取さんは「(特養や老人ホームへの)入居を待っている高齢者が42万人。半分ぐらいは『取りあえず予約』の方もいる中で、場合によっては(サービス付き高齢者住宅の)供給過多になりかねない」と警鐘を鳴らした。その上で、「供給過剰になりながらも地域を含めて定期巡回型随時訪問介護看護が(サービス付き高齢者住宅の)重要なサービスになり得る」と語り、24時間型定期巡回サービスがサービス付き高齢者住宅の入居者以外にも開かれた形で拡大するとの見通しを述べた。

さらに、香取さんが強調したのがケアプランを作成する際の考え方。香取さんによると、利用者の生活を支援する上では、以下の図(やさしい手作成)の通り、「ケアマネジメント」「共同マネジメント」「継続的マネジメント」の3つが必須になるという。


「ケアマネジメント」では、ケアマネージャーが福祉用具貸与やショートステイ、デイサービス、定期巡回に関するケアプランを作成し、包括払いの中で様々なサービスを提供する考え方。「共同マネジメント」はケアマネージャー、看護師、サービス提供責任者が共同でマネジメントに当たることで、情報共有を進めつつ、24時間365日のケアプランを作成することを目指す。香取さんは「(看護師、サービス提供責任者が)24時間365日の生活の様子をケアマネージャーにフィードバックすることで、3人がほぼ同等の情報量を持つ意味では非常に意味のあるシステム。ICT(=情報技術)システムが進化している中で、ケアマネと介護員、生活相談員、看護師がほぼ同等の情報を持つことができる状況になりつつある」と強調した。3番目の「継続的マネジメント」は医学的な観点から利用者の心身状況の変化を確認して支援方法を随時変更する考え方で、香取さんは「3段階が定期巡回型随時訪問介護看護に内包される。我々として重要になると思っている」と力説した。


着任当初は半分が離職


インタビューでは、離職率の高さも話題となった。まず、水野さんは比較的景気の良かった2006年度以降、離職が多くなったと振り返りつつ、現在の施設に着任する直前の2007年度は職員約40人に対して、常勤、非常勤合わせて20人近くが辞めたという。水野さんは「給料が安いとか、労働環境が悪いとか、他の業種の方が給料がいいとか、腰痛とか色々な問題がある」と原因を分析。その上で、定員数に限度のある特別養護老人ホームでは「定員数×要介護5×365日」以上に利益を上げることはできないとして、「(特養の収入は)介護報酬に大きく左右される。(国・地方の財源難で)介護報酬を減らされて来たので、大きく給料を上げて改善を図ることはできなかった」と厳しい状況を話した。

その一方で、水野さんは働く職員の士気向上に努めたとして、「職員のモチベーションを如何に高めていくか。成果だったりとか、やりたいことをできる環境だったり、チャレンジしたいことに積極的にチャレンジできる環境を整えて行くことが大事」と話した。この結果、2010年度の離職率は常勤、非常勤ともにゼロに減ったという。

香取さんは「(離職率の高さは)会社に因ると思っている。魅力ない職場の事業者もいる一方、大変魅力的な職場づくりに励んで大変高いレベルの定着率を誇っている会社もあって、『介護業界では定着率が低いのが一般だ』という方程式は既に当てはまらない」と発言。さらに、「良い素晴らしい取り組みの会社がある一方、相変わらず従業員を使い捨てで循環することを前提に経営する会社もある。その差をどうやって見極めて、何処の会社にどう働いて行くか、働く方にとってはリスクになっている」と指摘した。

最後に話題になったのが、水野さんの施設が取得したISO(国際標準化機構)の規格。水野さんの施設では、品質保証を目的とした「ISO9001」、情報セキュリティ保持を目的とした「ISO27001」を取得しており、水野さんは9001規格を取得した理由について、「介護サービスは利用しないと分からない側面があるので、安心してサービスを利用していただくためにはサービスの質が見える形にしなければならない。自分達が作ったルールを作った通りにやって、きちんとチェックして、改善できる所はルールを見直して、第3者が監査することなので見やすいのではないかということで取得した」と説明した。さらに、27001規格を取得した目的に関しても、「社会福祉法人が経営する介護事業所としては国内初。(介護事業所は)様々な(個人)情報を持っているので、情報がキチンとしたルールの中で守られて行く必要がある。リスクマネジメントをやって行くことで、利用者や家族に安心してサービスを利用して頂く(ことが狙い)」と語り、他の施設との差別化に役立っていると述べた。

【文責:三原岳 東京財団研究員兼政策プロデューサー】