タイプ
レポート
日付
2012/3/29

第48回「介護現場の声を聴く!」

第48回のインタビューでは、ケアプランを自ら作成する運動を展開する「全国マイケアプラン・ネットワーク」代表の島村八重子さんに対し、自己作成する際の課題、自己作成の重要性、自己作成を支援するためにネットワークが作製したマニュアルの狙いなどを聴いた。


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インタビューの概要
<インタビュイー>
島村八重子さん=「全国マイケアプラン・ネットワーク」代表
<インタビュアー>
石川和男(東京財団上席研究員)
※このインタビューは2012年3月6日に収録されたものです。


要 旨


義父、義母の介護が契機

第48回目のインタビューでは、島村さんが全国マイケアプラン・ネットワークを発足させた経緯から始まった。

介護保険制度は通常、ケアマネジャー(以下、ケアマネ)が本人や家族と相談しつつ、必要なサービス内容を盛り込んだケアプランを作成する流れ。しかし、全国マイケアプラン・ネットワークではケアプランを自分で作ることに主眼を置いている。

では、島村さんが何故、こうした活動を始めることになったのか。元々、島村さんは約20年間、専業主婦だったが、義父の在宅介護と看取りを契機に、福祉・高齢者の介護問題に関心を持つようになった。島村さんは当時のことを「介護保険の前(の措置時代)に、自治体が色々なサービスを利用していた。ケアマネみたいなことをやりつつ、介護に当たっていた」と振り返る。

しかし、その際には「『寝たきりの人生はお父さんの人生だったのかな』という後悔(があった)。(義父の存在が)蚊帳の外だった」という後悔があったため、介護保険制度の導入前後に介護が必要になった義理の母親に対しては、「自分で最後まで主役にいて貰おう」「母は自分のことを『どうしたい』『こうしたい』と言えた。初対面のケアマネに話すよりも、ずっと関わっている私と話しながらケアプランを立てて、母の暮らしをそのまま続けられればいい」と考えたという。

そこで、島村さんはケアプランの自己作成を始めた。当時から「ケアマネはケアプランを(自己作成)できない人が依頼する。自己作成は大それたことじゃない」という考えを持っていたらしく、「自己作成することをきっかけにして、母の人生を棚卸しできたので、暮らしの中での意義のあることだった」と振り返った。

しかし、自治体からは「そんなの素人じゃ無理ですよ」「介護保険は難しくて素人には分からない」といった反応が帰って来たとのこと。

これに対し、島村さんは「それまで『(スタートしばかりの)介護保険は利用者主体の制度だ』と散々言われていた。『自己選択・自己決定』と言うならばオバサンにも分かる制度にして欲しい」と感じたというが、自己作成に際して何のマニュアルもなければ、行政から手助けもなかったという。

このため、島村さんは「とにかく道が無い。自己作成は始めたけど、(行政機関は介護報酬の)計算の票だけを出すだけ。その間のプロセスは何もチェックが入らなかった。介護保険という制度でサービスを使う訳だから、素人が立てたいい加減なプランじゃ困る。ちゃんとした道を行政が用意しなければ、私達が作るしかない」と考えるようになり、自己作成を試みている人のネットワーク化を考えた。

当時は介護保険制度が導入されたものの、半年ぐらい経っても上手く回らないことが分かり、メディアでは「どうするべきか?」といった議論が交わされており、「ケアマネの資質向上が全て」という有識者の意見も出ていた。このため、島村さんが「市民、サービスの使い手の能力・資質が上がって行く必要がある」という文章を新聞に投稿すると、それを読んだ何人から「自分も作っている」「自分で作った人を知っています」といった反応があったという。

そこで、島村さんは「熱い人達だからメーリングリストで熱い会話がなされる」と期待して内輪で10人程度のメーリングリストを立ち上げたものの、お互いに顔を知らない中では議論も盛り上がらず、1~2カ月経っても一言も出ない有様。既に島村さんが参加者と会っていたが、他の参加者同士で繋がりがなかったため、繋がりを作るために計画したオフ会は盛況だったとのこと。

当時の経緯について、島村さんは「メーリングリスト(の参加者)は10人ぐらいだったのに、(参加者が)興味のある友達を誘ってくれて20人以上集まり、会合も盛り上がった。それで市民団体を作ろうという声が上がり、それが新聞に載ったので、その度に連絡してくれる人がいた」「(自己作成に取り組んでいる人は)自治体に一人いるかいないか。ネットワークがあるので力強かった」と回顧する。

現在の参加者は150人程度。自己作成を経験した人、あるいは今も作成している人が50人程度在籍しており、ケアマネや研究者だけでなく、これから介護を勉強しようとしている一般の人も含まれている。


「玉手箱」と「整理箱」

そもそも全国マイケアプラン・ネットワークは情報交換を目的としていたが、自己作成の道を拡大するための方策を色々と考えた結果、『マイケアプランのためのあたまの整理箱』(以下、『整理箱』)、『マイライフプランの玉手箱』(以下、『玉手箱』)というマニュアルを作るに至った。

島村さんは自己作成を始めた頃の反応として、「自分達でケアプランを作ると、『客観性が無い』『わがまま放題にやるんじゃないか』『家族が深く関わっているので、本人の意思がないがしろになっている』『家族のいいように作るんじゃないか』と、専門家から色々と(疑問を)投げ掛けられた」と振り返った。

そこで、ケアマネがどうやってケアプランを作っているのか講義で聞きに行った所、「私達が頭の中で思考回路を整理して行く過程と同じ。『私達は間違った考え方をしていなかったんじゃないか』と思った。しかし、頭の中と会話だけだったので、それを書き落していなかった」として、『整理箱』の作成に至ったという。

島村さんは『整理箱』の狙いとして、「誰でもケアプランの根拠が分かるようにしておくものが必要と思った」「ケアプランはこうやって考えるんですよと(示すために『整理箱』を)作った」と説明。その上で、「自分を振り返ってみようとか、本人がどんな人生を暮らしてきたか、どんな生活を送っているかが『整理箱』のベース」と紹介してくれた。

『整理箱』は「ケアプランを立てる時の思考回路を整理する」「みんなでケアプランを作るための道具にする」「みんなでケアプランを分かって貰うために役立てる」「トラブルが起きた時の資料にする」「ケアマネなどに依頼している人は情報提供のために使う」という5つを主な目的としており、整理の手順として以下の流れを盛り込んだ。(「あたまの整理の手順」(『整理箱』より引用)

1段目の引き出し:介護保険に関する基本情報シート
2段目の引き出し:自分を振り返ってみよう
3段目の引き出し:わが家の「暮らし」を考えてみよう
4段目の引き出し:自分らしい生活を送るために
5段目の引き出し:サービスを入れた時の1週間の過ごし方
6段目の引き出し:サービス利用票、提供票
7段目の引き出し:サービス利用票別表、提供票別表
8段目の引き出し:情報を共有しよう
9段目の引き出し:問題を解決するために
10段目の引き出し:経過記録
11段目の引き出し:利用しているサービス

例えば2段目の引き出しでは、人生の出来事や病歴などを書き込む年表に加えて、「介護が必要になる前の平均的な1週間の過ごし方」「人とのつきあい」「性格」「自力でできること/できないこと」「趣味・好きなこと」などを記入する仕組み。

さらに、3段目の引き出しでは、高齢者が記入する「こんな風に暮らしたい」「こんなことをやってみたい」という欄のほか、家族が書き込む「こんな風にかかわれる」「こんな風にかかわりたい」という記入欄、家の間取りや家族構成などを書き込むコーナーを設けており、介護が必要となった人の生活や性格、家族関係、住宅状況などを把握できるようになっている。(資料「3番目の引き出し-わが家の「暮らし』を考えてみよう」(『整理箱』より引用)

その上で、自分らしい生き方を続ける上での方法として、4段目の引き出しで「どうしたいか、どうなりたいか」「そのために支障となること」「解決の方法」「担い手」「サービス内容」「サービス事業者名」「頻度」「期間」を記入。5段目の引き出しでサービスを導入した際の時間割を書き込むと、ネットワークがウエブサイト上に無料で公表している無料ソフトを使えば、6~7段目の引き出しでサービスを外注した場合の介護給付と費用が割り出せる。

一方、『玉手箱』は事前準備に力点を置いている。

島村さんは『玉手箱』を作成した動機として、「『倒れて介護が必要になって、そんな悠長なことを考えられない』という声がたくさんあって、介護が必要になる前から準備しとけばいいんじゃないという事で作った」と説明してくれた。

『玉手箱』は「出生時」「就学前」「小学校時代」「中学校時代」「15~18歳」「18~20歳代」「30歳代」「40歳代」「50歳代」「60歳代」「70歳代」「80歳代」と分かれており、このうち出生のページでは生年月日、名前の由来、旧姓、ふるさと、家族・家業、家の状況、毎日の生活(夢中になったこと)、出来事、そのころの社会背景などを記入する。

さらに、就学前~80歳代は基本的に記入する項目は基本的に同一で、「この時期の大きな出来事」「過ごした場所」「愛称」「家族」「学業・仕事など」「印象に残る人(先生)」「友人」「毎日の生活」「出来事・思い出エピソード、今だから懺悔」「そのころの社会背景」を書き込む。(資料「これまでの道のり-小学校時代」(『玉手箱』より引用)

現在の自分を自己分析できるコーナーもある。

「今の暮らし」と題するページでは、共に暮らす人や大切な人、任意後見人、仕事、趣味、スポーツ、ボランティア、暇な時の過ごし方・ストレス発散法を記入するほか、近所づきあい、親戚づきあいを書きこむとともに、友人と会う機会に関しては「ある」「けっこうある」「ほとんどない」ない」の4択で答える仕組み。

「私はどんな人」というページでは性格や自慢できる部分、直したい部分、話し方、憧れる人物像、口癖・行動癖、几帳面さ、性急さ、他人に接する姿勢、趣味・特技、好きな色、好きなテレビ番組、ペット、好きな話題、好きな人物、苦手なもの、苦手な人のタイプなどを書き込む。(資料「オリジナルな自分を分析『私はどんな人』」(『玉手箱』より引用)

「私のこだわり」というページでは衣、食、住、家事、嗜好品に区分しつつ、服装や髪型、食べ物、食事時間、器、家具、道具、寝る時のこだわり、掃除へのこだわり、好きな家事、酒、タバコといった点を記入する。(資料「オリジナルな自分を分析『私のこだわり』」(『玉手箱』より引用)

このほか、▽入っているサークルや趣味のグループ、ボランティア活動、同窓会、良く連絡を取る知人・親戚などを尋ねる「私の居場所」▽ローン残高や保険、老後の収入、公的年金の受取額などを記入する「資金をチェック」―などを記入する。

さらに、もしもの時に備えるためのシートとして、▽治療中の疾病、既往症、血縁者の病気、アレルギー、よく飲む薬、希望する治療方針などを書く「医療に関する申し送り」▽電気、ガス、水道、カード会社、物の片付け場所を記入する「暮らしに関する申し送り」▽緊急時に連絡して欲しい人、宗教、終末期の希望、葬儀・埋葬・墓についての希望などを書く「いざというのときのこと」-といったコーナーもある。つまり、これらへの回答を通じて、ケアプランの前提となる個人の特徴や欠点、趣味、性格、資金計画に加えて、終末期の在り方に関する考え方などが浮き彫りになる仕組みだ。

島村さんは「過去のことはパッと書ける所と、書けない所がある。人生の節目があるので、若い時から立ち止まってもいいんじゃないか」と力説した。全国マイケアプラン・ネットワークのウエブサイトに申込フォームがあり、ここから申し込むと郵送する。冊子の費用は各500円。

→全国マイケアプラン・ネットワークのウエブサイトはこちら

同時に、全国マイケアプラン・ネットワークでは趣旨に賛同してくれた個人・団体や、自治体の地域包括支援センターなどの依頼に応じて、『玉手箱』『整理箱』を使った出前講座やワークショップなどを展開している。

では、自己作成した場合とケアマネを通した際で何が変わるのか。島村さんは「ケアマネは(プロとして)知らない初対面の人のケアプランを立てるが、知らない人のケアプランを作る自信がない。今まで知り合いだったから、その人が分かっていた。(自己作成で)一番多いのは実の親」「自分の身内のケアプランと他人のケアプランは違う。自分の身内だと腹が立ったりする。感情が入ってしまう」と語り、ケアマネによるケアプラン作成とマイケアプランの違いを説明した。

その上で、島村さんは「(ケアプランを作る)姿勢が同じならば結局は同じ。ケアマネにお願いしてもできる事。(ケアマネと)一緒に作っていたら同じになる。丸投げしていたら同じにならない」と指摘しつつ、「自分達で一生懸命考えたのは意義があった。介護保険上の自己作成にこだわっている訳じゃない。(ケアマネに)丸投げしたらブツッと切れる」と語り、自己作成を試みるプロセスの意義を力説した。

同時に、島村さんが強調したのが自己作成による影響だ。島村さんによると、ケアマネを介した時よりもサービス量が少なくなる傾向があり、島村さんは「ひと様に頼む量が減る。自分の支出が減る分、自分が動くことになる」と語った。

その理由としては、島村さんがインタビューで「自己作成して制度が物凄く良く分かった」と語ってくれた通り、自己作成を通じて制度に対する理解が進む点が挙げられる。全国マイケアプラン・ネットワークの2010年度全国調査では「制度に対する理解が進み、一割(の自己)負担(だけではなく残りの)9割の認識ができて大切に使いたいと思えるようになった」「税金と保険料で運営されていることを確認し、市の施策にも関心を持てるようになった」といった回答が寄せられている。

さらに、自己作成を通じて介護保険のウエイトを小さくできることもサービス量の減少に繋がるようだ。島村さんは「(ケアマネは)事前に研修を受けて介護保険の枠がキチンと決まっており、介護保険サービスから入ってしまうが、介護保険のサービスを使うのは窮屈。『これをやっちゃダメだよ』と言われるし、ヘルパーが来る時間は必ず開けとけなきゃいけないし、予定がきつくなる」と指摘しつつ、「介護保険のサービスは一つの手段だけど、他にも色々ある訳で、近所の人を使ってもいいし、もっと気楽に頼める助け合い団体があるかもしれない。きっかけは介護保険だが、(使えるサービスは)保険法だけではない」と話した。


市民が賢くなる手段

「市民に賢くなって貰いたい」「利用者を賢くしないといけない」。島村さんはマイケアプランの目的をこう語る。

介護保険制度は本来、「自立」「自己選択」を掲げており、島村さんはマイケアプランの趣旨を「(介護保険の)原点に返る(意味合いがある)」と強調する。

これに対し、島村さんは「介護保険の条文は利用者に向けた言葉はない。国民に向けての言葉は国民の義務だけ。(残りは)事業者に向けられている。法律用語は『受けられる』ではなく、『提供する』という書き方。そこから(利用者は)蚊帳の外に置かれている」との問題意識を披露した。

同時に、島村さんは「(自己作成を)やりたいのにケアマネじゃなきゃいけないというのは(趣旨に沿ってい)ない。ケアマネか、自己作成の段階から選択できるのに、自己作成の選択肢はほとんど示されていない」と指摘する。実際、全国マイケアプラン・ネットワークの全国調査によると、自治体からは「ケアプランのチェックが難しい」「行政の事務負担が大きく、普及した場合には適切な対応が取れない」といった回答が多く寄せられており、島村さんもインタビューで「自治体が嫌がる。ケアマネは給付管理をやるが、自己作成(の場合に)は国保連(=国民健康保険団体連合会)への請求業務も自治体の仕事になる」「(ケアプランの中身が)いいんだか、悪いんだか、(自治体職員に)ケアプランを見る目が無い」と述べた。

しかし、現状はケアマネに丸投げする利用者も少なくなく、ケアマネ自身も独立した事業体ではなく、何処かのサービス事業者の傘下に入っているケースが多く、自己作成の人数も増えているわけではないとのこと。島村さん自身も「みんながみんな自己作成は無理。みんながケアプランをやれる訳じゃない。やりたい人がやればいい。ケアマネに頼みたい人を引っ張る訳じゃないので、ケアマネのライバルにならない」と語る。

とはいえ、島村さんは「会員にケアマネがたくさん入ってくれているが、『原点に帰れる』という反応。ケアマネに払われる(介護報酬の)額が浮く」「そんなに勉強しなくても、厚い本を読むよりも1回だけサービスを使って書類を書いただけで計算すると、介護保険の仕組みが分かる。気付く事はみんな同じ。満足度は高い。やって損した人は一人もいない」と述べ、マイケアプランの意義を強調した。

実際、島村さんの住む東京都府中市は「要支援は自己作成が良い」と理解を示しているとのこと。島村さんは「(ケアマネと)一緒に(ケアプランの在り方を)考える人も増えている。団塊世代など(ケアマネに全部)お任せじゃない人が自然に増えて来ると思う。そういう時に(自己作成の希望者が)迷わずにキチンとできるようにしたい。自分で自分をマネジメントする人が増えるのは良いこと」と力説した。

【文責:三原岳 東京財団研究員兼政策プロデューサー】