タイプ
レポート
日付
2013/11/26

レポート:医療・介護制度改革を考える連続フォーラム <第3回>


日本とオランダの介護政策の将来像



介護政策や公衆衛生に詳しいオランダのライデンアカデミー(Leyden Academy)ディレクターのマリエッケ・ヴァン・デ・ワール(Marieke van der Waal)さん、オランダの医療・介護制度を研究するお茶の水女子大学准教授の大森正博さん、オランダで満足度1位の在宅ケア提供組織「ビュートゾルフ(Buurtzorg)」と交流している「ケアーズ白十字訪問看護ステーション」代表取締役の秋山正子さんをお招きし、オランダの介護政策を巡る現状や改革策、GP(家庭医)や訪問看護師によるプライマリ・ケア(初期包括ケア)の提供などについて話し合いました。

第68回 東京財団フォーラム
     ― 医療・介護制度改革を考える連続フォーラム <第3回>

【日時】 2013年10月29日(火)14:00-16:00
【会場】 日本財団ビル2階 会議室(港区赤坂1-2-2)
【テーマ】 「日本とオランダの介護政策の将来像」
【スピーカー】
 Marieke van der Waal (Leyden Academyディレクター)
 秋山正子 (ケアーズ白十字訪問看護ステーション代表取締役)
 大森正博 (お茶の水女子大学生活科学部准教授)
【モデレーター】
 三原 岳 (東京財団研究員兼政策プロデューサー)


資料

・Marieke van der Waal氏のプレゼン資料はこちらからご覧になれます。

・秋山正子氏のプレゼン資料はこちらからご覧になれます。

・大森正博氏のプレゼン資料はこちらからご覧になれます。


議事要旨

Marieke van der Waal氏のプレゼン
(社会構造の変化)
▽ OECDは福祉制度が変革する必要性を述べている。特にOECD諸国では少子高齢化で人口構造が変化する中、介護費用についての財政的なプレッシャーが高くなっている。

▽ 家族の規模についても、昔は三世代同居が普通だったが、今は核家族化が進んでいる。社会もリッチになったので、個人のレベルの要求が大きくなる。技術も変化し、医療や介護に関して様々なことが可能になっており、医療・介護給付費を引き上げている。

▽ 日本もオランダも第二次世界大戦後、ベビーブームを迎えた。しかし、「団塊の世代」呼ばれるベビーブーム世代が両国で引退する時期に入っており、向こう15年間ぐらいで虚弱になる人が増える。

▽ 平均余命も延びた。日本の平均余命は男性で男性79.94歳、女性86.41歳(2012年現在)。オランダの平均余命は男性79歳、女性83歳。両国とも少子化が進んでいる。日本の合計特殊出生率は1.39(2011年現在)、オランダの出生率は1.7。2050年頃になると、日本の人口は現在の1億2800万人から1億を切るかもしれない。オランダの場合、多くの移民が今でも入って来ており、1600万人の現状を維持することができるかもしれない。でも、「移民反対」を掲げた政党が影響力を持ちつつあり、移民の是非が議論になっている。

▽ これらの3点で日本、オランダともに医療、介護のニーズが変わって来ることが予想されており、特に介護のニーズが今後変容する。

▽ 第二次世界大戦直後、日本の平均余命はOECD平均と比べて高くなかったが、医療制度を強化したことで飛躍的な進歩を果たした。当時、オランダ、スウェーデンが一番高かったが、日本は今や世界に冠たる長寿国。一方、オランダは今でも平均以上だが、日本ほど長くない。伸び悩んだ一つの理由は喫煙者の多さ。1970~80年代に喫煙者が非常に急増した結果、1980~90年代に循環器系の疾患や肺がんが増えた。

▽ 高齢化率を考えると、日本もオランダも65歳以上、75歳以上、80歳以上が増えている。65歳以上で見ると、オランダは1995年の13%から2010年で15%、2025年で22%、2040年までに27%まで増える。日本は1995年の15%から2025年で30%、2040年で36%に増える。75歳以上または80歳以上になると、体力が弱る確率が高くなるので、介護の需要が高くなる。80歳以上で見ると、日本は1995年の3%から2040年に15%まで増加。同じ時期にオランダも3%から9%に増える。

▽ 日本の場合、75歳以上の人が減るのは2040年以降。しかし、オランダの場合、75歳以上の人が減り始めるのは2050~2055年。このため、オランダの負担は日本よりも長く続く。その一方で、出生率が両国とも下がっているので、納税する人口も減って来る。その結果は財政悪化など重大な結果を招く。

▽ なお、日本の人口はオランダの8~9倍。このため、サービス需要も同じぐらい大きくなることは相違点として留意する必要がある。

(両国の介護保険制度)
▽ 日本は2000年から介護保険を導入した。それまでは市町村の税金で賄われており、サービス対象者は低所得者層が多かった(=措置制度)。介護保険導入後は社会保険の仕組みを採用し、誰もが利用できるようにした。40歳以上の人が支払う保険料で半分を賄っているほか、国が25%、都道府県と市町村が12.5%の税金で賄っており、ケアをアレンジする役目は市町村が担っている。

▽ 給付対象は在宅、地域密着、予防介護、施設サービスに分かれており、自己負担は10%。保険料の負担割合は40歳~64歳が21%、65歳以上が29%となっている。

▽ 日本の社会保障制度は予算の増加に伴って、今や持続不能になりつつある。年金、医療保険、介護を含めた福祉のトータルで、1990年に日本は47.2兆円を費やしたが、2012年に2倍以上の109.5兆円になっている。このうち、福祉関係の経費は1990年に歳出の10%だったが、2012年に18.8%に伸びている。

▽ 2012年で日本の年金、医療、福祉関係の経費は109.5兆円であり、そのうち半分の42兆円分は税金で賄われた。歳出規模は90兆円なので、足りない部分は国債で賄っており、債務が膨らんでいる。日本の債務残高は今やGDP比230%に及んでおり、世界一高い比率。

▽ 日本では2014年度に消費税率が5%から8%に、2015年度に10%まで引き上げられる。オランダの場合、消費税は食料に関しては6%、消費者の衣服、自動車、外食は21%かかる。日本では消費税引き上げは不人気な政策だったとしても、オランダから見れば、日本の消費税率は低い。さらに、日本政府は制度の持続可能性を高めるため、医療や介護の保険料を上げることになると思う。

▽ オランダの制度は健康保険とケアについて2つ法律がある。1つは健康保険法(ZVW))と呼ばれている制度。もう1つが特別医療保険(AWBZ)。2つの法律についての予算は8870億ユーロ(1ユーロは約135円)。人口1人当たりの平均コストは5000ユーロ以上。そのうち3000ユーロは医療、つまりGP(家庭医、General Practitioner)から受けるケアで費やしており、残りの2000ユーロが長期介護。使途としては、在宅ケアや高齢者を対象として高齢者ホーム、ナーシングホーム(日本で言う特別養護老人ホーム)で受けるケアの支払いに充てられている。

▽ さらにオランダには社会支援法(WMO)という仕組みがあり、今後は重視される。これは市町村レベルで運用されており、市町村が政府から予算を受け取り、経費を賄う仕組み。例えば、WMOでは自分で家の掃除ができなくなった場合に家事補助をやってくれたり、車椅子や電動車椅子による移動介助をやったりする。

▽ 長期介護の費用は1972年~2012年に上昇しており、当時は数%だった比率が2012年に27%に膨らんでいる。このため、政府は「今のままでは制度を持続できない」と判断しており、不人気は分かっていても大きな対策を取らざるを得ない。

▽ ZVW、AWBZは国民全員が保険料を支払う仕組み。課税所得を得たら保険料を払う。日本の場合、40歳から介護保険の保険料を納めるが、オランダの場合には18歳や20歳で就職して初任給を得たら保険料を払い込む制度になっている。両制度とも一部を税金で賄っている。

▽ さらに、ZVWの場合、病院でケアを受けた場合の本人負担として350ユーロを徴収している。しかし、病院に行く前にGPの診断を受ける。GPの受診には本人負担がなく、税金による負担。つまり、低所得者層はGPに対してのアクセスを最低限、確保されている。ここは日本との相違点。日本の場合、ストレートに病院の診察を受けることができるが、オランダは違う。裕福な人も必ずGPを受診しなければならない。GPがゲートキーパーになり、多くの人が直接病院に行かないようにしている。GPでの医療費は40ユーロ程度で済むが、病院の医療費は約120ユーロ。GPがコスト上昇に歯止めを掛けている。

▽ 日本の介護保険制度は2000年現在で、受給者が184万人だったが、2013年で413万人に増えた。これは全人口の1.9%。2025年には全人口の5.1%に相当する641万人に増える。

▽ オランダの場合、現段階では2010年現在で人口の3.7%に当たる約60万人がAWBZを使っている。うち半分が在宅ケア、残りはナーシングホームや高齢者ホームでケアを受けている。

▽ しかし、2000年時点と比べると、AWBZを使っているユーザーは倍に増えた。GDPの3.8%ぐらいがAWBZに割かれており、高齢化でニーズ拡大が予想される中で、もう1度倍に増やすことは困難。両国のシステムとも給付抑制に向けて何らかの改革が必要になる。なお、オランダのAWBZは高齢者介護だけでなく、身体障害者、精神障害者もカバーしている。

(改革の必要性)
▽ オランダでは国民や利用者の意識改革が求められている。以前、高齢者は65歳になるとホームに入ることが奨励された。つまり若い人達が住む家がないという理由で、「老人は家から出て行け」という慣行があった。しかし、施設の受け入れ容量が減っているので、今は認定を受けないと高齢者ホーム、ナーシングホームに入所できない。しかし、今も20~30年前のメンタリティが残っている。

▽ GDPに圧力が掛かる中で、制度自体の改革も必要。入院した際の在院日数を見ると、日本は平均32.5日であり、オランダの5.6日~5.8日に比べると長い。しかも、日本の場合には色々な種類の病院があるが、オランダは急性治療用の病院しかないので、病院に行って手術を受けると、数日経ったら退院する。例えば、虚弱な高齢者が腰を折ったら外科手術を受けるが、最初にやることはトイレを自分で済ますように支援すること。さらに、トイレから出たら次は歩行訓練を始めて、数週間ベッドで療養してから歩行訓練に入る。しかし、今は違う。手術直後に歩行訓練させている。寝ている分だけ筋力が弱ってしまうので、活発に動かないとダメという判断の下、積極的にリハビリを実践している。どんなに虚弱で高齢者だったとしても5日経ったら退院し、その後は回復、リハビリをやる。でも、日本の場合は急性期病院だけでなく、リハビリ用、長期療養病院など色々とある。これから日本でも病院の改革が必要になる。

▽ 日本は在宅を中心とした「地域包括ケア」へのシフトを目指しており、オランダと似ている。日本の場合、医療面でのケアとなると、慢性期から急性期まで様々な種類の病院が存在しているが、急性に焦点を絞った病院を増やすことを目指している。このため、亜急性や急性でない場合、リハビリ専用の病院やローカルの施設で対応するなどの見直しが必要になる。さらに、「かかりつけ医」の果たす役割が重要視されることになる。

▽ 地域包括ケアについては、医療、介護をできる限り在宅で提供するのが望ましい。多くのケアを在宅か、その人の自宅周辺で受けられるようにすることを目指す。そのためには個人が長期ケアマネジメント(ケアファシリティ)についてアドバイスを受けて訪問看護師などの専門家が自宅を訪問することが重要。

▽ 予防ケアも重要であり、老人クラブなどインフォーマルサービスが大きな役割を果たす。在宅で過ごすことを支援するため、高齢者も活発に動くことを支えたり、孤立感をできるだけ味わうことがないように支援したりすることが重要。

▽ オランダも医療、介護改革を進行させており、できるだけ病院コストを減らそうとしている。例えば、認知症が診断されると、3回目のMRIを撮る必要があるのかという点。認知症についても診断が付いた時、脳が縮んでいることを確認するが、家族から見て本人が明らかに認知症になっていると分かる場合、あるいは本人が自覚できる場合、MRIを3回も撮る必要があるのか。何を測定するか、どんな検査をするのか検討を要する。

▽ さらに今後は(生活面での)リハビリを重視していく必要もある。デンマークでは一生懸命リハビリを強化している。例えば、日常生活機能(ADL)が低下した時、食器棚から食器を取り出したいけど、筋力が弱くなっているから手が届かない、上の物を取れない場合。デンマークでは「もっと筋力を使いなさい」と奨励し、ジムに連れて行ってカップをもう1回食器棚から取り出せるように筋力を回復させる。つまり、自分で炊事ができないとか、掃除ができない時もあるので、デンマークではできるだけ生活機能を回復させるよう支援している。在宅ケアの充実を目指す観点で、オランダはデンマークから学んでいる。

▽ オランダでは給付を抑制するため、ナーシングホームと高齢者ホームの病床数を3分の1にカットすることにしている。このため、本当に虚弱になって行き先の無い人達だけがホームに入ることになる。言い換えれば、虚弱になっていない人達については、できるだけ在宅にしてもらい、金の掛かるナーシングホームには行けないようにする。

▽ さらに、オランダでは所得のある人を除いて、施設に入居する人が食費、賃料、トイレットペーパー代など「ホテルコスト」と呼ばれる費用を払わなくても良い仕組みがある。日本でも(低所得者を除いて)本人負担を取るようになったと聞いているが、オランダも検討している。

▽ ただ、政治イシューとなっているので、実施に向けたハードルは高い。オランダでは昔だったら高齢者ホームに入ることは当たり前だったが、今は認定を受けないと入れない。今後は本人負担も増えるので、大きな政治問題。

▽ 介護に要する経費を見ると、OECD諸国で2011年現在、オランダは最大。オランダの場合、AWBZで障害者をカバーしている点が日本と違うが、日本は中間ぐらいになる。

▽ しかし、日本もオランダも高齢者の数が増えており、さらなる介護費用の増加が予想されており、経費抑制は共通の課題。そのためにサービスを効率化するため、高価なケアから金の掛からないケアにシフトする必要があり、オランダでも日本でも在宅にシフトさせるとともに、病院の平均在院日数を減らすことを目指している。

▽ さらに、高齢者が働き続ければ課税所得を得られるので、健常な高齢者を増やすことも重要。もし健康が悪くなって働けなくなると、社会にとっても重大な問題になる。

▽ インフォーマルサービスと呼ばれる地域・隣人の繋がり、ボランティアの果たす役割も重要になる。コミュニティや地域ベースで面倒を見て貰うことで、孤独感を払拭することができれば、社会的なケアのニーズを下げることができる。

大森正博氏のコメント
▽ オランダは1968年という早い時期から、介護サービスを社会保険で提供している。一方、日本は介護保険を2000年にスタートさせており、「オランダの状況は日本の少し先を行っている」という印象。オランダが今後、どうやって増大する介護費用をファイナンスしていくのか。2006年に大きな医療保険制度改革が実施されたが、その時期から今後のAWBZをどうするか真剣に議論されている。日本も5年ぐらい経つと同じような課題を突き付けられる。

▽ 医療と介護は切り離して考えることはできない。介護が必要となる理由は傾向があり、内閣府の「高齢者の健康に関する意識調査」(2012年)によると、例えば男性のトップは脳血管疾患で32.9%となっている。また介護者は同居家族が64.1%を占めている。介護を受けたい場所は自宅が男性、女性ともにトップ。

▽ 私は1990年代後半ぐらいからオランダの取り組みに関心を持っている。市場メカニズムに近い考え方(=準市場)を早い時期から医療制度に導入しようとしている。その歴史を見ると、試行錯誤を何度も繰り返している。最初に大きな改革案を提示し、少しずつ後退する場面があったとしても、アレンジしながら今日の姿になっている。これは制度改革のやり方として、日本にも色々なメッセージを伝えてくれる。

▽ 経済学の立場からすると、財源問題の本質の部分は「費用の大きさがどうなっているか?」という点だけではなくて、その前に効率性、公平性という観点で制度をどう評価できるかが重要。

▽ 日本の場合、高齢者向け医療では65~74歳の前期高齢者医療制度、75歳以上の後期高齢者医療制度で利用して医療サービスを提供している。介護に関しては、主たる利用者は65歳以上だが、40歳以上の人が被保険者。

▽ 日本の場合、必ずしも効率性を考えて制度が作られていないという印象がある。一方で、分配政策である公平性という観点で見ると、かなり配慮されていると感じている。例えば、後期高齢者医療制度と介護保険制度に関して見ると、所得比例の形で保険料を取っている点に加えて、租税財源から50%を投入している。これは全ての居住者が支払っており、主な負担者は若年世代になる。さらに、後期高齢者医療制度で見ると、40%程度を現役世代の保険料金から支援金として受け取っており、介護保険も30%程度を40~64歳の保険料で賄っている。これは若年世代から高齢世代への所得分配。

▽ つまり、租税や保険料の支援金という非常に多用なルートを通じて、世代間移転による所得分配を行っていることになり、どういう形で誰が誰を支援しているのか非常に複雑で理解しにくい印象を持っている。しかも、人口が高齢化する中、現役世代が今まで通りに負担できるか非常に大きな問題になっている。

▽ 一方、オランダの医療保険制度は「ZVW」と呼ばれており、制度が完全に一本化されている。日本のように年齢や職業で区分するのではなく、年齢、職業などの社会的属性を問わず、同じ公的医療保険の中にオランダ居住者が強制加入しているのが特徴。

▽ 所得分配や世代間移転に関しても、給付額に対して補助金の比率が決まっている日本とは異なる。所謂、「マクロバジェット(Macro Budget)」と呼ばれる仕組みで、最初にオランダ政府が来年の医療費を予測する。その上で、租税財源と所得比例保険料を一緒に徴収し、加入者のリスク属性に応じた予算を補助金と一緒に保険者に配分。保険者は実際に必要とされた医療費と、政府から与えられた予算の差額を被保険者から「定額保険料(フラットレートプレミアム、Flat-rate Contribution)」を徴収。このため、保険者の費用効率性次第で、定額保険料の金額の大小が決まる。言い換えれば全体で集めた保険料をリスク構造調整の形として、まず国が全部吸い上げた上で、各保険者は与えられた予算でやれるかどうかを考えて、足りない部分に関して定額保険料を徴収する。

▽ これにより、定額保険料を低く設定できるよう、保険者が医療サービス提供者と価格を交渉する。一方、被保険者も原則として年1回保険者を選択できる自由があり、定額保険料の金額を参考にして保険者を選択するようになるため、保険者間の規制的な競争が起きることを通じて、低価格で品質の良いサービス提供を実現しようという考え方。なお、定額保険料に関しては基本的に全ての被保険者に対し、加入した保険者が課した定額保険料を払わなければならないが、所得状況で減免制度がある。

▽ これは「規制された競争」(Regulated Competition)という考え方。保険者は国、保険の運営は民間という役割分担だが、保険でカバーする範囲、所得比例保険料の水準は国が規制しており、定額保険料と医療サービスの価格(一部は規制)は保険者が自由に設定できる。しかし、現時点で成果はハッキリしていない。

▽ 公的介護保険のAWBZは0歳から強制加入されるほか、租税財源による補助金がある。近年は介護費用が増えているので、家事援助や車椅子、移送などのサービスを社会支援法(WMO)という地方自治体が提供するサービスに移行している。

▽ 面白いのはAWBZ、WMOの両方ともCIZ(中央認定機関)という同じ介護認定の組織で実施している。

▽ もう1つの特色はサービス提供を完全にプロだけに任せない点。友人や隣人など「素人」のサービスも給付の対象にして、社会参加による問題解決を図っている点が興味深い。具体的には「個人介護予算」(PGB)という形で現金を給付し、サービスを選択して貰う仕組み。要介護者がサービスの供給主体を選ぶので、隣人や家族に対しても支給される。しかし、近年は費用が嵩む上、不正給付などの問題も出て来たため、制度をどうするか議論されている。

▽ さらに、CIZの要介護認定が大変綿密。日本ではケアマネージャー(介護支援専門員)がやっているサービスのアレンジを訪問看護師などの専門職がやっているのが特徴。

▽ 効率性に関する所で付け加えると、「ケア強度パッケージ」(ZZP)を導入している。医療で言えばDPC(包括払い)、DRG(疾患別包括払い)のような形で、要介護の状態に応じて様々なサービスパッケージと価格を設定し、包括払いとして費用を支出している。つまり、サービスのケアパッケージを作って、トライして成功しなければ、それを改善することを通じて、費用対効果の高い介護サービスの供給に向けて、サービスの標準化を試みている。

▽ 日本の制度改革に対する示唆としては、医療については(1)公的医療保険制度の統合、(2)競争の活用による効率化の試み、(3)GPシステムによる医療資源の適切な利用―の3点。介護については、(1)軽度身体介護のコミュニティ化、(2)現金給付の導入、(3)ケア強度パッケージの試み―の3点ではないか。

秋山正子氏の説明
▽ オランダの在宅ケア組織であるビュートゾルフとの交流で学んでいる部分が多い。例えば、非常に自立性の高い看護師が医療、介護の両面で一体的に素早くアセスメントし、サービス提供の方法を出来高払いではなくて包括払いに変えることで、費用対効果も上げている点。サービスの網を全国に広げており、自立性の高い看護師集団に対して感銘を受け、日本も学べる部分が多いと考えている。可能な限り在宅ケアを推進している点、全人的なケアを提供するGPの働きなどにも感銘を受けている。

▽ 医療制度や医師の在り方が日本と違うので、一緒に議論することはできないが、これからの日本としても、高齢者が地域の中で「かかりつけ医」を持ち、なるべく大きな病院には掛からない方式で、在宅療養できる地域の仕組みを作っていく必要がある。さらに、システムを作る上での調整役として看護師が重要な役割を担えるのではないか。

▽ 団塊世代が75歳以上を迎える2025年までに、病床機能を再編するとともに、できれば(費用の掛かる)医療的なケアではなく、在宅ケアを推進する動きが日本でも進められている。これからの総死亡数を考えると、医療機関の病床数が変わらない前提で、介護施設を現行の2倍程度に整備したとしても、自宅での死亡は1.5倍に増える計算であり、多様な居住の場での在宅ケアと看取りの充実が重要。

▽ だから住み慣れた家や地域で暮らし続けようとする人を支える医療として、臓器・疾病を治す医療ではなく、患者の生活を重視する考え方に切り替えなければならない。国としても予算や報酬の重点配分などに取り組んでいるが、進んでいない。

▽ しかも、患者自身も未だに病院志向。このため、病院と地域の橋渡しをする必要があるが、今は退院調整看護師や医療コーディネーター、MSW(医療ソーシャルワーカー)、訪問看護師など様々な職種が関わっている。本来は多職種の上にコーディネーター役を付けないと医療連携が進まない。

▽ さらに医療と介護の一体的な提供をしていく必要がある。しかし、GPが普及しており、看護と介護も一体的な資格となっているオランダと比べると、日本では医療と介護で分かれており、看護と介護でも分かれている。アセスメントして必要な所に支援が届くようにするには、かかりつけ医と訪問看護が連動しながら介護と相俟って、本当に多職種連携の地域包括ケアを進めていかなければならない。

▽ 介護力の低い家族が増えており、独居や老老介護の場合、在宅の選択肢がなくなりかねない。都市型は介護体制を公的サービスで組み立てやすく、家族や隣人などのインフォーマルサービスを組み立てにくい特徴がある。地方型は外からのサービス導入が上手くいかず、地縁や家族による支援が有効という特徴。

▽ そこで重要になって来るのが、かかりつけ医の存在。日本医師会の資料では「何でも相談できるうえ、最新の医療情報を熟知して必要な時に専門医、専門医療機関を紹介でき、身近で頼りになる地域医療、保健、福祉を担う総合的な能力を有する医師」と定義。近年では開業しても専門医療のみを提供することを希望する医師が多く、かかりつけ医機能が低下している。

▽ しかも訪問看護もプライマリ・ケアを提供できていない。1992年の老人保健法で創設され、1994年から健康保険法、2000年から介護保険法の適用を受けている。しかし、イギリスやデンマーク、オランダでは「ディストリクト・ナース」「コミュニティ・ナース」と呼ばれる看護師が地域で活躍しており、地域全体を見られる看護師が育っているのに比べると、日本の訪問看護は個別のケアに特化している。本来、訪問看護サービスは療養上の支援、医師の指示による医療処置、病状の観察、医療機器の管理、在宅でのリハビリ、認知症ケア、床ずれの予防・処置、ターミナルケア、家族への支援・相談、介護予防など多岐に渡る。もう少し予防的な視点も含めてプライマリ・ケアを提供できる看護師が地域に育っていく必要がある。つまり重度化しないための予測を持った看護の力が今からは要求される。

▽ しかし、今は重介護の人を看護が担っている状況。もう少し早期にピンポイントで入りながら医療の目を入れないと、本来は不必要な介護が必要な状況に落ちる可能性がある。例えば、急性期病院に高齢者が入院すると一気に重度化して胃ろうになり、療養病床に多くの人が送られている。退院調整に加えて、なるべく入院しない地域を事前に作っていくことが必要。2011年9月の利用状況によると、訪問看護は要介護3以上の利用者が約6割に上っているが、早い段階から訪問看護サービスを導入することで、生活機能低下の早期発見・早期対応を通じた機能低下の防止、断続的なリハビリが重要。

▽ これを進めるため、かかりつけ医から専門医へのパスを進めなければならない。今は上手くいっている地域があるものの、全体的には必ずしも進んでいない。患者・利用者の大病院、総合病院に対する信仰が強い現状を打破していくべきか。日本の医療の特色であるフリーアクセスの利点、欠点をどのように解決していくか。これを解決しなければ、医療費は増え続けて、急性期に高齢者を送り込むことで、医療費だけじゃなく介護費用が莫大にかかる状態になる、

▽ その意味では、最終的には亡くなる瞬間まで在宅で対応する時、医療と介護サービスだけでなく、インフォーマルサービスを含んだ地域ネットワークを起動させる必要があり、多職種同士のフラットな関係を学習していく必要がある。

▽ がん患者について言うと、早期発見・早期治療で治る病気となったが、まだまだ不安をもたらす。検査結果は簡単に本人に告げられるだけで、治療開始の同意を取られる。しかし、治療に当たる医師の言葉と患者の受け止め方は異なる。医師に質問しようとしても難しいので、患者はネットで情報を集めようとする。実際には患者の生きてきた過程を大切にしなければならず、バタバタした末期の在宅看取り、医療介護連携、介護体制の整え方に関する意識の違い、急性期病院との時間の使い方の違いがハードルになる。

▽ 先程、マリエッケ氏が「マインドを変えていかないと」と話していたが、凄く共感を覚えた。多職種が互いに学び合う場で影響し合うことでマインドを変えるには、従来の組織体系の中で物を考えているだけでは困難。一つのフラットな場で互いに学んでいく体験を積んでいかないと、改革は進んでいかない。

▽ がんの有無に関わらず、緩和ケアは重要。医療と介護、インフォーマルサービスのネットワークを地域で起動させる必要がある。生活の場で十分なケアを提供することで、「豊かな死」を可能にし、人生の最終章を生き切ることを支援する地域づくりが重要。そのためには重装備にせず、終末期を支援することが必要であり、病院以外の相談支援の場が必要。

▽ そこで、高齢化の進んだ東京都新宿区「戸山ハイツ」の一角に「暮らしの保健室」(詳細はhttp://www.tkfd.or.jp/research/project/news.php?id=916)を2011年7月に開設した。医療も含んだ相談支援の場が街中にあれば、「ゆっくり話を聞いて欲しい」「入院での治療は辛いので在宅療養したい」「退院するよう言われたが、不安で仕方がない」といった不安を受け付けられると思った。がん患者や家族を支援する拠点であるイギリスの「マギーズ・センター」を参考にした。

▽ ここでは高齢者向けミニ講座を開催したり、多職種連携のための5つの会議を開催したりしている。具体的には、医師、ケアマネジャー、役所、看護師、社会福祉士、薬剤師、介護職などと連携しつつ、不安の軽減や安心感の醸成、関係者との信頼回復などに向けて精神面での支援、適切なアセスメント、サポート体制の維持、関係者間の情報共有などに取り組んでいる。

▽ 同時に、様々な所から情報や知見を取り入れており、オランダのビュートゾルフ代表のヨス・デ・ブロック氏とディスカッションしつつ、手法を学んでいる。オランダから学ぶべき点としては、医療も含めたアセスメントで必要なケアを組み立てる形で、もう少し自立して地域で働く看護職が頑張る必要があると思っている。

質疑応答、意見交換

(ビューゾドルフの評価)
▽ ビュートゾルフは新しい組織であり、非常に人気を博している。通常の訪問サービスでは1日で5人の介護者が自宅に行く。例えば、ベッドから出してくれる人、身繕いして着衣を介助する人、食事を調理する人、暖かい料理を運んでくれる人、足が膨張しないように特別のきついストッキングを履くので靴下を履かせてくれる人、寝る前に脱ぐ必要があるので脱がせてくれる人といった形で、別々の介助者が次々と来る。しかし、高齢者から見れば、色んな人が次々と来るとプライバシーを侵害されるし、ビュートゾルフは「これは良くない」と言っている。例えば、朝にベッドから出してくれて服を着せて顔を洗い、できれば調理も手伝う、ストッキングも履かせてくれる、小さい掃除も手伝ってくれるといった形で、同じ人が午前中を通して支援を担う。その後、ボランティアで温かい料理の出前が来て、午後になったら看護師がやって来て、ベッドに寝かせてくれるといった形で、できるだけ同じ人がケアに関わるようにした。

▽ ビュートゾルフはクライアントと介助者の数を絞り込むことで、手厚い繋がりを持とうとしている。多くの看護師を雇っており、ボランティアや准看護士と比べると、その分だけ料金は高くなる。しかし、代表のヨス氏はイノベーションに富んでおり、「この方法は費用対効果が高い。使っている看護師は確かに高い給料を取るが、結果として効果は上がっている」と主張している。

(認定組織の在り方)
▽ 「どのぐらいの介護が必要か?」という評価や介護を受ける内容について正しい査定ができない時もある。さらに、ケアのサービスを導入した後、状態が改善または悪化することも有り得るので、ケアのニーズが高まる人と低くなる人と両方考えられるので、状態を見ながらバランスを取り直すことが必要。オランダの場合、一旦認定を受けると1年間有効。本来は高齢者の様子を見つつ、再調整しなければならないが、裁定し直すと書類や手続きで手間暇が掛かる。全国組織で官僚主義的な運営となっており、このため、現在は「改善の余地がある」と指摘されている。

▽ 一つのヒントはデンマークにある。地域で活動しているコミュニティ・ナースが認定する仕組みだ。さらに、認定を再調整して要介護を上げるか下げるか判断する時、コミュニティ・ナースが来てくれて査定し直してくれる。 

▽ 官僚組織的であるかもしれないが、CIZのような中立の組織が判定することで、第三者的に中立的な評価できる部分があるのではないか。供給者の側に立っている人が認定すると、利害相反的なことが起きるのでは。

▽ デンマークのシステムはオランダとは異なる。デンマークはヘルスケアシステム全体を政府部門が所得税収で全て支払っている。このため、コミュニティ・ナースが査定認定を実施するが、余りにも高く査定し過ぎてケアをやり過ぎた場合、資金を支払う地方政府のコストが高くなる。このため、地方政府がナースに対して「コストを減らしなさい」「認定が甘過ぎるのでは」と指摘する。これに対し、オランダではプライベートな供給者がケアを提供している。このため、民間組織から来たナースが認定を担うことになれば、甘く査定して給付を引き上げてしまうリスクが高まる。つまり、自分の属している組織の利益を上げようと恣意的に図るかもしれない。だから可能な限り、中立の立場の人が認定するのが望ましい。しかし、認定をする人は患者・利用者に近い立場の方が望ましい。全国組織の担当者は中立的かもしれないが、現場や患者・利用者のことを知らないまま、ボックスの中にチェックマークを入れるぐらいのことしかできない。彼らは患者・利用者と対面するわけではないので、遠くの存在であり、官僚主義に陥りがち。このため、全国組織の何処かから来る人よりも、地域で活動している人の方が望ましい。コミュニティ・ナースやGPなど身近に接している人がいれば一番良い認定者になるのではないか。その場合、ナースは民間の提供組織から給料を受け取らないようにする。

(個人介護予算について)
▽ 多くの人は認定を受ける時、「PGBをやりたい」と要請する。例えば、パートナーが認知症になった場合、PGBが導入される前は在宅ケアか、ナーシングホームや高齢者ホームに預けることで乗り切るしかなかった。このため、在宅介護で仕事を辞めなければならないケースもあった。しかし、PGB制度が導入されたため、隣人や引退した人に対し、「仕事に行くので配偶者の面倒を見て下さい」と依頼できるようになった。認知症の人の場合、昼夜逆転生活になりがちなので、日中に運動することが重要であり、隣人が日中に散歩に連れて行ってくれるケアも可能になった。

▽ しかし、現金給付を乱用する不正事件も起きるなど現実が上手く行かない部分もあった。具体的には、既に在宅でケアを提供している人が無償でやっていたのに、突然有償になったので、金を受け取り始めたケース、独居している人が中間のオフィスを立ち上げて、掃除婦やナースなど様々なサービスを提供してくれる人と契約して金が支払われたケース、引退した人で追加的な金が年金に上乗せして入って来る形になったので、本来だったらケアを買わなければならないのに、その金で食料を買ったケースなど。

▽ しかも余りに予算が増えて過剰支払いに陥った、そこで、政府が昨年立てた計画では「PGBを続けられない、新規を受け付けない」と決まった。PGBを受け取った人は有効だが、新規に申請できなくなった。当初、PGBは大人気を持って迎えられたが、今は中断している。

▽ ドイツでも似たような制度として、「バウチャーシステム」という仕組みがある。しかし、金銭をクライアントや家族に直接渡すわけではない。その代わりにクーポンみたいなバウチャー(利用権)を渡す。券に金額が記されており、「これだけケアを買える」という制度。オランダも導入を検討しているが、効果を疑問視している。

▽ しかし、CIZが要介護認定をやって、どの程度の要介護度か判断した上で、どの程度予算を使えるか決まって来るので、予算を使い過ぎる事態は起きないのでは。

▽ 結局、高齢化でAWBZを利用する人が増えたのが原因。このため、1人当たりの予算は横ばいだったが、多くの人が予算を使った分、トータルコストが増してしまった。

(ナーシングホームの病床数削減)
▽ ナーシングホームの病床数を削減するとのことだが、待機者リストに入っている人の取り扱いはどうなるのか。

▽ 政府が今年、エルダリーホーム(高齢者住宅)、高齢者ホーム、ナーシングホームの病床数を減らすと発表し、ソーシャルメディアで議論沸騰となっている。特に「政府はひどい。オランダは高齢者を路頭に放り出してホームレスにするのか」と言っている。しかし、実態は要介護度に応じて判断する。

▽ オランダでは今、9段階で要介護度を判定しており、サービスの内容が決まっている。要介護度9は非常に重篤な疾患者なので、24時間ケアが必要なケースや終末期に近い人達に出る。4という要介護度が出た場合、少し認知症が入る。3の場合、自分でトイレに行けない、自分でベッドから起き上がることはできない、自分で靴下を履くことができないという状態。1という要介護度の場合、少し歩行困難とか、日常動作に障害がある人達になる。政府が提唱している改革としては、「要介護度1~4の人は高齢者ホーム、ナーシングホームに行く必要はない」という内容だ。

▽ しかし、既に1~4の要介護度でも入所している人がいる。これらの人達は過渡的な状態として同じ部屋に居続けることができる。病床数が3分の1に減るため、「弾き出される10万人の人はどうなるのか?」という疑問が出ているが、ナーシングホームや高齢者ホームに住んでいる人は居続けることはできる。このため、誰かが急に街頭に放り出されるわけではない。

▽ 国民が高い関心を持っており、帰国後はソーシャルメディアに対応しなければならない。来年、1~4の要介護認定を受けた人はナーシングホームに入所できないと言っても、国民は分からないし、国民とのコミュニケーションや広報活動が必要。

▽ さらに、今後の入居者はバウチャーが給付されるので、バウチャーを使って賃料やサービス料、食費も払うほか、ケアのレベルに応じてケアの費用も払うことになる。つまり、ナーシングホームや高齢者ホームの部屋に入居しても、自分の部屋やアパートに住むのと同様、バウチャーを使って経費を負担する。システム自体の持続可能性をキープするため、ボランティアの人達、家族、隣人の方の助力や援助を仰ぐ。

▽ ナーシングホームとエルダリーホームを減らすとのことだが、主に低所得者向け制度と聞いている。どこの国も今後は集合住宅に外付けのケアを入れて行く流れになると思うが、高齢者住宅についての考え方や今後の方向性は。

▽ 低所得でも高所得でも同じ額のケアを得られるので、両者の間に違いはない。高所得者の場合、課税所得がベースになる分、本人負担が高くなることになるが、ケアの量はリッチな人も貧困な人も変わりない。

▽ ナーシングホームを解体し、それぞれの住宅にシフトさせたデンマークと同じ方向性か。

▽ デンマークの場合、ナーシングホームや高齢者ホームは存在しない。建物は残っているが、人々はアパートに住んでおり、賃料を払っている。そこに在宅ケア提供団体が訪問して必要なケアを提供している。オランダもデンマークの方向に向かって進んでいる。高齢者は自分のアパートに住み続けており、コミュニティ・ナースがアパートを訪ねてケアを提供するので、利用者はサービス料だけでなく、賃貸料や食費も払う仕組みだ。しかし、デンマークは市町村がケアを提供するのに対し、オランダの場合にはビュートゾルフなど民間組織がやっている違いがある。

(介護の標準化)
▽ 医療の標準化が進められているが、オランダは介護の標準化として、ZZPというケアパッケージを導入している。その制度に対する評価は。

▽ 一般国民の立場から見ると理解しにくいと思う。要介護度の認定についても分かりにくく、用紙にどうやって記入したらいいのか分からないのでGPに協力を仰いだり、GPのアシスタントに教えて貰ったり、コミュニティ・ナースに聞いたりする時も多い。さらに、ZZPに関しても申込用紙が分かりにくく、「ZZP3」「ZZP8」などと言われても訳が分からない。パンフレットを読めるし、インターネットで情報も載っているし、CIZに問い合わせできる。しかし、国民は結局、「私はケアが必要だけど十分なケアを得られるだろうか」という点を知りたいだけ。ZZPの手法について、政府や学者、CIZの担当者、看護師、介護者が色々と議論しているが、国民には伝わりにくいし、分かって貰えない。この結果、実際にケアを必要としている人達のニーズに対し、ケアの内容をピタッと合わせることができない。

▽ ケアパッケージは良いことと思っている。要介護度で判定し、どの番号が付くか標準となるインディケーションが整備されており、要介護度に応じて「これだけケアが受けられる」と決まる。この結果、人々は平等に処遇されるので、公平なシステムと言える。例えば、その人と知り合いだからベネフィットを高く受けられることはないし、甘い査定を受けることもない。必要以上の高い認定度を貰うこともできない。

(認知症ケア)
▽ オランダでは要介護度認定に際して、認知症の人はどういう扱いなのか。

▽ 認知症の人についても、要介護度認定は精神や身体も含めて重篤度に応じて認定される。このため、どの認定度になるか分からない。家族の状況に応じて在宅に残ることもできるし、認知症が進行したり、身体障害に波及したりすると、当然として高い認定が出る。

▽ 認知症の人は昼夜逆転し、何か落ち着きがなくなってしまう時が多い。こうした状況になると、家族や配偶者が「自分としてはケアし切れない。ナーシングホームに入所させたい」と判断するようになる。でも、認知症の人の5%が徘徊するとされている。オランダでは施設のフロアを閉鎖しており、徘徊し始めてもフロアに残るようにしている。しかし、5%だったとしても、閉じ込めるのは良くないことだ。

▽ 今後はナーシングホーム、高齢者ホーム減らすと言ったが、認知症の人はアクセスが残る。要介護認定で高い判定が付きやすいためだ。

▽ 給付抑制や重点化に関して、どうやって国民の理解を得ているのか、あるいは得ようとしているのか

▽ 政府としては、コストを減らす方向に動いている。しかし、実行に移すのは大変であり、国民の理解を得るのも難しい。国民は「第二次大戦中に負傷した人達を見捨てるのか」「ケアを必要としているのに、ケアを止めてしまうのか」といった形で感情に訴える。一方で、国民は消費税率の高さに文句を言っている。現在の税率は食料品以外で21%。所得税については、所得が7,000ユーロは税金ゼロだが、7,000~37,000ユーロだったら30%、37,000ユーロ~42,000は42%、42,000ユーロ以上は60%という累進課税制度を採っている。これに対し、政府は国民に対して「医療制度を持続可能にすることができないと所得税を上げざるを得ない。これ以上、保険料は上げられない」と説明するが、政党間のゲームに巻き込まれてシンボル化する時もある。

▽ 私自身としては、「今は高齢者ホーム、ナーシングホームに入所している人達が多過ぎる」と思っている。在宅で隣人、友人、ファミリーに囲まれて過ごす方が良いと思う。高齢者ホーム、ナーシングホームは贅沢になった。しかし、結局は自分の家じゃないので、どんなに贅沢な施設だったとしても、ここは大きな違いと思う。

▽ アムステルダムやアムステルダム南部などで、民間人がイニシアティブを取って協会組織を作っており、良いイニシアティブが既に進行している。具体的には、協会のメンバーになると、お茶会に行ったり、新しい人に会いに行ったりできる機構がある。隣の人が誰か知らない場合、とりあえず顔合わせで「映画に行きましょう」ということで付き合いの輪を広げる。1人では映画行きたくない人も近隣の人を誘って行けるようになる。そうすると段々とコミュニティの輪が広がって行き、コミュニティの結び付きが強くなれば、できる限り在宅ケアを続けられる環境が結果として生まれる。

【文責:三原岳 東京財団研究員兼政策プロデューサー】