タイプ
レポート
日付
2013/2/7

医療研究会「日本における総合診療医の可能性について」



東京財団は「医療・介護・社会保障制度の将来設計プロジェクト」を展開しており、2012年10月には政策提言『医療・介護制度改革の基本的な考え方』を発表し、持続可能で国民・利用者本位の制度改革とプライマリ・ケア(初期包括ケア)の充実を提唱しました。

しかし、医療・介護政策においては、国民が当事者として議論に参加し、合意を形成することが求められます。東京財団としては、その場を作る「イニシアティブ」を実施しつつ、様々なメンバーを交えた議論を展開し、これを政策として結晶化させたいと考えています。

その第一弾のテーマとして、特定の臓器や疾患に限定せず、幅広く診断・治療を行う「総合診療医」に着目しました。患者の生活面まで配慮し、適切なケアを提供する総合診療医の定着・拡大がプライマリケアの実現に向けて、カギを握ると判断したためです。

そこで、これまでの研究会メンバーに加えて、がん緩和ケアの専門家や若手在宅医、メディア関係者などをお招きした拡大研究会を2012年12月26日に開催し、孫大輔氏(東京大学医学教育国際協力研究センター講師)から報告を受け、その後メンバーやゲストを交えて意見交換を行いました。

主な意見は以下の通り。


1.プライマリケアと総合診療の基本的な考え方(孫氏のプレゼン)


▼私は腎臓内科専門医として診療後、医師9年目に転向し、日本プライマリ・ケア連合学会認定の後期研修プログラムを経て家庭医療専門医を取得した。家庭医の仕事は0歳児から100歳以上まで色んな人の健康問題に、臓器・年齢・性別に限らず対応するものである。風邪などの日常疾患から、糖尿病、慢性腎不全など慢性疾患まで幅広く対応している。

▼ヨーロッパでは「GP」(General Practitioner)と呼ばれる家庭医が広く普及しており、専門医への紹介を振り分けることから「ゲートキーパー」とも呼ばれる。内科を中心とした成人のケアのみならず、幼小児・思春期のケア、高齢者のケア、終末期のケア、女性医療、メンタルヘルス、救急医療、リハビリテーション、健康増進など多岐にわたる領域でトレーニングを受けている。

▼日本では、プライマリ・ケア関連の学会としてかつて「プライマリ・ケア学会」(開業医が中心)、「総合診療医学会」(病院勤務の総合診療医が中心)、「家庭医療学会」(海外の家庭医療を重視)の3つが独立して存在していたが、2010年に「日本プライマリ・ケア連合学会」として合併したことは大きなエポックであった。

▼プライマリ・ケアを説明する上で「ACCAA」と呼ばれる概念が鍵となる。
 1. Accessibility(近接性) 2. Comprehensiveness(包括性) 3. Continuity(継続性) 4. Coordination(協調性) 5. Accountability(責任性)

▼それに加えて、以下のような能力が家庭医を特徴づけている。
 1. 患者中心の医療 2. 家族志向の医療 3. 地域・コミュニティーをケアする能力
  (日本プライマリ・ケア連合学会「専門医・認定医認定制度要綱」より)

▼英国は地域住民が必ずGPに登録している。しかし、単に登録制に留まらず、地域住民の意見が反映される形。PCT (primary care trust) は全国を約150地域に分けて、医療従事者や住民が委員会を作って地域の予算配分や方向性を決めている(PCTは今後GPコンソーシアムという組織に改変予定)。

▼日本でも高齢化に伴って急増する高齢患者と、「看取り難民」に対応するため、特に在宅で終末期のケアができる総合診療医が多く必要になると思われる。

▼欧州などの事例を見ると、平均でも3分の1以上が家庭医・総合診療医。ベルギーやフランスは約半分。イギリスは3割ぐらい。医療制度の中で適切に位置付けられている。

▼オランダでは93%の健康問題をGPが対応しているのに、そこに投じられている医療費は7%と言われている。ローテクノロジーで健康問題を解決できるのがGPの特徴。

▼なお、近年はゲートキーパーと呼ぶと「遮る」という意味合いが強くなるため、必要に応じて専門医に紹介する機能から「ゲートオープナー」とも呼ばれる。

▼日本でも2017年度にスタートする予定の新たな専門医制度で、内科、小児科、精神科などの19の基本領域の中に「総合診療科」が入ることが決まった。実現すると国民の認知度が上がり、総合診療医の育成が進む。

▼しかし、これだけ社会のニーズは高い、これから高まるのに、なぜ増えなかったのか。進まなかった理由としては以下の事項が指摘されている。
 ・医学部における教育カリキュラムの不在
 ・卒後のジェネラリスト研修プログラムの不足
 ・専門医の権威性
 ・国民の専門医志向・大病院志向

▼私としては、大学医学部のコアカリキュラムでプライマリ・ケアや家庭医療が教育されていないことが一番の問題と感じている。今後、この確立に向けて尽力したい。

▼現在、既存の医師を対象としたジェネラリストになるための教育リソースが少ない。生涯教育のコンテンツとしては医師会やケアネットの教材があるが、プライマリ・ケアの考え方やメソッドを包括的に教えるパッケージが無い。そこで昨年、小児科医の野崎英夫医師と一緒に「一般社団法人 Medical Studio」を設立した。今後、議論の場づくりだけでなくeラーニングなどを用いたジェネラリスト育成プログラムを構築する予定である。

▼さらに、草の根的に市民に訴えかける場として「みんくるカフェ」というサロンを東京で定期開催している。一般市民と医療従事者が健康や医療に関してフラットな関係で対話できる場であり、同様の会が北海道、長野、広島、島根など全国各地に広がってきている。

▼今後、国、大学、医師会、関連学会などのステークホルダーが一体となって総合診療医を育成していく必要がある。


2.総合診療の担い手としての医師育成(土屋了介上席研究員のプレゼン)


▼海外では外来が閑散としており、専門医は倍ぐらいの手術件数をこなしている、これを見た時、専門医として国際的に太刀打ちできないと思った。言い換えれば、総合診療医や開業医を応援しないと、専門医のレベルを維持出来ない。どう育てていくか体系的に進めるべきだ。

▼国や日本専門医制評価・認定機構の議論に引っ張られかねないので、私としては「地域健康管理医」という名前で育成プログラムを発足させたい。

▼アメリカの学会の定義によると、家庭医学とは「個人と家族の総合管理の専門医学」であり、生物科学、臨床科学、行動科学を統合する幅広い専門科学が必要。さらに、年齢・性・臓器・疾病を問わず、全ての患者を診るため、家庭医は個人と家族の総合健康管理に携わる必要がある。このため、内科、小児科、産科婦人科、精神科、老年科など多様な疾病の診断と治療を習得しなければならない。同時に、他の専門家との協議や地域資源の活用を通じて、予防と家族全員の一次診療を重視するという考え方が示されている。

▼現在、日本でも学校医や中小企業の産業医、乳幼児のワクチンを開業医が担っている。

▼大病院では医事課に聞けば何でも対応して貰えるが、開業医は経営学や法律学、行政学を知らなければならず、一種の個人事業者、経営者としての観点が必要。他の職種をけん引するリーダー学も求められる。

▼このため、地域健康管理医は生物科学、臨床科学、総合健康管理、内科、小児科、産科、婦人科、精神科、老年科、行動科学、予防医学、一次診療、法学(医療法、医師法、保助看法、健康保険法、介護保険法など)、経営学、地域の専門家と協議する上での知識(行政、介護、看護)、地域資源の活用、医療産業(製薬業、製薬卸、調剤薬局、医療コンサルタント、ケアマネージャー、訪問看護)など、幅広く知る必要がある。

▼しかし、霞ヶ関に任せると、全国一律のカリキュラムで総合診療医を作ろうとしてしまう。そこで、大学院にコースを設置するのはどうか。内容を大学ごとに改編できるし、博士号も取得できる。可能ならば法律を演習で勉強することで、地域社会で尊敬して貰える。

▼医学的な知識は認定内科医を取得できるぐらいのレベル。産業医や検査がパンクしているので、消化器内視鏡専門医、乳腺専門医の資格を取ることも考えるべきかもしれない。

▼文部科学省も2013年度の政府予算概算要求で、総合診療の人材育成を目指す「超高齢社会及びメディカルイノベーションに対応した医療人養成事業」を要求(要求額は45億円)しており、考え方としては同じ方向性。

▼これから養成される年間9,000人の医師のうち、将来的には3,000~4,000人ぐらいは用意して行く必要がある。


【文責:三原岳 東京財団研究員兼政策プロデューサー】