タイプ
レポート
日付
2015/7/29

日米豪印と中国が安保協力できる分野はあるのか

                                                   東京財団研究員 長尾 賢


 昨今、中国に対抗するための日米豪印の協力関係は徐々に現実味を帯びてきている。中国が東シナ海、南シナ海、インド洋で軍事的活動を活発化させる中、アメリカの同盟国・友好国の連携が模索されるようになったためだ。実際、今年は日米豪、日米印、日印、豪印共同演習などが計画・実施されている(対中戦略上の日印連携の重要性については、拙稿「なぜ日印連携に注目するのか」(東京財団、2015年5月29日)(http://www.tkfd.or.jp/research/project/news.php?id=1439 )
  しかし、国際政治は複雑である。表向きはにらみ合いながら、裏では一緒に仕事をしていることがある。例えばイランの核開発問題では、ウクライナ問題では仲の悪い米露両国が、同じテーブルについて議論し、合意に達した。ある問題では対立していても、別の問題では利害が一致するからだ。
 だとすれば、日米豪印と中国との間の安全保障上の利害が一致する分野もあるはずだ。それはどこだろうか。少なくとも以下2つの分野においては利害が一致する可能性がある。
 
 

1.イスラム過激派への対処

  一つ目はイスラム過激派への対応である。日米豪印と中国は共に、イスラム過激派の標的となってきた国だ。だから9.11直後、アメリカは日豪印だけでなく、中国とも協力してテロ対策に当たった。最近では、アフガニスタンからNATO軍撤退(豪軍はすでに撤退)を控え、今後、アフガニスタンが再び破綻国家となり、アルカイダやISをはじめとするイスラム過激派の温床になることが懸念されている。そのため、アフガニスタンの復興に関して日中印三カ国はすでに情報交換を始めている。アフガニスタン政府とタリバンの和平協議にも、アメリカと中国の代表が出席している。こうした動きは日米豪印と中国の利害が一致していることを示しており、アフガニスタン対策は日米豪印と中国の協力関係の具体的成果になる可能性がある。
  ただ、イスラム過激派対策で意見が一致しない部分もある。例えば、2015年6月、インドは国連安保理制裁委員会で、パキスタンが2008年のムンバイ同時多発テロを計画した中心的人物ザカウル・ラフマン・ラバニを釈放したことについて、国連決議1267違反であるとしてパキスタンに説明を求める提案をだした。ところが、この動きは中国によって阻止された。中国の拒否の根拠は「証拠不十分」というものであるが、実際には、中国は友好関係にあるパキスタンに配慮したものとみられている。イスラム過激派対策で日米豪印と中国も含めた形の協力を進めるには、こうした立場の違う部分をどうするか、対応が問われる。
 
 

2.海賊対処と沿岸国安定への支援

  二つ目は海賊対処だ。この分野ではすでに協力関係が進んでいる。日本はすでにアメリカやヨーロッパが中心となっている多国籍部隊の海賊対処司令も努めている。そして日中印の三カ国も派遣した艦艇の護衛時間等を調整して任務にあたっている。
  このような海賊対策における協力関係は、沿岸国支援を含めた海洋の安全保障全体における協力関係へと発展していく潜在性がある。海賊問題を解決するには、海賊の出撃基地になっている沿岸国の政治的不安定性を解決してする必要性があるからだ。例えばソマリア沖の海賊問題であれば、海賊対処のためにはソマリア本土の政治的安定化が必要である。
  このような沿岸国安定のための支援を実行する際、日米豪印と中国は協力することができるかもしれない。沿岸国の治安機関の能力構築やインフラ開発による支援によって沿岸国の安定を助け、自然災害などの突発的事態において、人道支援・災害救援作戦を共同で行うこともできる。2004年のインド洋大津波はその例であり、日米印が協力して対応に当たった。2014年にはモルディブの水不足に際し、インドと中国両方が艦艇を派遣して支援を行っている。また、場合によってはクーデターなどの政情不安への介入の際にも協力が可能だろう。1988年、インドはモルディブの要請に基づき、同国のクーデターを鎮圧した。その際アメリカはインド海軍艦艇の誘導などで協力している。こうした協力は将来も想定し得る。
  問題となるのは、インド洋における主導権をどう考えるかだ。インド洋において沿岸国の支援を実施する際には海を通じて介入することになる。そのため、インド洋に大規模な海軍力を展開し得る国が主導することになる。インド洋においてもっとも大規模な海軍力を展開し得る国は、1970年代以降現在までアメリカであった。今後は海軍力近代化著しいインドの存在感が増していくことになろう。日豪と中国は、主導する国の国益を尊重して協力して問題に取り組む姿勢が求められる。最近開かれた日豪印協議は、このような調整には有効であるし、環インド洋連合のような日米豪印と中国がすべて参加している会議は、協力関係を調整する場として、今後、重要性を増していく可能性がある。
 
 

3.カギを握るのは中国の行動

  このように、日米豪印と中国が協力し得る課題が少なくとも二つあるわけであるが、やはりカギを握るのは中国の行動である。中国には世界の問題に貢献する能力があるが、その意思があるかどうかは未知数だからだ。例えば、中国が進める新しいシルクロード「一帯一路」構想やアジアインフラ投資銀行は、使い方によっては日米豪印と共にアフガニスタンやインド洋の沿岸国の安定化に貢献する可能性がある。しかし、中国が国際協力を悪用して自国の影響力拡大を露骨に推し進めることにつなげれば、日米豪印と中国の協力関係は成立しない。2014年に実際起きたように、中国は海賊対処を名目にして潜水艦をインド洋に派遣した。海賊対処には潜水艦は有用ではないから、中国の行動は、国際協力を口実に自国海軍の存在感を高め、インド洋における主導権を奪い取ろうとする動きにみえる。このような行動は、日米豪印と中国との協力関係を壊す行為である。日米豪印と中国が東シナ海、南シナ海において対立的になったのは、中国のそのような行動の結果だ。日米豪印と中国が安保面で協力するには、中国が、その行動を国際協力における協調的で抑制的な方向へ、大きく転換することが求められる。