タイプ
論考
プロジェクト
日付
2018/4/26

所有者所在不明土地問題の現状と8つの課題

山野目 章夫

早稲田大学教授

加速する政府の動き

所有者または所有者の所在が不明である、という事象がもたらす諸問題への対処という課題が、時局的な重みをもって解決が要請されており、各方面の関心をよんでいることは、あらためて述べるまでもないであろう。 

 

2017(平成29)年から、政府の動きもみられる。同年秋に始められた国土審議会土地政策分科会特別部会の調査審議は、同年12月に中間とりまとめを得るところまできた。その成果は、2018(平成30)年3月9日、「所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法案」として閣議決定され、直ちに衆議院に提出された。その速やかな成立を期することが政府において表明されている(同年3月20日の参議院国土交通委員会における石井啓一国土交通大臣の所信表明)。この間、政府は、同年1月19日、この問題に関する関係閣僚会議において、政府が一体として諸課題に取り組む方針を確認した。

 

このようにして、今期国会(第196回常会)においては喫緊の取組みが法律案として審議される見込みであるが、より中長期の視点からの施策も求められる。「登記制度や土地所有権の在り方等の中長期的課題」についても検討する必要があり(同年3月20日の参議院法務委員会における上川陽子法務大臣の所信表明)、法務省が関係する研究会として、2017(平成29)年10月、「登記制度・土地所有権の在り方等に関する研究会」が設置され、2018(平成30)年6月を目途として中間のとりまとめを得るべく調査審議が進められている(山野目「『登記制度・土地所有権の在り方等に関する研究会』が始まる」『登記情報』673号。同研究会の議事の概要は、一般社団法人金融財政事情研究会のウェブサイトにおいて紹介される)。

 

これらの経緯を踏まえ、ここでは8つの課題を掲げ、今後において取り組まれるべきであると考える方策を提示することとする。 

課題1 当面の施策――法律案「所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法案」の成立を期する 

今期通常国会において審議される法律案「所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置案」は、所有者またはその所在がわからない土地について、土地収用の手続を見直すと共に、期間を限って土地を使用することができる新しい制度を創設するほか、登記官に特別の権限を認め、また、不在者の財産管理を市町村長が申し立てることができる場面を設ける。

 

ひとまず、これの速やかな法律としての成立が望まれる。また、その審議に際し、両議院において表明される各党各会派の意見も注視し、今後の施策を考えるうえで参考にしなければならない。 

 

「所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法案」

〔適用対象となる土地の定義〕 この法律案において所有者が不明である土地とは、「相当な努力が払われたと認められるものとして政令で定める方法により探索を行ってもなおその所有者の全部又は一部を確知することができない一筆の土地」をいう(2条)。

〔土地収用の制度の改革〕 この法律案で提案されているものの一つに、いわゆる不明裁決の制度の改革がある。これを都道府県知事の裁定で収用することにする。収用委員会による裁決手続とその前提としての審理手続をしない。また、所有者の探索を合理化する運用改善が図られる。

〔地域福利増進事業〕 新しく設けられる制度が、地域福利増進事業である。それは、地域住民などの共同の福祉または利便の増進を図るために行なわれる事業であって、法律が定める種類のものをいう。例示を概観すると、道路、学校、公民館、図書館、社会福祉施設、病院、公園、緑地、広場、運動場。さらに、災害復興のための住宅や施設。

 10年以下の期間を定めて、地域福利増進事業のために所有者が不明である土地を使用することを認めるものとする。この期間は、延長が認められる可能性がある。

〔長期相続登記等未了土地についての登記官の権限〕 登記官は、収用適格事業の準備などのため所有者を探索する必要がある土地について、所有権の登記名義人が死亡した後の長期にわたり所有権の登記がされていない場合において、職権で、長期相続登記等未了土地である旨を土地の登記に記録することができるものとされる。

 登記官は、所有者を探索する必要がある上記の土地について、今般法律の施行に必要な限度で、市町村長などに対し情報の提供を求めることができるものとする。そして、登記官は、上記の土地に係る所有権の登記名義人の相続人などに対し、特別な事情がない限り、必要な登記手続をすることを勧告することができるとする新しい仕組みが導入されようとしている。

課題2 土地所有者の責務の明確化

当面の施策を盛り込む上記法律案の帰趨を注視すると共に、中長期の課題を検討することも、怠られてはならない。細目の施策も重要であるが、それを背後から支える理念の再構築ということの意義は大きい。

 

バブル期に制定された「土地基本法」(1989[平成元]年法律第84号)は、今日の社会経済情勢に即応していない。政府が土地情報を収集することなどを定めているにとどまる。土地の保有状況を明らかにすることなどについて、土地所有者の責務を明確に定める必要がある。 

 

土地についての理念の再構築を

〔土地情報政策の課題〕 論点としては、まず、土地の保有など権利関係を明らかにすることについて国民が協力をしなければならないことが、明確にされなければならないであろう。具体的には、土地に関する権利を有する者らが、土地の所有および利用の状況の調査に協力しなければならないものとすることが考えられる。

〔土地所有者の責務の明確化〕 また、現行の土地基本法は、公共の福祉の考え方を中核とする土地についての基本理念に即して施策や事業をする責務を国、地方公共団体および事業者に課する。しかし、国民の努力義務が謳われるにとどまり、所有者をはじめ土地に関する権利を有する者らについて、理念尊重の責務は明示されていない。

〔土地の公的な管理の新しい在り方の追求〕 くわえて、所有者が土地保有を担い続けることが著しく困難な土地や、所有者またはその所在が長期にわたり不明である土地を公的な管理に移す手順や、その際の公的な管理の在り方について、検討が要請される。

課題3 登録免許税の改革

相続を原因とする所有権の移転の登記は、それを国民が申請する際、登録免許税が課せられる。相続登記を推進する見地から、問題ではないか。なお、建物を新築する際などにされる不動産の表示に関する登記は、登記の申請が義務づけられる半面において、登録免許税が課せられない。

 

「平成30年度税制改正の大綱」(2017[平成29]年12月22日閣議決定)においては、場面を限定して、土地の相続登記に対する登録免許税の免税措置の創設が打ち出されている。

 

登録免許税のあり方を抜本的に再検討し、さらなる税制上の機動的な誘導が講じられるべきである。 

 

登録免許税免税措置の必要性

〔具体例による説明〕 相続登記の推進ということが、社会的に強調されるようになってきている。これに即応し、相続が開始して時間を置かないで法定の相続人らの共有とする登記(登記原因は「相続」)をすると、そこで登録免許税が課せられる。この場合の税率は1,000分の4である。その後、相続人らが協議して特定の相続人の単独の所有とする遺産分割の登記(現在の実務では、「遺産分割」を登記原因として持分の移転の登記をすることがみられる)をすると、そこでまた登録免許税が課せられる。その際、1,000分の20の税率で運用されている実態がみられる。これは、登録免許税法の文理解釈によるとみられるが、実質は相続による登記であり、この解釈運用そのものに疑問が残る。

〔税制調査会の平成14年度「税制改正に関する答申」〕 同答申において、登録免許税については以下のように述べられている。「登録免許税は、基本的に登記などによって生じる利益に着目するとともに、高額の土地取引等の登記・登録などの背後にある経済取引に担税力を見出して、それに応じて課税するものであり、手数料とは性質が異なると考える。現下の厳しい財政状況の下、貴重な財源である登録免許税は引き続き不可欠な存在である」。しかし、はたして相続は「経済取引」であるか。たしかに、引用の後段が述べる日本の深刻な状況という一般的な問題は、看過されてはならない。けれども、引用前段の論理が相続登記の登録免許税賦課を正当化する論理を必ずしも提供していないことは、そうであるからといって黙過してよいことであるか。

〔施策のイメージ〕 自分のための相続が開始したことを知った日の翌日に起算する10月の期間内にした登記で相続に起因するものについては、登録免許税を課さないとすることなどが、施策の一つのイメージとして考えられる。

課題4 土地情報基盤の整備

戸籍を扱う役場は、死亡の届出がされた者が不動産を所有していることを知らない。不動産の登記を掌る官庁は、登記名義人が死亡しているかどうかを知らない。

 

「世界最先端IT国家創造宣言・官民データ活用推進基本計画」(2017(平成29)年5月30日閣議決定)の趣旨を前進させ、個人番号を活用するなどして戸籍と登記の連携を図る必要がある。

 

戸籍と登記の連携を

〔施策のイメージ〕土地情報基盤の整備を前提としつつ、種々の行政庁への届出を契機として登記名義人が死亡した事実を登記官が把握する場合において、職権で死亡の事実を登記上記録する仕組みの実現可能性が、追求されてよい。

課題5 不動産登記手続の見直し

個人番号を駆使するなどし、土地情報基盤の一角をなす不動産登記の機能を強化することは、将来に向けての政策である限界をもつ。

 

すでに登記名義人に相続が開始している土地は、関連する登記手続を可能な限り合理化しなければならない。戦前の相続制度が異なるルールであったことや、戸籍が不備な場面があることなどが、当事者にもたらす負荷は、可能な限り小さくすることが望まれる。

 

また、相続人の一人が事実上の管理を容認されてきた土地は、一種の実質的な遺産分割がされたに近い実質があるとみることもできるから、時効取得が成立しているとみられる場合について、それを反映する簡便な登記手続が考えられるべきである。 

 

国民の負担軽減に向けて

〔震災5年めの応当日に出された通達の心〕 相続の関係人に係る戸籍が不備である場合において、従前は、登記の申請人に無用な手続の負荷が課せられていた。従来の運用を改め、除籍または改製原戸籍の滅失によりそれらの謄本を交付することができない旨を証する市町村長の証明書をもって、相続を原因とする登記の添付情報とすることができ、他に相続人がいない旨を申述する情報の提供は不要であるとされることは、一つの前進である(民事局長通達平成28年3月11日民二219号)。もっとも、戦前に樺太に本籍があった者の戸籍が保存されていない旨の外務省の行政証明は、文理上これに当たらないこととなる。

〔一部の相続人による事実上の管理の長期継続への対処〕 甲土地は、Aが所有し、Aを所有権の登記名義人とする登記がされている。Aが死亡し、Aの相続人はB・Cである。相続による所有権の移転の登記がされないままBが死亡し、Bの相続人はD・Eである。甲土地は、ずっとEが事実上管理をしてきた。Eが援用する時効取得に係る占有が開始された時期がAの死亡後である場合において、相続によるA→B・Cの所有権の移転の登記をし、そのうえで、時効取得によるB・C→Eの所有権の移転の登記をしなければならない。煩瑣な登記手続をEに強いることは、相続を機縁とする権利関係の登記上の公示を阻害しているものではないか。

〔往時の家督相続の問題〕 昭和22年法律第222号附則25条2項本文に基づき家督相続でなく新民法の規定による相続となる場合において、この相続による所有権の取得等の登記を申請するにあたり、家督相続人が選定されていない旨の陳述を内容とする情報(家督相続人不選定証明書)の添付を求めてきた実務は、これでよいか。

課題6 国民へのノウハウの提供

相続に係る登記手続のうち、簡易なものは、当事者が自らすることができるよう政府として支援や広報をすることが望まれる。関係者の連絡調整や複雑な手続を要する事案については、専門家の実効的な支援を受けることができるよう制度環境の整備に努めることがよい。 

 

きめこまやかな支援のために

〔考えられる施策1〕 一般の人々が自ら相続の登記をする手続のガイドが、法務省のウェブサイトに掲げられている。それが、いっそう親しみやすいものに改良されていくことが望まれる。

〔考えられる施策2〕 登記の申請の代理を業とすることができる資格者が、共同相続人らの遺産分割の協議が円滑に調うことを支援するため、相続人らからの依頼を受け、助言や提案をする業務に携わることができる一般的な制度整備を講ずることが適切である。

課題7 民法の改正

現在の判例上、登記をしなくても所有権の取得を第三者に対抗することができるとされる場面が多すぎる。しっかりと対抗要件主義が働く局面が確保されなければならない。登記をすることが望まれる、という施策との整合性を得るためには、これでは困る。 

 

経過と論点

〔経過の確認〕 相続人が遺言により相続財産に属する財産を取得した場合において、その相続人は、その法定相続分を超える部分の取得について登記をしなければ第三者に対抗することができないとする解決を提言する方向で法制審議会の調査審議が進められてきた(法制審議会「民法(相続関係)等の改正に関する要綱」[2018〈平成30〉年2月16日]「第5」「1」「(1)」)。この点の答申を反映するものが、今期通常国会に民法の相続関係規定の見直しのために提出された「民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律案」における899条の2の民法への追加の提案にほかならない。

〔さらなる課題〕 時効により所有権を取得する者は、時効完成前に出現した第三者に対し登記なくして所有権取得を対抗することができる。実体と公示との乖離を助長するものではないか。

課題8 相続人による届出の徹底

土地は、現在および将来における国民のための限られた資源であり、人々の生活および事業を通ずる諸活動の共通の基盤である。土地は、個人の秘匿欲求の対象ではない。土地の保有状況は、公的に明らかにされなければならない。

 

これは一つのイメージの例示であるが、日本人の文化として、世代の交代により土地に関する権利の承継があった場合において、自分のための相続が開始したことを知った日の翌日に起算する10月が経過するまでに、新しい土地の保有状況を明らかにする習律のようなものが育まれることが望まれる。

 

そのような意識の定着を促すため、国民の健康で文化的な生活環境を確保し、さらに災害からの復興やいわゆる事前復興を実効的に進める見地から、一定の種類の土地や一定の地域の土地については、土地の保有状況に係る届出が励行されるよう、“政策パッケージ”を練って総合的な施策を講ずることが強く要請される。

  

 

   

 山野目 章夫(やまのめ あきお)

早稲田大学大学院法務研究科教授。1958年8月12日に福島市で生まれる。国土審議会委員、NHK受信料制度等検討委員会委員、民事法務協会理事、日本土地家屋調査士会連合会顧問。エクス・マルセイユ第三大学客員教授(2003年3月、2006年3月)。主著に『新しい債権法を読みとく』(商事法務、2017年)、『物権法』(第5版、2012年、日本評論社)、『不動産登記法』(増補、2014年、商事法務)。

 

 

 

 

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