タイプ
論考
プロジェクト
日付
2016/4/27

自治体アンケートが示す土地の「所有者不明化」

人口減少時代の土地法制整備が急務

東京財団研究員兼政策プロデューサー
吉原 祥子

 

地方から人が減り、地価の下落傾向が続く中、所有者の居所や生死が直ちに判明しない、いわゆる「所有者不明」の土地が、災害復旧や耕作放棄地の解消、空き家対策など公益上の支障となる事例が各地で顕在化している。国土交通省は3月、「所有者の所在の把握が難しい土地に関する探索・利活用のためのガイドライン」を公表し、対策に乗り出した。

 

「所有者不明化」の大きな要因の1つに相続未登記の問題がある。所有者の死亡後、相続人が相続登記を行わないまま世代交代が進むことで法定相続人が鼠算式に増加し、権利関係が複雑化していく。だが、こうした事例は各地で同じように繰り返されるばかりで、全国的な実態把握や要因分析は進んでいない。

557自治体で「問題あり」

東京財団は、この問題の実態を定量的に把握するため、全国1,718市町村および東京都(23区)の税務部局を対象にアンケート調査を実施し、888自治体より回答を得た。

 

まず、土地の「所有者不明化」によって問題が生じたことがあるか尋ねたところ、63%にあたる557自治体が「あり」と回答した。具体的には、「固定資産税の徴収が難しくなった」(486)が最も多く、次いで、「老朽化した空き家の危険家屋化」(253)、「土地が放置され、荒廃が進んだ」(238)がほぼ同数であった。

 

次に、「死亡者課税」について尋ねた。これは相続未登記の事案に対して税務部局による相続人調査が追いつかず、やむなく死亡者名義での課税を続けるもので、146自治体(16%)が「あり」と回答した。納税義務者に占める人数比率(土地、免税点以上)は6.5%であった。「なし」は7自治体(1%)。735自治体(83%)は「わからない」と回答し、所有者の生死を正確に把握することが困難な現状もうかがえた。

 

死亡者課税が今後増えていくと思うかという問いに対しては、「そう思う」「どちらかといえばそう思う」が770自治体(87%)に上った(図)。その理由を尋ねたところ、「相続未登記は減らない」「自治体外在住者の死亡把握が困難」といった制度に起因する理由(図中の黒の棒)と、「相続放棄・相続人不存在が増える」「土地に対する意識の変化」といった社会の変化に起因する理由(図中の白の棒)が浮き彫りになった。

 

 図  死亡者課税が増える、もしくはどちらかといえば増える、と思う理由

 

具体的には、「土地の売買等も沈静化しており、正しく相続登記を行っていなくても当面実質的問題が発生しないケースが増えている」「山林や耕作放棄された農地など、わざわざ相続登記するメリットが相続人側に感じられなくなっている」「相続人が地元に残っていない。山林・田畑について、所有する土地がどこにあるかわからない方が多い」といった記述があった。

 

これらは、死亡者課税が増える要因であるとともに、間接的ではあるが、「所有者不明化」問題の拡大要因の一端を示しているとも言えよう。

人口減少時代の土地法制の必要性

もとより、わが国の土地制度は、土地の所有・利用状況に関する情報基盤が未整備という根本課題を抱えている。不動産登記法にもとづく任意の権利登記が実質的な所有者情報源となっているものの、近年、その限界は各方面で認識されている。空き家対策や農地基本台帳の整備において、固定資産課税台帳の相続人情報が重視されているのはその表れと言えよう。

 

だが、今後、土地の利用価値の低下や登記手続きの煩雑さから相続未登記が増えていくとすれば、「所有者不明化」は慢性的に拡大し、死亡者課税の問題に見られるように固定資産課税台帳の精度にも影響が及ぶことは必至である。

 

「所有者不明化」した土地の扱いは、費用面に加え、財産権にも関わることから、基礎自治体だけで解決することは容易ではない。国が主導して情報基盤の整備と関連法制度の見直しを進めることが求められよう。同時に、当面の措置として、土地所有者、行政双方にとって各種手続きコストを低減するための支援策が不可欠である。また、不明化予防策として、NPOなど地域の中間組織による土地の寄付受付の仕組みや、自治体による公有化の可能性についても議論を本格化させる必要があろう。人口減少時代の土地法制の整備が急務である。

 

(2016月4月15日付け『全国農業新聞』より転載)