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公開研究会を振り返って:議会改革の重要性(「地方議会の改革」プロジェクト)

January 21, 2009

議会改革の重要性

今年必ず行われる総選挙のためマスコミは浮足立っている。多くの国民も国会情勢や与野党幹部の言動に関心を示している。だが、日本の政治の成熟度を高めるためには、国政とは不可分の関係にある地方における政治のあり方にも注目することが重要である。過去2年に及ぶ東京財団の研究プロジェクトで市長経験者や地方自治の現場に長年携わった有識者との意見交換等を踏まえて、議会改革の重要性をまとめた。

市民の意識変化に対応できない議会

ここ10年地方を取り巻く環境は大きな変化を経験した。その背景のひとつにNPO(非営利活動組織)の活動が定着してきたことが挙げられる。NPO法が1998年に施行されて10年が経過した。多くのNPOは財政的に厳しい状況である。だが、運営資金を税金だけでなく、企業・団体の助成金や一般市民からの寄付金などを原資に地道に活動している。これまで行政が独占していた仕事や行政が見過ごしていた社会問題に市民の直接参加によって解決を試みている。これは日本の公共空間の成熟さを物語るひとつの視点である。市民は身近な問題を解決する法的裏付けと資金力、実行力を得た。

一方この間、地方議会は眠り続けている。議会は本来、市長や行政職員とは異なる視点で地域の問題と解決策を提示する役割を担っている。だが、議会全体として地域の統治機関としての実績は乏しい。議会の構成員である議員が個々に研鑽する姿は目に入るが、議会がひとつとなって地域のために活動したことは皆無だ。

NPOの定着で問題解決能力を向上させた市民の議会を見る視線は厳しくなった。議員の定数や報酬に合理的な理由を見いだせない市民は少なくない。財政難の近年、議員や議会の役割を見つめなおす機会が多くなった。議会の傍聴はもちろん、政務調査費の支出内容や議会出席率、発言回数を詳細に調査する市民も珍しい存在ではなくなった。議会の動静への市民の関心は日に日に増している。

予算の議会案をつくれ

東京財団のプロジェクトを通して地方で活躍する優秀な議員と知り合った。過激な議会廃止論を訴えることが本意ではない。議会が地方の政治に必要不可欠であるために将来的な提案をひとつと実現可能な提案をひとつしたい。東京財団の研究調査で昨年スウェーデンの地方自治体を訪問した。そこでは、議員が行政を執行するいわゆる議院内閣制の自治制度が行われていた。日本も将来は議院内閣制を含む地方自治のあり方を選択できることが望ましい。同じ問題意識を持った愛知県一色町が、議員の身分を保ったまま行政職員に任命できるよう特区申請を行った。残念ながら、総務省の返答は議会と首長の関係という制度の根幹に関わる事項であるとして認めなかった。議院内閣制を含む多様な自治制度が実施できるよう地方自治法はじめ関連法の改正を強く求める。

それまで議会は何もできないのか。そんなことはない。議員時代に重要と考えた問題を市長に就任して予算編成することで具体的な解決を試みた事例は少なくない。議会に予算の提出権は法的に付与されてはいない。だが、それは議会独自の予算を作成することを禁じていることではない。優秀な議員は個人の能力の研鑽に加え、予算の議会案の取りまとめ役を目指してはどうだろうか。地方政治とは端的に言うと、予算を編成し、関連条例などを成立させ、滞りなく執行し、市民の生活を守ることだ。市長や行政職員の仕事を監視するだけでは余りある経費(議員報酬・政務調査費・費用弁償・共済費など)を議会は負担してもらっている。もっと主体的に地方自治に関与しなければならない。地域の問題の解決策と費用が明確になるには、予算を編成するのが最良の方法だ。予算を編成することで、議会は議会の独自の理念や価値観を掲げ、地域の問題の解決策を具体化することができるのだ。それが議会改革の第一歩となるであろう。

(文責:赤川貴大)

    • 元東京財団研究員・政策プロデューサー
    • 赤川 貴大
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