タイプ
その他
プロジェクト
日付
2010/9/22

「栗山」をベースに、覚悟を持ってさらなる改革を(中尾修研究員)

東京財団研究員/元北海道栗山町議会事務局長
中尾 修



東京財団モデル
議会基本条例の根幹は、「情報の徹底した公開と共有、そして市民参加」にあるが、これまでのような内向きなルールそのままに、市民参加を経ないでつくる例も散見されるようになった。そこで東京財団では、2010年3月までに誕生した68基礎自治体の議会基本条例を調査分析し、「東京財団モデル」を公表した。

市民と議会の関係、意思決定機関としての役割を明記することが、議会基本条例の核である。栗山町議会基本条例を原型とし、東京財団が示した必須条件は次の3つである。

・議会報告会(意見交換会):議会が一体となって民意を汲み取り、その仕組みを市民が体験する機会となる。市民の信頼を獲得するには、議会が市民生活の場に出向くことが不可欠であり、市民が議会を通して政策決定過程に関与する機会となる。

・請願・陳情者の意見陳述:市民が抱える懸案事項について議会で意見を述べることを希望した場合、それを保障しなければならない。運営実態では慣例として行っている議会もあるが、市民の権利として条例に明記し、周知することが重要である。

・議員間の自由討議:議論は議会の醍醐味。議会は意見をぶつけ合い、結論を導き出すところである。議決行為よりも決定に至る過程がもつ実質的意味を重視することで、議員・議会の存在が明確になる。

大規模議会でも機関として市民に説明を
私は2月22日、名古屋市議会の議会条例制定研究会に、東京財団「地方議会改革プロジェクト」として、福嶋浩彦上席研究員(前千葉県我孫子市長)と共に出席した。この時点で名古屋市議会は、全国的にも例がない「市民税の恒久的な10%減税」を公約に掲げた河村たかし市長と鋭い対立を巻き起こし、崖っぷちの状況にあったといえる。その研究会で、私は次のような見解を述べた。

「一般市民の議会や議員に対するイメージには『4年に一度の選挙の時は色々な問題を提起し語るが、その他の期間はほとんど姿を見せない』というものが多い。市民の厳しい視線を変えるには、一つしかない。自治を担う機関として議会が一丸となって市民の前に立つことだ。議員個々がつかんだ民意を会派間のみで調整するような議会運営では通用しない。議会自ら都合の悪いことも含めてディスクロージャーし、説明しなければならない。議会が市民の前に登場すると、市民からは議員報酬や政務調査費、議会開催日数、質疑内容、日常的な要望など多岐に及ぶ意見が出てくる。これらに一つひとつ丁寧に答えなければ、議会への信頼は回復しない。議員が住民の前に出ると、糾弾集会に化すと危惧する声もあるが、心配はご無用。首長より議員の方が政治家としての魅力があるという市民は少なくない。多くの市民には、二元代表制が十分に理解されていないため、初回の議会報告会では混乱することが予想される。しかし、自治の仕組みを説明し、議会や議員の役割の重要性が実感できると、議会への期待が高まる。大規模自治体の議会であろうとも、議会は機関として市民の前に登場し、その意思決定のプロセスを説明する責任がある」

地域経営者としての自覚
名古屋市議会はその後、議会基本条例を制定し、4月には5会場において議会報告会を実施している。動機はどうあろうとも、議会が一体となり市民に説明責任を果たそうというものである。

民主党政権が掲げる「地域主権」の流れは、菅総理大臣の誕生で鳩山前政権より後退したという危惧が広まっているが、地方への権限移譲が進んでいくことは間違いない。今後は全国一律の基準は限定され、自治体及び市民は自らの判断と責任で行政サービスを選択していくことになる。このような時代に地方議会は議決機関として、また意思決定機関として地域経営の一翼としての覚悟が求められる。

地域経営者としての自覚とは、首長・市民と共に将来に向け安定した行政運営に責任を持つこと。そのためには議会も市民と共に長期行政計画(総合計画など)に積極的に関与し、人口動態、まちの形態の変化、財政の推移などを共通認識とし、知恵を出し合って地域づくりに努めることが不可欠となる。

このような認識に立った議会改革、議会基本条例制定の全国的広がりはこれまでの地方議会の歴史にはなかったことである。

一方、議会基本条例の劣化を心配する声にも耳を傾けなければならない。条例制定はあくまで手段であって目的ではない。条例をつくることにエネルギーを使い果たし、条例が市民(主権者)にとって生きるものになっていないようでは意味がない。そしてどのような制度もいつか劣化することを忘れてはならない。だからこそ、不断の見直しが必要になる。

議会・議員の覚悟
議会改革の先行モデルは、大きな壁にぶつかっているところも多い。今まで経験のない提案権・修正権・調査権の行使、議案の否決が日常的に行われるようになれば、当然、執行部との感情的対立や市民の批判も予想される。

首長と議会の対立などから、「議会内閣制」も議論されているが、今現在は現行の二元代表制を堅持すべきではないか。お互いの意見の違いや葛藤・対立から逃げることなく自らの力で乗り越えていかなければ、地方自治の未来は拓けないからだ。それ以上に問われてくるのが議会・議員の力量、改革の持続力である。栗山町議会基本条例制定後、全国からの視察者の質問に橋場利勝議長は次のように答えている。

「視察者から『将来に向かってこの取り組みがどこまで保証され実行力を持つのか』という厳しい質問が時々ある。制度が未来永劫に保証されるとは言えないが、自治体においては条例が決定的な効力を持つ。時が経過し、現状より議会の意識、議員の資質が低下した場合は、住民側から議会に対し厳しい指摘や叱咤激励をしてほしい。それにより議会の再活性化が図られる。この条例は住民と議会が深く信頼関係を持ち、影響しあいながら分権時代を乗り切る方策を定めたものと考えていただきたい。この条例を生かすも殺すも議員の自覚によるものであることは言うまでもない」

栗山町議会が全国に先駆けて議会基本条例を制定して4年が経過した。6月末現在、道府県、政令市、一般市、町村を含め109自治体が同条例を定め、地方議会は大きく変貌を遂げようとしている。これほどの広がりは、全く予想をしないものだった。これを単なるブームに終わらせないためには、議会・議員の覚悟がなによりも肝要だろう。

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改革とは見果てぬ夢を見続けることだと表現した人もいる。自治体改革・議会改革も最後は主権者である市民に戻っていく。議会が機関として主権者である市民と真摯に向き合うことが、自治の進展につながっていく。

議会・議員が覚悟を持ってさらなる改革に取り組むことによって、三重県議会や栗山町議会をはじめとする先行モデルを越える議会が続出することを期待したい。