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総選挙の論点‐地方分権:「市民不在の分権では意味がない」:福嶋浩彦上席研究員論考

August 2, 2009

市民から出発する

橋下大阪府知事や東国原宮崎県知事の発言・行動がマスコミで取り上げられ、「地方分権」があらためて注目を集めている。そのこと自体は歓迎すべきことだが、地方分権とは何か、なぜ必要なのか、という点は曖昧なままであるように思える。私は、分権には3つの視点があると考えている。

1つは、地方ができることは地方に任せ、徹底して中央政府をスリム化していこうとする行政改革のための分権。

2つは、霞が関の官僚が全国一律の基準で地域を運営するのではなく、自治体がそれぞれに合ったやり方で地域を運営できるようにする分権。自治体の権限拡大のための分権。

3つは、市民が、行政の権限・財源をより自分の近くに置いて、主権者としてコントロールしやすくするための分権。市民自治、さらに言えば民主主義のための分権だ。

どれも誤りではなく大切な視点だろう。ただ、分権の核心は3つ目にある。そもそも分権とは、市民が国と自治体に権限を分けて与えることだと考える。国が自治体に権限を分け与えることではない。主語は「国」ではなく、主権者である「市民」なのだ。ではなぜ市民が権限を分けて置くかと言うと、行政の権限・財源をより自分の近くに置いて、主権者としてコントロールしやすくするためだ。

誰が決めるか

例えば、市の道路の整備を優先するか、学校の耐震改修工事を優先させるか、これをどうやって決めるか。従来は、国交省が道路特定財源から道路予算を地方に多く回せば道路整備が先に進み、文科省が学校耐震改修の補助制度を厚くすると耐震改修が先に進んだ。どちらの優先順位が高いか自治体によって異なるにもかかわらず、中央政府の政策で決まってしまっていた。

分権は、これを自治体が地域の必要性に応じて決められるようにするということだ。しかし、市長や市議会が、道路工事を請け負う土木会社と、校舎の耐震改修を請け負う建設会社と、どちらが市長の後援会で有力な地位を占めているのか、あるいはどちらが市議会に関係者議員をより多く送り込んでいるか、というようなことで決めてしまったら、市民はたまったものではない。全国一律ではあっても、平均的な必要性で中央の官僚が決めてくれたほうが、まだましだということになる。

市民の意思に基づいて、道路か、学校の耐震改修かを決めることができてこそ、分権の意味がある。自治体を市民の意思で動かす仕組みが必要だ。地方政府を「市民の政府」にしなければならない。

土台は直接民主主義

自治の土台は直接民主主義だ。すべてを直接民主制で行うことはできないが、市民に最も近いところで市民の生活にとって重要なサービスを提供する自治体の運営は、国よりもずっと、市民が直接情報を得て、実感を持って考え、自ら判断しやすい。従って自治体では、現実の制度としても直接民主制を採りいれ間接民主制と並立させている。

国が、世論調査で多かった項目順に経済対策をやると景気の回復に最も有効だとは、誰も思わないだろう。国政においては基本的に、国民は誰に任せるかを選挙で決める。そして結果責任を次の選挙で問う。もちろん世論で政府を動かす、国会は世論を踏まえて行動する、というのは民主主義の基本だが、国会は世論通り決めなくとも、国民から解散させられたり、国会議員がリコールされたりすることはない。

しかし、自治体で道路を優先するか、学校の耐震改修を優先するかは、市民自身が直接目で確かめたり、肌で感じたりしながら、互いに議論し結論を出していける問題だ。もちろん将来を見据えて熟慮し、総合的に判断しなければならない難しい課題である。もしかしたら学校の耐震改修を優先した結果、道路がボロボロになり、将来において地域経済が打撃を受けることになるかもしれない。しかし、その責任を負うのもまた市民自身である。

市民の政府

だから、自治体は直接民主制をベースにして、二元代表制を導入している。首長・議会は市民の限定的な代表機関、より正確に言えば「市民全体の公共的意思の代行機関」だと言える(もちろん単に受け身の代行ではなく、積極的に市民世論をつくっていくリーダーシップが求められる)。

直接民主制がベースだからこそ、市民は全体の意思によって首長・議員をリコールしたり、議会を解散させたりできるし(直接請求―住民投票)、条例案を自ら提案できる(条例の直接請求)。自治体の財務行為を直接追及することもできる(住民監査請求―納税者訴訟としての住民訴訟)。これらはいずれも、市民が中央政府に対しては持っていないが、地方政府に対しては持っている権利である。

また、首長・議会は、多様な市民の意見を聞いて意思決定することが求められる(市民参加)。さらに、市民が必要と考えれば全体の意思を投票で示し、首長・議会にそれを尊重させることもできる(常設型の住民投票制度)。

自治体は、市民が選挙で選んだ首長と議会、そして市民の直接参加、この3つの緊張関係で動かしていく。それによって市民の意思を反映させる。これが自治体の民主主義であり、「市民の政府」だ。首長と議会のなれ合いと談合で自治体を運営してしまったら、肝心の市民が疎外されることになる。

<文責:福嶋浩彦上席研究員>

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