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日付
2012/2/29

銚子市・自治基本条例連続講座 第4回「地方議会の課題と役割」

昨年12月3日、千葉県銚子市にて第4回目の自治基本条例連続講座(後援:東京財団)が開催され、西日本新聞報道センターの前田隆夫記者が「市民のための市議会」、元北海道栗山議会事務局長の中尾修研究員が「全国に広がる地方議会改革―議会基本条例から考える」をテーマに、議会の役割や議会改革の要点、意義などについてそれぞれ講演しました。当日は議員、職員、そして市民が参加し、地方議会のあり方について活発な意見交換が行われました。前田氏と中尾研究員の報告、その後の質疑応答の概要は以下のとおり。(文責:編集部)

「市民のための市議会」

西日本新聞報道センター記者
前田 隆夫

身近な市議会議員や市議会が、なぜ信頼されないのか。

そこには「議員が本来やるべき活動をしていない」「要望に対して議会が応えない」といった不平、不満がある。「多額の財政支出を伴う事業や街の計画が知らない間に決まっていた」という声をよく聞く。議員や議会が信頼されないのは、「何をしているのかがわからない」という市民の率直な疑問があるからだ。

選ぶ側の市民と選ばれる側の議員のお互いが見えていない。コミュニケーションが取れていない。対話していない。そのような両者に、信頼関係など成り立つはずがない。

前我孫子市長で消費者庁長官の福嶋浩彦さんは、「地方自治は、選挙で直接選ばれた長と議会、市民の直接参加による3者の緊張関係の中で営まれる」と語る。3者の関係が互いにしっかり結びついていないと、正常な自治の機能は発揮されない。その3者による自治のトライアングルをつなぐのが「情報公開」と「開かれた論議」だが、これまでの取材を通じて最も関係性が薄いと思うのが市民と議会との関係だ。

不要論まで囁かれる議会不信

「議会はチェック機関である」というのは、半分正解で半分答えが足りない。議会は最終的に物事を決める意思決定機関だと改めて認識する必要がある。議会には、お金の使い道を監視する役割や予算を修正する役割のほか、政策を立案して提案する役割もある。ところが、条例や政策の提案をほとんど行っていない。議会の予算修正というのは何も減額に限ったことではないが、ほとんどの議会で増額修正を行ったことがない。

全国市議会議長会の調査によると、2009年に全国806市議会で、市長が提案した議案の99.1%を原案どおりに可決したという。この数字にはもちろん、侃侃諤々の議論の末に原案どおり可決したケースも含まれている。しかし、市民がこのような調査結果を見れば、「議会は一体何をやっているのか」という素朴な疑問を持つのも致し方ない。

議会の最も大切な役割は、地域が抱える問題点を明らかにすること。これがなければ「議決する」「監視する」「提案する」といった役割を果たすことはできない。

今日、新聞やテレビ、そして井戸端会議でも議会改革が話題に上るようになった。おそらくここ6、7年の話だが、その背景は3つある。

最も大きな影響を与えたのが、地方分権の進展だろう。2000年4月に地方分権一括法が施行され、戦後一貫して続いてきた国が「上」、自治体が「下」から「フラットな関係」へと変わった。機関委任事務が廃止になり、自己決定できる自治体になった。補助金制度は残るものの、市の決定権の幅が広がった。

2つ目は自治体の財政難である。90年代後半から、財政力を超える大型事業を進めた放漫経営と税収減によって全国の自治体が財政難に陥った。そこで、議員定数や報酬削減などの「量的改革」が広がった。しかし、財政難に端を発する改革は、財政運営の監視機能の強化といった議会の機能を高める「質的改革」でなければならない。議員定数や報酬削減は本来の意味の議会改革に当たらない。

議会改革の3つ目の背景は、市民の議会に対する不信である。政務調査費を車のローン代に充てたり、キャバクラの飲み代にしたりといった議員の不祥事が続いた。交通費や日当などを名目とする費用弁償もおかしいというのが市民感覚で、議会不要論まで囁かれるほど議会不信は深刻になっている。

市民の信頼を得るための改革

議会は議論をする場である。仮に市長が公開しない情報があれば、議会から発信しなければならない。大事なことはすべて「市政だより」に書いてあるというスタンスではなく、「市長が出した議案をどのように考えたか」「何を議論し、どういう結論を出したか」をきっちり市民に伝える責務がある。

もちろん、会議は市民に公開する。本会議や委員会を平日の夜や週末に開催してもいい。インターネット、ソーシャルメディアを活用して情報公開も行う。最近では、本会議のみならず委員会のネット中継に踏み出す議会もある。見る側にすれば、シナリオどおりの本会議よりも議論が白熱する委員会のほうが絶対に面白い。

審議の過程、議決結果も詳細に公開すべきだ。誰がどの議案に賛成したのか、誰が市長提案に反対したのかを明らかにする。会派の縛りもあって個人の意見を表明しづらい議員もいるだろうが、市民の負託を得たのだから、自分の賛否の結果を明らかにするのは当然だ。
さらには、議会と市民の対話の機会を設けなければならない。これは議員個人と支持者との対話ではない。議会が機関として不特定多数の市民と接する「議会報告会」(意見交換会)の活用が有効だ。

議員は、支持者との対話や街頭演説を得意とするが、顔や名前を知らない人たちとの対話には及び腰になる。議員は市民全体の負託を受けているわけだから、有権者を選ぶ権利はない。「支持者としっかり対話しているから報告会は必要ない」というのではなくて、特定の問題について市民から意見を聞くという機会を議会活動の中に積極的に取り入れていくべきではないか。

もう一つ大事なのは、議会の中で徹底した討論を行うことだが、残念なことに県議会から村議会まで大小問わず、議員同士が議論している場面になかなか出くわさない。執行部に対して「ああしろ、こうしろ」と声高に注文する議員は多いが、議員同士で侃侃諤々の議論をしない。議員間で自由な討議ができれば、市民の議会に対する信頼度はぐっと上がるだろう。

「自治の力とは何か?」という問いに対して、福嶋さんは「意見や利害が対立する人と合意する力」と答えている。人々が共同生活を営む上で、いろいろな対立がある。それを話し合いの力によって解決していく。これが自治の原点であって、豊かな自治を築くためには、多様な民意を基盤とする議会の討論がなければならない。その合意形成の手続きを定めるのが自治基本条例であり、議会基本条例である。

今日、議員選挙の投票率が低下している。50%を切るのも珍しくない。早稲田大学教授の北川正恭さんがいう「お任せ民主主義」が広がっている。無力感や自分一人が声を挙げても何を変わらないというあきらめが市民の中に少なからずある。そういう市民に対してこそ、議会が対話の機会を提供することが必要だ。



「全国に広がる地方議会改革 ― 議会基本条例から考える」

東京財団研究員
中尾 修

議員はこれまで質問の専門家だった。それが議会報告会では説明する側に立ち、市民の鋭い質問に答えなければならない。それなりのデータ分析が必要で、議決に関する責任もこれまで以上に感じることになる。1年間の活動をきっちりと整理して答えなければならず、緊張感を持って議会活動を行うことになる。

最初の1、2回目の議会報告会は行政側が行う市政懇談会と同じで、「あそこの道路が傷んでいる」とか、「ここの人が困っている」といった陳情型になる。3回目あたりからようやく、議会と行政との棲み分けが市民の意識の中に芽生える。「一人あたりの借金は今どれくらいだ」とか、「将来的にはこの財政事情で大丈夫か」といった質問に変わってくる。議会と市民の信頼関係が生まれてくる。議会基本条例の中に市民が直接かかわる制度を埋め込むことが重要であって、これを省略しないようにしていただきたい。

また、議会が首長の提案を修正あるいは否決した場合、市民からその理由を問われる場面が必ずやってくる。その際、説明するので集まってくださいと突然お願いしても「ご都合主義だ」と言われる。だから、議会は少しでも早く機関、かたまりとして市民の前に登場し、健全な双方向の回路を構築しておく必要がある。

ここで、2011年1月4日付『山梨日日新聞』の論説を一部ご紹介したい。

◎論説「『地域主権』担える議会に」

福島県会津若松市議会は、一昨年制定した議会基本条例に「議決責任」を盛り込んでいる。「議会は議決責任を深く認識するとともに、議案などを議決した時は、市民に対して説明する責務を有する」という趣旨だ。市民への道義的責任を明確にし、説明責任を果たそうとする姿勢は、県内の議会でも参考になる。

鳩山政権が「地域主権」を掲げる地方分権改革が進めば、県や市町村など自治体の自己決定や自己責任がこれまで以上に問われることになる。それに伴い、二元代表制の一翼を担う議会の責任が増すのは言うまでもない。

自治体の仕事を国が一律の法令で縛る「義務付け」について、政府は通常国会に法案を提出し、廃止・縮小に乗り出す。見直す項目はまだ一部だが、例えば道路整備では、歩道幅が2m以上必要などの構造基準を条例で決められるようになる。歩行者の少ない路線は、歩道を狭めるなど地域事情に合わせて無駄を省くことができるわけだ。

半面で、結果責任は地方が負うのだから、首長側に恣意的な判断はないか、市民の暮らしに影響を及ぼさないか、を見極める議会の監視機能が重要になる。さらには、市民の意向をより反映した条例や施策はどうあるべきか、執行部側と競えるだけの政策立案能力の充実も必要だ。

そのためには、市民への情報公開を徹底し、意見交換などで参加を促しながら意思決定を図っていく姿勢が求められる。その際に肝心なのは、「議員同士の見解の相違を乗り越えて機関として意思をまとめ、首長にぶつかっていくことだ」と、全国初の議会基本条例を制定した北海道栗山町議会の前事務局長・中尾修さんは強調する。



分権改革がすすむことは、歴然とした事実である。議会が今までのありようを変えようとしている。しかし今日、議員が議決責任を取ることは法律的にできない。だから、それを説明責任に変えて市民の前に登場する。

その際、議会が機関として決めたことに対して、「俺は賛成しなかった」というのは通用しない。意思決定機関の一員として責任から逃れることはできない。市民の前で、この議案をこのように理解し、そして議論を経て最終的にこう決めたという説明が必要である。

議会改革に欠かせぬ3つのポイント

行政というのは、事業を企画してその予算を編成し、それを一年間執行して全体を評価する。こうした一連の行為を冷静に考えると、ある意味で強権だといえよう。2000年まで続いた中央集権の流れの中で、行政側は自らの執行権の肥大化に気づいてこなかった。そして、議会も名誉職的な位置に甘んじてきた。当然の権利である修正権、提案権、調査権、そして否決する権限をほとんど行使してこなかった。感情的にそれを行使すると市民の批判を受けてしまうから、何とか水面下で調整していた。それがとうとう限界にきた。

議会はYESかNOの最終ジャッジだけでなく、まずは審議経過の重要性を市民と共有していただきたい。A議員は賛成でB議員は反対だったというのも公表してもらいたい。議論のプロセスが大事だ。そのプロセスに市民が関わっていけるツールを作ること。自治基本条例において、意思決定機関としての議会に市民が直接関わることが何よりも重要となる。

地方議会改革に欠かせないものを指摘した2010年1月15日の『西日本新聞』の記事をご参照いただきたい。前半の講師である前田さんが私にインタビューしてまとめたものだ。

◎「地方議会改革に欠かせぬものは―情報公開と住民参加が大前提」

―議会基本条例を制定する議会が増えているが、内容には濃淡がある。欠かせいない要素、理念は何か。

「議会がかたまりとして不特定多数の市民と公式に話し合う機会の確保(議会報告会や意見交換会)。住民が陳情や請願について、議会で見解を述べることができること。そして議員間で討論すること。この3点は絶対に外せない」



議会基本条例を作成する際、ぜひ「議会報告会(意見交換会)」「請願・陳情者の意見陳述」「議員間の自由討議」の3点を加えていただきたい。(東京財団モデル参照)

議員活動から議会活動へ

議会基本条例を制定した自治体は現在、全国で300近くに上っている。そのうち200ほどの条文を読んだが、中には「議員は、職員の採用、臨時職員の採用に関わってはならない」といったユニークなものがあった。おそらく過去の反省の上に立ってのものであろう。また、「議員は代表質問、一般質問を執行側職員に書かせてはならない」といったものもある。ここまで来るとむしろ親近感が沸いてくる。

このようにいろいろな角度から検討されたものであろうが、議会が自らのあり方、立ち位置を検討したのは、議会基本条例が制定されてからである。二元代表制というものを議員間でそこそこ市民も理解し始め、そして議会への市民参加を当然のものとしたのも、議会基本条例が登場した2006年からである。

法律上、議会は予算編成権を持たないことから長期行政計画に関わることがとても重要である。この町の人口が10年後にどうなるのかとか、その時に学校の統廃合をどうするかとか、福祉施設はどうなるといった問題、課題を首長と市民とともに共有しなければ、議員の質問はいつも的外れになる。だからこそ、議会はもっと長期行政計画に積極的に関わらなければならない。

市民からの要望に対しても、「この範囲はわれわれが議決したからできるけれども、それ以外はまちづくり総合計画を一部変更しなければいけない。だから、要望を実現するには、かなり高いハードルがある」ということを説明することができる。

今まで議員活動は個人技であった。これを議会としての集団技に変えていく。合議体としての議会、かたまりとしての議会活動に変えていただきたい。この議案は市民にこういった影響があるということを議員全員が共通認識した上で、賛成、反対の立場をとっていただく。議員個人の認識の度合いの違いで賛成、反対というのは市民にとって不幸だ。そもそも自治基本条例あるいは議会基本条例というのは、市民にとって使い勝手がいいかどうかが大前提であって、行政や議会の自己満足であってはならない。市民にとって本当にその条例が必要なのか、その理念が浸透するのかを追求した上で、自治基本条例あるいは議会基本条例を作っていただきたい。



<質疑応答>


― 議会に政務調査費は必要なのか?

前田 政務調査費は必要だ。問題なのは使い方であって、制度自体が悪いわけではない。議員は何に使ったのかをしっかりと公開し、余ったものはきっちり返還して、市民に納得してもらうしかない。定額を渡してから使途を決める今のやり方ではなくて、実費を支給する方法を検討してもよいのではないか。そのほうが世の中の流れに合っている。

― 議会事務局をどうすれば拡充できるのか?

中尾 議会が水面下で市長と取引しているならば、事務局もそれなりの仕事しかできない。議員は二元代表制の下、緊張感のある活動を行う。それが見えるようならば、事務局は議員を十分サポートする。

― 銚子市議会では、本会議のテレビ中継を県内でいち早く取り入れるなど、情報公開がかなり進んでいると思うがいかがか?

中尾 情報公開の現状については、あくまでも市民がどう感じているかが重要だ。制度として実施していても、市民がそれを認識しているかどうかで評価が大きく変わってくる。テレビ中継は、本会議だけでなく実質的に議論、意思決定する委員会こそ必要である。

― 当選1回の新人議員に政策立案させるのは、少々酷な気もするが……。

前田 たとえ1期目であっても、当選したその時から議員としての役割は求められる。しかし、いち議員にできることには限界があるので、かたまりとしての議会で政策形成能力を高めることが必要だろう。

― 議員間の討論、議論を活発にするにはどうすべきか?

前田 これは一朝一夕にできるものではない。議会の役割を認識する議員が増えていくことによって議論が活発化してくるだろう。

本来、地方議会に与党、野党はない。市長を応援したからといって与党ではないし、別の市長候補を推したら野党ということでもない。議会全体が市長と対立するのが、議員の基本的な立ち位置だ。これは日常的にいがみ合うということではなくて、市長の提案に対して健全に議論して対案を出すという意味での対立である。

大きな議会になると、会派の縛りが強くて、議員個々の意見が表に出にくくなっているが、これも議会の中で政党の役割、会派の役割とは何かを十分議論して、徐々に変えていくべきであろう。