タイプ
その他
プロジェクト
日付
2017/2/16

議会基本条例制定10年「条例を住民に浸透させる努力を」

中尾修  東京財団研究員(元北海道栗山町議会事務局長)
聞き手=吉田忠展(地方行政編集長)

 

 北海道栗山町議会で2006年、全国初の議会基本条例が制定され、10年が経過した。地方分権の進展を見据え、地方議会の責任を明確にした同条例は、全国各地の議会改革に大きな影響を与えた。本誌(「地方行政」)はこのほど、栗山町議会の条例制定時に議会事務局長として調整に奔走し、現在は東京財団に在籍する中尾修氏にインタビューする機会を得た。議会改革の最前線に立ち、その後研究者として地方議会の在るべき姿を探究し続けている議会改革のプロに、地方議会が置かれた現状と今後の展望を聞いた。

自治というものが前へ進んだ

─条例制定の動きが全国に広がっている。先鞭をつけた栗山町議会の裏方として、こうした動きをどう見ているか。

 中尾氏 700〜800の自治体議会が議会基本条例を制定していくとは考えておらず、こんな展開は予想していなかった。
 栗山町では、2005年に議会報告会という町民との直接対話を実施した。12カ所で実施し360人集まっていただいた。その中の各所で町民から「これを制度化してほしい」「あなた方の代だけではなく、毎年やるようにすべきだ」という声が上がった。条例にしたいと思ったときに札幌市職員の渡辺三省さんが前年「北海道自治研究」に発表した議会基本条例試案に出会う。栗山町は、それを活用させてもらった。だから、別に議会基本条例は栗山町オリジナルではない。栗山町議会が議会基本条例という一つの形を取ったことによって、全国に波及したことは結果として良かった。

 

─栗山町議会は条例制定で良くなったか。

 中尾氏 町議会というよりも住民。先日議会基本条例制定10周年の記念フォーラムがあり、私も呼ばれた。会場に250〜260人の住民が来た。それだけの住民に議会の働きに関心を持って来ていただいたということは、自治というものが前へ進んだのかなと思っている。議会は議案に真摯に向き合うということだ。当時の議長の言葉を借りると、「もっといいものはないか」という視点だ。そういう視点で審議し、見つかれば速やかに議案を修正し、あまり(原案が)いいものでなければ否決する。議会が議会の権能を行使することにためらいや遠慮があってはならない、というのが当時の議長の考えだった。

 

─意欲のある議員が働けば議会は機能する。

 中尾氏 当時一緒に仕事をさせていただいた議員の皆さんは、議会人の役割について自立した考えを持っていた。議会はもちろん住民代表だから、住民以上の議会は構成されない。議会に関心を持っていただいた住民との相互作用としてあったと思う。

基本条例は機関としての住民との契約

─追随して基本条例をつくった自治体の議会が条例を有効に使うためにはどうしたらいいか。

 中尾氏 議会基本条例は、「わたしどもは活動規範としてこうやりますよ」という、住民との契約、約束だと思う。個々の議員というよりも、機関としての住民代表機関、議事機関として「このように住民と向き合います」というところが大事だ。だから、条例の内容を議員間で共有するのは当然として、主権者・住民とも共有しないことにはこの条例は生きてこないと思う。何より議会基本条例というものを、そこにお住まいの住民の中に浸透させる努力を議会はしてもらいたいと思う。
 栗山町では議会が報告会に行くとき、報告書の裏に必ず議会基本条例の前文「自由かっ達な議論をとおして、これらの論点を、争点を発見、公開する」というような文章を載せた。この条例が本当に住民にとって使い勝手が良い条例になっていくことを願いたい。
 今までの議会は、地方自治の中でも片隅に置かれていたが、議会こそが住民代表として意見を聞く、多様な人数がいるところに、多様な意見をくみ取ることが得意技なんだというようなところを見せていかないといけない。独任制の、指揮命令で部下を使える首長部局とはスピードは違うけれども、多様な意見があって、行政に対してブレーキをかけたり、注文を付けたりすることが役目だ。行政に注文を付けられない議会だったら無くていいと言われる。

 

─条例は、片手間・兼職で議員になるような人にはこなせない内容だ。一方で今、議員の成り手不足といわれている。今後の地方議会の在り方は。

 中尾氏 少子高齢化と人口減少で、地方においてはどうしても今までの行政サービスを縮減せざるを得ない。人口減少は行政に対しボディーブローみたいに効いてくる。行政サービスそのものを、かなり落としていかなければならない。そういうマイナスの負担を、議会は納得のいく議論を通じて整理していかなければならない。一例を挙げれば、古い橋梁や水道管の更新ができなくなるかもしれない。北海道であれば、隅々までやった除雪を、ここまでしかできませんよと、それはやっぱり変わってくる。そういう範疇を、住民の本来の希望とは違うジャッジをしなければならない。そこが議員の大切な活動になる。そういう意味で、議会基本条例は崇高な理念だけでなく、これはやらなきゃいけないというスタンダード、ベースになるのではないか。
 今まで片手間でやっていたとしても、今後は住民にとって大変なことを決めていく。

 

─今年は富山市議会を筆頭に、政務活動費問題で議員のモラルが問われた。

 中尾氏 おそらく、お金の問題だけは今後も続くのではないか。政務活動費がどういうふうに市民生活、住民福祉の向上に役立っているかということを、議員の方々が見せなければならない。領収書だとか、使われる額が多いということではなくて、そこで何をしてどういうふうに議会活動に反映したかを我々主権者も議員に問わなければならないと思う。それが、住民から見て値しないものであれば、減額を求められるのではないか。

 

─マスコミも議会に注目してこなかった。

 中尾氏 議会基本条例が誕生するまでは、マスコミも制度学者の皆さんも地方議会の活動には注目していなかった。議会基本条例ができてから、マスコミ報道というのは議会基本条例を中心に議会改革や住民との関係というものに対して関心が多少とも出てきた。ここ10年の間に各大学の公共政策で地方議会論がぐっと増え、研究者も増えた。それから、我々シンクタンクや市民団体も地方議会を扱うところが増えている。そういう変化は大きなものがあると思う。

 

─今後の地方議会を、より良いものにするために、住民側はどうしたらいいか。

 中尾氏 住民は忙しいし、議会に関われといってもそんなに時間を割くのは無理だということは十分承知しているが、少なくとも関心は持っていていただきたい。任せてしまわないでほしい。行政や議会に対する関心度は低く、投票率も下がっているが、先ほど申し上げたように人口減少社会における行政の問題は、住民への負担になって跳ね返ってくる。公式に自分の考えを言える主権者になってもらいたい。

職員も住民の視点に立った行動を

─自治体職員へのメッセージを。

 中尾氏 行政マンは地方自治という制度、それも住民自治というものを、もう少し住民の視点に立って理解する必要がある。首長の部下だから、命令に100%従って優秀な公務員を務めて終わりでは、一方通行の仕事しかしていないのではないか。そうではなく、もう少しふくよかな自治、全体を見回しトータルで、住民が何を考え、何を感じて、自分たちに給料を払っているのかという視点を持ってもらえたらと思う。
 その上で、皆さんが提案するものに対していろいろ注文する議会というものが迷惑だということではなくて、議会の審議によって完成度が高い政策になっていくんだ、という健全な考えを持ってほしい。行政の側は、修正をされたり、意見を言われたり、質疑を通していろんな注文を付けられたりすると、議会を迷惑だというふうに思いがちだが、それが健全な自治体運営だと認識を改めてもらいたい。

 

─議会は、事務局スタッフも少ない。

 中尾氏 議会事務局スタッフも自治体の職員として採用されている。ここはまだ非常に弱いところだ。そういう意味では、議会に来て初めて議会というものが重要だと分かる職員が多い。議会事務局に来たことは千載一隅のチャンスだと感じ、この期間だけは、首長の命令ではなくて住民の目線で仕事をしてもらいたい。

 

─議員数を減らしている自治体もあるが。

 中尾氏 議員の報酬や費用弁償を、民主主義のコストとしてどれぐらい支払う覚悟が住民にあるのかということは問われる。
 しかし、議員を減らすことが住民にとっていいことかどうかというと、逆だ。住民にとって自分たちの声を行政に反映させるためには、議員は多い方がいい。執行部側とぶつかるにも多い方がいい。少ない方が議会運営は難しくならず、意思決定も早くなるが、多様な意見をくみ取ることは弱くなる。議員定数が8人とか9人の自治体もあるが、合議体としての体裁を整えていないと思う。小規模自治体でも議員は12、13人は必要だと私は思う。首長の行政行為に対し、ブレーキを住民自身がかけられるかというと、それはできない。住民が直接請求でやるといってもなかなか難しい。第一義的には議会がやらなければならない。そういう人をどれだけ確保しておくかということが大切だ。
 米国のトランプ現象もそうだし、欧州連合(EU)離脱を国民投票で決めた英国もそうだが、直接制には危うさもある。議会というところは、そういうものを一回収れんして議論する。人々の要求を全部のむのでなく、とんでもない要求などを否決、排除していくという仕組みもある。そういうような議会が、やっぱり必要ではないか。それが、8、9人でできるかというと重荷過ぎる。

時事通信社『地方行政』2016年12月26日号より転載


osamu_nakao

  

研究分野・主な関心領域 地方議会/地方自治

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