タイプ
論考
日付
2017/9/29

福島の漁業復活へ漁場開放を

上席研究員

小松正之

 

 東日本大震災と福島第1原子力発電所の事故が起きたのは2011年3月11日であった。それから大量のセシウム134や137などの放射性汚染物質が太平洋に流失して、東北地方沿岸の漁業特に福島県、宮城県と岩手県の漁業は壊滅的な影響を受けた。マグニチュード9.0の巨大地震と津波は明治29年(1896年)と昭和8年(1933年)の大津波を経験するのは岩手県では珍しくないが、金華山以南では1000年ぶりである。大津波による漁港施設、水産加工場、沿岸漁船と大型の巻き網漁船や沖合底引き漁船も破壊され流された。漁港、漁船と水産加工場の復旧と再建は、遅れ気味であったが、何とか実現した。

 

 問題は福島第1原発の原子炉の崩壊により流出した放射性物質である。これらの汚染物質であるセシウムなどは魚介類の体内に蓄積され、多くの魚介類が出荷停止や自主規制の対象となった。震災直後イカナゴなどは高濃度の汚染物質が蓄積されて、市場入荷も禁止されたが、その後、魚介類の暫定規制値500ベクレルから規制値100ベクレルに下げられて、食品としての安全性はより厳重に確保されるようになった。しかしながら、福島県産の魚種を中心として、水産物の流通と消費は一向に伸びる気配が見られない。

 国や福島県は2011年4月から魚介類の放射性物質の蓄積のモニタリングを実施しこれまで4万2,500件に及ぶ検体を調査した。

 

 福島県漁業協同組合連合会(福島県漁連)が事業主体になって、大震災の翌年の6月22日から、相馬原釜の沖合底引き漁業者を中心に、放射能汚染基準値を下回る魚介類を対象に、汚染が少ない沖合の漁場での試験操業が開始された。当初は柳ダコなどタコ類2種とツブガイ1種の合計3種が漁獲の対象であった。私は、この日、相馬原釜を訪れ、試験操業漁船の帰港に立ち会った。その後試験操業は次第に、漁獲対象魚種、漁業の方法と操業区域などが拡大して現在では97種の魚介類が対象とされ、ほとんどの魚介類が漁獲されている。まだ規制がかかっているものはイカナゴ、スズキとウスメバルなど12種類の魚介類で一部の魚介類にとどまっている。また、沿岸域の水深90メートル以浅の底引きの漁業などは禁止されている。

 

 最近の福島沖の魚介類の放射性物質蓄積量を見ると総じて検出限界以下(検出限界5〜7ベクレル程度)であり、安全な水準だと言える。しかしそれで、東京や仙台の消費者が福島産の水産物を購入するかというと多くの消費者が買い控えている。そのため、福島県の漁業生産量も流通量も多くならない。

 多くの消費者は、福島第1原発の廃炉の対応状況が不透明であるので、福島沖海域も汚染されているとの印象を持とう。その結果、福島県産の魚介類放射汚染値が基準値を下回っていると発表・公表しても半信半疑であるのではないか。一方でその状況に対して、漁業者や加工業者と流通業者はこの状況を「風評被害」と呼ぶ。

 

 実際に福島第1原発は綱渡り的に現在汚染水を原発の敷地内に保留して、海洋への流失を避けているので、海洋汚染は改善がみられる。しかし、廃炉の作業は予定から大幅に遅れており、米ペンシルベニア州スリーマイル島原発に倣った水棺封じ込め方は予定通り進んでいない。予想以上に原子炉の破壊状況が大きく、作業の大幅な遅れが生じている。汚染水の保有も時間との戦いだが、現在は、海洋環境の保全は図られている。

 

 このような現状説明が東京電力、福島県からもっと丁寧かつ頻繁になされた方がよい。なぜ魚介類の放射性物質の数値が下がったのか、数値を示すことに加えて、そのメカニズムを客観的科学的に説明すれば、国民と消費者も納得するのではないか。

 そのような安全性への理解を得る努力もしながら、漁業者は自主操業の漁獲量を思い切って大幅に増やすことであろう。今の状況では、東京電力からの補償金に頼り、漁獲量が少なくても満足している状況ではないのか。

 試験操業でほとんどの魚種が漁獲対象となった今でも、福島県の漁業生産量を見ると相馬原釜で震災前の9%の漁業生産しかなく、いわき地区ではわずか5%である。震災前の福島県の沿岸域の漁業生産量2万5,000トンのわずかに8%の生産量しかない。

 

 また、このような慢性的な漁業生産と収入の不足では、十分な雇用労賃も乗組員に払えまい。悪循環である。思い切って宮城県と茨城県の漁業者にも漁場を開放して、その見返りに福島県の漁港で漁獲物を陸揚げしてもらい、水産加工と流通業へ原料供給と地域経済の活性化の役割を果たしてもらう。その際は、セリや入札などによる値決めとし、またセリの参加人を福島の消費地市場(いわき、郡山、福島と仙台市場からも売買参加人を募る方法もあろう)も巻き込むことも大切だ。震災後福島県の漁業者、水産関係者は委縮して、受け身に回っており、これでは日本漁業全体の衰退のトレンドをさらに促進する。補償金頼みと諦めの気持ちを捨て積極的に前に出ることだ。

2017年5月4日『世界日報』より転載

 

◆英語版はこちら "Halting the Free Fall of Fukushima’s Fishing Industry "