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東京財団安全保障研究プロジェクト 第2回研究会概要報告

May 19, 2008

東京財団安全保障研究プロジェクト
第2回会合(2007年9月21日)

イラク復興支援活動から学んだこと(要旨)

報告:神保謙(東京財団研究員)

2007年9月21日に安全保障研究プロジェクトは第2回会合を実施し、「イラク復興支援活動から学んだこと」というテーマにて討議を行った。当日は当プロジェクトメンバーの他、外務省・防衛省・自衛隊より複数のアドバイザーが出席し、議論に加わった。同会合では、防衛省・自衛隊関係者よりイラク復興支援活動に関する冒頭報告が行われ、その後メンバー・アドバイザー間で自由討議を行った。

【議論の要旨】

イラク復興支援に関する自衛隊の活動は、2003年7月に成立したイラク人道復興支援特措法に基づき、同年12月から2年間半にわたり政府開発援助(ODA)による支援と連携しながら実施された。主たる活動領域は人道復興支援活動としての医療・給水支援、公共施設の復旧・整備への従事であった。その活動の基本的な構想は、イラク南部ムサンナ県における復興と治安が「正の連鎖」を生む(復興→豊かさ→治安回復→安全)というものである。

とりわけ活動の中期から後期においてはODAとの連動がきわめて重要な役割を果たした。外務省のサマワ事務所が開設され、5人の外交官が常駐し、ODAと連動させるオペレーションを行った。現地ではODAに関する要望調査を行い、現地ニーズの把握に努めた。そして治安が改善すると、そこに自衛隊復興支援事業が生み出され、雇用が創出されさらなる資本投下をする。住民はこの正の連鎖に安心し、不穏な事態が発生しそうになると情報提供者からの通告があるように整備した。この連鎖が途絶えると活動環境が悪化し、住民が離反し、現地経済との関係が弱体化する。その意味では大型のODA案件=正の連鎖維持ということが、重要であった。2005年2月には陸上自衛隊の給水活動がストップし、現地で運用できるようになった。またODAで入れた医療機器を現地の医療機関が使えるようになる。

陸上自衛隊の活動の後期には、日本・イラク友好協会会長が襲撃されたり、自衛隊の車列が狙われるという事件が起こる。こうした状況の中で部隊の安全を確保する施策としては、(1)武器使用基準などの法制上の裏付けを明確化し訓練を徹底する、(2)日の丸表記、米軍との違いを際立たせた制服の着用、(3)地域との良好な関係の構築(HNO)、(4)自衛隊が復興支援をしにきたということを部族長だけでなく、宗教指導者・県知事などステークホルダーへのアプローチ、(5)雇用を与える場合にも、部族に配分しなければならず、部族ごとの雇用の在り方について相談などを実施した。

自衛隊の撤収に向けての意思決定プロセスにおいては、撤収に向けて4つの要件(政治プロセスの進展、現地の治安状況、多国籍軍の活動状況、復興状況)を明確化し、これが徐々に整っていった。(1)ムサンナ県における治安権限が委譲されたこと、(2)英軍部隊の撤収もはかられたこと、(3)サマワ発電所が着工したことをもって、撤退の条件が整えられていった。

以上を総括すると、イラクにおける復興支援活動の成功には、以下のようなポイントが重要であった。

1.復興と治安の「正の連鎖」が成功の鍵となる。我が国としてグランド・デザインをもち、これに基づいて自衛隊・政府・非政府機関・諸外国の関係機関の能力を総合的に発揮することが重要。

2.派遣決定から撤収までの主要な意思決定段階において軍事的側面から政治に対して助言することが重要(たとえば、治安情勢など)。

3.派遣および撤退に関する意思決定後、早やかに部隊を展開・撤退できる態勢を確立・維持しておくこと。また、活動の終始を通じて全般情勢を的確に把握し、軍事的尺度に基づいて分析することが重要。撤収の判断は死活的。かかる判断に際する政軍間の連携・意思疎通の重要性。

  • 研究分野・主な関心領域
    • 国際安全保障論
    • アジア太平洋の安全保障
    • 米国国防政策
    • 東アジア地域主義

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