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【書評】林英一『残留日本兵の真実―インドネシア独立戦争を戦った男たちの記録』(作品社、2007年)

September 10, 2007

評者:佐藤晋(二松学舎大学国際政治経済学部准教授)

本書は1945年8月の終戦後もインドネシアに残って対オランダ独立戦争に参加した兵士の丹念な記録である。著者は残留日本兵の生き残りの「ラフマット小野」にインタビューを重ね、その信頼を勝ち取り、当時記された膨大な日誌類を入手する。その上で、これまでアジア解放のため・独立の理念に共鳴したとか、帰国しても生活の見込みが立たないから、などと語られてきた彼らの残留意図の真実に迫ろうとしている。

結果的に言うと、「ラフマット」一人についても理由はやはり複合的であり、今後調査の対象がほかの兵士にも広がれば、なおさら確定的な結論は引き出せなく恐れがあろう。もっとも筆者は、このような残留日本兵をアジア各地ごとに分類・類型化していく方向を目指されている。

しかし、この本に引用されている生の一次資料は、非常に興味をそそられ、さまざまな側面が浮き彫りになっている。残留日本兵には元憲兵が多いがこれは裁判を恐れていたから。独立勢力の軍事訓練を行う中で、停戦を見込んで訓練に身が入らないインドネシア人に不満を募らせる。彼らの多くは「日本人特別攻撃部隊」に結集していくが、オランダとの停戦協定中にもかかわらず攻撃を仕掛けていく。これは、著者の考えとは離れるであろうが、「日本軍兵士として戦地に赴いたものの実際の戦闘に参加できなかった者の鬱憤」の「代償行為」であった側面を浮き上がらせる。だとすれば一般的な傭兵との区別はどうなるのであろうか。

著者が言うように、確かに当事者の後日の回想はしばしば脚色され美化されがちである。したがって同時代に書かれた日記などの記録が重要となる。しかし、それでも事件に当面する本人の高揚感の影響はある。さらに資料の読み手、聞き取り手の思い入れが、熱心さゆえにかえってその解釈に反映されてしまうこともあろう。研究対象を「よそながらに見る」ことは必須であろうが、逆に研究対象に思い入れがなければこれほどの労作は生まれ得なかったであろう。

    • 政治外交検証研究会メンバー/二松学舎大学国際政治経済学部教授
    • 佐藤 晋
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