タイプ
その他
日付
2007/10/24

第1弾「とち餅」(4/5)


3.山で採集して運び出す労と、圧倒的な加工の手間

 
とち餅の価値は、その加工の手間を抜きにしては考えられない。今回(2007年9月17日)、福井県池田町の清水谷在住の長谷川冨美子(67歳)さんと清水トミ子(71歳)さんに同行したが、まず山に分け入り、採取するのがひと苦労だ。広い原生林は別にして、栃の木は沢沿いに多い。足場の悪いところを沢登りしながら実を拾うには、山歩きの技も慣れも必要。だが、実際に拾ってみると、清水に洗われ、つややかに光る栃の実は、いかにも食欲をそそる。たった2本の木でも拾い切れないほどの実が落ち、あれほどアク抜きが難儀でも、何とかして食べたいと願った古代人の心持ちがわかる気がした。
長谷川さんは、「若い頃は夫婦で年5~6俵(300~360?)拾った」が、今は1俵がやっと、年をとり「栃は何ぼでも採れるけど、山から降ろすのが難儀やな」と嘆く。今回は男性たちも同行し、約60キロを運んだが、若い世代に伝える必要性は、そうした点にもある。
また、栃には、ナリ年とウラ年がある。各地に残る栃の原生林のひとつ、池田町から50分、岐阜県境に近い大野市のそれに案内してもらった。ところが今年、その地域はウラ年で実がまるで落ちていなかった。そんなこともあり、古代から常食とした山間部で、栃を虫抜きし、乾燥させ、何年も蓄えておく技術が確立されたようだ。
そして、アク抜きにはひと月ほどを要する。長谷川さんに教わった方法は、以下の通り。


(1)山から採取した栃の実は、よく洗い、流水(清流)に1週間ほどさらし、虫を出す。
(2)からからになるまで天日で干せば、屋根裏などに何年でも蓄えられる。
(3)ひね栃(乾いた栃は形がいびつになる)を、水に1週間ほどさらす。
(4)湯を沸かし、これに栃を浸け、すぐに栃剥きで、皮をむく。
(5)皮をむいた栃の実を、さらに4~5日、水にさらす。
(6)手がつかるほどのお湯に、楢(ナラ)の木灰を加え、これに実を入れる。
(7)一晩、灰を合わせたままにし、寝かせる。
(8)この状態で冷凍なら長く持つ、もち米といっしょに炊いてつけばとち餅の完成。






加工は、地域によって様々に異なる。福井県立博物館の記録によれば、大野では、皮むきした実を木槌で潰して灰汁と合わせ、漉してまた水にさらす。長谷川さんのやり方は、昔、杉苗を売りに行った鳥取県の山村で教わった。また30年愛用する栃抜き(こねりとも呼ぶ)は、梃の原理を使った単純な木の道具だが、大正時代に普及したそうだ。それ以前は主に口で剥いたので、口直しに漬け物や鰊をつまんだ。団欒とはほど遠かった。また栃が希少になった現在では、とち餅の栃の割合は、米の半分ほどの地域が多いが「栃が多いほど風味もいい」と言われ、池田町の人たちは、もち米と同量、加える。(続きを読む